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<東京怪談・PCゲームノベル>


はがねんとプールサイドの女王様たち

〜 例によって例のごとく 〜

「鋼、今度の週末は空いてまして?」
 そう言いながら女王征子(めのう・せいこ)が取り出したのは、最近できたばかりのとあるテーマパークのチケットだった。

 例によって例のごとく、先輩に呼ばれて東郷大学に来ていた鋼。
 これまた例によって例のごとくの大騒ぎからどうにかこうにか抜け出した彼を、征子はしっかり待ち伏せていたのである。
 今回の騒ぎにも悪党連合が関わっていたことを考えれば、あるいは全て彼女の計算通りなのかもしれない。

「……うーん、多分大丈夫だと思うけど」
 即答を避ける鋼に、征子はその反応を予期していたかのようにこう答えた。
「返事は今すぐでなくても構いませんわ。もちろん早い方が嬉しいですけど」





 そして、その日の帰り道。
 これも例によって例のごとく、聞き覚えのあるエンジン音に鋼が振り返ってみると、そこにはやはり見慣れた黒のスポーツカーの姿があった。
 もちろん、最上京佳(もがみ・きょうか)の車であることは言うまでもない。
「つれないな、鋼。せっかく大学まで来ていたなら顔を出してくれてもよかっただろうに」
 つまらなそうに言う京佳に、鋼は苦笑いしながら弁解する。
「いや、だって京佳さんも仕事中だったし、俺が行くとまた色々騒ぎになるからさ」
 すると、京佳は一度小さくため息をついてから、機嫌を直していつものように微笑んだ。
「まあいい。そんなことより、鋼にちょっと聞きたいことがあってな」
「いいけど、聞きたいことって?」
「ああ、今度の週末だが、もし空いてたら一緒にどうかと思ってな」
 ……そう言いながら、京佳が取り出したのは……もちろん、先ほど征子に誘われたのと全く同じテーマパークのチケットだったのである……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 相変わらずの神経戦 〜

「……で、結局こうなりますのね」
 そう呟いて、征子はやれやれとばかりに首を横に振った。

 征子と京佳にほぼ同時に、しかも全く同じ場所に誘われた以上、鋼がとるべき道は一つ。
 すなわち、「行ってもいいけど三人で」と双方に答えることのみであった。
 そしてその返事を聞いてしまった以上、二人としても「それで構わない」と答えるより他になく。
 結局、今回も三人での「変則デート」という形になってしまったのである。

 実のところ、これ以外に落とし所がないのも事実であるが、これは三人のうち誰にとっても理想的な形ではない。
 京佳と征子にとっては「邪魔者が、それもお互いに一番厄介だと思っている相手が一緒にいる」からなのは言うまでもないが、鋼にとっても「二人の板挟みで何かと神経を使う」この状況は、少なくとも全く楽しくないと云うことだけはないにせよ、楽しい以上にかなり大変な状況なのである。





 ともあれ。
 そんなこんなで、三人はテーマパークに辿り着いた。
 関東某所に新設されたこのテーマパークは、巨大な屋内プールのテーマパークであり、様々なアトラクションから宿泊施設までを兼ね備えていることで、最近いろいろと話題になっているところでもある。

「待たせたな、鋼」
 プールと言えば、当然水着に着替える必要があるわけで。
 真っ先に着替え終わったのはもちろん鋼なのだが、次に着替え終わって出てきたのは京佳の方だった。
「あまり派手な水着は、さすがにもう似合わないからな」
 少し照れたようにそう言った京佳の水着は、黒のAラインワンピース。
 胸元やスカート部分などはレース生地になっており、シルバーのラメがアクセントを添えている。
「俺は、そういうのも上品な感じでいいと思うよ」
 鋼がそう感想を口にすると、京佳は嬉しそうに笑った。
「そうか。鋼にそう言ってもらえて嬉しいよ」

 と。
「鋼、私はどうかしら?」
 そんなことを言いながら、着替えを終えた征子が二人の方へやって来た。
 こちらは赤のセパレート水着で、トップはホルターネック、ボトムはローライズタイプ。
 水着自体は無地で特に飾りのようなものも見あたらないシンプルなものだが、裏を返せばそれだけ自信があるからこその「直球勝負」なのであろう。
 実際、京佳もスタイルは決して悪い方ではないが、征子の方がさらにそれより上である。

 とはいえ、真っ正直にそんなことを言うわけにもいかないし、これはこれでコメントに困る。
「えーと……うん、征子さんらしくて、似合ってるんじゃないかな」
 少し悩んで返した言葉は、何とも微妙な感じになってしまったが……満足そうな表情を見る限り、征子はそれを普通に褒め言葉として受け取ったらしい。

 こうして、鋼はひとまず最初の難局を切り抜けたのであった。

「……露出を増やせばいいってもんじゃないぞ、小娘」
「あら、私はまだ曲がり角の前ですから問題ありませんわ」

 ……ちょっと目を離した隙に聞こえた声については、聞かなかったことにするのが正解というものだろう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 やじろべえな気分 〜

 案の定というかなんというか、着いてものの数時間で、鋼は見事に疲れ切っていた。

 デートの場所に同じところを指定してきたにしては、二人とも好みが全く違うのだ。
「ここに来たらやっぱりウォータースライダーですわ。まずは一通り試してみたいところですわね」
「……そうなのか? せっかくだし、向こうの広いプールでのんびり泳ぐのもいいと思うが」

 そして、こうして意見が食い違うたびに……。
「鋼はどう思いますの?」
「そうだな、私も鋼の意見が聞きたい」
 こうやって、鋼のところに決定権が回ってくるのである。
 回ってくるのが決定権だけならいいが、行使の仕方を間違うとどちらかの機嫌を損ねる危険性までついてくるのだからたまらない。
 いかにバランスをとりつつ、二人に不満をためさせないようにしていくか。
「うーん……あそこのスライダー、今結構空いてるみたいだし、まずあそこ行ってみようか?
 何も全部立て続けに行かなくても、いくつか行ってから向こうのプールに行ってもいいわけだし」
 難問パズルを制限時間つきで解かされているようで、なかなか気の休まるヒマがない。

 それだけでも厄介なのに、二人が時々抜け駆けでアプローチをかけてくるのがさらに困りものである。

「そうですわね。それじゃ、行きましょう?」
 嬉しそうにそう言いながら、征子がさりげなく鋼の手を取る。
 当然、それを京佳が黙って見逃すはずはない。
「おい、どさくさにまぎれて何をしている!?」
 征子を牽制しつつ、京佳も負けじと鋼の逆の手を取り、その上ぐっと引き寄せようとする。
 もちろん京佳は京佳なりに力加減はしているのだろうが、苛立ちのせいかその加減はいささか不十分であり……。
「きゃっ!?」
 鋼はどうにか踏みとどまったものの、一緒に引っ張られる形になった征子がバランスを崩し。
 当然、位置関係的に、そのまま鋼が抱き止める形になって。

「鋼……」
 ここぞとばかりに抱きついてくる征子に、ますます腹立たしげな様子を見せる京佳。
「一時休戦と言いつつ、さっきから何度も何度も……」
「あら?  今のは最上先生がいきなり引っ張ったせいじゃありませんこと?」

「二人とも、何度も言うけどケンカはなしで頼む……」
 その言葉で、最悪の事態だけは免れたものの……到底「難しいことなど考えずに楽しめる」状況にはなり得ないのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 厄介事は頼まなくてもやってくる 〜

 と、そんなことが何度もあった後。
「あ、俺ちょっと飲み物でも買ってくるよ」
 そう言って鋼が少し一人になろうとしたとしても、誰がそれを責められようか?
 もっとも、実際一人になったらなったで、目を離した隙にあの二人がケンカしやしないかと気が気でなく、結局全く気は休まらなかったのだが。





 ところが。
 鋼が二人のところに戻ってみると、全く別の問題が起こっていた。

 京佳も、征子も、少なくとも外見だけ見れば「かなりの美人」と言って差し支えないレベルである。
 そんな美女が二人だけでいれば、当然男どもが寄ってこないはずがない。
 もっともこの二人の場合、二人きりにしておくと相当険悪な空気をかもし出すことが多いため、それに圧されて変な連中も寄ってこないだろうと鋼は考えていたのだが……そういった連中の「空気の読めなさ」っぷりを、鋼は少々過小評価していたらしい。

 明らかにナンパ師と思われる男が数人、二人を取り囲むようにして集まっている。
 もちろん二人の側にその気はないのだが、相手も引き下がるつもりは全くないようで、そろそろ京佳の堪忍袋の緒が切れかねない雰囲気である。

 このままにしておいては、大惨事を招きかねない。
 そう考えて、鋼は小走りで二人のところに向かい、ナンパ師どもの間をすり抜けるようにしてその輪の中に入った。

「二人とも、お待たせ」
 さりげなく二人に飲み物を渡して「二人と親密な関係である」ことをアピールした後、鋼はナンパ師たちのリーダー風の男の方に向き直ってこう言った。
「悪いけど、この二人は俺の連れだから。他あたってくれないか」

 その言葉に、ナンパ師たちは腹を立て……るというより、むしろぽかんとした様子で顔を見合わせ、やがて揃って大笑いを始めた。

 もともと小柄で童顔、その上女顔の鋼は、しょっちゅう女性に、それもひどい時は女子中学生あたりに間違えられたりもするのだが、さすがに水着を着ている今日に限ってはその心配はない。
 その心配だけはなかったが、せいぜい女子中学生から男子中学生に変わった程度で、目の前の美女二人の「連れ」であるとはとても認識してもらえなかったようである。

「面白い子だね。どっちかの弟?」
「子供なんて遊ばせておきゃいいじゃん。オトナはオトナ同士で遊ぼうぜ?」
 鋼の言葉を聞き流し、鋼を無視して二人に話しかけ続けるナンパ師連中。

 その様子に、ついに京佳がキレた。
 無言で、手近にあったビーチパラソルの軸を強く握る。
 頑丈な鉄パイプであるはずの軸に、くっきりと京佳の握った跡がつく。

 唖然とするナンパ師たちを一瞥し、京佳は一言こう言った。
「私の連れに、何か文句があるのか?」

 もちろん、ナンパ師連中が一も二もなく逃げ去ったことは言うまでもない。





「……またやってしまったか」
 我に返り、大きなため息をつく京佳。
 こうするしかなかったとはいえ、怪力故に恐れられているのは、彼女にとってはコンプレックスの一つでもある。
「いや、でも京佳さんのおかげで丸く……はないけど、血を見ずに収まったわけだし」
 なんとかフォローする鋼に、京佳は一度寂しそうに笑って……突然、すっと立ち上がった。

「こうなったら今日はとことん遊ぶぞ! 鋼、ついてこい!」
「えっ!? わかった、わかったからそんな引っ張るなって!」
「最上先生!? あなたこそ抜け駆けは卑怯ですわよ!?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 「週末」と言えば 〜

 そして。

「まあ、いろいろあったけど今日は楽しかったな」

 そうこうしているうちに、すっかり夕方となり。
 鋼が、そろそろ返り支度を始めようとした時。

「ん? 閉まるまでにはだいぶ時間があるし、まだいいだろう?」
「そうですわ。せっかくですし、時間いっぱいまで遊んでいきません?」
 いっこうに帰ろうとする様子を見せない二人だが、ここは三人の住む辺りからはだいぶ離れている。
「さすがにそろそろ帰らないと、家に着くのが遅くなりすぎるんじゃ……」

 と、鋼がそこまで言った時だった。 
「何を言っている? ここにはちゃんとホテルもあるんだ。今日は泊まっていこうじゃないか」
「最上先生の言う通りですわ。鋼も『週末は』空いてるんでしょう?」

 どうやら、二人ははなから一泊二日のつもりで来ていたらしい。
 言われてみれば、確かに今日は土曜日で、「週末」は明日までである……が。

「いや、でも、ほら、泊まるとなるといろいろと!」
「心配するな。二部屋以上にすると絶対もめると思って、四人部屋を一つとってある。
 それに、少なくとも私は今日は帰る気はないが……一人で帰るのか?」

 京佳の言葉に、鋼は今日ここまでどうやってきたかを思い出した。
 このテーマパークは、広い敷地を確保するために郊外、それも鉄道の駅からもだいぶ離れた場所にある。
 そのため、今日は京佳の車に三人で乗ってきたのだが……その京佳が帰らないとなると、帰りたくても足がない、ということになる。

「は、謀られた……」
 こうなっては、さすがの鋼も白旗を揚げざるを得ない。

「決まりだな。それじゃ、ひとまずそこのレストランで夕食にでもするか?」
「そうですわね。それくらいしてもテーマパークは逃げませんし」
「そう、そしてもちろん鋼も、な?」

 してやったりと言った様子の二人を見て、鋼はこう思わずにはいられなかった。
(だから、何でこういう時だけ息ピッタリなんだよ?)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)

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■         ライター通信          ■
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 西東慶三です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

 テーマパーク系あまり詳しくないもので、実在のいろんな施設(のサイトなど)を参考に書いてみましたが。こんな感じでよろしかったでしょうか?

 ともあれ、何かありましたらご遠慮なくお知らせ下さいませ。