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<東京怪談・PCゲームノベル>


『居間にて〜友達〜』

 美味しそうな匂いが流れてきた。
 今晩は、スパゲティだろうか。
「ただいまー」
 玄関から響いてきた声に、朝霧・垂は引き戸を上げて、顔を出した。
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい」
 玄関には、待っていた人物――呉・水香の姿があった。駆けつけたゴーレム達が、頭を下げて迎えている。
「やぁ、お帰り」
 軽く手を上げると、水香が眉は寄せた。
「出たな、煎餅魔人」
「なによ、それ」
 垂は苦笑する。
 そして、戸をあけたまま座椅子に座りなおし、煎餅をヒラヒラと揺らしながら言った。
「制服のままも何だし、着替えてきなよ」
「言われなくても着替えるわよ、行こっ、時雨☆」
「はい」
 時雨はまるでエスコートするかのように、水香の腰に手を回した。
 その様子に、垂は思わず笑ってしまう。

 およそ5分後、Tシャツとゴムの短パン姿に着替えた水香が、居間へ入ってくる。来客を迎えるような格好ではなく、寝間着のような部屋着姿だった。
 お互い、座椅子に凭れて、寛ぎながら煎餅を齧る。
「お疲れさまでした」
 時雨がジュースを持って現れ、水香の前に置いたかと思うと、その手をとって軽くキスをした。
「あっはははははっ」
 思わず、垂は声を上げて笑ってしまう。
「それ、水香さんが躾けたの?」
「ん、まあある程度は。でもちょっと今度の時雨は魅惑的、かな」
 水香は自分が作ったゴーレムに熱い視線を送っていた。
「ご用の際は、お呼びください」
 時雨は深く頭を下げると、居間を後にする。
「前世の記憶を失っているはずなのに『時雨』となっても『フリアルの時』とは全くの別人だね。行動パターンがジザスに似てるよ」
「うーん、そうなんだよね。おっかしいな、魂が変わったからといっても、性格はそんなに変わりはしないはずなんだけど。なんか物覚えもいいし。さっすが第一皇子ってことかしら?」
「いや、ジザスってそんなに頭は良くはなかったような気がする……」
 垂が苦笑交じりに言った。
「えー、馬鹿だったの?」
「ううん、そうでもなかったと思うけど……」
 垂は知っている範囲で、ジザスに関して水香に話して聞かせることにした。
 ジザスがなかなか人望のある皇子であったこと。
 支配欲はないが、皇子としての鍛錬を怠らない人物であったらしい。
 女性に対しては積極的に見えた。
 ただ、あまり恋愛に関しては解ってないようであり……。
 奥さんとは仲がいいとはいえなかったこととか。
 息子のことは愛情を持って育てていたけれど、甘やかしすぎていたみたいだとか。
「そういう色々な考えの不一致で、奥さんやお姉さんからは嫌われてたみたいねー。でも、魔界の皇族の中では、きっとイイヒトだったと思う」
「ふーん」
 気のない返事であったが、水香は感慨深げに聞いていた。
「独身じゃなかったのは残念かな。でも、奥さんと不仲だったのなら、離婚して次の女王は私ってことでOK?」
「ははは、あの国を治める度胸があるのならね」
「冗談よー。住むのはこっちがいい。姫様ってなんかイイと思わない? でも女王とか皇妃って堅苦しくて、自由な行動ができなさそうで、絶対ヤダよね」
「ま、よほどの覚悟じゃないと、第一皇子の元には嫁げないだろうね」
 2人同時に、煎餅に手を伸ばす。
 垂は海苔煎餅、水香は昆布煎餅をとって、音を立てて食べ始める。
 飲み物を飲んで、一息ついて……互いに、平和を感じていた。
「そうそう、話は聞いたけどさ、悪魔契約書の夢魔か何かに『連れて行かれそうになった』ってのに、即行でゴーレムに魂込めるなんて、相変わらずだね。らしい、と言っちゃらしいけど」
 垂が笑みを浮かべた。
「契約書さえ持ってなきゃ平気平気。今頃所持者が連れて行かれそうになってるかもね〜」
「いや、そういう問題じゃないと思うけど……まぁ、元気そうで良かったよ、悪魔と関わると下手すりゃ後遺症が残ったりもするからね」
「こーいしょー!?」
 水香が驚きの声を上げた。
「うん、精神的におかしくなったりね。でも、水香さんは大丈夫そうだ。もともとそんなカンジだったし」
「そんなカンジってどんなカンジだろう。ま、私は世界一の発明家だから、凡人とは思考能力が違って当然なんだけどね!」
「否定はしないでおくよ。一応水香さん以上の発明家、知り合いにいないし。……あ、そうそう」
 垂は鞄に手を伸ばす。
「そういえば、連絡先教えてなかったよね?」
 パソコンで作った名刺を取り出して、テーブルに置いた。
「これ私の携帯アドレスと番号。交換しよ」
 水香は名刺を手に取った後、ぴらぴらと揺らしてこう言った。
「こんなモンもらっても、失くしちゃうんだよねー。仕事の依頼は、直接来てくれた方が細かいことも聞けるし」
「そうじゃなくてさ、えーと……友達だから?」
 その言葉に、水香は訝しげな表情を見せた。
 そして、うーんとちょっと唸った後、自分の携帯電話を取り出した。
 垂の番号を入力して、発信する。
 垂の電話が鳴った途端、電話を切る。
「メールは時間が出来たら送るかも。出来ないと思うけどね〜」
「了解ー」
 アドレス帳に、受信した番号を登録しながら、垂は立ち上がった。
「それじゃ、今日は帰るよ。家族団欒の夕食、邪魔しちゃ悪いしね」
「いいよ別に。食べてけば?」
「それは次の機会にね。というか、今度何処かに遊びに行こう、皆一緒に、ね?」
 その言葉にも、水香はちょっと困惑した表情で……。
「気が向いたら付き合ってあげてもいいわよ」
 と答えたのだった。
「ん、それじゃ〜ね〜」
 垂は呉家を後にする。
 ……門の前で振り向くと、玄関に立ったまま水香が携帯をいじっていた。

 数分後、メールが一通届く。
『夏祭り行こうか。今年は純粋に楽しめると思うだよね! ☆水香☆』

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6424 / 朝霧・垂 / 女性 / 17歳 / 高校生/デビルサマナー(悪魔召喚師)】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
時雨の変わりっぷりに、ご反応くださり、ありがとうございました。
あと、友達の少なそうな水香を構っていただき、感謝ですー。
発注ありがとうございました!