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河川敷の花火大会 2008
|Д゚) 回覧板〜
いつもの小麦色が恵美に回覧板をわたした。
「あ、どうもです」
|Д゚) かわうそ? これで失礼する
「でも、普通は近所の…」
|Д゚) あーあのおばちゃんはダンス同好会で忙しいと言うから、かわうそ?がお駄賃貰って届けてきただけ
|Д゚) あと、ダンスの他にテニスも始めたとか何とか
「そうですか、ありがとうございます。元気で何よりですね♪」
|Д゚)ノ では、かわうそ?はこれで♪ また後ほど
「のちほど?」
かわうそ?は軽やかに屋根に飛びのり屋根伝いで何処かに消えた。
小首をかしげる。
後ほどって何?
恵美は回覧板の内容をみる。廃品回収日のことや地域コミュニティの情報など…。
そして…『河川敷花火大会』の広告。
「そうね…梅雨が明けたら…花火大会よね」
先ほどの小麦色の言葉も分かる。ああ、アレも行くんだ、と。
この地域の川は結構大きく綺麗で有名だ。
そこで花火が催される。一寸大きなお祭りである。
「みんなで見に行った方が面白そうよね」
そう言って、友だちを誘うことにした恵美であった。
「夏祭り……か……」
ポスターを眺める鳳凰院美香。
隣では買い食いでアイスを食べている弟、紀嗣がいた。
「浴衣、このところ着てないね」
紀嗣が言うと。
「何が言いたい?」
「んー。浴衣姿みたいな♪ って」
「……バカ」
そっぽを向き早足で歩く美香。
「まってよー」
弟は追いかけていった。
織田義明はクローゼットの中から浴衣を取りだし考える。
「浴衣も良いが甚平で喜楽というのもあるな」
色々有るため、彼も『人』として、世俗を楽しみたいのであった。
《前日準備》
|Д゚) あーさー
あやかし荘には鶏がいるか定かではないが、代わりに小麦色が鳴いた。
因幡恵美が、各所に電話をして、来ることになったのは数名らしい。
よく晴れた、夏。この祭りが夏の始まり。
草間興信所。
「あたしも浴衣でいこうかしら?」
シュライン・エマが、自分のタンスの中に眠っていた浴衣と、つい最近女性陣だけで買いに言った浴衣を見比べていた。
「いいんではないか? それほど問題もなかったろう」
草間武彦は、デスクで新聞を読みながら答える。
「クソ、煙草値上がりだと。しかも、祭り区域全面禁煙かよ!」
そっちの方がショックのようだ。
シュラインは一寸ため息を吐く。
「武彦さんも浴衣にする?」
シュラインは訊ねた。
「ん……。俺はいい。動きが悪くなる」
手をひらひらと振って断る。
そんなとき、玄関のドアがノックされる。草間零がぱたぱたとかけよって、ドアを開けた。
「いらっしゃい。あら織田さんと撫子さん。と、イシュテナさんですね?」
「はい、おじゃまします」
「プール事件以来ですね」
「こ……んにちは。初めまして、イシュテナ……イシュテナ・リュネイルです」
織田義明、天薙撫子、イシュテナ・リュネイルがきたのだ。
「こんにちは。みなさん。初めましてイシュテナ。零ちゃんから聞いているわ」
と、小柄なイシュテナと握手するシュライン。
「ど、どうも……」
おどおどと、握手を返す。
「身軽な甚平という手もありますよ」
デスクによって、草間に提案するのは織田。
「む、俺はそんな面倒な」
「甚平さんね……。にあうわね」
「写真で撮ると良いかもしれません」
撫子がにこりと微笑む。
「そうそう、どうして2人は此処に?」
「イシュテナの浴衣の着付け出来る人と挨拶回りですよ。先に済ました方が良いかな、と」
義明が答えた。
「なるほど……撫子さんや恵美ちゃんだけでは忙しいかしら?」
シュラインはふむと考える。
「美香様もおられますからね」
撫子が微笑んだ。
「神社の子も着付けかぁ。って、母親がやってくれそうだけど?」
草間が言うが、
「恥ずかしがり屋で、籠もっています」
義明が苦笑していた。
すこし、時間はさかのぼる。
石神アリスが、影斬を呼び出していた。影斬の姿はまさしく戦闘服の黒い革ジャンにズボンだった。手には刀袋。
「何かようか? 石化魔女」
あまり、人前では見せない影斬の敵意。よほど、嫌われた者だとアリスは思った。
「……えらい謂われようね……」
アリスはにらみ返すが、その視線は彼に何の影響も与えない。
しかし、影斬の敵意が消える。織田義明の、穏和な雰囲気に戻っていった。アリスはそれに驚きを隠せない。
「力を取り戻したいから返せと、言いたいのだろ?」
彼女と目線を合わせる義明。
「ええ、そうよ」
「それはダメだ。君が、正しい道にその力を使い、人に迷惑をかけないようにすると誓うまでは」
「でも私は、その反対の仕事で生きているの」
自分の生き方をそう曲げられるかと反発する。
「知り合いで、それを克服し、表舞台での活躍や正義の味方ではなくとも、沢山の友人を得ている人が居るよ。私はそうでもないがね。いいかい? 石神。君は未だ若い。幾ら力を持っても、それが良き方向に向かなければ、破滅する。他の人にも嫌われるんだ。君が本当に美香や紀嗣、他の人々仲良くするには、力などではない……純真な心なんだ」
「……」
――神だからお説教? とアリスは思う。
「なので返せない。本当に君は、『これで満足なのか?』と聞きたい。改心し、行動で示さない限り、返せない。裏切りと分かれば……君はいられなくなる」
と。
「その問題は置いておき……」
彼は一息吐き、
「皆は浴衣で花火を見ることになっているが? 君はどうするか?」
『義明』はアリスに尋ねた。
「浴衣……ですか……」
アリスは考え、頷いた。
長谷神社。
「皇騎殿! 良く来てくれた!」
平八郎が、皇騎の背中を叩き、酒宴を開こうとしている。
「は、はい、ご無沙汰しております……」
一寸困った顔の宮小路皇騎。
姿は見えないが、面白いのか笑っている静香がいる。
「もう、お父さん。喜びすぎ」
お刺身、天麩羅、サラダとお酒を持ってきた長谷茜が苦笑していた。
「ほんと、息子が欲しかったと構えに言っていたね」
「わしの息子になるのはいいことじゃ!」
「いやその……」
長谷平八郎は、いたくこの財閥御曹司を気に入っているようだが。
|Д゚) 婿養子、色々問題じゃね?
という、お家的問題。
長谷家も実際は大きい。神秘の世界規模という意味では。しかし公的機関との連携はホドホドで、結構神秘専門として大きな動きはない。宮小路は、表も神秘も進出が激しい。かなり方針が異なる。さて、どうしたものか。それは横に置いておこう。
皇騎はしっかり、全ての仕事も終わらせて、茜を花火大会に誘うという事にしていたのだ、しっかりスケジュールを組んでいる。
一寸した団らんの中、逢っていない間、出来事を話していたのだ。
そんなときに携帯に電話。
「はい、長谷です……あらよしちゃん? ん? 着付け? うんうん、え? ぐっとタイミングでいるよ? OK、OK」
「どうしたのです?」
「かわる?」
茜が携帯を皇騎に渡す。
「はい、皇騎です……義明君?」
「皇騎ちゃーん。元気にしてるー?」
返事が大きな可愛い声に変化していたので、驚く皇騎。彼らしくなく、思いっきりすっころんだ。
あちらも、撫子と代わっていたのだ。
「な! 撫子!? どうして?」
慌てる皇騎に、心の中で茜は撫子と義明にハイタッチしているようだった。
|Д゚) してやったりよん
とにかく恵美や嬉璃、五月、鳳凰院や新しい人もふくめて浴衣や甚平さんで花火を見に行こうと言うことを伝えるのであった。
さて、鳳凰院神社から十数メートル離れている鳳凰院家の本宅。
「美香ちゃん、そう言うわけで……一緒に浴衣姿で行きましょ」
シュラインや、零、イシュテナ、アリスが揃って、鳳凰院美香の部屋前にいる。
「そ、そんな、はずかしくて着れない!」
「大丈夫。大丈夫。皆で着るんですから♪」
「そうそう」
「………」
「わたしも、浴衣はよく分からない……。だから、一緒に着たいです……」
イシュテナがいう。
「ううう」
台所では、撫子と紀嗣が弁当の打ち合わせをしていた。
「軽めのもので纏めましょう」
「ん? どうして?」
「草間様達は屋台で食べるようです」
「そうか。粉ものおおいものね」
粉物、脂物が多い分、さっぱりしたサラダや、お酒のつまみを用意しようと言うことで献立テーマはまとまるが、何をつくるかは当日のお楽しみになった。
《着付けと集合》
草間と義明は甚平になり紀嗣は重箱を持って浴衣姿で待っていた。茜を除く女性陣は、あやかし荘で浴衣を着付けることとになった。
「帯はこうしてと……」
「一寸きついよ」
「結構……軽いのですね」
ワイワイがやがやと賑やかである。
あやかし荘の入り口で待っている草間と義明は、茜と皇騎が来るのを見つけ、手を振っていた。
「やっほー、草間さんによしちゃん」
「お久しぶりです草間さん、義明君」
「久しぶりだな」
皇騎がゆっくり出来るのはそうそう無い。
「そろそろだな」
「おまたせしたわ」
シュラインが声をかける。
後ろにぞろぞろ色とりどりの浴衣姿と木履であるいてくる。
「ほほう、華だな」
草間が言う。
「華が一杯だと気持ちが良いのは男性の性ですね」
義明が微笑んだ。
「神がそう言うんすか? 義明さん」
紀嗣が意外そう答える。
「今は人だよ」
「詭弁使いですか」
皇騎が苦笑した。
落ち着いた薄紫に花柄は撫子、金髪を意識しての水色に魚の柄はイシュテナ、黒髪日本人形のようなアリスは濃い青と赤の花、シュラインは、青と白で水面を彩っている。茜はひまわりのように明るい感じの浴衣である。美香は赤に白い花を染めている。零はシュラインと一緒に選んだ、兎が染められた紫の浴衣だ。
皇騎は鳳凰院に改めて挨拶し、イシュテナも因幡恵美や嬉璃に挨拶する。かなり和やかなムードで河川敷に向かうのであった。
「こんな事があってね」
「へえ」
「そうそう、この間にケーキ屋……」
「お、美味しいのですか?シュラインさん」
「今度つれてってあげるわね」
「は、はい!」
「味付けにはね……」
「なるほど……参考になるなぁ紀嗣君」
歩きながら会話。
そこで、イシュテナがこけそうになる。慣れない木履でつまずいたようだ。しかし、そこを美香と零が同時に支えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「大丈夫?」
「はい」
怪我もないし汚れてもない。流石零鬼兵と神格保持者である。
河川敷が見える。少し星が光る中、屋台の灯りと、賑わいが皆を誘っていた。
《屋台で》
場所はもう定番なのか空いていた。というか、そこに謎の小麦色が寝そべっているからだろう。
「………」
美香はシュラインの後ろに隠れて怯える。
「大丈夫よ。あれは」
|Д゚) なんもないー
どうも、この謎生物が苦手らしい。
アリスも、まじまじ見るが、なぜか、この生物のことがよく分からない。
「場所取りありがとう」
皇騎がかわうそ?の頭をなでる。
かわうそ?はぐるぐる喉を鳴らした。
レジャーシートを広げ、女性達は木履などで足を痛めてないか調べて、ひとまず休憩。談話して花火が撃ち上がるまで自由時間となった。
《射的》
射的の屋台に思いっきり人だかりが出来ていた。
シュライン達は、呆然としている。
射的で遊んでいるのはイシュテナ。
「ターゲット、残り5……」
10の弾数で、連続当てや、全てを計算しての命中精度を披露していた。
しかし、浴衣姿の所為で。一寸肌が見えている。見えそうで見えない。
こういった場所では、ローアングラーカメラマンが出てくる。それを草間と皇騎が、引きずりだして懲らしめて、警官の雪野に付きだしている状態が続いていた。
慣れない姿だったので最後の、大きな熊のぬいぐるみと、どこかで見たような小麦色のぬいぐるみはとれなかったが……。まず勝利と言うべきだろう。
「凄いです!」
零が感心している。
「………」
唖然とするのは見学しているアリスに美香に、紀嗣だった。
「さて、俺も腕を鳴らすか」
草間が対抗心を燃やす。
射的の親父は、焦らず、黙々と新しい標的を並べている。
その顔を楽しむのはシュラインだった。
彼女は出かける前に、零や五月に内緒話していた。
「おそらくうずうずしてるだろう武彦さんの顔、見られるのが、だけど。内緒ね?」
「いかさま?」
五月が首をかしげる。
前もってテキ屋の組合に草間が来るとは教えていたのだ。対応策をとりあえず教えていた。
「一寸違うかも? まあ、武彦さんは大丈夫でしょ」
草間は、序盤うまく行くが、
「くそ、上手くおきやがったな。親父」
「勝負ですぜ。草間の旦那」
「見てろよ」
ワクワクするのは彼だけではない。周りの人もだ。特にシュラインさん。
あまり精度の高くない銃で……イシュテナが逃した熊のぬいぐるみを見事落とすのであった。
「うわあああ」
喝采が上がる。
「凄い……」
イシュテナは……驚いた。そして、自分にそう言う感情が有ることも驚いたのであった。
五月と猫、恵美は別の所で遊んでいるが、イシュテナの活躍は聞こえている。
「すごいねー」
「にゃうん」
2人と1匹はヨーヨー釣りで遊んでいた。
《おつまみ》
お酒とおつまみ、屋台の焼きそばや唐揚げなどを買ってきて、義明と撫子は静かに花火が上がるのを待っていた。
「こうしてゆっくり出来るのは良いですね」
「ああ、これと言って問題はないようだ」
冷酒を、義明のお猪口に注ぐ撫子。
「ふう、美味い」
美香達も他の人と一緒に遊んでいる。これほど良い状態はない。
茜もおそらく皇騎を引っ張り回しているだろう。
「ただいまー」
乗り継ぐと美香が帰ってきた。
「おかえり。どうした美香?」
紀嗣が肩を貸している状態だった。
「姉ちゃんが、足を」
「あらま。木履を脱いで」
どうも靴擦れのような症状が出たらしい。
軽く消毒液をかけ、絆創膏を貼る。
「ありがとうございます」
痛みを堪えた美香は、ゆっくりと座り。
「師匠……」
「なんだ?」
「何か不思議な気持ちです」
「そうか」
と、美香の頭をなでる影斬。
それを微笑ましく見るのは撫子だった。紀嗣は一寸複雑な顔だったが。
「そうだ、俺の弁当食べて下さいっ」
と、勧める。
「いただこう」
和やかなときが過ぎていった。
《皇騎と茜》
2人は射的が終わった後、屋台巡りをして、少し離れた場所にいた。
「此処エルハンドが教えてくれたの」
穴場。よく見える場所に。
「そうなんですか」
「もう、自分の世界に帰っていったけど……色々教えて貰った」
一寸悲しそうな茜を、皇騎が抱き寄せる。
「皇騎さん?」
「思い出はずっと残ります。そして今は俺が此処にいます」
「うん」
寄り添うように、2人は花火が上がるのを待っていた。
夜空に咲く大きな一輪が、夜空を彩った。
《花火》
屋台の真ん中で、穴場で、河川敷の土手で、皆は見ている。
アリスは裏の脅しで色々貰っていたところを、かわうそ?に見つかり、かわうそ?に「影斬に言う」といわれ、泣く泣く強奪品(?)を返すはめになったり、イシュテナに異様に人気が出て、ナンパされ彼女がおろおろしているところを、紀嗣と零が助けに入ったり、美香が、シュラインの優しさにドキドキしていたりと、結構和やかに時が過ぎていた。
最後の花火を見終わったあと。祭りの喧噪は、次第に消えていく。
まるで、それが夢の様。幻だったかのように。不思議な余韻を残して……。
《線香花火》
皆が後片づけを済ませ、まとまって帰る為、集合していた頃、道に見知ったワゴン車が止まっていた。
「お父さん?」
「皆疲れているだろ」
平八郎が向かえに来てくれたのだ。
このあと、余韻を確かめるためか、長谷神社で、線香花火をする事となった。冷えたスイカに麦茶が美味しい。
その灯りは、やはり現と幻の狭間。
この楽しさは、なにか?
終わったら、心の中に穴が開く、切なさもある。
しかし……。
――又、行きたいね、とおもうのだ。
END
■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【7253 イシュテナ・リュネイル 16 女 オートマタ・ウォーリア】
【7348 石神・アリス 15 女 学生(裏社会の商人)】
■ライター通信
このたび、『河川敷の花火大会2008』に参加して頂きありがとうございます。
様々な花火の楽しみ方を演出してみましたが、如何でしたでしょうか?
次は海水浴があります。
可愛い空鯨がいる、深淵(ふかぶち)海水浴場です。
其処でも楽しい一時を過ごして頂ければ、幸いです。
では、また別のお話でお会いしましょう。
滝照直樹
20080715
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