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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


Lady and Saw Delusion


 苛めとは……ある一瞬の出来事から始まり、しかとや悪口、時には暴力にまで発展する“虐待の一種”であろう。それは外界、主に会社や学校で見られ、被害者に精神的な傷を植え付ける事が出来る。その傷はよほどのことがない限り永久に残り、時折気が狂うほどの痛みを伴って血をだらだらと噴出す。

「また今日も苛められた」
 彼女はぽつりと呟いた。夜、踏み切りの近くで立ち尽くしている女性。かあんかあんと鳴る踏み切りの赤いライトに照らされて、彼女は手に持った鋸をゆっくりと構えた。
「今日こそは、今日こそは……復讐する。復讐……する」
踏み切りの音。それは警告か、後押しか。鋸にもライトは当たる。もうすでに血に染まったかのような赤い鋸。
「凶器と勇気が、あれば……復讐、出来る。復讐……出来る」


 神聖都学園で、夜な夜な血まみれの死体が見つかるようになっていた。それは喉や四肢を切断され、ある教室にばらばらになったまま転がっていると言う。被害者は大抵の場合、教室内でグループを作って明るく話している女子生徒。もしくは、乱暴な素振りが多い男子生徒だ。
「本当に、信じられない」
テレビの中で――被害者の友達は、いつだってそう呟く。
「とてもいい人だったのに。なんであの子は死ななきゃいけなかったの?」


 踏み切りに立つ女性。目を閉じれば、こちらに向かって鉛筆を投げてくる男子生徒が居る。こちらを向いてひそひそ話し、にいっと口の端を吊り上げる女子生徒が居る。どこまでも黒い影にぎらぎらした赤い目を持つ悪魔。私がこんなになってしまったのは、あなたの所為なんですよ? 知っていましたか? 口を動かそうとすれば、そんな言葉ばかりが喉の辺りにまで込み上げてくる。教室の隅にぽつりと座る自分が居る。
『助けてあげるよ』
脳みその中にまで響くような声。鋸の声。
『大丈夫。僕が居れば、大丈夫。君を苛める人は、みんな僕がやっつけてあげるよ』
女性は笑った。「そうね」と、笑った。
『きっと、助けてあげるよ』
もう、自分を笑うものはいなくなる。指を差して陰口を叩く人はいなくなる。その後のことはどうでもいい。真っ白な空間で、誰にも愛されず過ごしていられればいい。傷つく側から、傷付ける側に廻るのだ。そうでなければ……心が死んでしまう、と。


 事件が始まった直後、調査依頼が誰もの耳に届くようになったのは、言うまでも無い。



 見下ろす視線、虚ろな目。じわじわと滴るは血。彼女に近づくのは小鳥のみ。細い呼吸は風に消されて、どこか遠くに染みていく。これは誰の為の復讐か。気付けば全てが色褪せる。知りながらにして認めない。許すも許さないも生まれない。あるべきものは自分の命だけ。恐れる物はなにもない。ただ、この世界を終わらせて欲しいだけ。この道に休息が欲しいだけ。誰が正しいなんて、人には決められない。いくら涙を流しても、彼らはにやりと笑うだけ。
 人は自分なしじゃ生きられないのだから……終末を選んでしまえば、本当なら何が起きたって誰にも咎められる事は無いのだ。
 つまり。勝手でない人間なんて、どこにもいるべきではない。


「あのね、ご飯を食べてたんだ」
 暗い教室。月光を浴びてじわりじわりと染まる血が、床に黒く赤く溺れている。牢獄のような部屋に一人佇む少女は、扉を潜った一人の女性に気付き、笑顔を作った。目を凝らさなくても解る、少女の白い肌と黒い髪は、真紅の血液に彩られている。
「名前は?」
 女性が少女の方へと近づいた。薄く広がる血だまりに、鳥の脚の形をした義足がぴちゃぴちゃと音を立てる。
「えーっとね、ロルフィーネ・ヒルデブラント」
「ロルフィーネ。……私は、鳥塚」
 鳥塚と名乗った女性が、挨拶のつもりだろうか、浅くお辞儀をした。ロルフィーネは持っていた『ご飯』……つまり血の滴る人間の肉片を机へ置いて、その女性をまじまじと見つめた。彼女……いや、彼だろうか……もまた黒い髪と白い肌を持ち、白いワンピースを着ている。白と黒の世界では、鮮血の赤がよく映える。不気味でもあり、美しくもある。漂う鉄の香りはすさまじいもの、常人には耐えられない吐き気すら催すものであったが、二人は眉を上げることすらせず、今も血が滴る音が響く教室で呼吸をしていた。
 月の光が差し込んでいる。ぎらりと光るのは刃、そして血だまり。赤い絨毯と一人の姫、まるで王宮のダンスホールのような景色。そこで踊るのは風だけだろうか。くるりくるりと廻る時計が時間だけを刻んでいく。
“美しきLolita”
 金の額縁に縁取られた一つの絵画、滅び亡くなった王国の姫君の肖像。

「とてもいい香り。つい夢から醒めてしまった。私にも一口下さいませんか」
「ダメだよ。血を飲まないとお腹一杯にならないんだから」
「いえ、血ではなく、ご飯の方を」
「ダーメ! これはボクのなんだから!」

 両手を広げ、舌を出すロルフィーネ。鳥塚はさも残念そうに肩を落とすと、こんな機会めったにないのに、と独りごちた。
 ロルフィーネはじっと鳥塚を見つめていたが、やがてふふっと笑って、床に落ちている肉の塊、おそらく胴体だろう、それに突き刺さっていたレイピアを抜いた。血が吹き出て美しい髪を濡らしたが、嫌がる様子は無い。

「この子、とっても美味しかったんだよ? キミもご飯なのかな?」
「そうかもしれません。そうであればいい」
 遠く突きつけられたレイピアを避けるでもなく、鳥塚は微笑んだ。寧ろ、血に染まったレイピアとその刃を愛しそうに見つめている。
「食べられて本当に死ねるのなら、それほど楽なことはありませんから」
 片手で握っていた鋸を重そうに持ち上げ、腕を休める為に机へと刃を預ける。少しだけ木の粉が落ちたが、広がっている血だまりに染まってすぐに消えた。

「しかし、血を飲むのでしたら、こんな食べ方は勿体無いですね」
「ボクね、血を吸うのが下手クソなんだ。いっつもご飯をグチャグチャに食べ散らかしちゃうから『オーガみたいではしたない』ってお姉ちゃんに怒られちゃうの」
 肉片を眺めていた鳥塚の言葉に、ロルフィーネは頬を少し染めた。えへへ、ボクってまだまだ半人前なんだよね、と、可愛らしく。袖で口元を拭い、さてと次はどうしようかな、と息を吐く。
「とても美味しそうな食べ方に見えますけれどね。私は怒りませんよ」
「へえ」

 どこまでも真っ白な心は、本当の黒に染まることが出来る。光の中にも溶け込めるし、影の中に息を潜めることも出来るのだ。行きたい場所へ、行くべき場所へ。細い今にも折れてしまいそうな足で軽やかに駆けるのだ。例え重い鎖が付いていようとも。例えいつか足が千切れようとも。痛みすら知らないのではないかと言うほどに、踊りながら道をゆく。道端の花に恋をして、ある日の風に問い掛けて、遠い空に思いを馳せて、草原のぬくもりにいだかれて。
 都会の喧騒に染まることなく、どこまでも。

『鳥塚』
「どうしました」
『殺意がわからなくなったのかい。あれは君を殺すよ』
「知っている」
 机にもたれていた鋸が、淡い光を纏う。
「それ、生きてるんだね」
「ええ、一応」
 ロルフィーネが目を見開くと、鳥塚はそれを持ち上げた。重そうな鋸だ。
『やろう』

 鋸が呟いた瞬間、鳥塚は鋸に引っ張られるように走り出した。ロルフィーネが横っ飛びで刃をかわせば、後ろの肉片へ鈍い音を立てて鋸が突き刺さる。レイピアで反撃するも、鋸を突き砕くことは出来ない。ゆっくりと肉片から抜かれた鋸は、いや、鋸が自ら浮上したように見える、見た目よりも早くロルフィーネの足をなぎ払った。しかし、細くすらりと伸びた足には傷一つ付かない。先ほどの肉片の血が付着した程度だ。今度はレイピアを鋸ではなく腕へ突き立てるが、避けられる。すかさず追撃、手を狙って刃を叩き当てる。鋸は手を離れ、宙を舞った。鳥塚の手はびくんと震えたが、レイピアの腹では小さな傷しか付かなかったようで、出血は無かった。
 体勢を立て直した鳥塚は、鋸が落ちた音を聞いても動かなかった。顔には笑みが張り付いていたが。ロルフィーネがレイピアを使いながら掛けた影縛りが効いたのだろう。淡い光の輪郭を纏った鋸がふわりと浮き上がり、ロルフィーネの背へ斬りかかって来る。しかしやはり傷は付かない。ロルフィーネは、蝶を追う猫の様に、半ばはしゃぎながら鋸を捕まえた。素手であることお構いなしに刃を掴んで。

「ふ〜ん、生きてる鋸かあ。面白いね。ねえ、これで切り刻んであげよっか?」
 ロルフィーネは、どこまでも白い笑みを浮かべた。目を細め、ほんの少し首を傾げ。鋸は抵抗するように光を強めたが、ロルフィーネの手から逃れることは出来なかった。鳥塚は瞬きをすると、いえ、と呟き、鋸へと目配せをする。
「そんなことをしなくても、こうすればご飯になります。なんなら噛み千切っても結構」
 鋸がロルフィーネの手から離れ、鳥塚の左手の付け根あたりと引き裂いた。吹き出る血が顔に掛からないように顔を逸らし、鳥塚はどうですかと視線で訴える。ロルフィーネはレイピアを持ち直し、飛んできた血、顔に付いた血をゆっくり嘗めた。
「ただ……霧や霞を食っても、お腹は一杯にならないでしょう」
 血は、血だったものは、ロルフィーネに飲まれる前に、ふわりと溶けて無くなった。
「なあに、これ?」
「霧や霞。つまり、幻のような物です」
 申し訳ない。鳥塚はそう言って、私の肉体はもう幻なのです、とも付け加えた。
「なあんだ、食べられないんだね」
「ええ。すみません」
 これさえなければ食べられても構わなかったのですが。
 腕から流れる血が白い布と床を染めていく。しかしそれは色だけだ。すぐに傷口はなくなり、血も流れなくなった。

 不意に、教室を照らせるほどの灯りが灯る。
『鳥塚は僕が守る』
 鋸が二人の間へと浮き上がり、赤く濡れた刃をロルフィーネへと突きつけた。
『全ての鳥塚は僕が守らなければならない』
 頭の上に『?』マークを浮かべるロルフィーネ。
「ねえ、これって何なの? 何から守るって言うの」
「この世界は、妄想へ取り込むには、少し重過ぎるので」
 答えになってないよ、と口を尖らせるロルフィーネを見て、そうでしょうね、と鳥塚が目を伏せた。
「もういい。眠りなさい。今は歌おう、十四歳の私たち」
 その言葉を呟けば、鋸はもう何も言わなくなった。光がほんの少し小さくなった気がする。

「ヘンな人」
 嘲笑だろうか、ただの笑みだろうか? ロルフィーネはくすりと笑った。いうことが滅茶苦茶で、ホントにヘンな人! と。
「人に見えましたか」
 彼女の言葉に、鳥塚がぱっと笑った。ロルフィーネが首をかしげる。何か嬉しがるようなことでも言ったかな、と。ヘンな人と呼ばれて嬉しがるなんて、もっともっとヘンな人だ、鳥塚というものは。
 ぼんやりと光を放っていた鋸が、だんだんと輪郭を無くしていく。魂を吸われた無機物。もう、教室を照らすものは、窓越しに光る月だけ。
「あれ、これ、死んじゃったの?」
 ロルフィーネが鋸を眺めた。それはもう声を放たない。光も、意志も感じられない。
「ええ。結局は私の妄想の産物ですから」
「へえー。なんだかつまんないなあ」
 どうせこの武器では目の前の人間を斬る事は出来ない。鋸をぽいと投げ捨て、ロルフィーネは「じゃあやっぱりこっちにしよっと!」と、レイピアを構えた。遠い床に鋸が落ちて音を立てる。鳥塚は目だけでそれを追っていた。にやりとした笑みを未だ貼り付けたまま。

 レイピアが鳥塚の右腕を貫く。鳥塚がくははっと笑い声を上げ、レイピアをその右手で掴んだ。
「影も幻、なのかな?」
「それに近い。自分の魔法以外は効きにくいんですよ、私は。でも、痛みは好きなのです」
 握り締めた刃を左手でも手にとり、抜くのではなく腕を裂くようにして取り除いた。ロルフィーネがすぐさまレイピアを引き、両手を振り払う。ぱっと散る鮮血と肉片、そして何故か羽毛が一枚二枚。鳥塚の背には翼が一対。床を蹴り突進してみれば、レイピアは風を切るような音を立てて羽を散らした。これも幻か、と、ロルフィーネは眉をしかめる。直後、空気が動く感触。もう片方の翼が長く細く伸びて、ひゅるると音を立てながら迫ってきた。先端が五つに分かれ、手の形を取る。飛び退くロルフィーネ、翼はその後ろにあった机に直撃して、それを木片と鉄だけの何かに変えた。ぱらぱら落ちる木の粉。机の脚が倒れる音が終わる前に、レイピアは翼を縦に裂いた。再び羽毛が散り、切り離された方の翼がその辺りでのたうちまわって消える。鳥塚は窓の外を見ていた。その頭を貫こうと切っ先を突き出すも、翼の先端で弾かれる。

「私はあなたと戦うのがとても好きです」
 自分の心の世界を思い出してしまうのですと付け加える。
「でも、もう朝が来てしまう」
 ロルフィーネの腕がぴくりと振るえた。ほんの一瞬であったが。月は沈み、反対側の空が僅かに明るく染まってきている。鳥塚は先ほどから変わらずじっと窓の外を見ていた。裂いたはずの右腕はいつのまにか傷一つ無いほどに回復している。腕を組み、目を凝らして、あるものか無いものか解らない何かを見つめている。
「夜は長いほうが好き」
 鳥塚がその言葉を言い終わらないうちに、空はとたんに暗闇につつまれた。月の位置を見る限り、まだ夜になったばかりの時間。教室の中は何一つ変わった様子は無かったが、世界は確実に夜であった。
「何、今の」
「ここが私の世界である以上、どうとでもなる。ここは今私の世界なのです」
「ふうん」
 なんだかよくわからない、と、首をかしげるロルフィーネ。私もよくわかりません、と、鳥塚。ふと、ロルフィーネがレイピアを下ろし、くうと鳴るお腹を押さえた。
「もう、戦ったしご飯の邪魔されちゃったし、鳥塚は自分の事を霧とか言うし、……お腹すいたなあ」
「ああ、それなら、用意できますよ。思い込めばいいのです」
 鳥塚がロルフィーネへと向き直り、微笑んだ。直後、廊下をこちらへ走ってくる足音。小さく声が聞こえる。こっちで大きな音しなかったか、とか、誰がこの教室使ってるんだろう、とか。
「夜へご案内します。さあ、どうぞ」
 数人の生徒が、がらりと扉を開けた。ロルフィーネがそちらを振り向く。鳥塚は頷き、ほら、と、手で生徒たち――いや、『ご飯』を指した。食事の場所となっていた教室と惨劇を目の当たりにし、表情を凍りつかせた人間が沢山。
 ロルフィーネにとって、それはどんな感情を沸かせるものであっただろう。不快感か、空腹感か、幸福感か。しかし、そんなことはどうでもいい。そこに人間が居て、そしてそれがこの現場を目撃したという事実がある限り、結果は一つ。出された食事は食べるも食べないも自由。
 二人は踊るか。刃の煌き、舞う風の子。夜の教室、モノクロの世界に散る鮮血の美しいこと。笑みの裏の感情はいかなものだったか。雑音も歌声も、いつかは沈黙に変わる。夜の深い闇に吸い込まれ、残るのは心への残響のみ。

「ひとまずお別れと致しましょう。ご家族によろしく」
 翼をたたんだ鳥塚が、脚でこつこつと床をたたきながら言った。そして、一つのペンダントを取り出す。赤い宝石のあしらわれたペンダント。
「ヘンな人」
 表情の無い笑み。果たして彼女は何を思っているのか。鳥塚はそれに、また同じような笑みを返した。レイピアを片手に、ペンダントをもう片手に、ロルフィーネが歩き出す。鳥塚はそれを見送っていた。動かなくなった鋸を、右手に握り締めて。それがもっと鮮やかな赤に染まっていたかどうかは、そこにいる人間のみが知っている。

「私にも娘が欲しいよ。ああ、親友でもいい。兄弟でも、恋人でも。彼女のような人がね」
 鋸は黙っていた。血の通わない鋸。斬っても死なぬ、斬られても死なぬ。彼は生まれてすらいなかったのだから。
 長い沈黙の後、ロルフィーネの後を追うように、だが決して追いつかないように、鳥塚は歩き出した。いくつもの血だまりを通り過ぎ、死体を踏み越えて。べたべたという足音は、少女のそれよりも若干下品であったが。いや、ロルフィーネが上品であったのだ。ここには怪物など居なかった。言うなれば、姫と鳥。姫と鳥が、歌っていたとでも言おうか。赤い絨毯の上で、ふわりと笑っていたのだ。
 誰も居なくなった学院。長すぎる夜が更けていく。


「かあいいお姫様 かあいいお姫様
 今日もご飯は 綺麗なルビイ
 かあいいお姫様 かあいいお姫様
 今日の笑顔も みんなの月灯り」

 鳥塚は歌っていた。音程もメロディもない歌。子供が即興で作ったような歌。飛んで跳ねて道をゆくその後姿は、幼い誰かの面影を思い出させる。見えない誰かと手を繋いでワルツを踊ろう! 終わらない歌! 終わらない喜び! 感情は永遠である、いちいち思い出すことが出来るのならば。オルゴールでさえ、ネジを回し続ければ音を鳴らしつづけるのだ。それが産むのはしあわせか不幸か? そんなことはどうでもよかった、歌い踊る彼女には。

「愛され 恋され かあいいお姫様
 一人 一人で 夜の道
 かあいそう かあいそう
 愛され 恋され かあいいお姫様
 生きる 生きゆく 永久の道
 かあいそう かあいそう」

 夜空が遠い。どこまでも虚ろな夜。ぽっかり空いた孔、否、白い月。誰もが気付かない、長すぎる夜。鳥塚は歌いながら踊りつづけている。足跡は赤く、影は黒く。どこかを歩くロルフィーネに、歌声は響いただろうか。白いワンピースをふわりと翻し、ぎしぎし鳴る義足でくるりと一回転。

 翌朝。学園に響いた悲鳴はいくつだったか。倒れた生徒は何人だったか。骨に近い死体、無残な亡骸。床と壁一面に刻まれている血の跡。白かったカーテンは深紅に彩られて、まるで舞台の様。そこに居たのは、一人の姫と一羽の鳥。乾いた血の上に白い羽毛が一枚二枚。夜だけのショウ。どこからが夢で、どこまでが幻か。芳しい腐臭と血の匂いが、カーテンを揺らす風に運ばれていく。どこかで誰かがくすりと笑って――?


おしまい

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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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PC/ロルフィーネ・ヒルデブラント(ろるふぃーね・ひるでぶらんと)/女性/183歳/吸血魔導士/ヒルデブラント第十二夫人

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ライター通信
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ロルフィーネ・ヒルデブラントさん、はじめまして。北嶋と申します。
この度はご参加ありがとうございました。
純粋無垢が故に残酷な少女、とても可愛らしく格好いいな、と言うのが第一印象でした。
とても綺麗な心を持っていらっしゃるのでしょうね。
おまけとして、NPC鳥塚から「カラスの血」をプレゼントさせて頂きました。
気が向いたときにでもロルフィーネさんに身につけてもらえればな、と思います。
では、ありがとうございました。またお会いできる日がありましたら、宜しくお願い致します。