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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【東京衛生博覧会 前編】


長く美しい黒髪が、真っ赤な血溜まりとなっている床に散らばり、たゆたっていた。
裸の背中をぺたりと強化硝子に預け、黄色い陰険な眼差しを虚ろに彷徨わせている姿は、哀れよりも怖気を誘う。
杭が打たれた胸からはトロトロトロと細い筋となって血液が流れ出る。

血の気をなくした唇を、薄く開いたまま浅い呼吸いるhを繰り返す。
黒須誠は、下半身が大蛇という、本性を晒したまま強化硝子の檻の中で生死の縁を彷徨っていた。

心臓に、 杭が刺されている。

黒須は日没後、瀕死時に本性に変身するという一時的「不死」に目をつけられ、死の縁に縫いとめられたまま放置されつづけていた。

「蛇ちゃん、辛そうでしゅねぇ?」

ねっとりとした、鼓膜を蛞蝓が這うような口調。
強化硝子で出来たケースに閉じ込められた黒須の前に立つ男は、その出自も、経歴も、本名すら誰も知らず、ただ「Dr」とだけ周囲の人間に呼ばれていた。

キメラ開発の第一人者。
人間と動物の融合生物を生み出す禁忌の研究に手を染めた、マッドサイエンスト。

「うひっ、ほらご覧よぅ、狐ちゃん。 ほらね、あんな状態でも生きてる」
男がそう言う相手は、まさに狐。
Drの隣に立つ背の高い美女の耳は銀色の狐の耳に改造され、小さな形のいいお尻の尾てい骨からはふさふさとした狐の尻尾が揺らいでいる。

キメラ。
K麒麟が独自の技術として開発した、獣と人を無理矢理融合させた、歪な生き物。
女は身体をくねらせ、自分よりも頭二つ分ほども背の低いDrの腕に無理矢理絡まると、ちらりと黒須に嫌悪と侮蔑の入り混じった視線を寄越してくる。
「ずっとお薬で体を夜の状態のまま留めているから、夜行性の蛇ちゃんは眠れなくてお疲れでちょ? 大丈夫でしゅよぉ? 明日には、蛇ちゃんの新しいご主人様を見つけてあげましゅからねぇ?」

Drの言葉に億劫げに視線を上げれば、益々嬉しげに笑い「優しい飼い主さんに当たればきっと一思いに楽にしてくれましゅ」と事もなげな調子で言う。

「蛇ちゃんは、とっても醜い生き物でしゅから愛玩動物にするには適しましぇんが、その髪と皮だけは、上等でしゅ。 きっと、良い『材料』になりましゅよ。 鱗なんか、バッグにしても、良さそうでしゅねぇ」
うっとりとした目で眺められ、背筋に冷たい汗が浮かんだ。

ここは東京新名所、青山に新設された超高層ビル「メサイア」の倉庫内。
このビルの最上階フロア。 普段は、セレブリティがエグゼクティブな時を楽しむ為に利用する高級スカイラウンジとして名を知られた「背徳」にて、明日不届き極まりない催しが企画されていた。
まさに、背徳という名の会場で行われるに相応しい、新興の中国マフィアK麒麟主催「人身」のオークション、「K花市」。
「K花市」では、研究の産物である「キメラ」や、K麒麟が世界中から攫ってきた「人以外の知的種族」が、 年一回開催される「K花市」にてオークションに掛けられて、余り趣味の宜しくない金持ち連中に、法外な価格にて、 不埒な目的で買われていた。

「まぁ、あの一つ目の『化け物のガキ』のように何か特技でも持っていれば、使い道もありましたが、 無芸で、研究材料としても扱い難い蛇ちゃんは、組織で飼うにしても、厄介なだけでしゅからねぇ、明日、他のキメラ達と一緒に売り飛ばしてあげましゅ」
そう言いながらペタリと硝子に手を這わせ、まじまじと黒須を覗くDrの異様に大きな目玉を見返して、黒須は凶暴な眼差しでDrを睨み返した。
Drは首を傾げ、それから笑う。
にっと唇を裂き、Drは唄うように言った。
「どっかに欲しいという買い手がいたのか、何かに使うつもりだったか知らないけど、命がけでポンコツ攫って、すぐに壊れちゃった上、こんな風に自分が捕まって…本当に蛇ちゃんは、お馬鹿さんだなぁ…。 大体、あのガキは僕が散々手術による延命処置と、劇薬の投与をし続けていて、そもそも限界だったんでしゅ。 あとは、肉食キメラの餌にでも…」
「黙れよ」
ふいに黒須は口を開いた。
平静な、全くもって平らな声だったので、Drは少し驚いたように固まって、黒須を見返す。
「どうせ、薬や、後ろ盾がなきゃ、誰ともまともに口すら利けねぇような分際で、おこがましくもべらべら人の言葉を語るんじゃねぇよ。 耳が腐らぁ」
黒須はツイと唇を片端だけ上げて皮肉な笑みを見せ、下から掬い上げるように陰惨な視線でDrを睨みつけると「気持ち悪ぃよ。 あんた、吐き気がする」と言ってのけた。
異形の不気味な生き物に、「気持ち悪い」と罵倒されDrは無表情のままヒクヒクヒクッと数度痙攣する。
「狐ちゃん…」
軋む声でDrが女を呼んだ。
「…僕の…靴が…汚れてるみたいでしゅ」
そう口にした瞬間、躊躇うそぶりもなく女は跪き、Drの革靴に舌を這わせる。
舌先で、無心になったようにDrの靴を「磨く」女の姿に、黒須が眉を顰め、視線を逸らすのを凝視しながら、錆付いた声で「ね? よく、躾てあるでしょ?」とDrは囁き、その懐から禍々しく黒光りする銃を一丁取り出した。

「すぐに、蛇ちゃんも、こうなるように、躾てあげる」

Drが黒須を見つめたまま引き金を引く。
鼓膜を凶悪に揺さぶる銃声。

「っ!」
制止の声すら間に合わなかった。
女のふくらはぎが撃ち抜かれ、悲鳴をあげながら顔を上げた額に、躊躇いなく、視線も向けず、Drは2発目の弾丸で穴を穿つ。
美しい顔を強張らせたまま倒れる女に、Drは「黒須を見据えたまま」何発も弾丸を撃ち込む。

そのヒステリックな有様、そして音に黒須は知らず目を固く閉じ、耳を両手で塞いで身体を折り曲げていた。
銃声が止み、それでもカチカチカチッと狂ったように引き金を引く音が暫らく続き、それから完全な無音になった。
黒須の微かに荒い息の音のみが倉庫内に響く。
どれ位じっとしていただろう?
薄っすらと目を見開けば、無残な姿と成り果てた女の姿が目に入り「あぁ…」と吐息交じりの声を零して黒須はずるずると背中を硝子に預けた。
「あぁ…」
沈痛の面持ち。 視界からDrの姿は消えていて、黒須は「畜生…」と小さく呻く。
そのまま、後頭部を「コン」と音を立てて後ろの硝子にぶつけた瞬間だった。


ドン!!!!!


硝子が強く叩かれて揺れた。
「ひあっ!!」
黒須の全身が跳ね、喉から絞り出すような悲鳴が洩れた。

「あーあ、結構狐ちゃんはお気に入りだったのに、蛇ちゃんのせいで、お肉になっちゃいました」

ドン!!!!!

「まぁ、いいでしゅ。 これで、ゲージが一つ空きました」

ドン!!!!!

「新しく人魚ちゃんも作れるようになったご褒美に、何か一つ欲しいものあげるってボスに言って貰ってたんでしゅよ。 僕、本当は明日搬入される『薔薇姫』を一匹貰うつもりでしたが、やめました」

ドン!! ドン!!!!

「蛇ちゃん。 僕の研究室にいらっしゃい。 僕が新しいご主人様になってあげましゅ」

全身をカタカタと震わせながら、黒須はそろり、そろりと視線を横に滑らせる。
ふいに、黒須の背後から硝子に手をつきべったりと壁面に横顔をつけ、目を爛々と見開きながら此方を見ているDrと目が合う。

血走った目。

悲鳴じみた声をあげそうになり、ヒクリと一度黒須は喉を震わせる。
硝子越しにDrは爪を立て、黒須の頬の辺りをカリカリカリと引っ掻いた。
分厚い硝子一枚挟んだ向こうに、黒須はこの世の地獄の淵を見る。

「舐めた口利きやがって。 生まれてきた事を後悔させてやるよ」と優しい位の穏やかな声で囁いて、

Drはそれから、唇をニイィッと裂いた。

SideA
【兎月原・正嗣 編】


朝は然程食欲がないのだと、ベッドの中で嘯けば、いつも、兎月原の仕事の事務肩を手伝ってくれている女は「もう…しょうがないわねぇ…」と腰に手を当てて、それから、ベッドの中まで最近兎月原が気に入っているクロワッサンと、よく冷やしたコーヒーを運んできてくれた。

「貴族の朝みたいだわ。 ロマンね」と笑う女に甘い微笑を返し、上半身裸のまんま、枕をクッション代わりに身を起こし、コーヒーに口をつければ「どうして、そういう事をしている姿が、兎月原さんって、こんなにいかがわしいのかしら?」と首を傾げてくる。
「いかがわしいって…」と絶句すれば「だって、誰かが隣にいないのが不思議なくらい!」と女が言うので「君が隣においでよ」と笑顔で言えば、盛大に無視されてしまった。
あまつさえ、「忙しいから遊んであげてる時間がないの。 お仕事の時間になったらまた来ますからね?」と子供に言うような口調で言われて部屋を後にされ、兎月原なんだか寂しくて、暫くベッドの中でごろごろ過ごす。

最近買った好きな写真家の写真集などを捲って怠惰なときを過ごしていると、突然「コンコン」とノックの音が聞こえてきた。

「誰か訪ねてきたのか?」とベッドを降り玄関へ向かうも、誰もドアの向こうには立っておらず、首を傾げて、また部屋に戻る。
都内に借りている、一ヶ月家賃数十万近くするマンションは、綺麗に整えられていて、見苦しいところ等一つもない。
ついと何気なく視線を向けたところには、身だしなみ整える為に購入した鏡が一つ。
何気なく覗き込めば、そこには自分の姿ではなく、見知らぬ女の姿が浮かんでいた。

ぎょっとして目を見開けば、ふかぶかと女が一礼する。

真っ白な肌、真っ白な髪、真っ白な唇。

瞳の色彩まで薄い。

先ほどのノックの音は、この女が鏡面を叩いていた音だったのかと察せども、何故自宅の鏡がこのようなことになってしまっているのかさっぱり想像がつかずに首傾げた。
が、鏡に映る女は、何故か血塗れになった指先で、しきりにドレッサーを指差してくる。
女の非現実的な姿も相まって、今の明るい時間帯にその姿を見ているから良いが、夜中に見てれば、間違いなくホラーだと確信しつつ、兎月原は女の指示通りドレッサーに向かう。
そこには手鏡が伏せておいてあって、手に取って覗き込めば、真っ白な女はそこにも映っていた。
微かな声が聞こえる。
耳を手鏡に近づければ「少しの間しか 声は届けられません。 初めまして、私は白雪と申します、千年王宮の大鏡。 貴方様にお願いがあって、こうして、『映し身』にてお目文字申し上げております」と言いう声が聞こえてきた。
「白雪? 映し身?」と首を傾げ、はたと千年王宮と言う名に聞き覚えがあることに気付く。
確か、前に、マフィアに攫われた異種族の少女チーコを守る為の旅路での依頼人、黒須と竜子の口から聞いたことがあったような気がする。
彼らが住まいとする居城。
千年王宮。
すると、この子は竜子と黒須の知り合いかと察すれば、「『映し身』は、鏡である私が現実世界の鏡にも魂の欠片を飛ばし、現世に生きる人とコンタクトを取る為の術。 されど、私に余力はもうありませぬ。 ただ一言、黒須をお助けくださいと、お願い申し上げさせて下さい」と述べて、また深々と頭を下げた。

黒須誠。
長い髪をした、不気味な中年男性。
竜子のような可憐な女性ならいざ知らず。
何故に黒須なんぞをと不満に思えど、なにやら問題が起こっているらしい。
「分かった。 とりあえず話だけ聞きたい」と言えば「では、ご案内申し上げます」と白雪は答え、それから一切向こうの音が聞こえなくなった。
彼女が最初に言ったように、もう声を届ける力もないのか。
酷くやつれた姿に、彼女の身の上に起きた事も気になりつつ、玄関を指差してくる白雪に「ちょっと待ってろ」と再びドレッサーに手鏡を戻して、手早くクローゼットから目に付いたスーツを着込んだ。

髪の毛を手櫛で整え、手鏡を手にすれば、白雪が、何だか少し呆けたような表情で兎月原を眺めてくる。
されど、兎月原は女性にそういう視線で眺められる事は慣れっこで「さて、何処へ連れて行きたいんだ?」と白雪に冷静に問い掛ければ、白雪は慌てて玄関を指差した。

そのまま鏡に映った白雪の指示に従って、外に出ると、今度は、別の方向を白雪が指差す。
そのまま、導かれるままに、右へ左へ、鏡を覗き込んだまま歩く兎月原の姿は大層目立ったようだったが、それを気にしていられない。
そのうち、駅にまで連れてかれ、二駅ほど先の駅で降ろされる。
「ここ…何処だよ…」と呻くも白雪は無表情に別の場所を指差していて、大概自分も酔狂だと自覚しながらも「はいはい」とその指示に従い続けた。

興信所に関わるようになってから、今まで見たことのないような世界を垣間見、常識では計り知れない出来事にも、随分慣れたつもりだったが、やはりいきなりだと驚かざる得ない。
とはいえ、常人よりもだいぶ肝が据わっている兎月原は、「行き先にどんなことが待ち受けているのか…」と呑気にワクワクしつつ、淀みなく歩み続ける。
花の咲く小道を通り抜け、大きな四辻に出たときだった。
向こう側から、兎月原と同じように鏡を持ったまま歩く、すらりとした女の姿が目に入った。

興信所のスーパー有能事務員でもある、シュライン・エマだ。

「エマさん!」と名を呼べば、エマが大きく此方に手を振る。
微笑を浮かべつつ駆け寄り、エマの手の中にある鏡に目をやると、「あなたも白雪さんの案内でここまで?」と問い掛けた。
「ええ。 じゃあ、兎月原さんも、黒須さん救出の為に?」というエマの問い掛けに、憮然とした表情を見せると「男を助ける為に動くなんて、極めて不本意なんですけどね…」と言った後、「しかし、エマさんのように美しい人と、一緒のチームならば、俄然やる気が出てきたな」と心からの声で言う。
実際、美しい女性と行動できるか否かでテンションが変わる男心は否定できないし、エマも表情を緩め、「私も、兎月原さんと同じチームでよかったわ」と嬉しい事を言ってくれて、朝っぱらから意味の分からない現象に振りまわれた甲斐もあったと確信する。

途中、エマがどなたかのお家を訪ねるみたいだしと、水饅頭を持ってきているのを見て、兎月原もエマお勧めの煎餅屋で煎餅を購入する等、何だか事態の割には若干呑気な寄り道等もしつつ、漸く、二人は目的地に辿り着く。

それはあるマンションの一室の前。

表札に書かれている名前に視線を向けて、エマが目を見開き「え? ここなの?」と鏡の中の白雪に問い掛けるものだから「知り合いの家か?」と尋ねエマに訪ねる。
鏡の中の白雪は、既に消え果ていて、エマの問いかけには答えてくれなかったらしい。
エマは、曖昧に頷いて、インターフォンを押した。

ガチャとドアを開けたのは、この暑さの最中、黒タキシードを着込んだ奇妙な風体の男。

ここの住人かと首を傾げれば「道化師さん、何で此処に?!」とエマが驚きの声をあげていて、どうにもそれは違うらしいと、その言動で察する。
「道化師?」とエマに聞けば「あ、千年王宮に住んでる人よ。 私は、興信所で彼に言われて、ここまで来たの」と教えてくれた。
兎月原が、道化に対して名乗ろうと口を開くより早く、「さぁ、まぁ、遠慮なく入って、入って」と招き入れられ、「え? ここ、貴方の家じゃないんだよね?」とか聞きたくなるような気になれど、促されるまま足を踏み入れる。
「お邪魔しまぁす」と挨拶をして玄関を上り、リビングへと道化師に案内されれば、そこには、深い群青色の瞳と、ダークブロンドの髪を持つ、顔立ちは整っているのに、何だか油断ならない空気を身にまとう男性が一人佇んでいた。
「あ」
エマがポカンとそう声に出して呟き、その人物を指差す。
「ネェ、道化さン? 我が家を、勝手に集合場所にするの…やめて頂けマス?」
そう疲れたように告げる男に、「表札に書いてあるの見ても半信半疑だったんだけど、やっぱり、ここ、デリクさんのお家なのね」と、言った。
どうもエマと、このデリクという男は知り合いらしい。
「あ、とりあえず、これ、ごめんなさいね? 手作りなんだけど、お邪魔するからと思って…」と言いながら、エマが水饅頭を包んだ風呂敷包みを渡す。
「今回は、夏という事で水饅頭! 保冷剤入れてきてあるから、まだ冷たいはずだし、美味しいから、是非是非」と言うので、続けて「あ、じゃあ、俺も途中で買ってきたんですけど、これ、エマさんお勧めの煎餅屋の、醤油煎餅です」と、兎月原もデリクに途中購入の煎餅の箱を手渡した。
それから、二人は数秒顔を合わせて「初めまして。 兎月原正嗣と言います」と、兎月原がなんともタイミング的には奇妙だと自覚せざる得ない初対面の挨拶をする。
「ア、コチラこそ、初めましテ。 私、都内英語教室にて、講師をしておりマス、デリク・オーロフと申しマス。 以後、お見知りおきヲ」と、デリクも丁寧な挨拶を返してきた。
唯の英語教室の講師とは到底思えない雰囲気に、咄嗟に兎月原疑いの眼差しを向けてしまう。
そのまま、再び数秒沈黙し、思わずといった調子で「おかしくない?」と兎月原が呟けば、デリクが大きく頷いて「おかしいですヨネ」と答えてくれた。
確かに世間一般から鑑みても、こんな初対面は奇妙すぎる。

「大体、どうして、我が家が分ったんでス? っていうか、私の事をご存じない人が、どうして我が家ニ? エマさんだって、私の家だとは、知らずに此処まで来たようデスシ」
そう問うデリクに「えーと、私達は白雪嬢に案内されたのよ」とエマが答え、ポーチからコンパクトを取り出して見せた。
「もう、映ってないんだけどね、このコンパクトに白雪嬢が映って、ここまで道案内してくれたの」
エマがそう言えば続けて、「『映し身』は、体力を使うからね、そうそう、長時間は出来ないんだよ」と道化師は言い、それから「まぁ、立ち話もなんだし、座ったらどうだい?」とデリクの家にも関わらず勝手にソファーを薦めてきた。
デリクが苦笑しつつも冷やした麦茶を硝子の器に入れて出してくれる。

兎月原は道化師より、この件に関する詳しい説明を受け、自分達の役割が竜子達が「K花市」というキメラのオークションが行われている会場にて、暴れ、人目を引いている内に、黒須を、彼が現在囚われていると考えられる、メサイア内の倉庫より救出する事だと理解する。

(今回の件には、俺達の他に、竜子さんと一緒にオークションを滅茶苦茶にするチームと、王宮でベイブさんを守るチームがいるという事だな…)
そう胸中で呟いて、何とか、別チームとも巧く連携が取れたり出来ないものだろうか?と考えつつ、よく冷えた水饅頭を、口の中に放り込んで咀嚼する。
唸らずにはいられないような美味に目を細め、しかし、今、自分ってば結構とんでもない事に巻き込まれつつあるよな…と把握した。
所謂水商売を営んでいる都合上、裏稼業の人間と接触する機会は多々あれど、人身販売に手を染めているマフィア等という、絵に描いたような裏組織と敵対するようになるだなんて、少し前までの自分は想像すらしていなかった。
まるで、映画や小説の中みたいな話だと、客観的に感じてしまい、自分がそういう立場になると考えると、何だか余りにも現実味がないような気がして笑い出したいような気持ちになる。

然程、向こう見ずな性格ではないのだが、どうして、こういう事に首を突っ込んでしまう立場になっているのだろう…と考えて、ふと、黒須の事を思い出した。

攫われたというあの男。
今頃どんな目に合っているのやらと思うと、何だか、ちょっと腹立たしいような気持ちにもなる。
然程深く関わりのない、どちらかと言えば、兎月原にとって気に入らない類の人種なのに、なんだかやけに気になって、そんな自分が兎月原は不思議で仕方なかった。
色々自分の有り様について思考をめぐらせていると、不意にデリクが口を開いた。


「……で、道化さんとしては、私達に、黒須サンを救出して欲しい…と、いう事ですカ?」
デリクの言葉に、「ふん!」と鼻息で答え「まぁ、借りは、きっちり返して貰うつもりだがね」と道化師が唇を捻じ曲げて言う。

あ、この人も、黒須の為に動いてるのが気に入らないんだなぁと理解し、何だか同じような心境だったので、「で? なんで、俺が黒須さんを助けてやんないといけないんだ?」と兎月原は道化師に問い掛ける。
ついと見返された、まるで此方の複雑な気持ち等お見通しだと言わんばかりの視線に気圧されて「いや…まぁ、面識はあるし、話を聞いてしまった以上、救出メンバーに加わる事に異論はないが…」と、麦茶の入ったグラスを片手に言葉を濁す。
すると、少し弱気になった兎月原に漬け込むように「異論はないんだろ?」とどこか含みを持った声で道化師は言った。
「じゃあ、助けてやんなよ。 ジャバウォッキーを。 大層弱ってるみたいだぜ? 檻の中に閉じ込められてキイキイ鳴いてんじゃないのかね? 可哀想じゃないか」
道化師が身を乗り出し、兎月原の端正な顔を間近で覗きこんでくる。
「胸が痛むだろ?」
その問い掛けに、檻の中で、蹲り鳴く、黒須の姿を思い浮かべ、何だか、酷く胸糞が悪くなって、兎月原は道化師の顔を正面から見返すと、それはそれは恐ろしい、見るものを凍りつかせるような笑みを浮かべる。
何だか兎月原の障って欲しくない部分に、道化師が荒く爪を立てているような腹立たしさを感じつつ、何も答えずに、首を少しだけ傾げてみせた。
デリクとエマが顔を見合わせ、二人の間に漂う剣呑な空気に首を傾げあっている。
そんな兎月原と道化師の間の空気を打ち破るかのように「私は、まぁ、他に選択肢もない事ですシ…自宅を、作戦会議室にされてしまいましタシ……」と、若干嫌味たらしい声でデリクが言う。
(他に選択肢がない?)と不思議に思っていると、デリクの嫌味に、全く堪えた様子もなく「君のように志のある者なら、必ずそう答えてくれると信じていたよ」と、道化師がしゃあしゃあと答えた。
エマは水饅頭をカプカプと食みながら「私はやるわよ? どうせ、ここまで、ずっとあの王宮の人達に関わってきたんですもの。 それに……」と、水饅頭を咥えたまま、一瞬何かに思いを馳せ、「…今回は、関わりたいわ。 見届けたいものもあるから」というと、つるりと綺麗な形の唇の中に水饅頭を吸い込み、はぐはぐと頬を膨らませた。

「ブラボー! お三方の協力に心から感謝するよ!」
そう言いながらパチパチと小さく拍手し、次の瞬間、思いもかけないようなスピードで立ち上がると、「じゃ、後は頼んだよ?」とだけ告げて、スタスタスタと道化師は部屋を後にした。
その、コマ送りめいたスピードに、三人、一瞬呆然と見送ったあと、ふっと同時に我に帰り(投げっぱなし!!!)と胸中で叫ぶ。
「な、なんて無責任な…」
「物凄い豪快なジャーマンープレックスって感じの、投げ具合よね」
「幾ら、黒須サンを救出する事に対しては、然程やる気が出ないんだろうナーと察してあげようとしてモ、この投げっぱなし具合は、あんまりダ!」
そう口々に、道化師の無責任具合を責め合い、改めて兎月原はデリクと、エマの顔を眺める。
(まぁ…エマさんが凄く優秀なのは前回の件で分かってるし、デリクさんも、油断ならない雰囲気ではあるが味方でいてくれれば心強そうだ…)
そう判断したのを裏付けるようにエマが口を開いた。
「ま、とりあえず、然程時間の猶予はなさそうね。 私は、興信所の情報網を利用して、見取り図や、監視カメラ位置、電気配線位置や、通気孔構造等々建設面からの情報等、分る範囲で調べてみるわ」と言うエマの言葉に、ふとある事に思い至り、兎月原はスーツから携帯を取り出し、「俺が懇意にしている女性が、メサイア内にある宝飾店でオーナーをしていた筈だ。 ビル内の事なら、スタッフレベル程度には詳しいだろう。 連絡を取ってみる」と言いながら、ボタンをプッシュし始める。
デリクも「侵入と脱出に関しテハ、私もお役に立てるかと思いマス」と片手を挙げた。
「空間を歪めれば、経路の確保等は、かなり安全にできるノデ…」と告げるデリクの言葉が気になって兎月原はメールを打つ手を止め首を傾げた。
彼も何か特殊な能力を持っているのだろうか?
まぁ、ただの英語講師ではあるまいと思っていたが、余りに非現実的な言葉を聞いたため、思考が停止してしまう。
エマがそんな兎月原の混乱に気付いてくれたのか、「えーと、あの、ぐいーん!ってなって、うにょーんってなるやつよね」と、物凄く曖昧な説明をし、デリクも、それに倣って「ハイ。 ぐいーん!ってヤツです」と頷き返してきた。
そして、二人意味無く、「うんうんうん」と頷きあう間で、一瞬途方に暮れた表情を晒す兎月原。
携帯を握り締めたまま、「ぐいーん…って…」と呆れたように呻けば、「大丈夫デス。 私の、ぐいーん!にお任せアレ☆ とにかく、お二人をメサイア内に、多分、出来るだけ頑張って、無理ならゴメンネ?位の姿勢デ、無事ご案内しますカラ」と微笑んでくる。
何だか、その気負いのなさ具合に「確かに、この面々なら道化師が、丸投げしても大丈夫と認識するのも納得かも…」と、一人胸中で頷きつつ、「うわぁ、信用できない。 此処近年稀に見る、信用出来なさ。 信用できないんですけどランキング、2008年、堂々のランク1位獲得!」と、兎月原が真顔でそう並べ立てると、「ま、大丈夫、大丈夫」と、エマが大変能天気な声でカラっと言った。
冷静で周到な割には、最終的には楽天的という美点を発揮し、「じゃ、私は一旦、事務所に戻って、色々用意してくるわ」とエマが立ち上がり、兎月原も、様々な納得いかない部分に溜息を吐きつつも「俺も、色々準備があるから…」と、言いソファーを立つ。

「そうね…今から、二時間後に、メサイア前で集合って事で良いかしら?」
エマの言葉に頷いて、何かあった時、連絡を取り合えるように、お互いに携帯ナンバーの交換だけ行うと、エマ達は、メサイア前での再会を約束し、一旦解散する事にした。

自宅に戻り、メールにてコンタクトを取った宝飾店オーナーより電話が入っている事を確かめると、兎月原は慌ててかけ直す。
「ああ、そう、兎月原です、先日はどうも」と言えば、彼女が望む通りの甘い一夜を提供してあげた、兎月原の上客は蕩けるような声で、「どうしたの?」と訪ねてくる。
「いえね。 貴方がメサイアビル内で宝飾店を営んでいた事を思い出して、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」と切り出した兎月原は、彼女より驚くべき情報を入手することが出来た。

それは、メサイア内にある、一般客やスタッフが足を踏み入れることを許されていない隠し倉庫の存在。
「私も、宝石なんかをそのフロアにある金庫にいつもは預けてあるんだけど、今日は、『背徳』でイベントを行うイベンターが貸切っちゃってるの。 凄く不便だわ…」
そう教えてくれた女に礼を言い、電話を切った後、黒須が囚われているのは、その隠し倉庫に違いないと確信する。
大体、オークションに出せる程の大量のキメラを、一体何処に隠しているのかが、気になっていたのだ。
そんな隠しフロアがあるなんて、あのビルも大概胡散臭いと兎月原は、訝しい。
冷蔵庫から冷たい水のペットボトルを取り出して、一口、口に含むと、ふと、また自分が黒須の事を考えている事に気付く。

人の体と獣の体を掛け合わせるような、恐ろしい技術を有する組織なんぞに捕まって、今まだ無事な姿でいるかどうかも疑わしい。

折角面白い体をしていたのにと、人の人体構造とは明らかに違う骨格を持つ黒須の手触りを思い出す。
無事助け出した暁には、お礼代わりに、ちょっとばかり、どういう仕組みになっているのか調べさせて欲しいと、人体マニアの気がある兎月原は考える。
あとは、そうだな、血。
ぼんやりと、ペットボトルの飲み口を無意識にガジガジと噛みながら、今度は声に出して呟いた。

「蛇の血」

実は嗜血の傾向がある兎月原。
気紛れのように、蛇の血の味はどんなもんだろう?と考える。
味見程度に、噛ませて貰えば、それで報酬は結構。
見返りがなければつまらないが、これ程ささやかな見返りで満足してやろうってのだから、一晩6桁以上の金額を払わねば、共に夜を過ごしてやらぬ兎月原として破格の値段といえよう。

その為にも、無事あの男を助け出してやらねばと、彼を、心底心配してしまっている自分を誤魔化す為に、そんな仮の理由をぶち上げてみた。




「これが、『メサイア』の見取図。 監視カメラの位置は、赤ペンで丸を付けといてあるわ」
エマがそう言いながら地図を広げれば、「倉庫位置は、通常倉庫の他に、もう一つ、最上階の真下に隠しフロアがあるようだ。 俺が話を聞いた相手も、特別な客からオーダーされた高価な宝石等は、入荷後は、そのフロアに保管しておくらしい。 『背徳』では、年間を通じてK麒麟のイベントを行っている訳で、キメラをイベントの際、どの場所に搬入するか不思議だったんだが、客には知らされてない窓のない階層に一時運び込むと考えれば合点がいく」と、宝飾店のオーナーから入手した情報を披露する。
エマが兎月原の言葉に、嬉しげな表情を見せると、見取り図の最上階とその下の階層の間に隠し倉庫の注釈を入れた。

メサイアビルの一階。

アメリカから初進出してきたという、ボリュームたっぷりなハンバーガーが売りのファーストフード店の机の上に地図を広げ、三人顔を突き合わせる。
兎月原は、マジマジと地図を覗き込み、デリクに侵入の為の「穴」を空けて貰って入り込むなら、どの場所がいいのかをまず考える。
確実に彼の身柄を確保し、出来るだけ攻撃を受けず、安全に脱出を果たす為には、組織の人間に気付かれぬよう、隠密行動を心がけるのが常套と言えよう。
「その、多分、この、従業員専用エレベーターから、そのフロアに行けるでしょうけど…」
「ああ、監視カメラがエレベーター内に仕掛けられているんデスネ」
「と、すると…」
そう言いながら、エマの細い指先が見取り図上を彷徨い、それからある一点を指差す。
「ここ。 この、最上階と、隠しフロアの間を通っているダクト。 ここを通れば…」
そう言いながら、ツツツと指先がダクトをなぞり、トンと、隠しフロアのある筈の箇所を指先で叩いた。
「この階に出れる。 ただ、見取り図では、この隠しフロアに何が仕掛けられているかまでは分からないし…」
「俺の知り合いに聞いても、監視カメラの位置までは把握していない…」
二人の言葉にデリクは頷いて、「つまり、この隠し倉庫フロアの情報に関しては、何もナシって訳ですカ…。 フロアに直接異空間の穴を空けて飛び込むというのは、フロアの状態を把握できない以上、論外ですし…」と顎に手を当てて思案を巡らせれば、兎月原も同じように眉を寄せ「…この通気孔への侵入口がある通路や、フロアには、軒並み監視カメラが仕掛けてあるな…」と言いながら地図を睨む。


エマは、「あああ…嫌だけど…嫌だけど、ああ、嫌だけど…」と一頻り唸り、それから「最後の手段!」と言いながら、「はい」と言いつつ、二人それぞれに紙袋を渡してきた。
「ん?」
「制服! 今夜、背徳で催されるオークションの、ボーイのね」
そう言うエマに、兎月原は一瞬デリクと顔を見合わせ、「オオ!」と、頷きながら手を叩く。

「確かに、この制服を着ていれバ、侵入後は目立たずに済みマス」
「ビル内をうろついていても、不審がられないだろうしな」
デリクとそう言い合い、「よく、こんなものヲ手に入れられましたネ」とデリクが聞けば、エマは顔を顰め「役に立つかと思って、興信所の仕事で知った、マニア向けの制服専門店から手に入れたの。 一応、興信所の事務員だと、こういうツテは幾らでも出来るから…」と沈んだ声で言う。
何故か、落ち込んでる様子のエマに兎月原が「どうしたんだ?」と問い掛ければ、「…スカートが…凄く短いの」と呻いて、それから項垂れた。
男性陣二人、咄嗟にエマに何と言えばいいのか見失い、無言になる。
「…太ももの、…半分、…までしかないの」
そう途切れ途切れに呻くエマ。
確かに彼女は普段パンツルックを好んでいるようで、今も細身のタイトなジーンズを形良く穿きこなしている。
そんなに落ち込むとは、よっぽどのデザインなのだろうと思いつつも、「大丈夫デスヨ。 エマさん、スタイル良いシ、何でも似合うカラ」とデリクがフォローを入れれば、「…女は…25を越えるとね…一度ドレッサーの中を総点検するの…。 それぞれの服が、自分がまだ、着ても世間に許される服かどうかを、判断する為にね? 四捨五入して30のミニスカは、超…デッドライン…っていうか、ギリギリアウト。 アウト…ゲームセット…コールド負け…。 勿論、世の中には、セーフなミニスカのデザインも確かにあるんだけど、この制服は間違いなくアウトライン」と呻くので「ほウ。 女性には、そういう常識があるんデスネー」なんて、デリクは呑気に言った。
兎月原はにこりと沈んでいるエマに笑いかけ、「楽しみだな。 エマさんのミニスカ姿」と、端正な顔立ちに色気のある笑みを刷く。
「…絶対笑うわ」
恨めしげにエマが言うので心底驚いて、「まさか。 エマさんを、俺が?」と目を見開き、兎月原は「有り得ない。 そんな愚かな感性を持って生まれた覚えは、俺にはないです」と真顔で言い放つ。

そんな兎月原をエマは星を入れたような、輝く瞳で暫く凝視して、次の瞬間、エマはぐりん!と勢い良くデリクに顔を向け、「もうさぁ! 兎月原さんとか! 翼さんみたいな人ってさぁ! どこに行けば売ってるの?!」と結構真剣な顔で訴えた。
「必要だと思うの! 女子には! 女子には今の時代、一家に一台、兎月原さんか翼さんが必要だと思うの!! 心が折れそうな時とかに!! 貯金、全額はたく覚悟あるわよ?」
「イヤ…知りませんヨ」
「じゃあ、異次元の穴で、私をそういう世界へ連れてってよ!」
「無理ですヨ。 ていうか、私の能力を、なんだと思ってるんですカ」
「分かった! そういう異界とかないの? 兎月原さん&翼さんを売ってます!な異界! 参加するぞ? 何をおいても参加するぞ?」
「分かったって、何も分かってないじゃないデスカ。 見たことないデスヨ。 そんなピンポイントな異界、間違いなく、持て余しますヨ」
即答で、エマの望みを一刀両断!し続けていると、デリクの語り口を「軽快だなぁ」なんて、能天気に感心していると、突然エマの携帯が鳴った。
会話が会話だったからか、びくっと大げさな反応を見せた後、エマはいそいそと手を伸ばし、携帯電話を手にする。

「もしもし…って…え? 竜子ちゃん?!」

エマの言葉に、思わず兎月原も体を揺らす反応を抑え切れなかった。
「え? 今、どこにいるの? 嘘? ここの、上の階にあるホテル? な、何してるの?」

「確か…竜子さんは、あの道化師曰く、別のやり方で、黒須さんを助けようとしてるんだよな?」
デリク宅にて道化師がしてくれた説明を口にする兎月原にデリクが頷き返してくれる。
一体、彼女は今何処にいるのだろう?
そう不思議に思いつつ、エマと竜子のか岩を見守る。
「…うん…うん…分った…けど、大丈夫なの? 怪我は? 体調は? 誰と一緒なの? うん…うん…ああ…うん…」
エマが眉を顰め、心配そうに相槌を打つのを見守りながら、兎月原は携帯を取り出し、情報提供者であるオーナーへのお礼のメールを打ち始めた。


「…じゃあ、気をつけてね? 無理しないように」

エマが電話を切り、一つ溜息を吐き出すのを眺めると「向こうの状況ハ?」とデリクが問い掛ける。
「…うーん…道化師さんの口振りから薄々察してたけど、今回、本当に大ピンチなのね。 何だか危うい感じがするわ。 ただ、メンバーは聞く限りじゃ、心強いメンツが揃ってるし、とにかく私達は私達の出来る事をしましょう…。 黒須さん助けださないと、竜子ちゃん達も、メサイアから脱出できないしね。 こちらのサポートとして、向こうで陽動作戦を展開してくれるらしいから、K麒麟の人達の目を引きつけてくれると思うわ」
エマの言葉に、兎月原は頷いて「じゃあ、こちらの計画を詰めてしまおう」と言い、全ての目から死角となるような、最適な侵入口を探すべく、地図を睨み付けた。



「…写メを!」
「是非、写メを草間さんニ!!」

そう口々にデリクと言い合えば、エマが「送ったらコロス!」と若干本気の声で言うっていうか、兎月原の携帯を取り上げようと躍起になっている。
だが、そのエマは、スカートの裾を片手で引っ張りつつ、背の高く、体格の良い兎月原の手から携帯を奪還しようとしているせいで、少し身を屈めたままピョン、ピョンと跳ねるような、不恰好な体勢になっており、兎月原は、難なく携帯のボタンを押し続ける事が出来た。
一度世話になっただけだが、同じ男として、恋人のこの姿を、武彦に是非見せてやりたい。
タイトな光沢のある黒スカートにはサスペンダーがついていて、エマの美しい形の胸を強調していた。
白いシンプルな形のシャツは、ボタンの両サイドに縦フリルがあしらわれており、髪を纏め上げたエマのスッキリした美貌によく似合っている。
スカート丈は確かに凄く短かいが、体に張り付くエマのスタイルの良さが如実に分るようなデザインは、男からすれば「ありがとうございます」と無条件で礼を述べたくなるような光景を生み出してくれていた。
「これは駄目だ! 俺達の間だけで終わらせてはいけない! 勿体無い! せめて、恋人には! 恋人には、見せてあげないと!」と言いつつ、エマが油断した隙に撮った写メを、武彦に送信すべく奮闘する。
「ばっかじゃないの! やめなさい! ほら、その写真を消しなさい!」と喚くエマを無視して、「頑張っテ! めっちゃ頑張っテ、兎月原サン!!」と、デリクが懸命に応援してくる。
その声援を背に、「っ! 送信…出来た!」と兎月原が勝利宣言した瞬間、「終わった」とエマは壁に手をつき、デリクは「わァ! でかしまシタ!」と両手をあげた。
女から見れば、「男って…バカだなぁ…」と呆れ顔で笑うしかない光景ではあるが、男の身にすれば、「お前ら、心の友と書いて、心友!」と呼びたくなるような心遣いであり、実際、武彦は、受信したメールを見て「心の友よ!」と天を仰いだらしいが、まぁ、そんな話はどうでもいい。(ほんとにね!)
「…とにかく、とっとと行くわよ……!」
そう半眼になって呻くエマにデリクが、「わァ! どうしたんですカ? 敵地突入前に、そんなに焦燥シテ。 本番はこれからですヨ! 頑張ッテ☆」と、嘘くさい笑みを浮かべてエマを応援する。
エマは、「お…おおお…おお…何か…、何か言ってやりたいけど、この人には何言ったって、無駄って事が分ってるから、もう何も言いたくない…」と呟いて肩を落とし、デリクがニコニコ笑いながら両手についている魔法陣のような痣を光らせ、異空間の穴をこじ開ける。
突如何もない空間に開いた穴に、これが「ぐいーん」って奴かと、エマとデリクから受けた好い加減な説明を思い出していると、「…じゃ、行きますカ」とデリクが言った。
「かってない程に、緊張感のない敵地侵入前の心境だわ…」とエマが呻き、兎月原は「作戦的には良いんじゃないですか?」と呑気な声で呟く。
「私もそれを狙ッテ、雰囲気作りに努めさせて頂きマシタ」と、お前、それ絶対嘘やろ?な、好い加減な事をいうデリクに、盛大な溜息を、エマと二人揃って吐き出した。

「…どうぞ」

にこやかに微笑みながら、しれっと客に飲み物を出す。
カウンターにて、気だるげな表情を浮かべ佇んでいた女性客の目が、兎月原を視界に納めた瞬間、獲物を見る獣の如く、舌なめずりをしそうな色を浮かべた。

「ねぇ…、貴方は、売り物じゃないの?」

そう言いながら、しなだれかかってくる女性に「すいません。 非売品です」と微笑んで言葉を返し、さりげなくその体を押し返す。
何処かのファッション雑誌の表紙を飾っていたのを、見かけた気がする美しい女は、「じゃあ個人的に買わせてよ。 ここホテルに部屋だってとってあるの。 遊びに来たはいいけど、思ったよりもつまんないんだもの。 一緒に遊びましょうよ。 幾らでも出すわ?」と、兎月原の顔を夢中になって眺めながら、再び体を摺り寄せてくる。
そんな女性ににっこりと微笑むと、「ごめんなさい。 俺、美人としか遊べないんです」と痛烈な一言を残すと、ポカンと間抜け面を晒す女を尻目にその場を立ち去り、銀色の盆を小脇に抱え、「K花市」のオークション会場を歩けば、デリクや、エマが同じように、フロアレディやボーイに徹している姿が映る。
人混みでごった返す会場内では、新たに増えた、三人のスタッフの姿など、誰の気にも止まらないらしく、極々自然に、会場内に留まり続けていられた。
兎月原達の狙いは、この会場の奥、スタッフルームに設置されている通気口の入り口だった。
ビル内の死角に、デリクが穴を空け、侵入を果たした後、エマが予め見取り図でチェックを入れた死角や、デリクが空間を歪める事によって作り出した、抜け穴等を使い、この会場にもぐりこむ事に成功した。 が、スタッフルームには、組織の人間らしい黒服の物騒な男連中がたむろしており、通気口内に人目につかずに侵入するのは、竜子達陽動班が騒ぎを起こし、会場内に皆の目を向けるように計らってくれるまでは不可能と言える。
竜子達が騒ぎを起こすまで、この会場内にて時を見計らい、騒ぎに乗じて通気口への侵入を果たそうと計画を立てていた。
(さて、巧くいけばいいが…)と思案する、兎月原の耳に、よく通る、男の声が聞こえてくる。

「1千万」

ひょいと、札を上げ、テーブルに設置されたマイクにそう告げる整った横顔を横目で眺めてみた。

不自然なまでに真っ白な肌をした金髪の羽の生えた少女が、檻の中で両手を組み合わせ、祈るような眼差しで男を眺めている。

先ほどから続けざまだ。
他の客が口にする金額よりも、二倍以上の値をつけて、キメラ達を軒並み落札していっている。
余程の好事家か、キメラマニアなのだろうか?と思えど、その顔には、他の客には深々と刻まれている後ろ暗い欲望の影が見当たらず、一体、どういう人間なのだろう?と兎月原は興味深く思っていた。

飄々とした風情で、キメラを次々と落札していく男には、その美貌も相まって、周囲の視線が否応なしに惹き付けられている様子を眺めると、何だか、愉快な気持ちにすらなってくる。

楽しげに長い足を組みながら、ポンポンポンと大きな買い物をしていく男の正体を訝しんでいると、エマが、ワインを注いだグラスを盆に載せて、彼に近付いて行った。

身を屈め、男の机にワイングラスを置くエマに、チラリと視線を送った男が、表情を変えないままグラスを手に取る。
クルリと踵を返すエマを見送りながら、兎月原は、目敏く彼女が男に一枚のメモを渡しているのを見逃さなかった。
彼女の知り合いとなると、多分、彼も「興信所」の関係者という事になる。
男が如何なる人物であるのか、注意深く観察をしようとした兎月原の耳に、ざわめきが届いた。


それは、この「K花市」の目玉商品お出ましの合図だった。


色とりどりの美しい花が足元に敷き詰められた鳥篭の形をした檻の中に閉じ込められた美しい男女が会場内に運び込まれる。
それぞれ、華美な衣装で着飾り、美しく装飾されて入るが、皆目は虚ろで、意識が現実にない事を如実に悟らせる。
兎月原は視線を彷徨わせ、金色の髪を結われ、花をたくさん飾られ、赤いドレスを着せられた竜子の姿に目を見開いた。
美しい人だろうとは分かっていたが、まさかここまでとは思わなかった。
じっと他の「薔薇姫」達と同じく、微動だにせず佇んでいるが、血色の良い頬や、滑らかな肌、そして何より表情が、虚ろな表情を晒す者達よりも、躍動感に満ち、健康的で、華麗な色香を漂わせていた。
他にも、彼女と一緒に潜入しているメンバーがいる筈と見回してみれば、一人、見覚えのある顔を見つけて、竜子を見たとき以上の驚きに思わず声を漏らしそうになった。
黒い透かし模様の精緻なレースが施された大き目な白い立て襟のドレスシャツの上に銀色の十字架モチーフがあしらわれ、いたるところにメタルボタンが付けられているインパクトのあるデザインの、裾の長いジャケットコートを羽織り、着る人を極めて選ぶゴシックファッションを、完璧に着こなしている無性めいたスレンダーな美青年に変身した向坂嵐が、澄まして座っている姿が目に入ったのだ。
彼とも前に、チーコの件で始めて顔を合わせたのだが、その時はラフな格好をしていたせいか、まさか薔薇姫として竜子に協力し、こんな姿を見せてくれるとは思わなかった。
予想だにしない美しさに、竜子といい、嵐といい、「折角持って生まれたものがあるのだから、普段から、頑張ろうよ」と咄嗟に諭したくなるような気持ちにもなる。
あと一人、黒薔薇のモチーフを濃い黒糸で刺繍で施された和洋折衷の打ち掛けを、豪奢に重ね、美しい絹糸の如き黒髪を背中に流して、十二単を身に纏い、銀色のティアラを頭に飾っている気品ある姫君の如き美少女も、竜子達同様、他の薔薇姫に比べても際立って容姿が美しく、その目にも光があり、兎月原は思わず視線が吸い寄せられてしまった。

「皆様、お待ちかねの目玉商品『薔薇姫』にございます。 どうぞ、お近くで、『花』の状態を御覧になって下さい」

その言葉を合図に、客たちが一斉に立ち上がり、薔薇姫達に近寄っていく。
兎月原も、ドリンクのサービスに勤める振りをして、薔薇姫を見て回ろうかとした瞬間、ふと、ある硝子ケースが目に入り硬直した。

「…エ」

思わず漏れた声は、純粋な驚きの声。
咄嗟に振り返った先は、先程次々とキメラ達を落札していたあの男。

兎月原の目の前にある鳥篭の中に入っている生き物は、世にも美しい姿をしていた。
背中が大きく開いた金糸にて龍の刺繍が大胆に施された光沢のある中国服を身に纏い、その白い背中から色鮮やかな極彩色の大きな羽が生えている。
黄金色の、波打つ目に眩しい程の光を放つ髪や目は、見るものの目を射るのに、見つめ続けていたくなるような、それでいて畏怖の念を抱かざる得ない程の輝きに満ちていた。

異形の生き物。
故に美しい。

金色の角が、頭部より二本生えている。
首筋や、肘より先の腕が金色の鱗で覆われていた。

金の燐粉を振りまいているかの如く、その身の周囲がほんのりと黄金色に輝いて見える。

だが、何より、驚嘆すべきは、その顔。
白い肌。
赤い唇。

完璧なまでに整った あの男と 同じ 顔。



首を巡らせ、捜した男は席にはおらず、視線を彷徨わせれば人ごみに紛れエマと連れ立ち、会場のドア入り口へと向かっている。
あの男も、これから行動を共にするのだろうか?
その横顔を凝視し、そして再び、鳥篭の中に納まる男の顔を見る。

同じ顔をしている。
双子なんてレベルじゃない。
全く同じ造詣。

ドッペルゲンガー。
いや、まさか。

慄きに全身が痺れるような心地になる。
鳥篭の中の生き物は、兎月原の視線に気付かぬげに正面を凝視したまま動かない。

ポケットに入れた携帯のバイブ機能が作動し、デリクも、踵を返して会場入り口へと足を向ける。

集合の合図だ。

『薔薇姫』が会場内に運び込まれた後、メンバーの中に、人心を操る能力がある歌声を持つ者がおり、会場内の人間を歌声によって催眠状態に陥らせた後、竜子達は騒ぎを起こすそうだ。

兎月原が足早にエマと男の傍に寄れば、デリクも時同じくして、集合場所であるスタッフルームの入り口すぐ傍に辿り着いた。

さて、この男の正体は?と、男の顔を気付かれぬよう凝視する。

とりあえずエマが男を紹介してくれた。
「えーと、魏幇禍さんって、デリクさんはお会いした事あったかしら?」
そう男を指し示しながらエマがデリクに問えば「お顔は千年王宮で一度拝見した事がございマスが、お名前は今、初めて知りましタ」とデリクは答え、「デリク・オーロフと申しまス」と挨拶した。
幇禍が、にっこりと笑い返し「どうも! あの時は楽しかったですよねぇ」なんて呑気に返答し、「全くでス!」とデリクが笑顔で返答する。
だが、エマは何か嫌な思い出でもあるのか、「どうして、トラブルを喜ぶ人が、興信所に集まる面々には多いのかしら」と言いつつ頭痛に耐えるような表情を浮かべる。

兎月原は「初めまして、幇禍さん。 俺は、兎月原正嗣と言います。 えっと、興信所の関係の方で良かったのかな?」と問い掛ければ、「あ…はい、初めまして。 興信所の関係っていうか、時々手伝わせて貰ったりする位なんですけど…えーと、兎月原さんも?」と、如才ない声音で返答が返ってきて、若干得たいが知れないと警戒していた心が和らいだ。
「あ、はい、先日、ちょっと、興信所に依頼のあった仕事に関わらせて貰って…」
そう、会話を交わす風景は女性から見れば美形二人という事もあって、大変眼福な光景ではあろうが、現状呑気な会話をしている状況ではない。
「…はい、えーと、簡潔に結論から述べると、今から幇禍さんは、半強制的に私達に協力してもらいます」
エマの宣言に、デリクが、動揺を一切見せず、即座に「よろしくお願いしマス」と幇禍に告げ、幇禍も「至らない点が、多々あるかもしれませんが精一杯頑張ります!」等と、多分事態を若干分ってない感じの返事をする。
余りの展開の速さに、兎月原が、エマに「えーと、話が早いんだか、通じてないんだか、突然メンバーが増えるっていうのは、結構重大な出来事だと思うのだが、こういう感じでいいのか?」と戸惑ったように問い掛ければ「まぁ、こういうメンバーだと、大体こんな感じになるから、兎月原さんも『ああ、話が早いなぁ』とだけ思ってくれてればいいわ」と、物凄く曖昧な説明をされて、何だか釈然としないように首を傾げつつも、兎月原も納得せざる得なかった。

まぁ、エマが、引っ張ってきた事だし、実力共に信用できる人間なのだろう。

デリクが空間を歪め、四人の周りに「空間」のカーテンを構築する。
あっという間に四人は歪の壁に囲まれて、外部からの音が一切遮断され、外の風景がぐにゃぐにゃと歪んで目に映るようになった。
この状態になれば、外からは、こちらの様子は一切見えず、ただ、何もない壁が見えているだけになるらしい。
聴く者を催眠状態に陥らせるという歌は、敵味方関係なく、無差別に耳にするものの人心に影響を及ぼすらしく、何もかも外界を遮断した空間をデリクは作ってくれたのが幇禍には物珍しかったのだろう。
「うわ! 面白い!」と、はしゃいだ声をあげる。
「こっちの声も、向こうには聞こえなくなるんですよね?」
デリクに問いかけ、笑顔で頷き返された幇禍は子供のような表情を見せながら、顔を四方に巡らせた。

兎月原は、何だか聞き損ねてしまった、あのオークションに出されていた薔薇姫の事を思い出す。
どういう関係なのかを問おうとしても、そもそも、あの薔薇姫とこの幇禍が知り合いかどうかすら怪しい。
結局、今は黒須の救出に意識を集中させることにして、幇禍への疑問は後回しにする事にした。

エマの携帯がバイブ音を奏でた。
竜子がくれる、歌が終わった合図だ。
「…行くわよ」
エマの言葉に皆が頷く。
デリクが、歪めた空間を正常な状態に戻した。

その瞬間目に入った光景は、まぁ、壮絶なものだった。

「だぁああああああらあぁぁああああ!!!」

テーブルの上に仁王立ち、深紅のドレスを翻し、意味の分からない喚き声をあげながら、派手な火花を散らす武器を両手に抱えて、そこらかしこに撃ちまくってる姿が、まず目に入った。
剣戟の音や、人だかり、何処かからぶっ飛ばされている男達の姿も見える。
そこらかしこで暴動の悲鳴や、怒号が聞こえ、デリクは「派手に暴れてくれてるなぁ」と呆れ半分、感心半分の気持ちを抱きつつ、兎月原は、スタッフルームに滑り込む。
外での騒ぎに、内部にいた人間全員飛び出して行ったのだろう。
目論見どおり、誰もいないスタッフルームの監視カメラを、部屋に入った瞬間、サイレンサーを掛けてあるらしい銃を両手に構え、視線さえ送らずに幇禍が撃ち抜いた。
「プシュッ」と、消音装置独特の気の抜けた音を奏でた銃を不満げに見下ろし、「この音、気合抜けて嫌いなんですよ」と言う幇禍の腕前に内心舌を巻いていると、「ぶらぼー」とデリクが拍手を送る。
「あの外の騒ぎじゃ、銃声ぐらい、誰も気にしないかもな」と兎月原が言えば「いやよ、銃声って、近くで聞くと、暫く耳使い物にならなくなっちゃうんだもの」とエマが不満を口にする。
至極冷静になってみれば、「銃」とか実物を目にする事自体、結構、一般人からすれば、稀な体験になるのだろうが、この四人が、一々、発砲とかに驚くタマな訳もなく、皆、動揺など一切見せずに、速攻で、次の作業に取り掛かった。

まず、兎月原が、椅子の上に立ち、通気口の蓋を押し上げると、腕の力で軽々と、その内部に潜り込む。
続いてデリク、幇禍と続き、最後に幇禍に手を伸ばし、引き上げるのを手伝って、エマが通気口に潜り込むと、ずるずるずると、狭く暗い通気口内を、先頭にいる兎月原が予め用意していた細身の懐中電灯の光を頼りに、先に進み始めた。
体力には自信があるが、忍耐強さは然程でもなく、這い進み続ける事に体力的にも、気持ち的にも辟易し始めた頃、漸く、本来の目的地である、隠し倉庫の階層の通気口に辿り着いた。
順繰りに床に降り立ち、長い間狭い通路内を固まった姿勢で移動し続けてきた体をぐきぐきと伸ばした後、ふと皆の姿を眺めて思わず噴出す。
埃や、蜘蛛の巣のようなものがみなそこらかしこに引っ掛かり、まぁ、酷い有り様だとしか言いようがない。
自分も勿論同じような状態なのだろう。
四人とも、お互いの姿を眺め、くくくっと体を折り曲げ声を殺して笑いあった後、エマが「竜子ちゃん達とか、薔薇姫とかって、凄い綺麗な姿だったのに、私たちは、こんな状態なんて、割に合わないわ」とおどけた声で言う。
「確かに…あーあ、これなんて、俺、お嬢さんに見立てて貰ったスーツなのに、しこたま怒られます」と、泥遊びを母親に見つかる前の子供のような顔を幇禍はし、デリクも、「ウラが見たら、怒るでしょうネ。 みっともないっテ」と、彼にとって、どうも大事な人らしい人の名を口にして笑った。
「まぁ、いいじゃないですか。 大人になると、中々、こんなに盛大に自分を汚す機会も少ないですから」としれっとした顔で兎月原は言えば、皆がまた小さく笑う。
それから表情を引き締めると、周囲を見回した。

無機質な真っ白なリノウム張りの廊下。

「黒須さんがいた倉庫は、こっちです」と先に立って歩き出す幇禍に皆が目を見開けば、「俺、今日ここに案内して貰ってるんですよ。 一応、招待客だから」と言いつつ自分で自分を指示す。
「…監視カメラの位置とか、分る?」
エマが問えば、幇禍は「おぼろげにですが…」と言いつつ、まるで日常動作を行うが如くの滑らかな動きで、廊下に設置されているカメラを、恐ろしいほどの正確さで、連続して撃ち抜き始めた。
「こっちに…三台と…向こう側に、二台。 倉庫内にも、幾つかありましたから、俺が先頭で入って、全部壊しちゃいます」
気軽に告げる幇禍につられたようにデリクも気軽な調子で頷いて「会場のあの騒ぎっぷりなラ、監視カメラの前に呑気に座ってる人間もいないでしょうガ、此方の様子を知られるのは厄介でス。 念には念を入れた方がいいですシネ」と言う。
しかし、これは思わぬ朗報だ。
唯一情報のなかったフロアを理解してくれる人間がおり、しかも射撃の腕が超一流となると、本当に助かったとしか言いようがない。
「頼りにしてるわよ」とエマが幇禍の肩を叩き、兎月原も「凄い腕前だな」と感嘆してみせれば、幇禍は何だか嬉しげに笑うと「あんまりおだてると、調子に乗っちゃいますよー?」なんて言いつつ、言葉通り張り切った様子で、どんどんカメラを撃ち壊し始めた。

倉庫の入り口前、本来なら指紋や角膜によるID認証を行わなければ入れないらしい内部には、デリクが空間を歪める事によって出来た穴から侵入する。
真っ暗な倉庫内に、暫く、「プシュッ、プシュッ」と例の「気が抜ける」という音が連続して聞こえる。
音が止み、続いて告げられた「あ、その壁の脇に電灯のスイッチがあったと思います」という幇禍の言葉に反応して、エマが倉庫内に灯りを灯した。

一度明滅し、照らし出された広大な倉庫の様子に息を呑む。

倉庫内には、おびたたしい数の硝子ケースや檻が存在していた。
中には漏れなくキメラや、異形の生き物が閉じ込められている。
突然付いた灯りに怯えたように檻の隅に身を寄せるキメラ達に、エマが眉を潜める。
幾つかの折には、プラスティック製のカードが提げられ「売却済み」の赤文字と、売却先の名前が書いてある。

「…あ…幇禍さん!」

檻の中の一人のキメラが、幇禍の姿を見止めて声を上げた。
確か、彼に落札されていた、羽の生えた少女だ。

「あの…ありがとう…ございました。 助けていただいて…!」

そう檻を掴み礼を述べる少女に微笑みかけ、「いえいえ」と答える幇禍。
皆が首を傾げれば幇禍は「いえね、事前にここに案内して貰った時に、話しが通じて自由になりたそうなキメラ達に約束したんです。 競り落として、鬼丸精神病院の清掃員なり介護介助職員見りとして引き取るって。 とはいえ…」と苦笑を浮かべ、檻を見回し、「中には、生きる気力ごと失っていて、こっちの話を聞けないキメラも多かったですけどね」と言う。
蛍光灯の真っ白な光の下、兎月原は一つ一つの檻を覗き込む。
そのどれもに、絶望の表情を浮かべ虚ろに佇むキメラがいる。
幇禍の言葉通り、無気力に身を伏せたまま、こちらの存在も無視し、身じろぐ事もないキメラの姿も目立った。
「…確かに…突然攫われ、理不尽に人の身とは違う姿にされてしまえば、絶望するのも無理はない。 だけど…」
兎月原の言葉にエマも頷き「…でも、このままだと、もっと辛い現実が待ってるのに」と、暗い声で言う。

顔も上げない生き物達。
不条理な現実に、全ての気力を失った残骸。

ここで、無理矢理、彼らを解放し、彼らが今、望んでない自由を与えたとて、それはただの独善に過ぎない。
生きたくない生き物は、淘汰されていくのも、また自然の摂理。
彼らは、ここまでの存在だったという事なのだろうと、兎月原は冷酷なまでに心の内で切り捨てる。

死にたい人間は死ねば良いし、キメラとなってしまったことで全ての気力を失う気持ちも分からないでもなかった。
立ち上がれない人間を無理矢理引き起こすほど、兎月原はお節介焼きでも、慈善心に満ちた人間でもない。
兎月原は、むしろ、優しい位の気持ちで、「絶望」の只中にキメラを放置するつもりだったのだ。

だが、どうも、曲者の考えは違ったらしい。


デリクの唇が笑みの形を作る。

「…ここ、防音利いてますよネ?」

デリクの言葉に、意味が分からないと言う風な表情を見せつつも、エマと幇禍が同時に頷く。


デリクは二人の仕草に満足げに頷いて、タッタッと、軽やかに歩き、倉庫の真ん中で進むと、まるで大舞台の真ん中に立つ主演俳優の如く堂々と、滑らかに動く舌先に言葉を乗せる。
圧倒的な程に、聞き入らずにいられない、稀代の名演説を。

「サテ!! さて、さてサテ! 世にモ不幸! 余りニモ悲劇! これ以上ない程ノ、理不尽に見舞われておりマス、皆々様! 大変、ご愁傷様にございまス」

両手を広げ、大音声。
まるで拡声器を通したように、倉庫内にデリクの声が響き渡る。

「人に歴史アリと申しますようニ、人の人生は千差万別。 きっト、皆々様には、それぞれが、それぞれなりの、このような事態に見舞われる経緯がおアリになる事でしょウ! ヤミ組織相手の事ですカラ、突如攫われて来た人ヤ、借金の片になんてお人。 もしかしたラ、何か弱みを握らレテ、已む無くなんてお人もいるかも知れませン。 しかし、一つ共通してイル事は、そウ、貴方方は被害者であるといウ、その事実! 人にハ、尊厳があリ、貴方方の尊厳は、現在、大いに傷付けられている、状況にあル! 大変、ご同情申し上げまス! 本当に、胸が痛いばかりダ!」

芝居がかった仕草で大げさに顔を顰め、倉庫の真ん中で大演説。
檻の中の生き物が、その声、その独特のリズム、耳元で喚きたてるようなその声に、皆一斉に、デリクを凝視する。

まるで、魔法のように。
ザッと音が聞こえる程に、同じタイミングで。

「貴方方ハ、今、虐げられていル! 物語ならバ、正義の味方ガ、あなた方を助けにきてくれるでしょウ! 罪なキ人々を救う、ヒーロー。 ただ力なく項垂れ、祈りの形に、両手を組み合わせていれバ、訪れるメシア!」

そして、デリクは、大声で笑う。
腹の底からの声で。
高らかに。

「誰が為の救世主? 救世主は誰が為ニ。 ああ、残念ながら、貴方方の救世主は、訪れはシナイ! だって、…見たコト ありますカ? そんな都合の良い 存在ヲ?」


空気が揺れた。
ゆらゆらと、温度を上げて。

「私? 違いマス。 そんなに心がけの良い存在ではナイ。 じゃあ、彼らハ? 違いまス。 彼らの主目的は、あなた方を救うコトでは、ナイ。 良いですカ? 蹲っている、方々。 私は、貴方を救いませン。 どうぞ、絶望し続けてくだサイ。 立ち上がらず、踏みしだかレ、牙を剥かズ、人間の尊厳を踏みにじられ果テ、辱めラレ、生き続けて下さイ。 貴方方を愛シテいただろう存在モ、育ててくレタ家族モ、恋人モ、友モ、何もかも、忘れ果てて下さイ! きっと、貴方方を待ち受けるのは、そういう地獄ダ! 生き地獄ダ!」

デリクが笑う。
それは、人を唆す微笑み。
騙す者の言葉。

ペテン師。
彼にぴったりな言葉が兎月原の頭に思い浮かんだ。
だが、ただのペテン師ではない。
騙されぬ者がおらぬ程の、大ペテン師だ、


胡散臭いのに惹き付けられる。
少なくとも、彼の言葉の力は、真実よりも力強く、今、キメラ立ちにとっては、どんな光よりも、眩い。


「…ど…うすれば……」

デリクの傍らにある、狭い檻の中に閉じ込められた、手足に鉤爪を生やされ、額に大きな角を生やされた男が震える声で呻くように問うた。

「どう…すれば良い? こんな…姿で、娘だって…妻だって、受け入れられないだろう?」

「そうよ…彼氏だって…きっと…私だって分んない。 お父さんも…お…お母さんも…こんな、化け物みたいな…姿で帰ってきたら…悲しむよ…」

透き通るような水色の肌と、鮮やかな黄緑の髪をした、水かきのある少女が両手で顔を覆って涙声で呟いた。

「誰にも、見られたくないの、こんな姿。 特に…大切な人には…。 イヤよ…、無理…。 どうしたって、生きてけない…」

赤い瞳に、白い肌、銀色の髪をして、兎の耳を生やした女が、か細い声で言う。

「皆さんモ、同じお気持ちなのですカ?」

デリクは倉庫を見回す。

「皆さん、同じ絶望の中にイル?」

デリクの顔に、ぞっとするような笑みが刻まれた。
兎月原の耳にデリクの幻の声が聞こえる。


It's show time!


心無い言葉を、偽りの真実を、甘やかな幻想を。


されど。

彼らの未来の為に。


「…待ってますヨ。 それでも、貴方方の帰りヲ」

デリクは言った。

「誰かガ、待っていマス。 貴方方を愛していル、人たちガ。 貴方方、だって、一人で生きてきたワケじゃないでしょウ? どんな姿になってモ、待ってくれている人がいマス。 こんな場所デ、訳も分からズ、踏みにじらレテ、これから、誰かの所有物になっテ、人並になんて、扱われない人生ヲ、貴方方が送るコトを、命を賭けてでも、止めたいと思う人がいまス」


兎月原はその言葉に首を振る。

それは、真実ではない。

彼らを待ち受けるのは、酷い偏見の嵐かもしれない。
孤独な人生かもしれない。
誰にも受け入れられない絶望かもしれない。

甘くない現実がある。

魔術師とてそれを知って尚、彼らを唆そうとしているのだろう。

狙いは何だ?
善意からではあるまい。
そんな清らかな性格をしているようには到底見えない。
裏がある。
先の利益を見越した裏が。

だが、同時に、どうしてだろう。
兎月原は、デリクが大層腹を立てているようにも見えた。

キメラ達が、絶望に立ち向かわない、その姿に。


突然の不幸は、誰にでも起こりうる。
自分だってそうだ。

明日の命を、誰も保障してくれはしないだろう。
いつ、事故に会い、手足を失うかだって分からない。
人と違う姿になる事だって、これ程異常な状況でなくても起こり得る。
不幸の運命は、誰にでも降りかかる可能性があるのだ。

平等に。

それは、辛いコトだろう。
ただ、ただ、嘆き、立ち竦みたくなる気持ちも分る。
幾らでも、泣いて蹲って、喚いて、怒れば良い。

でも、今はその時じゃない。

檻の中で死ぬのは、本当に惨めなのだ。
望まぬ檻の中で、屈辱の中で生きるのはもっと辛いのだ。
人には、人の最後の尊厳がある。

誰にも侵されてはならない、聖域がある。

尊ばれるべきものを、お互いに尊びあい、尊重し合い、社会は形成されている。

世間。
社会。
世界。

しばしば、批判的な言葉として使われがちな文句ではあるが、余りに人間のルールを逸脱した理不尽に対しては、人は人として、世間に生きるもの、社会に生きるもの、世界に生きるものとして、そのルールに則り、牙を剥くべきときがあるのだ。

だって、生きている。

それでも、生きている。

チーコも、あの時であった能力者たちも、他者との違いを恐れずに、皆、俯かずに。

強かで、狡猾で、エゴイスティックで、能天気で、単純で、だから、人は。

人は、多分、然程弱くないのだ。


「甘ったれてんじゃナイ!」

デリクが、震え上がるような声で怒鳴る。

「立ち上がらなけれバ! 闘わなけれバ! 誰も、貴方方を救わナイ! 貴方を救うノハ! 貴方自身でしかないのデス! 祈ったっテ、どうしようもないでショウ! 両手を組んだッテ、自由を失くす、だけでショウ! それでも、立ち上がれないと言うのナラ、私は、貴方方を見捨てマス。 サヨウナラ。 ゴキゲンヨウ。 ドウゾ、奴隷の幸せが、見つかるコトを、お祈り申し上げマス」

そう述べ、デリクが演説を終える。
自信の笑みが唇を彩っていた。
キメラ達の空気が変わっていた。

はじめは一人のキメラが、檻を揺すった。

ガチャガチャと金属質の音が倉庫に響き渡る。
そのうち、一人、二人と、檻を揺する者が増え、吼えるような怒号が入り混じり始めた。
硝子ケースの中に入っている者は、その壁を引っ掻き、獣の声で吼える者の声達が、倉庫内を揺らす。

デリクが笑う。
大声で。

兎月原は拍手を送りたいような気持ちになった。

見事な。
心底思う。

見事な、言葉であった。

人の心を動かす言葉。

詐欺師の言葉でも構うまい。
騙されたって良いじゃないか。

ここで諦めるよりずっと良い。
立ち上がるという事は、立ち上がりたい気持ちがあったという事だ。
ただ、その切っ掛けを見失っただけ。

デリクの言葉が鍵だった。

皆が扉を開いた。

このペテン師に踊らされて。



「行きましょウ。 自由の為ニ」

デリクの両手にある痣が光った。
デリクが目を見開けば、倉庫中の檻や、硝子ケースに、人一人が通れる程の大きさの穴が空いた。

空間を歪め作った通り穴を、キメラ達は驚きの声を上げながらも潜り抜ける。

兎月原から見ても大技と分かるような事をやってのけたデリクの額に汗が浮かんでいた。
そこでやっと兎月原は気付いた。

デリクが、今、懸命である事に。

黒須の為ではないだろうと直感的に察する。
だって、今のところ彼を心配するそぶりは一度も見せていない。
もっと他の何かの為に、飄々としたこの男が、見た目以上に真剣になっているのだとろうと兎月原は予想した。
兎月原が、そんな思案している間に、「…お見事」と、惜しみない賞賛を幇禍がデリクに贈る。
「いえいエ、ご協力感謝いたしマス」
そんな幇禍にこりと笑いかけ、デリクが何故か幇禍に礼を述べた。
幇禍が意味が分からないと言う風に、「へ?」と首を傾げる。

「えート、皆さんに朗報でス! コチラにいる方は、幇禍さんと仰いまして、皆様の就職先を斡旋してくださるそうでス! ここを逃げ出した後の、社会復帰は中々難しいでしょうシ、是非、お世話になってみては如何でショウ!」

デリクの言葉に、歓声のようなものがあがる。
「いやぁ、彼らにも生活がありマスからネ」
シれっとそう告げるデリクと、「あ、いや、そりゃ、世話はするつもりでしたけど…」と目を瞬かせ、それから、「うーん…」と唸って「何だか、デリクさんに、うまーく、使われてる気がしないでもないですけど、そんな事ないですよね?」と、幇禍がデリクに問い掛ける。
デリクは、わざとらしく瞳をきらめかせ「何言ってるんですカ! 心外ナ! 私ハ! 心から、このキメラ達の窮状を救いたいと思ってですネ!」と訴えた。
兎月原は余りに心無いその台詞に、「出会ったばかりなのに、どうしてだろう。 その言葉が信頼できないのは…」と言い、エマが「…で、本当の狙いは何?」と至極冷静に問い掛けた。
やはり、彼女もデリクの真意は別にあると察していたらしい。
「アハハハハ、酷いなァ、皆さン」と、デリクは軽い調子で言った後、即座に「という訳で、えーと、スイマセーン、はい、こっちから、コッチ側の人はデスね、はい、私の前に、ハイ、一列に並んで下さーイ!」とキメラ達に声を掛ける。

「ハイ! これからの就職先とかもですネ! 保証させては貰いましたガ! 勿論、美味しい話ばかりが続くと思ったら、大間違いダー!」
キメラ達を整列させ、そう拳を振り上げるデリクに、「え? 何、何? そのテンション。 無闇矢鱈に不安なんだけど?」と兎月原がデリクの腕を掴みつつ訴える。
「大丈夫デース! 任せて下さイ」と、大絶賛、信用ならない口調で言いつつ、「じゃあ、こちら側のキメラの方々は、えーと、今から、ちょっとパンキッシュで、リリカルで、ビビットな世界に行って貰いたいと思いまス!」と、宣言する。
その言葉の意味が判らず、兎月原は「は?」と小さく声を上げた。
エマが、デリクが何を目論んでいたのか思い至ったのか、戦慄く声で「え? 千年王宮行かせる気なの?!」と問い掛ける。
千年王宮。
今、大混乱の最中にある、黒須達の住居だというお城。
そこに、このキメラ達を?
「ハイ。 向こうの状況は限りなく逼迫した状況のようでスシ、キメラ化するコトで、戦闘能力が増大している方も大勢いらっしゃるように見受けられまス」とデリクが言うのに、裏があろうとは思っていたが、こんな事を考えていたなんて兎月原は呆れる。
「…やっぱり、何か、企んでたんじゃない。 千年王宮にウラちゃんが行ってるから?」と先ほど、デリクも口にしていた名を、エマは告げた。
「アれ? ご存知なんですカ?」とデリクが笑顔で答える。
やはり、黒須のための奮闘ではなく、彼にとって大事な誰かの為の懸命さだったらしい。
「…デリクさんが、こんなに解決の為に頑張ってくれてるのって珍しいし、相手が黒須さんで、やる気なんて出さないでしょ?」と、兎月原が考えていた事と同じような事をエマが言えば「流石、エマさン」とデリクはエマを褒めた。
エマは「はふっ…」と、わざとらしくも大きく息を吐き出して「どんだけ…一筋縄ではいかない人なのよ…」と呆れたように言う。
「でも…私も向こうの様子、心配だし、これは、凄く良い案だと思うわ」
そうエマは言いつつ、「それに、真意がどこにあったにせよ、さっきの演説、私は好きよ」と言って笑い掛けた。

キメラ達を絶望の淵から救ったのは、間違いなく魔術師の言葉だ。

「何か、私が言いたかった、もやもやっとしてた事を言葉にしてくれた気がする。 ありがとう。 すっきりしたわ。 デリクさん…結構本気だったでしょ?」
上目遣いに、悪戯っぽくエマが問い掛えば、デリクははぐらかすように笑って「サテ、どうでショウ?」と返答する。

兎月原は何だか、面白いものを見せてもらったという得したような気持ちが強かったので、デリクが本気だろうが、全て偽りの気持ちであったろうが、そんなのはどうでも良かった。

「でも、やっぱり、そう簡単にはキメラさん達も切り替えが巧くいかないみたいね」と、不安そうな表情を見せるキメラ達を見回す。

まぁ、無理もない。
今から、別の世界に行って欲しい等と告げられて、不安にならない者の方が少ないだろう。
兎月原が、その様子を見かねて大声を張り上げる。

「頼む! これが、最後だ! もう、多分、今までに見たことのない状況とか、辛い目にとかあって、色々信用できなかったり、気持ちが追いついてかないかもしれないけど、とりあえず俺達を信じて欲しい!」
そう兎月原が意識して深く、甘い、色気のある声で真摯に訴えれば、まず、女性のキメラ達が、ほわんと顔を赤らめ、小さく頷く。
エマも、「引き換え条件にするわけじゃないけど、戻ってきてからの、貴方達の生活は、貴方達がやる気さえあれば、保証されているわ!」と、そこまで言って「ってことで良いのよね?」と幇禍に確認を取ると、彼が苦笑を浮かべつつも頷けば、「なので、就職活動と思って、ちょっとばかり、変な世界に行って貰うけど、絶対に帰ってこれるのは約束するし、どうか向こうにいる三人の女の子達…まぁ、一人は男の子みたいなんだけど…とにかく、彼女達を助けて下さい!」と言い、ぺこんと頭を下げた。

デリクの事前の扇動の効果もあり、エマと兎月原の、デリクとはまた逆方向からの、真摯なアプローチに、キメラ達の気持ちが高まったのが空気で分かる。
デリクは、そんな状況を察してだろう、懐から硝子玉を取り出した。

球体の中には、黒色の渦が浮かんでいる。

その硝子玉を地面に落とし叩き割って渦を現出させると、「はい、では、一列になって、この渦の中にお入り下さイ」と遊園地のアトラクションスタッフの如き口調でデリクは言った。
「向こうでハ既に戦闘が始まっている事ガ予想されまスガ、とりあえず、なんか、見た目的に悪い奴だなーッテ方を、思う存分ぶっ飛ばしてきて下サイ」
そう大雑把な説明をするデリクに呆れたような視線を向け、それから「えーっと…あの、この渦…みたいなのの向こう側が、『千年王宮』なのか?」と、兎月原が問い掛ける。
「ハイ。 あ、兎月原さんは、まだ行った事がないんですヨネ? また、今の状況が落ち着いてからでモ、是非、遊びに行ってみて下サイ。 中々楽しい所ですかラ」と気楽に言うデリクに、そんな異界への穴を携帯しているデリクの神経の太さに呆れて、兎月原ははぁ…と溜息を吐いた。
先頭のキメラが渦の中に飛び込むのを躊躇しているのを見たエマが、「うーんと…」と一度唸ると「あんまり、よくないんだろうけど、緊急事態だし」と自分に言い聞かせるように呟いた。
一体何をするつもりだろうと興味深く見守れば、エマはゆっくりと口を開く。

「さぁ、キメラちゃん達! 早く行かないと、僕がまた、檻の中に閉じ込めてしまいましゅよ?」

粘ついた、酷く胸糞の悪い声。
驚いてエマに視線を向け彼女の喉からこの声が出ている事を確認すると「声帯模写なんて、特技まで持ってたのか」と目を剥く。
いやいや、多才な人だとは思っていたが、ここまでとはと、感心しつつ、思考を巡らせ、先ほどの声は「Dr」とやらの声かと、推測する。
キメラ達に視線を戻せば、驚いたのと、反射的な恐怖心の為にだろう。
悲鳴めいた声をあげながら、皆が雪崩をうつように異空間へと身を投じ始めた。

「あ、あなた達はいいの! あなた達は!」と残す側に分けたキメラ達も、まるで逃げるかのように渦へと身を投じようとするのを見て、エマは慌てた様子でそう言い、それから再びDrの声で「待て!」と命令した。
よっぽどきつく躾られたのか、その瞬間ぴたっと動作を止めるキメラ達。
今度は渦に向かうキメラ達までも動作を止めようとするのを、「いいから、行って、行って」と促しつつ、「ふいー」と額を拭う。
「Drの声なんて、いつの間にマスターしたんです?」
幇禍の問い掛けに、「いや、役に立つかと思って、前にDrを見た時に、喉の形を観察しておいたのよ」と肩を竦める。
会った時とは、きっと、あの砂丘での時の事だ。
つまり、あんな遠く離れた場所にいたDrの声を、視認だけで、正確に模写したというのか…。
その尋常でなさに、兎月原は(どこまで器用なんだ、この人は)と、息を呑んだ。
実際エマのお陰で、思ったよりスムーズに向こうに救援を送り込めた事にデリクは満足したらしく、「まぁ、数が多いだけでも、充分に戦力になりますシ、えーと、こちら側の人達ハ、今から、ちょっと、オークションが行われていた会場にでも突入して貰っテ、竜子さん達を手伝ってきて貰いましょウ」と提案してきた。
その言葉に、皆が頷いてからふっと、妙に不安な気持ちにさせる沈黙が落ちる。


「あれ…あの、そういえば…黒須さん…は?」

それは、口にしている自分自信が自分の言葉に酷く驚くというセンセーショナルな体験だった。


わ す れ て た !


うっかり、すっきり、さっぱり、何の為に此処に潜入したのかを忘れ果てていた、兎月原達。
「あ、すいません! あの、ほら、倉庫に、物凄く気持ちの悪い、不気味の具現者、周囲湿度100%強の中年下半身蛇男がいた筈なんですが、どこへ行ったか知りませんか?」
そう、幇禍がかなり酷い言い様だが、物凄い的確な表現で羽の生えた少女に問えば、「え? その人なら、確か、Drにもう、連れて行かれたような…」と答える。

遅 か っ た !

思わず皆の目が泳ぐ。
潜入したけど、ダメでしたー!という結果の場合どうすればいいのか、全然考えていなかったものだから、咄嗟に兎月原は、次にどういう手を打つべきか、目まぐるしい速度で考え始める。

が、他の面々はそうでもないのか、「…えー…残念ながら、黒須さんは、もう、私達の知っている黒須さんじゃない姿にされている可能性が大です。 ああ、黒須さんよ永遠にって事で、黙祷あたりをね、皆さんで捧げられたらと思うのですが…」と、幇禍が提案し、思わず、皆、両手を合わせかけるのを見て「駄目だろ!!」と渾身の声で、兎月原は突っ込む。
「いやいやいやいや! 後を追おうよ! なんか、もうちょっと、頑張ろうよ!」
そう兎月原が言えば、デリクと幇禍が期せずして声を揃え、同じタイミングで「「えー、なんか…めんどい…」」と答えた。
エマが、何かを堪えるような表情で、うんうんと唸った後、「その気持ちは良く分かるわ。 よく分かるけど、ほら、他にもね? 黒須さん救出の為に動いてくれてたり、一応あの人がいないと拙い事になっちゃう人達もいる訳だしね?」と、子供を諌めるような口調で言う。
本丸とも言うべきこの班が、黒須攫われちゃいました!では洒落にならない。
黒須の行方を追うべく、また作戦を立て直そうとした時だった。

ハッとエマが天井を見据えると「来る!」と叫んだ。
咄嗟に体が反応し、兎月原は無造作なくらいの手つきで右腕を振り上げ、掌に何か重みのあるものを掴むと、そのまま地面に叩き付ける。


「っ!」

その瞬間、兎月原の掴んだ形の手の先に突如、失神状態に陥っている男が現われた。
目が極端に離れ、こめかみの辺りに大きく飛び出してついている。
鮮やかな黄緑色の肌をして、ダラリと垂れた細長い舌を見て、デリクが呟いた。
「…カメレオンのキメラ」
つまり、擬態能力を身につけているというわけか…。

周囲に不穏な空気が満ちる。
「あーあ、ばれちゃったみたいですねぇ…」

幇禍が、何でもない事のように言った。

エマがじっと目を閉じ、一瞬何かに集中するような表情を見せると、次の瞬間手を跳ね上げ「向こうに、二人! あっちの壁には、三人! それから、また、天井から一人!」と素早く指差す。
どうも音で、その存在の居場所を察しているらしい。
幇禍が、その指先の軌跡を追い続け様に銃を撃ち放す。
エマの指示は的確で、言われた場所を正確に撃ち抜けば、何もない空間から人の姿が浮き上がり、面白いように地面に落ちた。
兎月原もエマの指差す先に向かって足を高く上げ蹴り上げると、まるで相手が見えているかのように敵を叩き落とす。
何処にいるかさえ分かれば、然程怖くはないのだが、しかし、何もない空間に対して攻撃をする瞬間は、なんとも妙な気持ちになるのを抑えきることは出来なかった。
キメラ達の中でも、気配に聡い者達が、牙を剥き、爪を立てて見えない敵に踊りかかっていっている。

上出来と、キメラ達が戦闘本能を忘れていない事に満足感を覚える。

キーと耳障りな鳴き声が聞こえ、尋常でない速さで蝙蝠の羽根を生やしたキメラが鋭い牙を剥き、壁を蹴って幇禍達に向かって急降下してきたが、
デリクが「…いただきます」と呟けば、彼の影が突如巨大化し、化け物めいた姿になると一呑みに蝙蝠型のキメラを飲み込んだ。

跳躍力の高いキメラや、翼のあるキメラ達も応戦し、異形VS異形の俄には現実とは思えないような戦闘風景が繰り広げられる。

「っ! キリがない!」

聴力のみで、擬態する敵の位置を把握し、その位置をナビしていたエマが、悲鳴じみた声で喚く。
こちらもキメラの増援があるとはいえ、実戦経験は然程ない存在が多く、戦闘用ではなく、愛玩用のキメラも多く含まれる為、連携が取れずに、思うように攻撃が出来ない。
(ちっ…まとめてかかってきたなら、まだ対処の使用もありそうだが…)
そう苛立ちを感じた瞬間、パン!と一回手を打ち鳴らす音が響き渡り、敵の攻撃がピタリと止まった。
ゾワリと不穏な空気が自分の周囲を押し包んでいるのを感じながら、音のした方へ視線を向ける。

パン、パン、パンと、間の開いた拍手。

「いやぁ、しゅごい、しゅごい! 面白いものを、見せて貰いました! ねぇ、蛇ちゃん、あの子達、蛇ちゃんのお友達?」

漸く、お出まし。

白衣を着た、異様に身長の低い男が緩慢な仕草で手を叩く。

Dr。 このキメラ達の創造主。
足元には、ここまで引きづられて来たのか、べったりの血の痕を床に残してきている黒須が下半身が蛇のままの姿で、ずるりと倒れ伏している。
長い髪が床に散らばっていた。
緩慢な仕草で顔を上げるも、もう声も出ないのか、唇を微かに動かしただけで、再び地に伏す。

ゾクゾクと言い知れぬ情感が、背筋を駆け上がり兎月原はじっと目を凝らす。
髪の隙間から、ちらりと兎月原を覗いた黒須が、驚いたように目を見開いていた。


「キメラちゃん達には、みーんな肩甲骨の下にGPS発信機を埋め込んであるんでしゅ。 何だか不穏な動きを見せているので、慌てて様子を見にくれば…よくも…やってくれましたねぇ…という所でしゅか? オークションは滅茶苦茶、その上、この悪い子ちゃん達も、逃がしちゃうつもりでしゅか?」

Drが笑う。

「あれぇ? キメラちゃんの数が、大分少ないようでしゅが、どこにやりました?」

キロリと音を立てそうな動きを見せて、Drがこちらを見た。
ざわりとキメラ達が怯え、空気が揺れる。

「檻の中の窮屈さに耐えカね、自由を求めて飛び立ちましタ。 行方は追うのも野暮というモノ。 新たな旅立ちを祝ってあげようじゃありませんカ」

デリクがそう悠然と告げれば、Drは益々首を傾げる。

「…王宮にやったのでしゅか?」

低い声。
愉悦を含んでいるかのような。

「そうでしょう? 君達の誰かが、王宮の鍵を持ってるんでしゅか? 向こうは、今、猫ちゃんが掌握しようとしている筈。 赤ちゃんの子守のお手伝いに行かせたのでしゅか?」

何を言っている?
兎月原は、言葉の意味を掴みかねて混乱する。

何故、Drが千年王宮の存在を知っているのか?

「…チェシャ猫」

デリクの呟きにDrが笑う。

兎月原はそこで、一つの事実に漸く気付いた。


マフィアとマッドサイエンスト。
全く分野の違う者同士が、協力者としてではなく、構成員として、ここまで深く組織内部に食い込み、No2なんて地位を与えられる程に、のし上がれた理由。

まるで、時が期するのを待ちかねていたかのように、反乱を起こした千年王宮の住人達。



Q.誰が、マフィアと、サイエンストを繋いだか?


ああ…チェシャ猫…。



「君が探偵役?」

Drがデリクに笑いかける。

「だったら、そちらの美しい女性がヒロインで、素敵な二人はWヒーローってとこかな? 蛇ちゃんは、哀れな怪物でしゅか? 可哀想にねぇ…」

エマが、冷静な声でDrに告げた。

「観念した方が良いわ。 この方々の反乱に加え、オークションでの騒動。 貴方の業界じゃあ、評判が何よりモノを言う筈よ? この失点は、そうそう取り返せはしない」
エマの言葉に続いて、幇禍はひらひらと手を振って満面の笑みを浮かべると「ていうか、取り返させません。 俺、鬼丸組の者なんで、揉み消そうとしても、日本ではシノギ出来ない位、同業者の間に話広めさせて頂きます」と言い、ツイと唇を釣り上げた。
「貴方達、ちょっと調子に乗りすぎましたね」
低めの凄みのある声でそう言い、ヒタリとDr狙って銃を構える。
兎月原が、Drを睨み据え、最後通告を口にした。
「黒須さんを、解放するんだ。 命までは、この場では取らない。 誰かを裁こうなんて分際でもないんでね。 この国の法律に委ねてやるよ。 大人しく、投降した方が…」
その言葉を手を振って遮り、Drは溜息を吐く。

「御託はいいでしゅ。 つまんないんだもん。 王宮やら、オークション会場やらで暴れているのは、君達のお仲間でしゅよね? 僕の邪魔をしないで下しゃいよぉ。 別にこんな、小さな国での評判も、組織の行く末も何もかも、あの王宮さえ手に入れば、どうでも良いんでしゅ。 僕の役目は、呉虎杰のあの王宮の王様にしてあげる事。 君達は、キメラちゃんにしてあげましゅ。 みんな綺麗でしゅから、とっても良い材料になりましゅ。 この子と違ってね」
蹲ったままの黒須の頭を転がすように蹴り付け、そして、ふと、キメラ達を見回した。

「お祝い…って 言ったよね?」

デリクを見る。

「この子達の門出をお祝いしてって?」

ポケットからひょいと取り出したのは、小さなスティック上のスイッチ。

顔も上げられずにいた黒須が悲鳴めいた声をあげ、Drに取り縋った。

「っ! …やめろ!」

カチッと軽い音を立てて、スイッチは押された。


「じゃあ お花を贈ってあげましゅ」

クラッカーみたいな音だった、

パンって 弾ける音が 連続して 鼓膜を揺らす。


赤い花が

たくさん 咲いた


べたりと兎月腹の頬に、生暖かい何かが天から落ちて張り付いた。
兎月原は、Drを見据えたまま自分の頬に指先を伸ばした。

摘み上げたのは、血塗れの肉片。

一瞬遅れて、兎月原にも降り注ぐ生温い深紅の雨と共に、ボトボトと音を立てて、空中戦を繰り広げていたキメラ達が落ちてきた。


みんな、頭が爆ぜていた。


「紅い花でしゅ。 綺麗でしゅねぇ…」

Drが朗らかに笑う。

手を伸ばし、兎月原の腕を掴むものがいる。
ゆっくりと視線を向ければ、頭が欠けた、手足に鉤爪を生やされ、額に大きな角を生やされた男が震える声で呻いた。

「ま…ってるんだ…娘と…妻が…家で…俺を…待って…るんだ」
ふっと息を止め、泣きそうな声で嘆く。

「会いたい…」

その瞬間、男はどうっと床に倒れた。


「安全装置。 キメラちゃんが、悪い子ちゃんで、反抗してきた時に、すぐに『処分』できるようお客様にお渡ししてるんでしゅよ。 後頭部に埋め込んである爆弾のスイッチをね? これは、今回納入予定の全キメラ達の爆破スイッチ。 K麒麟の商品は、アフターケアもばっちりの、良品ばかりでしゅ。 折角たくさんお買い上げいただいてたのに、楽しんでもらえなくて、とっても残念でしゅ」

そう言いながら幇禍に笑いかけ、そして、血の雨に打たれた兎月原達を眺めて、Drは大声で笑った。

「蛇ちゃんのせいでしゅ」

転がったまま動かない黒須の体に、もう一発蹴りを入れる。

「蛇ちゃんをお友達が助けに来たから こんな事になったんでしゅ」

仰向けに転がる黒須の胸を、Drは踏み躙り、優しい位の声で言った。

「お前 そんなに醜くて こんなにたくさんの命を犠牲にして 全部 お前のせいだよ こんな事になるのなら いっそ 生まれてこなきゃ よかったのにね」

再び、気が狂ったような声で笑い、キトキトと不安定に揺れる目が、再び幇禍達に向けられた。

「さて…これから、どうしましゅ?」


〜to be continued〜



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3432/ デリク・オーロフ  / 男性 / 31歳 / 魔術師】
【3343/ 魏・幇禍 (ぎ・ふうか) / 男性 / 27歳 / 家庭教師・殺し屋】
【0086/ シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【7521/ 兎月原・正嗣 / 男性 / 33歳 / 出張ホスト兼経営者 】
【3678/ 舜・蘇鼓 (しゅん・すぅこ) / 男性 / 999歳 / 道端の弾き語り/中国妖怪 】
【4582/ 七城・曜 (ななしろ・ひかり)/ 女性 / 17歳 / 女子高生(極道陰陽師)】
【2380/ 向坂・嵐/ 男性 / 19歳 / バイク便ライダー】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
【3427/ ウラ・フレンツヒェン  / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【4236/ 水無瀬・燐 (みなせ・りん)  / 女性 / 13歳 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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お届けが遅くなってしまい大変申し訳御座いませんでした。
今回は前編のお届けに御座います。
是非続けて後編も参加くださいますようお願い申し上げます。

それでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

momiziでした。