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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


─歌い続ける日本人形─

 とある山深くにある朽ち果てた別荘。普通ならこんな場所に人がいるはずも無いのだが、今は違った。
 妙に上機嫌な人間が一人、その別荘の中を歩いている。志木凍夜、氷使いの末裔で今回は草間からの依頼でこの別荘へと足を運んだ。その依頼というのがこの別荘のどこかに眠る歌い続ける日本人形の回収だ。
 そのうえこの別荘には他にも怨霊が住み着いているらしい。だからこそ、久しぶりに暴れられると思い、凍夜は上機嫌で別荘の中を歩いている。


凍夜は別荘の一部屋ずつ探し回っているのだが、それらしいものはまったく見当たらない。
 そして三〇畳もある広い部屋を捜索しているときだった。突如後ろから感じる殺気、凍夜は振り向くことなく横に飛ぶ。そして振り返ると、そこには墨絵で描かれた幽霊画だけが掛け軸より飛び出しており、その不気味な顔を凍夜へと向ける。
 なるほど、これが依頼書にあった幽霊画ですか。ですが、その程度では僕の敵ではありませんよ。
 凍夜の手に冷気が発生すると、それはすぐに氷となり凝固されて糸を形成する。
 だがそれを黙って見ている幽霊画ではない。凍夜が完全に糸を形成する前に再び襲い掛かってくる。
 長い手が凍夜の顔に掴みかかるが、凍夜は自ら突っ込み腕を紙一重でかわしてそのまま駆け抜ける。その際に形成した糸を幽霊画の腕に巻きつけると、幽霊画の後ろに回り一気に糸を引っ張る。
 氷の糸はそれだけかなりの切れ味があり、それを一気に引っ張ったのだから幽霊画の腕はずたずたに切り裂かれた。
 先制攻撃が成功した事に笑みを浮かべる凍夜、だが切り落とされた幽霊画の腕は墨に戻ると一塊となり、再び幽霊画にくっ付いて腕を再生する。
 さすがにこの事には驚きを隠せない凍夜。だが幽霊画は再生するとすぐに凍夜に向かって再び襲い掛かって来た。
 今度は長い腕を大きく振り、横から殴りかかってくるが、凍夜は後ろに跳んで攻撃をかわしたついでに壁に足を付ける。
 更に壁を足場に再び跳ぶ凍夜は瞬時に三本の氷で出来たナイフを作り出すと、宙を舞いながら幽霊画に向かって投げつける。
 だがナイフは幽霊画に刺さらずにそのまま幽霊画を素通りしていく。
 ……そういうことでしたか。
 地面に着地した凍夜はやっとその事に気が付いた。そう、幽霊画はもともと二次元の存在であり、飛び出して実体化している部分も描かれている部分だけである。したがって、もともとなにも描かれていない部分に攻撃を放っても素通りするだけだ。
 つまりは相手に攻撃を当てるには墨で描かれた場所しか当たらないという事だ。だが逆に言えば描かれている場所全てに攻撃が当たるという事である。
 凍夜は再び氷の糸を作り出す。それも何本も長く作り出し、幽霊画が襲い掛かってくるのと同時に凍夜も動き出し、幽霊画の攻撃を避けるのと同時に交差してそのまま後ろに回る。
 だが幽霊画もすぐに振り返り、凍夜に向かって長い腕を振り下ろす。
 腕が完全に振り下ろされる前に上へと跳ぶ凍夜、そのまま反転して天井に着地すると、再び地面に向かって跳んで着地する。
 その凍夜の行動がはるかに早かったためか幽霊画は凍夜を見失うが、その間に凍夜は幽霊画の死角に向かって駆ける。
 だが普段は静寂に包まれている別荘。その中を駆ければ当然畳でも足音が鳴り響き、幽霊画は音がする方へ腕を振るう。
 自分に向かってくる腕を幽霊画から距離を取るため後方へ飛ぶ凍夜、そしてその顔は余裕の笑みを浮かべていた。
「さあ、これで終焉と行きましょう」
 一気に氷の糸を引っ張る凍夜。そして部屋中に張り巡らされた糸は一気に幽霊画を縛り上げる。更に笑みを浮かべる凍夜が糸を引き抜くと幽霊画はズタズタに切り裂かれてしまった。
 地面に転がっているのはもう墨の塊だけである。元がどの部分を描いていたか分らないほど細かく分断されたものだから、風でも吹けば飛んで行きそうだ。
「さて、次に行きましょうか」
 完全に幽霊画を倒したと思った凍夜は部屋を後にしようとするが、再び感じる殺気、とっさに横に飛ぶ凍夜だが、どうやらそれも横に振られていたようで凍夜は避ける事が出来ずに直撃して壁にまで吹き飛ばされる。
 突然の出来事でどうする事も出来なかった凍夜はそのまま壁に激突する。衝撃が傷みとなり凍夜を痛めつけるが、自ら跳んだため攻撃の勢いを少しだけ殺すことが出来たようだ。
 そのためダメージは最小限に抑えられた。そして凍夜は攻撃してきた物を見て驚愕する。
 それは先程切り裂いた幽霊画の腕だ。腕だけが攻撃したみたいだが、先程まで床に転がっていた墨は一塊になり再び再生を始めている。
 更に腕もくっ付き、元の幽霊画へと再生した。
 さすがにそこまでの再生能力を持っていたことに驚く凍夜だが、幽霊画はすぐに攻撃を再開する。
 多少ダメージは負ったものの、まだ動ける凍夜は幽霊画の攻撃をかわし続ける。
 まさかここまでの再生能力があるとは思いませんでしたよ。なら!
 幽霊画の攻撃を避けながら凍夜は右手に一気に力を集めると、それが冷気に変わり水蒸気すらも凍らせていく。
 そして自らも氷を作り出すと幽霊画の攻撃をかいくぐり一気に距離を縮めると幽霊画の線を掴む
「凍れ」
 掴んだところから一気に凍っていく幽霊画。凍っていくスピードはかなり早く、幽霊画が指一本動かす合間も与えずに一瞬にして氷付けにした。
 更に凍夜は幽霊画から離れると氷を増大させて行き、最後には氷の柱にしてしまった。
 氷で出来た柱の中で動きを止めている幽霊画。これで完全に氷の柱から出ることは出来ないだろう。
 だが凍夜は一つだけ忘れている事があった。それは幽霊画はもともと掛け軸から飛び出しており、それは今でも繋がっているという事である。
 突如、氷の柱から消えていく幽霊画、それと同じく掛け軸へと幽霊画が浮かび上がってくる。
 そして掛け軸の幽霊画が完成すると再び飛び出してきた。
 くっ、そういうことでしたか。
 やっと幽霊画の正体を理解した凍夜。そう、飛び出した幽霊画は一部にすぎない。あの掛け軸とセットで一つの怨霊と化している。
 なら二つまとめて。
 再びありったけの力を込めて氷を作り出し、部屋全体を氷付けに出来ほどの力を溜め込んだ時だ。
 突如、凍夜の近くにある壁が吹き飛ぶと、その先から鋭い殺気を感じる。
 突然の出来事に凍夜は氷のナイフを一瞬にして幾つも作り出すと殺気が感じられる方へ投げつけた。だが壁の向こうから剣閃とナイフが叩き落される音が聞こえると、それが凍夜に向かって突っ込んできた。
 それはこの別荘に潜むもう一人の怨霊、鎧武者が刀を振りかざしながら凍夜に迫ってきた。
 くっ、なんとも悪いタイミングで。
 咄嗟に鎧武者に向かって手をかざす凍夜。そして作り出された氷は鎧武者の刀を凍らせていくが、鎧武者はそんなことを気にせず凍夜に向かって刀を振り下ろす。
 たとえ切れなくなっても鈍器としてみれば威力は充分だ。
 凍夜は鎧武者の攻撃をかわすのと同時に距離を取るため、大きく後ろに跳ぶが、そこに幽霊画の長い腕が振られて空中に居る凍夜はどうすることも出来ずに直撃を受ける。
 だが自ら後ろに跳んでいた事と直撃を受ける寸前に氷でガードした事によりダメージはないが、幽霊画の腕は凍夜を捉えたまま振り切られてしまい。凍夜は障子を突き破り中庭にはまで吹き飛ばされてしまった。
 それでも地面をすべりなんとか着地する凍夜。吹き飛ばされたものだから幽霊画と鎧武者からかなりの距離を取る事が出来たが、一度に二体を相手にするのは凍夜でもかなりキツイようだ。
 そんな時だった。鎧武者が突き破ってきた壁の向こうから微かに歌が聞こえてきたのは。

 おいでや、お〜いで、こ〜こは童子様のと〜り道〜

 こんな朽ち果てた別荘でのんきに歌っている人間が居るとは思えない。となれば、この歌い手こそ、今回の目的である日本人形なのだろう。
 だが、前方には鎧武者と幽霊画が待ち受けている。まずはこの怨霊達をどうにかするのが一番良いのだが、現状ではかなり厳しい。そうなってくると残る手はただ一つ。
 しかたありませんね。ここは一つ……力押しと行きましょうか!
 瞬時に幾つものナイフを作り出した凍夜は先程まで居た部屋に向かって投げつける。しかも、幽霊画や鎧武者を狙ってではなく、ナイフは部屋の壁や柱に突き刺さる。
 だがそれで終わりではない。今度はナイフを中心に壁や柱に氷が広がっていく。そして遂には部屋全体を凍らせたところで凍夜は指をならす。
「砕けろ」
 その途端、凍った物は一斉に崩壊を始める。つまり、凍りついた壁や柱が崩壊を始めた。そしてそんな事をすれば、その部屋を維持する事が出来ずに、遂には屋根すら落ちてきた。
「今のうちですね」
 幽霊画と鎧武者は屋根の下、そう簡単には出てこられないはずだ。
 凍夜は屋根を乗り越えると、その先にある部屋へと進むと歌は先程よりもはっきりと聞こえ始めてきた。
 この先にあることは間違いないようですね。
 だが先には壁があり、そこから先へ行くにはどうしても横へ遠回りしなくてはいけないようだ。
 そして凍夜が次の部屋向かおうとした瞬間、突如凍夜に迫ってくる物があり、間一髪でそれをかわした。
 なんとかそれをかわした凍夜は、それを確認すると驚愕する。そこにあったのはまさしく幽霊画の長い腕。
 だがそれで終わりではない。崩れ落ちた屋根の下から這い出てくるように幽霊画が姿を現し始め、それと同じく激しい衝撃で屋根の一部が吹き飛ぶと凍夜に向かって一気に迫ってきた。
 確認するまでも無く一目で分る。凍夜に迫ってくるのは鎧武者だという事を。
 振り下ろされる凍った刀、凍夜も瞬時に氷の糸を作り出すと鎧武者の攻撃を避けるの同時に絡みつかせる。
 このまま切り裂いてしまいたいが、その間に幽霊画が完全に出てくるだろう。そうなってくるともう手のつけようが無い。
 こうなってしまっては悠長に探している余裕は無いみたいですね。なら……最短ルートで突き進むだけです。
 鎧武者をそのまま縛り付けると、凍夜は歌が聞こえてくる壁に手を当てると一瞬にして凍らせて砕け散る。
 そのまま次の部屋に向かう凍夜だが、後ろから幽霊画の腕が振られてきた。どうやらもう完全にはい出たようだ。
 凍夜は幽霊画に手を向けるのと同時にもう片方の手ではナイフを作り出す。そして幽霊画の眼前から幾つもの氷の壁を作り出した。そのため、幽霊画の腕も何箇所か壁に巻き込まれて氷付けになってしまった。
 それから凍夜は部屋の両脇に向かってナイフを投げると再び両脇の壁を氷付けにして砕く。そうなればその部屋を支える物は無くなり、再び幽霊画と鎧武者は崩れ落ちた瓦礫の下。
 だが、先程の事でこの程度の事で倒せない事は分っている。それに凍夜の目的は日本人形の回収だ。他がどうなろうと構ったものではない。
 そして凍夜は次々と壁を壊し、通り過ぎた部屋を崩して幽霊画と鎧武者を足止めしながら突き進む。
 更に壁を突き崩して次の部屋に入ったときだった。その部屋からははっきりと歌が聞こえている。どうやらここにあるのは間違いないようだ。
 辺りを見まわす凍夜。そして日本人形はすぐに発見できた。部屋の隅にある机の上にその人形と人形を仕舞う箱が置いてある。
 これですか。
 日本人形をとるとすぐに箱に仕舞う。悠長に構えている時間が無い事は凍夜が一番良く分かっている。
 それを示すかのように、先程崩した部屋から再び出てくる鎧武者と幽霊画。
 だが、凍夜は余裕の笑みを浮かべていた。
「目的は達成しました。後はどうなろうと僕の知った事ではないのですよ」
 その言葉が届いているか分らないが、鎧武者と幽霊画が凍夜に向かって襲い掛かってきたことは確かだ。
 だが凍夜はその場から動こうとはせず、静かに口を開くだけだった。
「全て凍れ」
 途端、凍夜の足元から一気に氷が広がり辺りの物を全て凍りつかせていく。もちろん、それは鎧武者も幽霊画も同様に凍りつく。
 だが、それで終わりではない。氷は一気にその範囲を広げながら全ての物を凍りつかせていく。そして最後には別荘そのものを凍りつかせてしまった。
「ふふっ、あははっ、あはははははははははっ」
 全てを凍りつかせた事に狂喜に笑う凍夜。
 そして目的を達成した凍夜はその別荘を後にする。だが敷地内から出る前に凍夜は静かに呟くのだった。
「全て砕けろ」





─登場人物─

整理番号:2333 名前:志木凍夜 年齢:一九歳 職業:大学生


─ライターより─
 ご依頼、ありがとうございました。
 戦闘シーンを中心にということでしたので、最初っからバトルに突入させてみました。いかがでしたでしょうか、ご満足いただければ幸いです。
 それから狡猾で残忍という設定でしたので、そこら辺の心理描写や行動なんかは勝手にこっちでやらせてもらいました。合ってたのでしょうか? とも思いますが、まあ、その点につきご不満でしたらご容赦下さい。
 ではでは、以上、葵夢幻でした。