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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


お茶目

 アンティークショップ・レン店主、碧摩 蓮(へきま れん)は倉庫に保管していた怨嗟人形に体をのっとられてしまう。そこにちょうど闇の美術商、石神 アリスがやってくるのだが……。
 怨嗟人形扮する碧摩 蓮は見事、石神 アリスを出しぬけるのだろうか。

 ○

「お邪魔します」
 か細くも澄んだ声音が、アンティークショップ・レンに響く。声の主、石神 アリスは持ってきた荷物を置くと、棚に飾ってある禁呪の勾玉に手を伸ばした。
「いらっしゃい」
 チャイナドレス姿に、パイプをくゆらせて面白そうにレンがカウンターの奥から姿を現した。
「それ、気に入ったかしら?」
 アリスは視線で「そうね」と返す。
「いいわよ、存分に使ってくれても」
 レンの不敵な笑みに、アリスの眉がわずかにひそむ。
「これ、魂を人間界から追放するアイテムではなくて?」
「そうよ、それをあげると言ってるの。如何かしら?」
 レンがあなたに扱えるかしらと言わんばかりに、アリスに不敵に、挑発的に笑う。
 呼応するようにアリスは唇をつりあげると、持ってきたバッグをカウンターで開き握り拳二つ分の丸いものをレンの前に置いた。
「比叡山で退治した人食い鬼の心臓を石化したもの。前から欲しがっていたでしょ?」
 よく見ると、石化しているのにびくびくと痙攣している。こんな化け物をどうやって退治したのだと、レン(に扮した怨嗟人形)は、驚きのあまり目じりが引きつりそうなのを、なんとかこらえ。
「あ……りがとう。これで商談成立ね。勾玉、持って行っていいわよ」
「あらぁ。今日はとても気前がよろしいのですね。まるで―」
 アリスの鋭利な目つきがレンを突き刺す。
「あのレンじゃないみたい」
 「あの」とはどういう事か。既に本人が幽閉されている事を知っているのか。レンは両腕をがっしりと掴み、全身の肌がざわめくのをなんとか……なんとか、やりすごした。
―もしかして、この小娘。私の正体も?
 レンはまさかと首を振っている間に、アリスはカウンターを越えて地下倉庫へ続くドアノブを握っていた。
「そこは!」
 慌ててアリスに手を伸ばしたレンを上目遣いで見つめる。
「あら、前もここを通して珍しいものを見せてくれたじゃないですか。今日に限ってダメな理由でもあるのですか?」
 アリスは通せんぼされているのに、どこか楽しそうにレンを舐めるように見回している。
「今、実験中の秘薬があってかなり繊細なものなのよ。だから―」
「ああ、前に言っていたアレですか。見せてくれるって約束したじゃないですか。お忘れかしら?」
「え、あ、そうだった……わね。でも、完成したら見せるって話だったじゃない。お得意様のあなたを危険な目にあわせたくはないわ」
 アリスはきょとんとした表情を浮かべる。
「それを解消する為に私を呼んだんでしょ?」
 これも真赤な嘘。目の前のレンが偽物である事を既に見抜いていた。レン「もどき」が、どんな見え透いた嘘で塗り固めるか、さっきから楽しみでしょうがないのである。
「ね?」
 アリスは生まれて一度も発したことのない、甘えている様で悪戯っぽい声音でレンにせまり魔眼を数度光らせてみせる。
「そうだったわ、魔眼の力で……ね?」
 レンとアリスは互いの顔を見合わせ、笑顔を漏らした。
 極対照的な笑顔ではあるが、笑顔には違いなかった。

 ○

 地下倉庫へと階段を下りていく。光は手に持っているランタンだけが頼り。ここで足を踏み外して階段に頭をぶつけてもしようの無い事である。
―今が好機
 レンは手を伸ばして、前を歩くアリスの背中を押さんとするが。
「私、ブラックジョーク嫌いなんです」
 アリスの言葉に咄嗟に手を引っ込めるレン。
「特に、不意打ちで相手を傷つけるなんて……」
「ど、どうしたの? 急に」
 アリスは立ち止まってレンに振りむくと。再度静かに向き直る。
「いえ、別に」
 レンは確信していた。アリスは何らかの方法で自分の正体を見抜いていると。どうせ地下倉庫に通した瞬間に、「本物」が騒ぎ出して自分が偽物だと分かるだろう。
―地下倉庫で貴様も明けない闇を味あわせてやるわ
 アリスは後ろのレンの思惑を読まなくとも、殺気でこれから何が起こるか理解していた。
「ここよ」
 レンは、体をさすってスリットの辺りから鍵の束を取り出して鍵を差し込んだ。これもまた、何度か鍵を間違えて無様な所を見せてしまう。
 カチリと鍵が開く音がする。
「ようやく開きましたね」
 アリスの嫌味も今のレンにはどうでもいい。扉を開けてアリスを部屋の中へと促し、自然と背後を取る。壁にもたれていた鉄の棒を握り締めて、ランタンを低い天井につるしている最中。
「くたばれええええええええええええ!」
 レンが鉄の棒を振りかぶると、レンの掌に震動が伝わる。びりびりとした、痺れるそれは地面をたたいたものだった。アリスは今にも声を出して笑いだしそうな顔で指を絡ませている。
「ホント、哀れな存在。こんなのに、やられるレンも駄目ね」
 棚の上段からがなり声が聞こえる。予想通り魂を移された様だ。
「どこから分かった? 魔眼か?」
「いーえ。ケチなレンが商品を破格で譲ってくれるはずないもの。それだけで充分ですわ」
「化かし合いはもうまっぴらだ。残念だが、お前もここで一生過ごしてもらうよ」
 気だるそうに、欠伸を噛み殺しているアリス。
「もう、茶番は飽きました。もう貴方はお役御免です」
 即、レンに向かって魔眼を照射。レンは鉄の棒を振りかぶった姿で石化してしまった。
「タイトルは、ルール破りのスイカ割とでも? 目隠しをしていませんし」
「何言ってるのよ! 早く私を元に戻しなさい!!」
 人形に封印されたレンが必死に叫んでいる。
「あら、そこにいたのですか」
「アリス白々しいわよ。早く戻して」
「レン? ご自分の立場が分かっていませんね。私はこのまま、あのスイカ割をコレクションに加えてもよろしいのですよ?」
 レン、もとい魂を込められた人形は押し黙ってしまう。アリスは本当に自分を放って行ってしまうある種のプロフェッショナルだからだ。
「何が目的?」
「コレクションが欲しくて」
 レンが今にも叫びだしそうなのをたしなめる。今日はどうもからかうのが楽しくてしょうがない様だ。
「このお店のアイテムを少々譲っていただきたくて」
「……」
 レンは首を縦に振るしかない事実を突き付けられ、素直に首を縦に振りたくなかった。
「もちろん、貴方を元の姿に戻す事は保障致します」
「絶対?」
 アリスは深々と頷くと、人形からため息がこぼれる。
「分かったわよ。どれでも好きなの持って行きなさい」
「感謝します。それと……」
 人形は一切動く事が出来ないのだが、アリスはレンが鋭い目つきでこちらを睨んだ事を間隔で察知したが、そのまま続ける。
「レンを、期限付きでコレクションに加えたい」
「いつまで?」
 指を顎にあてて、考える素振りを見せる。
「三週間でしょうか?」
「やけに具体的ね。てっきり、はぐらかして後になって「いつ戻すとは言ってない」とか言いだすかと思った」
 アリスは人形の頭を数度撫ぜて石化したレンの頭上に人形を置いた。
「そこまで悲観しないでください。これからも持ちつ持たれつでいきましょう。その保障とは言っても何ですが、お人形さんである貴方も屋敷に持って帰りますので」
 アリスはそう言うと、倉庫と店内にあるアイテムでめぼしいアイテムを一通りバッグにつめると上機嫌でアンティークショップ・レンを後にした。
 アリスを騙す存在は、存在しないのかもしれない。


【了】





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【七三四八 / 石神 アリス / 女性 / 十五 / 学生】


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■         ライター通信          ■
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 発注ありがとうございます。書きたい書きたいと思いながら、オープニング・異界と加える事が出来ないでいます(泣)シチュエーションノベルであったりと、他にもございますのでよろしくお願いいたします。
 では、またアリスの瞳が光らん事を!