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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


─歌い続ける日本人形─

「おっ、随分といいタイミングで来てくれたな」
「はぁ、そうなんですか」
 辰一が草間興信所に入るといきなりそんな事を言われ、草間は机の上を引っ掻き回すと一つの書類を取り出して辰一に放り投げた。
「なんですかこれ?」
「見てみれば分る、あんた向きの仕事だ」
 生返事を返した辰一はとりあえず書類の中を確認する。そこにはとある別荘に眠る日本人形のことと、住み着く怨霊について書かれていた。
「まあ、確かにこの手の仕事は僕の得意分野ですけど」
「そういうことで頼んだ」
「えっ?」
 そんな経緯があり、辰一はとある山奥の別荘へ向かう事となった。


「それにしても汚ったない別荘でんな、旦那〜、ほんまにこの中にあるんですかい?」
 辰一の肩に乗った白と黒のぶち模様をしている猫型式神の甚五郎が嫌そうな顔でそんな事を言ってきた。だが辰一はそんな甚五郎に笑みを返す。
「うん、それに草間さんが言うには事前調査でその事はハッキリしてるから、僕たちはその歌い続ける日本人形を回収すればいいだけだよ」
「そうですかい、それにしても汚ったない別荘でんな〜」
 辰一達の眼前に建っている別荘は確かに汚いというか、朽ち果てているというか、どちらにしろ長い間放置されて来たのは間違いなさそうだ。
「あそこに入るんですかい?」
「あははっ、そんな嫌な顔しないでよ甚五郎。それに怨霊が居るみたいだから奉山も持ってきたし、定吉も居るんだから」
 辰一の右手には御神刀の奉山が握られており、左手で頭の上に乗っている茶虎子猫を撫でる。この定吉も見た目は子猫だが甚五郎と同じく猫型式神であり、かなり役に立つようだ。
 だからこそ、今回の依頼に辰一は奉山だけではなく甚五郎と定吉も連れてきた。二匹とも辰一とっては信頼が置ける仲間のようなものだから。
「それじゃあ行こうか」
「へいへい、分かりやしたよ」
 そして辰一達は別荘へと足を踏み入れていく。


 中は思っていた以上に荒れていなかった。かなり埃を被っているがなかなか整理されているし、朽ちてる部分も少しだけだ。
「思っていた以上にしっかりと作られてんな」
「甚五郎、しっ」
 口元に人差し指を持って行き、甚五郎に静かにするように指示を出す辰一。そのため、別荘の中は静寂に包まれるが、耳を澄ませば微かに何かが聞こえてきた。

 ……でや、お〜……、……どうじ……と〜り……。

 子守唄だか分らないが、童歌が聞こえてくる事は確かだ。
 こんな場所で童歌を歌う人間なんて考えられない。となると、この歌い手こそ今回の目的である歌い続ける日本人形なのだろう。
「旦那、この歌」
「うん、間違いなくあるみたいだね。その歌い続ける日本人形が」
 そうなれば当然、依頼書にあった怨霊がいるのも確かだろう。辰一は奉山を強く握り締めると辺りを警戒しながら先に進み始める。
 別荘は洋風では無く和風の作りになっており、かなりの敷地に中庭まで付いている。そんな別荘を歌が聞こえてくる方向へ向かって進む辰一達。
 そして中庭に面した廊下を進んでいる時だった。
「みゅう〜」
 突如、頭の上に居る定吉が鳴き声を上げる。
「うん、こっちに向かってくる者が居るんだね」
「よっしゃ、まずはそいつからギタギタにのしてやろうじゃないかい」
 定吉の言葉が分るのは辰一と甚五郎だけのようだ。そしてその定吉が告げるには辰一達に向かってくる者がいる。
 こんな別荘に普通の人間が暮らしているわけが無い。となると、迫ってくるのは間違いなく依頼書にあった怨霊だろう。
 だがそいつが迫ってくる前に、突如定吉が何かを察知したかのように驚いた鳴き声を上げる。
「みゃあ!」
「えっ、横からも!」
 辰一が返事を返すのと同時に後ろにあった障子が突き破られると、それは辰一達に向かって障子を破壊しながら迫ってきた。
 咄嗟に奉山を縦に構えてそれを防ぐが、相手にはかなり勢いが付いていたようで辰一達は中庭まで吹き飛ばされてしまった。
 それでも空中でバランスを取り戻すと、足を地に付けてそのまま地面を少し擦って無事に止まる事が出来た。
「旦那、あれが依頼書に書いてあったやつでっしゃろ」
 甚五郎が指し示す先には破壊した障子の奥からゆっくりと出てくる幽霊画の姿があった。
「みゅ〜」
 幽霊画が現れるのと同時に定吉も別の来訪者を告げる。それは先程まで向かっていた所から金属音を響かせて姿を現した。戦国武将が着るような鎧に仮面をつけており、仮面の目には赤く光る瞳が辰一達に向けられる。
「あちゃ〜、両方一辺に出てきやしたね、旦那」
「しかたないよ。甚五郎と定吉は幽霊画をお願い。僕はあの鎧武者を倒すから」
「よっしゃ、任せとき」
「みゅ〜」
 辰一の体から離れた甚五郎は光りだすと、本来の姿である銀色の毛を持つ獅子へと姿を変えた。
 本来の姿に戻った甚五郎に辰一は朱雀の札を投げつけると、その札は甚五郎に張り付くのと同時に火の属性を甚五郎と定吉に宿らせる。
 更にもう一枚、朱雀の札を取り出すと今度は奉山に張り付ける。奉山にも火の属性が宿り、刀身に炎を灯す。
 そして辰一は鎧武者に、甚五郎と定吉は幽霊画に向かって駆け出した。


 幽霊画に向かって駆け続ける甚五郎、その頭の上で定吉が鳴くと甚五郎は大きく上に跳ぶ。先程まで甚五郎達が居た場所には幽霊画の長い腕が振られていたが、甚五郎はすでに大きく跳躍して一気に幽霊画に迫った。
 幽霊画は先程の攻撃から体勢を立て直していない。よって上空から来る甚五郎から見れば隙だらけだ。
 爪に炎を宿して一気に幽霊画を切り裂く甚五郎。幽霊画も切り裂かれただけでなく、切り裂かれた場所から炎が広がり、遂には幽霊画を焼き尽くしてしまった。
「どんなもんや!」
 一撃で幽霊画を倒した事に喜ぶ甚五郎、だが定吉が何かを察したように部屋の奥に向かって鳴くと甚五郎も部屋の奥に目を向ける。
 そこには掛け軸があり、先程まで実体していた幽霊が描かれていた。
 そして再び掛け軸からはい出して来る幽霊画。
「なんや、どうなってんや」
 完全に再生した幽霊画に驚く甚五郎だが、定吉には幽霊画の正体が分ったみたいだ。
「みゅ〜」
「そか、あの掛け軸が本体というワケやな」
 再び迫ってくる幽霊画に対して甚五郎も駆け出す。だが幽霊画の長い腕が近づく前に甚五郎を捕らえようとするが、頭の上に乗ってた定吉が跳ぶと幽霊画の腕に噛み付く。
 定吉も辰一が作り出した式神だ。だから噛み付くだけでも幽霊画に多少のダメージを与えられるし、痛みすらも与えられる。
 定吉を振りほどこうと幽霊画はもう片方の手で定吉を掴むが、定吉も爪を立てて幽霊画の腕にしっかりと噛み付いている。
 そうして定吉が幽霊画を抑えている間に甚五郎は一気に本体である掛け軸に迫る。先程、幽霊画が飛び出した所為か、今は白紙の状態だがこの掛け軸がある限り幽霊画が何度も復活する事は確かだ。
 甚五郎は軽く跳ぶと、再び爪に炎を宿して掛け軸を切り裂き、燃やし尽くした。
「定吉、もういいで!」
 幽霊画の腕から離れる定吉、その事にひとまず安心する幽霊画だが、未だに掛け軸がやられたことには気付いてないようだ。
 そんな幽霊画に向かって定吉は大きく口を開くと、炎の球を作り出して幽霊画に向かって放つ。
 完全に後ろからの攻撃に幽霊画が火球に気付いた時には、もう回避不可能な距離だった。
 直撃するのと同時に一気に燃え上がる幽霊画。その炎の中で断末魔を上げる訳でなく、ただもがくだけの幽霊画。炎の中でその体は徐々に消えて行き、最後には破片一つ残すことなく、この世から消え去った。
 念の為に辺りを探る定吉。だが幽霊画が復活する気配は無い。どうやら完全に成仏したようだ。
 その事を告げるように定吉は笑みを浮かべながら甚五郎に振り向き、甚五郎も笑顔を返した。


 一方、辰一はというと鎧武者との一騎打ちに専念していた。
 鎧武者も相当の手練れが怨霊化しているようでかなりの使い手だ。辰一も御神刀『奉山』の守護者を伊達に名乗っているワケではない。かなりの修練を積んでいるが、それでもこの鎧武者との一騎打ちには苦戦していた。
 鍔迫り合いから弾かれるように双方とも距離を取る。だが鎧武者はすぐに体勢を立て直すとすぐさま辰一に迫る。
 炎を灯したままその場で奉山を振るう辰一。その剣閃が炎の刃となり鎧武者に襲い掛かるが、炎刃を一刀両断する鎧武者はそのまま辰一へと迫り刀を振るう。
 辰一はその場に踏み止まり、鎧武者の刀を避けるのと同時に奉山を振るう。だが、この攻撃も鎧武者は退くことなく、紙一重で避けてしまった。
 すぐに刃を返す辰一。だがそれよりも早く鎧武者の刃が辰一に迫る。
 だが辰一は一気に身を沈める事で鎧武者の攻撃を避ける。それから片手を地面につけると軽く跳び、全体重を片手で支えながら鎧武者の右足に蹴りを入れる。
 渾身の蹴りが鎧武者の体勢を崩し、辰一は腕だけの力で一気に跳びあがり、鎧武者の上空から奉山を振り下ろす。
 だが鎧武者も只者ではない。辰一の攻撃をこのままでは受けきれないと判断したのだろう。
 鎧武者は崩れた体勢を更に崩し、地面に両膝をつけて刀を横に頭の上まで上げる。
 鳴り響く剣戟音。上から体重をかけながら奉山を押し付けてる辰一と、両膝をつきながらも刀を両手で支えて踏み止まる鎧武者。体勢的は辰一がかなり有利だ。このまま押し切る事が出来れば鎧武者を一刀の元に切り伏せられる。
 更に体重と力を込める辰一、だがそれがあだとなり、突如鎧武者は刀と奉山が重なっている点をずらすとそのまま横に転がる。
 今まで支えていた者が急に居なくなった事で、バランスを崩された辰一は今まで力と体重を込めていた分、豪快に地面に突っ込んでしまう。
 だが鎧武者は自らの意思で横に転がったのだから体勢の立て直しが早い。だから鎧武者が辰一に向かっていく頃には、まだ辰一は奉山を支えにやっと方膝を付いたところだった。
 迫ってくる鎧武者を見て辰一は奉山に灯ってる炎を一気に燃え上がらせるが、そのまえに鎧武者の刀が辰一を一閃、切り裂いてしまった。
 だが切り裂かれた辰一の姿が揺らぐとそのまま消えてしまった。そして鎧武者も手ごたえの無さに戸惑うばかりだが、そんな時間は鎧武者には無かった。
「幻影分身です」
 突如鎧武者の後ろから聞こえてくる辰一の声。そして鎧武者が振り向くのと同時に奉山が鎧武者を縦一閃に切り裂いた。
 縦真っ二つに切り裂かれた鎧武者は、中から黒い煙を出すと鎧だけが地面へと落ちる。奉山は退魔の宝刀、その力によって浄化されたのだろう。その証拠に黒い煙は白へと変わり天に昇っていく。
「なんとか倒せたようですね」
 鎧武者の浄化が終わって辰一はやっと一息ついた。


「旦那、大丈夫でっか?」
「みゅ〜」
 再び猫の姿に戻った甚五郎と定吉が辰一の元へ戻ってくると、辰一も二匹をまた体の上に乗せる。
「ちょっとてこずったけど大丈夫だよ。そっちは?」
「そりゃあもう、バシッと決めたりやしたわ」
「そう、ありがとう」
 定吉を撫でながら笑みを向ける辰一に甚五郎も笑みを返すと、辰一は奉山を鞘に戻すと再び別荘の奥に進み始めた。

 おいでや、お〜いで、こ〜こは童子様のと〜りみち〜

「この奥かいな?」
「ここまではっきり聞こえるから間違いないと思う」
 ふすまで閉じられた部屋の奥からはっきりと聞こえてくる童歌。どうやらこの奥にあることは間違いないようだ。
 辰一はゆっくりと部屋のふすまを開ける。
 そこは子供部屋だろうか、様々なおもちゃが転がっている。
「みゅ〜」
「うん、あそこだね」
 部屋の隅にある子供用の机だろうか、その上に日本人形があり、歌もその人形から聞こえてくる。
 ゆっくりと日本人形に近づく辰一、飽く事無く歌い続ける日本人形に近づき手に取ろうとした時だった。
 突如世界が歪み、世界が茶色に染まる。それは古い映画の中に入ったようなそんな感じだ。
「なんや、これ!」
「みゅう〜!」
 突然のことに驚く甚五郎と定吉、だが辰一は冷静に部屋の周りを見渡して結論を出した。
「大丈夫、二人とも安心して、これはあの子が見せている風景だから」
 そう言って辰一が指差した先には例に日本人形と遊ぶ少女の姿があった。
「なんや、あの子? それにこの歌」
 少女が日本人形に歌いかけているのは先程まで聞こえてきた童歌だ。
 ますます混乱する甚五郎に辰一は状況の説明をする。
「たぶんだけど、これはあの日本人形に宿ったあの少女の記憶だよ。あの日本人形が僕達にこの少女の記憶を見せてるんだ」
「なんのため?」
「さあ、たぶん伝えたい事があるんじゃないかな?」
「……さよか」
 納得したかは分らないが状況だけは理解できた甚五郎は再び少女に目を向ける。先程は気付かなかったが、少女はかなり寂しい目をしながら日本人形を撫でつつ童歌を歌っている。
 だが再び景色が歪むと風景が一変する。
 今度はどこか洞窟の奥だろうか、辺りがやけにゴツゴツしている広い空間だ。
 その中心に少女は縛られ、身動きできないようにしており。少女の下には何かしらの魔法陣のような物が描かれていた。
 そして魔法陣を囲むように四人の顔を隠した陰陽師が四方に立っていた。
 更に陰陽師達が何か呪文のような物を唱え始めると少女は悶え苦しむが、縛り上げられているためその場で暴れる事しか出来ない。
「なにしとんや! お前ら!」
 とっさに陰陽師達に襲い掛かろうとする甚五郎を辰一は止める。
「旦那、なんで止めるんや!」
「これはあの日本人形が僕達に見せてる昔の記憶、いくら走ったって間に合わないよ」
「せやけど……」
 目の前で苦しみ続ける少女を前にして甚五郎は苦悶の表情を浮かべるが、それは辰一も同じだった。
 その間にも少女は悶え苦しみ、そして……動かなくなった。


 ゆっくりと目を開ける辰一、それは甚五郎も定吉も同じだ。
「……旦那」
 元気の無い声で声を掛けてくる甚五郎に辰一は涙を溜めながら答えた。
「あの少女は生贄だったんだよ。だからあんな術で生贄としてその命を落としたんだ」
「何のため!」
「分らないよ、そこまでは。……でも」
 日本人形を手に取る辰一。すでに涙は頬を伝い落ちている。
「この人形には、あの少女の想いが入っている。生贄となるって分かっていたから、あの少女はこの人形に魂の一部を埋め込み、歌い続けているのかもしれない。いつか、誰かに気付いてもらいたいから」
「……せやな」
 それから甚五郎も定吉も一言も発せずに辰一の行為を見守った。
 今回の依頼はこの日本人形の回収である。だから日本人形を持って帰らないといけない。辰一は手近なところに日本人形を仕舞う箱を見つけると丁寧に日本人形を箱へ仕舞う。
 これで今回の依頼は終了、辰一達は日本人形をしっかりと抱えて別荘を後にするのだった。


「おう、お疲れさん」
 草間興信所に戻った辰一達。だがその表情は暗い。
「おいおい、どうしたんだ」
 辰一達の表情に驚いた草間は詳しい事を聞いてきたので、辰一はこの日本人形のことについて話した。少女の事、その少女が生贄として死んだ事、そしてその少女の魂がこの日本人形に取り付いて歌い続けている事。
 それらの話を聞いて草間は大きくため息を付く。
「まあ、昔は生贄なんて普通に行われていた事だからな。今更俺達がどうする事じゃないだろう」
「それはそうですけど……あっ」
 何かを思い出したかのように、というか、本来の役目を思い出した辰一は笑みを草間に向けてきた。
「これどうするんですか、お祓いが必要なら僕がやります。僕の本業は神主なんですよ、任せてください」
 辰一としては自分の手でこの少女を成仏させてあげたいのだろう。だが草間は嫌な顔をして首を横に振る。
「いや、それはやめてくれ。勝手にそんなことをやられると依頼主が乗り込んできやがる」
「でも、それじゃあこのままにしておけって言うんですか!」
 納得が行かない辰一は思わず声を荒げるが、草間はしかたないという顔で机の上にある電話を手に取る。
「しかたねえな、少し待ってろ。今、依頼主と交渉してやるから」
 そう言って電話をかける草間。辰一もそう言われるとしかたなくおとなしく待つことにした。
 零が入れてくれたお茶をすすりながら草間を見る辰一。草間は嫌そうな顔で話している。どうやら辰一の事を話しているようだ。そして全て話し終えると、更に嫌そうな顔で電話を切った。
「どうでした?」
 結果が気になるのだろう、すぐに尋ねる辰一だが、草間は嫌そうな顔を向ける。
「これから依頼主がそれを取りに来るそうだ。そこで直接抗議しな、こっちの要求は伝えてある」
「ありがとうございます」
 要するに後は勝手にやってくれということだろう。草間は嫌そうな顔で机に突っ伏した。
 それから数十分後、草間興信所に来客が来た。
「失礼します」
「ああ」
 あからさまに不機嫌な返事を返す草間、だが相手は構わずに入ってくる。そして姿を現したのは巫女服を着た女性で白く長い髪が印象的な美しい女性だった。
「そっちだ桜華」
 草間は桜華と呼んだ女性に辰一を指差すと背を向けてしまった。後は勝手にやってくれということだろう。
 桜華は辰一に近づくと深々と頭を下げる。
「この度は依頼遂行ありがとうございました」
「いや、そんな……」
「それでは、こちらは貰っていきます」
「ちょっと待ってください」
 日本人形に手を伸ばそうとした桜華を辰一は呼び止めるが、そんな呼び止めに構わず桜華は日本人形が仕舞われた箱を手に取る。
 それから紅い瞳を辰一に向けると微笑んだ。
「ご安心下さい。これに宿っている少女の霊はちゃんと浄化します」
「ですから、そのお祓いを僕にやらせてください」
 少女が生贄として死んで行った場面を見た辰一としては自分の手で成仏させてやりたいのだろうが、桜華は首を横に振る。
「あなたでは無理です」
「僕の本業は神主です。お祓いぐらい出来ます」
 だがそれでも桜華は首を横に振る。
「これは我が主の命で普通にお祓いをしてもらっては困るのです」
「えっ、というと」
 思ってもいなかった返答に辰一は戸惑うが、そんな辰一に構う事無く桜華は話を続ける。
「もし、普通にお祓いをしたらどうなりますか?」
「それは、普通の日本人形に戻りますよ」
 当たり前だ。この日本人形が歌い続けているのは少女の魂が宿っているからだ。普通に少女の魂をお祓いしてしまえば元の人形に戻る。
 だが桜華が言うにはそれが困るのだという。
「我が主の望みは少女の魂を成仏させながらも、人形に歌い続けるようにさせるという、極めて困難な術式を使います」
「そんなことが出来るんですか?」
「我が主なら」
 辰一を真っ直ぐに見据えてくる桜華。その瞳は嘘は無いと訴えている。
「でも……」
 それでも納得できない所があるのだろう。辰一は更に桜華に尋ねる。
「なんでわざわざそんなことを?」
 だが答えたのは桜華ではなく、未だに背を向けている草間だった。
「中にはそういうコレクターも居るってことさ」
「そうですね、我が主はこの手の物を趣味で集めています。もっとも、全て浄化されていますが」
「つまり、少女の霊を成仏させながらも日本人形が歌い続けるようにする訳ですか」
「ええ、そうです」
「……そうですか、それなら」
 少女の霊が成仏するなら辰一に文句はないし、元々の依頼はこれを持ち帰る事だ。今更ごねてもしかたないと自分を納得させるが、桜華にもう一度だけ尋ねる。
「必ず、少女の霊を成仏させてくれますか?」
「その点につきましては必ずお約束いたします。それに、成仏させないと少女の霊が元で他の霊が寄ってくる可能性がありますので、そうなってはこちらも困るので必ず成仏させるようにしているのですよ」
 そう言って微笑む桜華。確かに桜華の言うとおりだ。下手にこの手の物を集めると霊達が集合して別荘で出会った怨霊と化してしまう。
 だが、草間の言うとおり、この手のコレクターなら封印するよりも浄化して成仏させた方が何かとやり易いし、後に問題を残す事は無い。
 そう考えると桜華の言っていることは真実なのだろう。
「では、お任せします」
「こちらこそ、ありがとうございました」
 もう一度、深々と頭を下げる桜華。そして桜華は人形が入った箱を手に草間興信所を後にする。
「じゃあ、僕達も帰ろうか」
「そうでんな」
「みゅ〜」
「では、草間さん失礼します」
「おう」
 背中を向けたまま手を振る草間を後に、辰一達も草間振興所を後にするのだった。





─登場人物─

整理番号:2029 名前:空木崎辰一 年齢:28歳 職業:溜息坂神社宮司


─登場NPC─

NPCID:NPC5046 名前:桜華乱菊 年齢:18歳 職業:巫女


─ライターより─
 とりあえず、ごめんなさい。いや、甚五郎のエセ関西弁です。関西弁が苦手というかほとんど分らないのでエセ関西弁になってしまいました。
 それから、これにはかなりの裏設定があるんですが、それを全部出した所為か長くなってしまいました。もし、長さに不愉快ならご容赦下さい。
 まあ、そんな訳で今回はこんな形になりました。多少ホラーシーンを強調させるために残酷なシーンがありましたが、まあ、ホラーには付き物な設定なのであっちに流しておく事にしましょう。
 ではでは、ご依頼ありがとうございました。以上、葵夢幻でした。