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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ はちゃめちゃ海騒動〜ああ、何かを割りそうです〜 +



「海だー!」
「早速西瓜割りだー!!」


 水着に着替えた三日月 社(みかづき やしろ)はうきうきとクーラーボックスの中から西瓜を取り出しブルーシートの上に置いた。それから荷物の中から木製のバットを持ち出すとその場で素振りを始める。
 シュン、シュンッ! と勢いよく空気を切る音が彼女のやる気を示している。


「さぁって、行くよ〜!」
「ちょ、ちょっと待てー!」
「? 何、今更怖気づいたとかいうオチ? やだー、男らしくなーい!」
「何が『男らしくない』だ! 人を砂に埋めて何をいうか!!」
「え、だって西瓜割りって目隠ししながら西瓜を割るか、うっかり埋められた人の頭を割るかっていうスリルとサスペンスなゲームでしょ?」
「何気なく言葉の使い方間違えてるから! っていうか根本的な部分が大間違いだから!! あとスガタといよかんさん、俺のこと助けろよ!!」


 カガミは砂から頭だけ出した状態で突っ込みを入れる。
 名指しされたスガタと彼に抱っこされているいよかんさんはにっこりと笑顔を浮かべ、静かに首を振る。


「ごめんね、僕もいよかんさんも頭を割られるのはちょっと……」
『ふぁいとー、かがみー!』
「にゃっはっは〜! いっくよー!」
「人でなしー!!」


 目隠しを終えた社がブン! とバットが振り上げる。
 血の気が引く音を聞きながらカガミは砂から抜け出そうと必死にもがいた。だがその時――。


「きゃ〜誰かこの西瓜割って!」


 第三者の声が響く。
 その声に反応し三人と一匹は顔をあげればそこに居たのはリヤカーを曳く黒ビキニの怪しい女――藤田あやこ(ふじたあやこ)がいた。
 きゅっとしまった腰の括れ、とても良く引き締まった鳩胸……別名貧乳――を持つ彼女は暑さと走ってきた疲れのため息を乱す。


「はぁ、はぁ……ちょっと、そこの人その、西瓜、」
「あ、ああ、はいはい。西瓜ね〜」


 あやこが息を切らしながら転がる西瓜を指差す。
 仕方なく社は目隠しを外してからバットを下ろし、転がってきたそれを両手で掴んだ。だがそれは西瓜特有の丸さの他、何故か突起物が幾つかあり、その部分は非常にぶにっとしている。なんだろうかと指先でつつく。
 するとそれはくわっ!! 開き、その奥から血走った瞳がぎろりと社を睨む。
 社は思わずその西瓜を思いっきり地面に叩きつけ、一歩足を引いた。


「うわ、色んな意味できも! 何これ! 生きてる!?」
「それは妖果『誰何』。西瓜の様な外見だけど一口食せば背筋が髄まで凍る逸品……だった」
「『だった』って……過去形?」
「う、う、う……聞くも涙、語るも涙。異界の行商より購入して小分けしてセコく稼ごうと思ったの……でもね、でも、でも! これは妖怪吸胸鬼が放ったパチモンだったのよぉおおおおお――――!!!」


 ザッバーン! と波が立つ。
 背景に波を背負いながら涙ながら語るあやこに三人と一匹はご愁傷様、と両手を合わせた。


「う、ひっく、……パチモンのせいで誰何に養分を吸われ……私の胸はぺったんこに……いえ、立派な鳩胸に……」
「社なんて年中ぺった――」
「カガミ、何か言ったかな〜?」
「いひゃ、いひゃひゃひゃひゃ!! くひをひっふぁるなー!」
「でももう追い詰めたわ、さあ、私の胸を返しなさい!!」


 あやこは顔をあげ、叩きつけられた西瓜もどきにびっしぃと宣告する。
 西瓜もどき――誰何はころりと自ら砂地の上を転がり、あやこ達の方に身体を向けた。次の瞬間、それはあやこの方に勢い良く飛び体当たりをかます。不意打ちの攻撃に皆引きながら逃げるがあやこだけは違った。彼女は拳を作り、力強くパンチを放つ。
 バシュ! ドカッ! バキッ……!!
 誰何も寸前のところで攻撃をかわしながら幾度となく立ち向かい、その度にあやこは強烈な拳を繰り出した。


 ……あやこが社達の西瓜割りに乱入してから一時間ほど経った頃だろうか。
 誰何とあやこは全身痣(?)だらけになりながらも向かい合う。一人と一体、無言で見つめあう時間が続く。そんな風に真剣な彼らの後ろでは戦闘風景に飽きた社達がほのぼのと西瓜割りを再開しようとしていた。――もちろんカガミは埋められたままで。


 じりっと誰何があやこに近付く。
 あやこは構えを取った。


「もっと」
「はい?」
「もっとぶってくれっ……!! お前の拳はいい!」
「結局それ!?」
「はぁはぁ、そしてお前もぶたれるがいい!!」
「MなのかSなのかはっきりしてよ」
「はぁぁぁあああ……分・裂ッ!!」


 その場で高く飛び上がり逆光を背に誰何が分裂する。
 二体になった誰何に興味を示したいよかんさんがぱたぱたと駆け寄った。


『わー、すいか〜、ふえた〜!』
「あ、駄目だよいよかんさん! そんな変にSMっぽい果物に近付いちゃ駄目!」
「……しゃべる果物っていう点で何が違うんだ」


 いよかんさんを止めるスガタの後ろで埋められ続けているカガミが小声で突っ込む。増えた誰何に対して社がきらりと瞳を輝かしたのも見逃さない。社は面白いものが大好きだ。そして金になることも大好きだ。そして何より遊びに対して貪欲な部分がある。
 こんな楽しげな展開を彼女が気に入らないはずがない。


「ふ、俺様を全て破壊すれば勝ちだ。俺様を小分けにして売り飛ばしその稼ぎで豊胸術を受けな」
「一寸そこの人埋まってないで手伝……あっ」


 カガミに声をかけたその一瞬で誰何は再び分裂を繰り返し、その砂場には西瓜もどきが沢山並ぶことになる。
 本物がどれなのか全く分からなくなり、皆むぅと唸りをあげた。そんな彼らにどこからか声が掛けられる。


「お手付きで試合終了だぜ。お前のターンでは俺様の仲間が化ける。勝負だ」
「ふ……」
「な、何を笑っている」
「ふふふ、甘いわね。甘いわ、誰何! 西瓜の食い合わせは天麩羅。こんな事もあろうかと――!」


 シャキンッと取り出したるは海老天ミサイル。
 あやこは含み笑いを今度は高笑いに変えるとその場に転がっている西瓜もどきを破壊し始めた。


「……ねえ、カガミ。あれは何処から取り出したのか突っ込んでいい?」
「……なあ、スガタ。あれは何処から取り出したのか突っ込むべきか?」
『えび〜、てんぷら〜、おなかこわすくみあわせだね〜……』
「にゃは★ 取りあえず西瓜を叩けばいいんだよね!」


 社はにっこぉおっと満面の笑みを浮かべるとミサイルを構えるあやこの傍に寄り、持っていたバットを振り上げる。
 ぐちゃ、びちゃ!
 ああ、飛び散る果汁、引き裂かれる果肉! 悶える誰何達!
 掟無用の勝負はもはや乙女?二人によって西瓜割りから外れてしまった。


「っていうかどういうオチだ、これ」
『ねー、スイカ食べていー……?』
「あ、ちゃんと手を洗ってからね」


―― 強制的にどっとはらい。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7061 / 藤田・あやこ (ふじた・あやこ) / 女 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座いました。
 今回は西瓜割りということでこのような形になりましたが如何でしょう? 誰何や天婦羅ミサイルやら素敵なネタを頂いてしまいましたので思う存分使わせて頂きました(笑)楽しんで頂けますよう祈ります。