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+ 自分の運命を探してきて! +
「依頼を叶えてくれて有難う。お礼に皆のこと占ってあげる」
依頼人の少女はそう言って懐からカードを取り出し、テーブルの上で丁寧にシャッフルし始めた。
少女は先日行方不明になっていた猫を探してくれと依頼に来た子で、今日はその猫を引き取りに来たのだ。よっぽど嬉しかったのか、笑顔を浮かべながらカードを並べている。
特に実害があるわけでもないので草間 武彦(くさま たけひこ)も少女のお礼の占いとやらを長閑に眺めていた。
やがてその場にいた人数分のカードがテーブルに並ぶ。少女はその小さな指先で一枚一枚説明し始めた。
「これが皆のカードでね、ちょっとした運命を示してるの。今からこれを捲って結果を教え――」
「草間さぁあん! ちょっとお願いがあ――」
バンッ! と扉が開かれる。
現れたのは月刊アトラス編集部編集員である三下 忠雄(みのした ただお)。彼が扉を開いたその瞬間、思いも寄らぬ風が吹き、テーブルの上に並んでいたカードが舞い上がり、閉められていなかった窓から外に飛び出してしまった。
少女が慌ててカードに手を伸ばすが、彼女の手に残ったのは占いに関係なかったカードの山のみ。
「さ、探してきて! 早く! お願い!」
彼女は焦りながら扉を指差す。
そこに居るのは状況が未だに飲み込めていない三下の姿だった。
「あれは皆のカードなんだから、皆が探しにいけば一枚ずつ自分のカードが見つかるはずなの! だから早く! 遅くなればなるほど遠くに行っちゃう!」
少女の膝の上で猫が退屈そうににゃぁあ、と声をあげる。
武彦は大きなため息をつきながら三下を睨んだ。
「ったくまた面倒なことしやがって」
「す、すみません……!」
「んー……、武彦さんも探しに行かなきゃだから三下くんお留守番お願いね。物騒な事はないと思うけれど子供達だけ残しておけないもの」
「は、はぁい……」
武彦は煙草に火をつけながら三下を見やる。
三下はというとすっかり身を恐縮させながら依頼人の少女の隣、来客用ソファに膝を揃えて座っていた。煙が開いた窓の方に流れていく様子を見ながら武彦は後頭部を掻く。もう一度三下と依頼人の少女を見やれば、三下は申し訳なさそうに頭を下げた。
「じゃ零ちゃん留守番お願いね」
「はい、お兄さん達が探し終わったら後で私も探しに行くということでいいんですね」
男二人を眺め見ながらシュライン・エマは武彦の妹である草間 零(くさま れい)に外を探しに行く旨を伝える。零はその可愛らしい顔に小さな笑顔を浮かべると三下と挟むように少女の隣に腰を下ろす。
武彦とシュラインは肩を並べながら興信所の扉を開く。
シュラインは途中文句を呟きそうな武彦の背中を何度か叩きながら外へと連れ出した。カードが飛び出した興信所の窓を見上げる。そこはもう同じような事が起きぬようきちんと閉じられていた。
「で、お前はどこが怪しいと思う?」
「そうね。あの窓から外に飛び出たんだから……まあ普通に考えたら近場に落ちていると思うの」
「じゃあ、俺は窓の近くを探すから反対側頼む」
「分かったわ」
武彦は窓の下を指差しながら反対側の手で煙草を摘む。それを一度地面に落とし踏んで火を消すと消えた煙草を拾い上げて近くのゴミ箱に捨てた。
ズボンのポケットに手を突っ込みながらカードを探し始める武彦を見習い、シュラインもまたカードを探し始める。風向きや窓の位置を随時確認しながら落ちていそうな場所を覗き込む。薄暗い建物の隙間やジュースの自販機の下など見難い場合は常備してあるペンライトで明かりを照らしながら探した。
「んー……三下くんが扉を開いた時吹いた風はそんなに強いものじゃなかったわよね。実際私と武彦さん、それに零ちゃんのカードしか飛んでいないわけだし」
植木や置物の影などもチェックしながら少しずつ移動する。
だが興信所の近くと言っても薄いカードが滑り込んでしまう場所は沢山あるため探す所はかなり多い。シュラインは屈めていた腰をぐっと伸ばす。武彦の方を見れば彼もまだカードを見つけていないようで苛立った表情を浮かべていた。
「そうだ。そろそろ煙草の補充が気になってたのよね。残数のチェックついでに自販機の周りも見ちゃいましょ」
不意に思いついた事柄を口にしながら彼女は自販機の方へと歩んでいく。
するとほぼ同時に武彦の方も自販機にやってきた。
「武彦さん、どうしたの?」
「ああ、煙草が切れたんだ。さっきので丁度ラストだったらしい」
「ふふ、ついでに禁煙はどう?」
「苛立ってる時にそれはないな」
他愛のない話を交わしながら二人で自販機の前に立つ。
武彦はポケットから小銭を取り出すと投入口に勢い良く突っ込む。好きな銘柄のボタンを押すとガシャンと煙草が落ちてきたので屈んで取り出し口に手を伸ばした。
「ん?」
「あら」
二人が同時に声を零す。
その視線の先にはカードが二枚取り出し口に引っ掛かる形で刺さっていた。武彦は二枚のカードを摘み、シュラインに手渡す。それからもう一度屈んで今度こそ煙草を取り出した。
シュラインは掌にカードを置きそれの裏面を眺める。カードをひっくり返せば今すぐ結果が見えるが、やはりこう言うものは依頼人の少女の解説と共に見たい……彼女はそう考えた。
「どうか大切なカードに傷なんか付いてません様に」
そう呟きながら埃を払い、模様を見ぬままそっと掌に反対側の手を重ねた。
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二人が興信所に戻ってきた後交代で零が外に出て行く。
だが彼女は武彦達とは違い、ものの数分で戻ってきた。何処にあったのか訊ねると「窓のすぐ下に落ちていました」ということらしい。武彦もシュラインも最初にそこは探したはずだがカードなど見当たらなかった。不思議に思いつつも「本人しか見つけられないものなのよ」という少女の意見に何となく納得してしまった。
「はい、皆お疲れ様。喉乾いたでしょ? これを飲みながらカードの解説でも聞きましょ」
シュラインがジュースとコーヒーを入れたグラスを持ってくる。
依頼人が嬉しそうにジュースに手を伸ばし、ストローに口を寄せた。その手にはすでに三人が探し出してきたカードが握られている。三下は武彦達が探しに行っている間に状況説明を受けたらしく、興味津々で彼女の手を覗き込もうとしていた。
「まずそこのお姉さんのカードね。お姉さんのカードは『端(はた)』よ。お姉さんのカードは人間の影が描いてあるカードなの。でもね、影って言っても悪い意味じゃないから安心して。いつも傍目から誰かを見守ったり皆を補佐してくれている……そんな感じの優しい意味を持っているの」
「まあ、ならこれからも精進と感謝を忘れずに頑張らなきゃね」
「あとは『端(そば)』っていう意味も持つから、それもちょっと考えてみてね。はい、これあげる」
少女はカードをシュラインに手渡す。
シュラインはそれをそっと受け取り感謝の笑みを浮かべながら受け取った。カードの模様を見れば確かに人間の形をした黒い物体が描かれている。カードを撫でればキュっと音が鳴る。どうやら少女の手製らしい。カードもぱっと見ただけではただのシルエットにしか見えないものだが、説明を受けた後だからかシュラインにはなんだか少し優しいイメージに見えた。
それは窓から飛び出たせいかほんのちょっぴり表面がざらついている。だがカードがあった場所が煙草の自販機――それも武彦と一緒に刺さっていたという状態を思うと胸がほっこりと温まった。
シュラインは胸ポケットにカードを大事に仕舞い込む。彼女は自分の容れてきたコーヒーを口にしながら武彦に微笑みかけた。
「ねえ、武彦さんの結果は何だったの?」
武彦とシュラインの二人を見ながら少女がくすくす笑う。
その小さな口を隠すようにカードを持ち上げて模様を見れば――少女は武彦に対して更に笑みを深めた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、参加の方有難う御座いましたv
毎度丁寧な発注文に嬉しくなりつつ、このような形に仕上がりました。一人参加という形になりましたので割と自由に書き込むことが出来ましたので、いかがなものでしょうか?
武彦さんとのさり気ない距離が再現できていれば幸いですv
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