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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 特別な存在となりうる人へ

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 OPENING

 きっかけは、きっと、些細なこと。
 どうして、そんなことで? って首を傾げられるかもしれない。
 でもね、そんなもんじゃない? 恋愛なんて。
 どこが好き? だとか、そういうこと聞くのも、どうかと思うんだ。
 理由なんて、ないんじゃないかなって思うんだ。
 逢いたいとか、声が聞きたいとか、触れたいとか。
 そう思うこと。それだけで、十分なんじゃないかって思うんだ。
 って、思うんだけど。 難しいよね、実際……。

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 意識してるのか、そうじゃないのか。
 そんなことは、すぐに理解るの。
 向かい合って話してると、ドキドキするよ。
 忙しないドキドキじゃなくて、もっとこう……ワクワクするっていうかね。
 でも、ドキドキするっていうのより、もっと大きいものがあるの。
 それはね、ホッとするってこと。
 何でもいいの。話題は。
 ただ、あなたが話してる時の楽しそうな顔とか、声とか。
 そういうものを近くで感じる度に、ホッとする。
 みんなはね、あなたを無鉄砲でウルサイ奴だっていうけれど。
 私にとっては、そうじゃないの。
 優しくて温かくて。そうね、太陽みたいな存在かな。
 あなたの元気な笑顔を見てると、私も元気になれる。
 あんなことがあってさ、こんなことがあってさ。
 あれ、どう思う? これ、どう思う?
 あなたは、いつも一生懸命話すの。
 私は、それを聞くのがとても楽しくて。
 あなたと話してる時間。とっても満たされるの。
 心が安らいで、ポカポカして、すごく気持ち良いのよ。
 知らず知らずの内に、惹かれていたのね。私は。
 あなたは、私にないものを、たくさん持ってる。
 それが欲しいとは思わないのよ。
 あなたが持ってるからこそ、素敵だと思うから。
 私はね、そんなあなたの傍に、いるだけで良いの。
 それだけで、幸せな気持ちになれるから。
(……あっ)
 窓から見下ろす本部中庭。
 森の中からヒョコッと出てきた海斗は、全身葉っぱ・傷まみれ。
 また、虫捕りだとか秘密基地を作っていたりだとか、その辺りだろう。
 任務がない時でも、海斗はいつも動き回っている。
 たまには部屋でゆっくりすればいいのに。
 ジッとしていられないのね。うん、あなたらしいわ。
 クスクス笑い、救急箱を持って部屋を出て行く夏穂。
 誰が決めたわけでもないけれど。
 海斗の怪我の手当ては、夏穂が担当。
 それは、いつしか決まりごとのようになっていた。

 セントラルホールにあるソファにて、手当てを始める夏穂。
 今日もまた、豪快な傷をあちこちに刻んでいる。
 本日一番の傷は、頬にあるバツ印の切り傷かな。
 かなりスパッといってるね。どこに潜ったの?
 クスクス笑いながら治癒魔法をかけ、次いで消毒、絆創膏。
 手際の良い夏穂の手当てに、海斗は満足そうに笑った。
 看病されて当然だとか、そんなことは思っていない。
 けれど、自分が怪我をして戻ると、いつも夏穂が待っている。
 救急箱を持って、ニコリと微笑む彼女を見るたび、彼もまた満たされていた。
 いつしか、当たり前になってしまったけれど。
 いつだって感謝している。自分を心配してくれる、優しい夏穂に。
「あっ……。ちょっと動かないで」
「あ、悪ィ」
 腕に負った傷を治療する夏穂。
 献身的に治療する夏穂の顔を見つめ、海斗は黙りこくる。
「うん……? どうしたの?」
 突然静かになった海斗に、見上げて首を傾げた夏穂。
 交わる視線に、海斗はハハッと笑って言った。
「やー。何でもない」
「ふふ。なぁに、それ」
「手当てが上手だなーと思って」
「今更?」
「あっははは」
 治療しながら、夏穂は思い返していた。
 海斗に対する感情と、それに付き纏う戸惑いを相談したときのこと。
 相談というには濁っていて、はっきりと自分の気持ちを伝えたわけではなかったけれど、
 それでも、相談を受けた千華は、十分に理解した。
 そんなに真剣な顔で男の子の話をするなんて、もう確実じゃない?
 認めたくないわけじゃないと思うのよね、あなたの場合は。
 そうねぇ、恥ずかしい……とも、ちょっと違うかしら。
 何となく理解ってはいるんだろうけど、
 それが恋だとか愛だとか、好きだとか愛してるだとか。
 そういう結論に持っていくことが、まだ出来ずにいるのね。
 千華は、そう諭すように笑って言った。
 同時に、どうして海斗なのかしら、と首を傾げて苦笑も浮かべた。
 組織内だけじゃなく、世の中には、たくさん男がいるのに。
 どうして、その中で海斗に惹かれてしまったのか。
 見た目も中身もお子様で、男としての魅力はないように思えるのに。
 確かに、そのとおりだと思う。確かに、海斗は、どこを取っても、お子様仕様。
 頼りになる王子様……的なポイントは、ないように思える。
 でもね、私にとっては、そういうところも惹かれる理由の一つなの。
 ありのまま、偽ることなく自由に生きる。
 それって、簡単そうに聞こえるけれど、難しいの。
 だからかな。だから、惹かれているのかも……しれないね。
「おーい。夏穂〜?」
 ポーッと物思いに耽っている夏穂の顔を覗き込み、声を掛ける海斗。
 至近距離で自分の名前を呼ぶ海斗に気付き、ハッと我に返る。
 と同時に照れ臭くて。思わずフィッと顔を背けた。
 じわじわと熱くなっていく頬に、覚える戸惑い。
 様子のおかしい夏穂に首を傾げて、海斗は笑って言う。
「遊びに行かね?」
「え……?」
「湖で釣りとか、どーよ?」
「いいけど……やったことないよ、私」
「だいじょーぶ。教えてやっから」
「う、うん……」
 ニカッと笑い、手を引いて歩き出す海斗。
 手を引かれ、トコトコと彼の後ろをついていきつつ、夏穂は淡く微笑んだ。
 どうしようかな。本当に、わからなくなってきちゃった。
 いや、ううん、違うね。わかってるの。わかってるんだけど。
 どうすればいいのか、それが、わからないの。
 少し前から、私、ちょっと変みたい。
 あなたは、何の気なしなんだろうけれど。
 ドキドキして、戸惑うのよ。
 触れている手が、じわじわと汗ばんできて。
 それがバレたら恥ずかしいから、手を解きたいんだけど。
 それも、嫌なの。離したくない、離さないでって思ってるの。
 どうすればいいのかな。私、どうすればいいのかな。 
 あなたと過ごす時間。その度に、ちょっぴりワガママになってる気がするの。
 もっと、たくさんたくさん。声を聞いていたい。
 もっと、たくさんたくさん。触れていて欲しい。
 こんなことを思うのは、やっぱりワガママだよね?
 もしも、この気持ちを伝えたら。あなたは何て言うのかな。
 笑って、いいよって言ってくれる?
 それとも、嫌だって拒む?
 拒まれるのは……嫌だなぁ。
 もしも拒まれたら、それこそ、どうしていいかわからなくなると思う。
 怖いのかな。うん……きっと、そう。
 私、怖いって思ってるんだ。
 あなたに気持ちを伝えて拒まれたらどうしよう、とか。
 あなたが急に、この手を離して二度と掴んでくれなくなったら、とか。
 そういうことを考えてしまうから。怖くなるんだね。

 恋愛に対して、無関心というか、その辺りも子供。
 そんな男に惹かれてしまったこと。ミステイクか否か。
 何にせよ、気苦労は絶えない。この生活は、いつまで続くのか。
 夏穂の淡い恋心。それが実るのは、いつの日か。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.07.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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