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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『他力本願旅行(旅行編)』

「いやー、涼しい風が入ってくるな〜。東京の風とは大違いだ。久しぶりに良く眠れそうだ」
 興信所を2日ほど閉めて、草間・武彦御一行は、北海道札幌市に来ていた。
 除霊の依頼を受けて赴いたのだが、当の草間自身は仲介役であり、除霊を手伝うつもりは全くなかった。
 しかし、案の定巻き込まれて、霊に叩かれて頬が腫れ上がってしまっている。……いや、草間の頬が腫れているのは、実は別の理由だが。
 ともかく、依頼を一応解決に導いた草間達は、穏やかな夜を迎えようとしていた。
 夕食は豪華ではなかったが、健康的な家庭料理であり、皆残さず美味しく頂いた。
 その後、部屋に戻って、お礼として出された酒とつまみを囲んで、小宴会を行なっている。
 翌朝は、草間・霊と合流して観光に出かける予定だ。
「明日の俺の予算は5万だ。さーて、何を食べるか、どこ行くか〜♪ やっぱ札幌競馬場か〜♪」
 ほろ酔い状態の草間は、頬の痛みも忘れて上機嫌であった。
「もう、そんなところに行ったら、お金全部飛んじゃうわよ」
 そう言いながら、シュライン・エマは草間にビールを注ぐ。まだこれくらいなら大丈夫だ。草間が飲みすぎないよう、シュラインはそっと酒類を自分の方へ引き寄せておくのだった。
「明日は車を借りて北海道を回ってみようと思っているのですが、どこかお勧めの場所はありますか?」
 シュラインは老夫婦にそう問いかけた。
 老夫婦も草間同様上機嫌で、日本酒を飲んでいた。
「5万円の予算っつったら……やっぱ、札幌競馬場だろう。50万くらいに増やさないとなー」
「こら、あなたっ」
 主人の言葉を、妻が嗜める。
「でも、牧場はのどかでいいかもしれませんよ」
「そうですね。車から見ても癒されるかも」
「あと今の時期は、ラベンダーがとても綺麗なんですよ」
 そういえばラベンダーの時期だ。富良野まで行くのは大変そうだが……。
「札幌でも見られる場所がありますが、ドライブ中心の観光でしたら、富良野まで出てみるのもいいかもしれませんよ」
「富良野かー、ちょっと遠いが、興味はあるな〜。な?」
 草間が黒・冥月を見る。
「元々私は観光目的じゃないからな。お前達の好きな場所を選べばいい」
 冥月はあまり関心がないようだ。
「そうねえ……」
 見たい場所は色々あるけれど、何せ北海道は広い。千歳空港発羽田行きの最終便に間に合わせるためには、明日、観光に使える時間は10時間もないだろう。
 シュラインが色々と思いをめぐらさていたところ、突如携帯電話が鳴り響いた。
「はい……あ、零ちゃん」
 電話をかけてきたのは、一人別のホテルに宿泊中の草間・零であった。
「うん、こっちは大丈夫よ。零ちゃんは楽しんでる? ……そう、それは良かった」
 電話から聞こえてくる声は別れた時同様、とても明るく楽しげであった。
 シュラインは零にどこに行きたいか聞くと、零は滅多に聞くことがないほど元気な声で『ラベンダーが見たいです!』と答えたのだった。
 会話を終えて電話を切ると、草間は老夫婦とさっぽろ雪まつりの話で盛り上がっていた。
 時期ではないので見ることはできないが、その時期にも是非来たいものだ――。
 そう思いながら、陽気でまったりとした夜をシュラインは楽しむのだった。

 そのまま寝てしまいそうな草間に、浴衣に着替えるよう指示を出し、シュラインは再び机を片付け、脇に寄せておいた布団を並べなおす。
 冥月は窓際の布団に入り込み、早々に眠ってしまう。
 草間は半ボケ状態で着替えた後、シュラインに導かれ、廊下側の布団に横になった。
「頬、大丈夫?」
 シュラインは濡れたハンカチで、草間の頬を冷やす。
「んー、平気。風呂にも入ってないしな……」
 シュラインが団扇で扇いであげると、草間はすぐに眠りに落ちた。
 無呼吸の症状などがないことを確認して、シュラインは立ち上がり、自分も民宿の浴衣に着替えた。
「お休みなさい」
 冥月と草間にそう言って明りを落とし、シュラインも布団に入った。

    *    *    *    *

 翌朝、早起きをしてシュラインと草間は露天風呂に入っていた。
「シュライン、こっちに来ないかー!」
 男湯と女湯は衝立で仕切られているだけであったが、行き来は出来ないようになっている。
「武彦さんこそこっちに来る〜? 美女がいるわよっ」
「なにっ!?」
 草間の反応に、シュラインはくすりと笑う。
 こんな時間に入浴しているのは自分達だけであったが。

 その後、冥月と合流し、朝食を頂くことにする。
 朝食は、ご飯に味噌汁、焼き魚とサラダ、そして煮物が1品だった。
 素朴な美味しさがあったが、草間には少し物足りなかったようだ。
 入浴前に準備を済ませてあったため、食事を終えた直後に、3人は民宿を出発することにした。
「また何かあったら、呼んでください。コイツが責任持って対処いたしましから」
 言いながら、草間が冥月の肩をパンパンと叩いた。
「古風でいい宿だな。世話になった」
 冥月は草間をつねり上げながら、出迎えに来てくれた民宿の面々に礼の言葉を述べた。
「ありがとうございました。また何かありましたら、ご相談ください」
 シュラインは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
「お気をつけて!」
「観光、楽しんでくださいね」
「是非、またお越しください。いつでも大歓迎です」
 老夫婦達の暖かい言葉を受けながら、一行は民宿を後にしたのだった。

「駅まで出てレンタカー借りるか〜」
 草間がそう言いい、駅に向かって歩き出す。
 散々世話を焼いてもらっているだけあり、荷物の大半は草間が持っていた。
「まて、レンタカーでちんたら走ってたら日が暮れる」
 突如、冥月が立ち止まり、影を物質化させる能力で影から車を出すのだった。
「な、何だこれは!?」
「ポルシェだよ、黒のポルシェ911。見りゃわかるだろ。ぐずぐずしてないで、乗れ」
 言って冥月は颯爽と運転席に乗り込む。
「ほおお……よく出来てるな」
 草間は後部座席に乗り込み、その隣にシュラインが乗り込んだ。
 途端、車は急発進をする。
「ぐはっ」
「きゃっ」
 草間とシュラインが小さく悲鳴を上げる。
「荒っぽいが気にするな」
「いやまて、車検証がないことはまあ気にしないでおこう。スポーツカーのくせに、後部座席の座り心地もいい! しかし、走ってるのは、日本の国道だぞ!?」
「ははは、細かいことは気にすんな」
 冥月が急ハンドルを切る。
「ぐおっ」
「きゃあっ」
 再び、草間とシュラインは悲鳴を上げる。
「おい、車体が浮いたぞ、今!」
「ははは、気のせい気のせい」
 草間とシュラインは思わず手を取り合う。
 ここが北海道でよかった。真直ぐな道路万歳!
 山の中なら確実に谷底だ。

「それでそれで、夕食のバイキングに、お刺身とか、カニとか、見たこともない料理も沢山出てきて、ほんと、凄かったんです凄かったんですっ!」
 合流した零は、上気した顔で高級ホテルでの1日を語った。
 零は温泉だけではなく、室内のプールも楽しんだらしい。
 1人だというのに、部屋は草間興信所と同じくらいの広さの部屋であり、ベッドは普段使っている布団とは比べ物にならないほど、寝心地が良かったという。
「けど、露天風呂には入れなかっただろ〜。街中じゃ、そんなもんないもんな。あっても見れるのは人工的に作った庭くらいか?」
 草間の言葉にはちょっと嫉妬が入っているようだ。
「でも、身体を見られると嫌なので露天風呂は入りにくいですから。本当に楽しめたので、もう十分です」
 零の幸せそうな顔に、シュラインの顔もほころんでいく。
「それじゃ、しっかり捕まってろよ」
「はいっ」
 冥月の言葉に、零は素直に従う。
 草間が助手席に座り、零は後部座席に乗り込んでいた。
「ええと……」
 草間が民宿で貰った地図を引っ張り出そうとする。
「地図なんか不要だ。方向はわかってる」
 そう言って、冥月は車を発進させる。
「いや、こっちは繁華街……そうか。歓楽街で女引っ掛ける気か〜、さすが色男ッ」
 ゴスッ
 冥月の鉄拳が草間の頭に飛んだ。
「あつっ、おま……こんな所で殴るな、避けれねぇだろうがっ」
 草間は殴られた頭を左手でさすった。
「ったく、直ぐに暴力に出るところがまさにおと……」
 冥月が急ハンドルを切りながら、軽く目を草間に向けた。
「い、いや、なんでもないぞなんでも……」
 さすがに命の危険を感じたのだろう、草間もそれ以上軽口は叩かなかった。

 札幌を出発して、およそ一時間で富良野へと到着をした。
 およそ普通の倍の早さである。
 よく警察に捕まらなかったものだと思いながらも、捕まったら捕まったで、冥月なら上手くやりすごすんだろうなーなどと、シュラインは考えていた。
「見て、シュラインさん、まるで絨毯です! 凄い凄い、美味しそうー!!」
「れ、零ちゃん、表現がちょっと変かも……。でも、本当に綺麗ね」
 零の言うとおり、車の窓から見たラベンダー畑は、大きな大きな紫色の絨毯のようだった。
 遠くには色とりどりの花が見え、それはまるで絨毯に描かれた美しい模様であった。
 草間は何も言わずに、見入っている。
 冥月は何度も来たことがある場所だから、あまり興味はなかったが、それでも綺麗だと感じてはいた。
 時々途切れては、また紫色の絨毯が現れる。
 1時間くらい富良野周辺を走り回り、広いラベンダー畑の中の展望台近くで車を止めた。
 零は子供のように、展望台に駆けて行き、東京では決して見られない風景に、驚きと喜びの表情を見せていた。
 その後、売店でラベンダーホワイトチョコレートアイスクリームというものを、4人で食べるのだった。
「さてと、他に行きたい場所は?」
 草間と零はもう十分満ち足りているようであり、特に意見を出さなかった。
「んー、有名なチョコレートファクトリーに行ってみたいわ」
 シュラインが控え目にそう発言をする。
「冥月、お前こそ行きたいところはないのか? 一応、今回の仕事受けたのお前だしなー」
「別に……しかしまあ、時間が余ったら寄りたいところはある」
 そう言って、アイスの包み紙をゴミ箱に投げた後、冥月は車に向かって歩き出す。

 昼食は、国道沿いにあった、海鮮料理屋に入り、個室で豪華海鮮料理を食べた。
 シュラインが止めなかったのは、これが冥月のオゴリだったからだ。
 草間はとってもご機嫌状態であり、零は2日続けての豪華な料理に浮かれ続けていた。
 行きよりも若干ゆっくり――それでも時速100キロは超えていたが――車を走らせながら、2時ごろ、有名なチョコレートファクトリーに到着を果たす。
「お菓子で作ったみたいです。美味しそう」
 零はまた、そんな感想を漏らした。
 ただここの建物は、日本の建物とは違う作りになっている。人形が並べられ可愛らしくもあるその建物は、世間知らずな零には美味しそうに見えるのだろう。
 しかし、施設内で浮かれていたのは、主にシュラインであった。
 チョコレート作りの工程には真剣に見入っており、メモまでとっていた。
 巧みに草間の金遣いの軌道を修正してきたシュラインだが、自分が散財してしまいそうなほどに、売られている数々のチョコレートに見惚れていた。
 ギリギリケーキバイキングの時間に間に合ったため、カフェでケーキタイムを楽しむことにする。
 シュラインはまず、チョコレートケーキを数種類。
 零はラベンダーケーキに、オレンジケーキを取った。
 草間はモンブランに、チーズケーキ。
 冥月は柄ではないと言いながらも、シュライン同様チョコレートケーキを数種類持って来た。
 お腹いっぱい食べた後、お土産を購入して、チョコレートファクトリーを出発する。

 最後に向ったのは、オルゴール館であった。
 冥月にとって、大切な思い出の眠る場所――亡き彼と昔仕事で来た時一緒に作った館だ。
 いつになく哀愁漂う冥月の様子から、シュラインは零を連れて、静かに館内を見て回った。
 可愛らしいオルゴールに、美しいオルゴール。
 心に響く音色が、哀しいくらい切なく感じた。
 人形の形をしたオルゴールは、優しい音を奏でていた。
 宝石箱のようなオルゴールからは、神秘的な音楽が流れ出す。
 そういえば、草間もオルゴールを持っていた。話せなかった約束を秘めたオルゴールを。
 切ない想いを胸に、女性達はオルゴールを見て回っていた。
「何だお前、男と付き合ってたのか? 男同士でこんな立派な館建てるとは――」
 ……当の草間は、デリカシーのない発言で、冥月にどつかれていたが。

    *    *    *    *

「ケチ臭い事言うな。いい、奢ってやる。遠慮せず食え」
 繁華街に戻った一行はこれまた、冥月のオゴリで、豪華な夕食を食べることができた。
「言っておくが、本当に払えんからな!」
 そう念を押してから、草間は高級寿司を頼み、続いてジンギスカンに若鶏の半身揚げ、その高級料亭のありとあらゆる高価なものを食べ捲くった。本当に遠慮もなく。
 シュラインは少し申し訳なく思いながら、滅多にないことだからいいかな……と楽しそうな皆を眺めていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、千歳空港で最後のお土産探しを行なっていた。
「あの娘達への土産忘れるなよ」
 冥月が棒状のもので草間の頭をコンコン叩きながら言った。
 見上げれば、木刀の束を持っている。
「お前、なんだそれは?」
 草間の問いに、にやりと笑みを浮かべる。
「珍しいものが大量に売ってたからな、全種類買ってみた」
 その木刀には、各国のトップの名前が入っている。
 いつぞやの国際会議で売れ残った品らしい。
 草間は思わず苦笑する。
 それともう一つ冥月は有名な生キャラメルも購入した。
 草間はメロンとカニ、それぞれ高級品を買い、宅急便で送ることにする。
「持っていかないのか?」
「ああ……」
 冥月の言葉に、草間は静かに答えた。
 冥月はコツンと再び草間の頭を叩く。
「カッコつけんなよ。本当は会いたいくせに」
「まあ……そうかもしれんな。しかし、いつまでも面倒見てやってたら、独り立ちできんからな……」
 草間は小さく笑った。

 飛行機の窓から、零は雲を見てはしゃいでいた。
 こういうことも、零には滅多に体験できることではない。
 草間と冥月は飛行機の中でもどつき合いをしていたが、そのうち疲れたのか眠ってしまった。
 2人の安らかな寝顔。そして、窓に寄りかかってやっぱり寝てしまった零の顔を見ながら、シュラインは一人穏やかに微笑んだ。

    *    *    *    *

「ええっと、残金は……3万円!」
 草間は1万円札3枚をぴらぴらと揺らした。
 場所は草間興信所。
 時刻は夜23時。
 草間一行の1泊2日の仕事&旅行は終りを告げていた。
「はっはっはっ、持つべきものは友だよなー、冥月」
 草間は冥月の肩をバシバシと叩いた。
「武彦さん……」
 仕事を依頼している立場の者が散々奢ってもらってどうする……。側で見ていたシュラインは密かにため息をついた。
「草間、他に私に何か言う事は?」
 冥月が不敵な目で草間に言った。
「あ、そうだな」
 草間はちょっと頭を掻いた。
 そして、真剣な目で冥月を見る。
「冥月」
 草間が冥月の肩を引き寄せた。
「次は、沖縄だ! そうだ、沖縄にしよう、離島回り放題、スポンサー冥月様〜♪」
 …………。
 ゴスッ
 冥月は優しく草間に一撃くれてやった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【NPC / 草間・武彦 / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵】
【NPC / 草間・零 / 女性 / ?歳 / 草間興信所の探偵見習い】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
『他力本願旅行(旅行編)』にご参加いただきありがとうございました。
草間も零も、凄く楽しませていただきました。
身の回りから、金銭面までお2人にお世話していただいてしまいました。本当に他力本願でした(笑)。
いつかはあの姉弟達も旅行に連れていけるといいですね。
楽しい一泊二日の旅をありがとうございました。