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INNOCENCE // タマゴクサイヒト
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OPENING
今日も良い天気。すっかり夏だ。
ただ歩いているだけで、じわりじわりと汗が滲む。
街頭で配っていた団扇。無論、自ら欲してゲットした。
パタパタと仰ぎながら、向かうは草間興信所。
さてさて、今日も元気にお手伝い頑張りますか。
暑さに負けて、愚だぐだにならないようにしなくちゃね。
そんなことを考えつつ歩いていた時だった。
興信所まで、あと五十メートル。その時だった。
ドゴォンッ―
「わぁっ!?」
凄まじい爆音が響き渡った。音の出所は、興信所。
一階の窓から、モクモクと煙が飛び出ているではないか。
ちょ……え……? 一体、何事?
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「武彦さんっ!?」
バーンと扉を開け、慌てて所内へと入っていくシュライン。
返事はない。が、キッチンから、物音が聞こえた。
ま、まさか泥棒? ど、どうしよう。と、とりあえず、これでいいか。
手元にあった箒を手に、恐る恐るキッチンへと向かうシュライン。
いつ襲い掛かられても対応できるようにと身構え、
意を決してキッチンに飛び込んだ。すると。
「……げほ」
「…………へ?」
そこには、黄色いモンスターが立っていた。
って、違う。モンスターじゃなくて。武彦だ。
全身を黄色く染めているものは、玉子……?
「うっわぁ……どうしたの、それ」
苦笑しつつ箒を壁に立てかけて歩み寄る。
武彦は鼻に入った玉子をフンッと押し出して苦笑した。
爆発の原因は、玉子をレンジにかけたことだった。
それも殻がついたまま、丸ごと。
零が友人の家に遊びに行っているということで、
自分で昼食を作ろうとしたらしい。
オムレツを作ろうとした武彦。
正解していたのは、玉子を冷蔵庫から取り出したことだけ。
彼はすぐに、その玉子をレンジに放った。
料理音痴にも程がある。どこまで馬鹿なのか。
爆発してしまうかもしれないと、少しも考えなかったのだろうか。
どうせ、レンジにかければすぐ出来るとか、そういう考えだろう。
楽しようとして、この有様。自業自得である。
「きゃ〜……これは酷いわね」
濡れタオルで浴びた玉子を拭ってやりつつ笑うシュライン。
全身玉子まみれな武彦は、とても滑稽だ。
何か、罰ゲームみたいね、これ。
それにしても、酷いわ。
何ていうか、汚いっていうか、くさい。
熱されて爆発した玉子が張り付いている故に、すさまじい臭いだ。
武彦に張り付いている玉子以外にも、キッチンのあちこちに玉子は飛び散っている。
駄目だわ、これは。拭き取るより流しちゃったほうが早いわね。
シュラインは苦笑しながら武彦の背中を押し、彼をバスルームへと押しやった。
着替えを用意して、それを置いて。
彼がお風呂に入っている間、シュラインはキッチンの掃除。
あちこちに飛び散った玉子を拭き取りつつ。笑いが止まらない。
ほんと、困ったものよねぇ。
知ってて当然なことを知らなかったりするんだもの。
まぁ、そういうところも可愛いんだけど。
怪我しなかったみたいで、その辺りは良かったと思うわ。
壁にこびりついた玉子は、曲者だけどね……。ごしごしごし……。
*
「お……。すげぇ。片付いてる」
「ふふ。ついでに、あちこち掃除しちゃった」
「……すまんな。ほんと」
「あはははっ。武彦さんが謝るなんて珍しいわね」
「いや、だって、お前……」
申し訳ない。そう思うのと同時に、照れ臭くもあるようだ。
そりゃあ、そうだ。爆発すると思っていなかったんだから。
結果、玉子まみれになって風呂に押し込まれ、
その間、シュラインに玉子の掃除をさせて。
みっともないというか、もう……情けない。
ズーンとヘコんでいる武彦の背中を叩き、クスクス笑うシュライン。
「武彦さん。こっち来て。教えてあげる」
ヘコんでいる武彦の手を引き、シュラインさんのお料理教室スタート。
オムレツはねぇ。意外と奥が深いのよ。
これが上手に作れれば一人前とか、そういうことも言われてるくらいだしね。
でも、クッキングチャンピオンになることが目的じゃないから、
素朴に素朴に。手軽にサッと作れるようになれば問題ないの。
まず溶き玉子に塩コショウとね、牛乳を入れるの。
牛乳は、入れすぎちゃ駄目よ。デロデロしちゃうから。
で、これを焼きます。油を引いて熱したフライパンを傾げて。
強火のまま、トローリと流し込んで〜。
さいばしで適度に、くしゃくしゃします。
これも、やり過ぎちゃだめよ。あくまでも、適度にね。
で、半熟でグツグツしてきたら、火を弱めて反対側に傾げます。
滑らせるように玉子を転がして、ぱふっとひっくり返して裏も焼いて。
これを何度か繰り返しつつ、形を整えたら、お皿に落として……完成。
パセリを添えて、ケチャップを垂らして、はい、どうぞ。召し上がれ。
コトリと目の前に置かれたオムレツに感激する武彦。
そうそう。これだよ、これ。俺が食べたかったのは、これですよ。
いただきます、と両手を合わせ、ガツガツとガッつく武彦。
そんな武彦に笑いつつ、シュラインは冷蔵庫から、複数の皿を取り出した。
次いで並べられた、その皿には美味しそうな料理が盛られている。
いつの間に作ったんだ? と首を傾げる武彦。
確かに、この短時間で作れるような代物ではない。
シュラインはクスクス笑って、ぴらっと一枚のメモを差し出した。
『お兄さんへ。お昼ごはんは冷蔵庫の中です。チンして食べて下さいね REI』
何てことだ。きちんと用意してくれていたとは。
それに気付かず、醜態を晒し迷惑をかけ。
何をやってんだか、俺は……。
はむはむとオムレツを食べつつ苦笑する武彦。
テーブルに頬杖をついて、彼を見やりながらシュラインは笑う。
それにしても、見事な玉子っぷりだったわね。
写真撮れば良かったなぁ。
海斗くんに見せたら、大喜びしそう。
悪用されそうだけどね……ふふ。
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0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント(草間興信所の所長)
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.07.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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