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INNOCENCE // 在庫整理ミッション
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OPENING
募集人数が多い=共同任務。
この場合、大抵が強敵モンスターの討伐だ。
だが、何事にも例外というものがある。
今回は少し異質な共同任務。
巨大雑貨店にて、荷物・在庫整理をして欲しいとのこと。
三階建ての雑貨店は、毎日繁盛している人気店。
作業は、店の地下にて実施してもらうこととなる。
報酬は、遂行速度によって変化。
早く終わらせることが出来れば、その分、報酬も跳ね上がる。
だがしかし、そう上手くはいかないのが……共同任務というものだ。
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「さぁて。では、サクサクといきましょうか」
「なるべく早く終わらせたいね」
揃って腕を捲くり、気合を入れたシュラインと雪穂。
在庫整理ということで、シュラインは初っ端からエンジン全開。
雪穂は雪穂で、雑貨好きなのでテンション上昇中。
今回のミッションを遂行するエージェントは全五名。
シュライン・雪穂・海斗・梨乃・武彦というバラエティに富んだ面子で御送りします。
在庫整理、うん。いいわねぇ、こういう仕事。
一見地味だけど、私、こういうの好きだからなぁ。
ウキウキしちゃうのよね。だから自然と作業もサクサクと……って。
一旦手を止め、他の面子を見やり溜息を落としたシュライン。
雪穂と梨乃は良い。真面目に働いている。優秀だ。
だが、海斗と武彦が酷い。堂々とサボるのにも程がある。
マンガを発見し、寝転んでそれを読みながらケラケラと笑っている海斗。
武彦は隅っこで偉そうにソファに座り、美味そうに煙草を吸っている。
ハァ、と溜息を落とし、シュラインと雪穂は頷いて、お説教へと向かう。
「終わらせる気、あるのかな〜?」
「あっ! 何すんだよっ!」
海斗からマンガを奪い、ニコリと微笑んだ夏穂。
うん。確かにね、このマンガは面白いよ。僕も好き。
でもさ、今はお仕事中なわけですよ。
共同任務なんだから、協力しないと。
なるべく早く終わらせて、たくさん報酬受け取りたいんだ、僕。
ちょっと欲しいものがあってね。まぁ、そんなことは今は、どうでもいいよ。
「はい、働け〜働け〜」
「めんどくせー」
「そういうこと言わない。次、それ言ったら罰金だよ」
「な、何そのシステム」
「僕が今、決めたの。はい、やるよ〜」
罰金システムが採用され、働かざるを得なくなった。
かったるそうにしつつも、海斗は、ようやく働き出す。
ダラダラしないの! と雪穂に叱られ、
それに嫌そうな顔をしつつも従っている海斗は、側から見ると情けなくカッコ悪い。
一方、シュラインは、というと。
「火気厳禁」
「あ」
これまたニッコリと微笑み、煙草を取り上げたシュライン。
こんなところで煙草なんて吸っちゃ駄目よ。古書だとか色々あるんだから。
中には高価なものもあるみたいだし、燃えたりしたら大変よ?
弁償してくれって言われたら、どうするの。
プンスカと怒りながら、武彦の身体をまさぐり、
隠し持っていた煙草やライターまで見つけて没収したシュライン。
あれよあれよという間に、すべて取り上げられてしまい、武彦は苦笑した。
「もう出来ないとは思うけど。また吸ったら……その時は禁煙してもらいますからね」
天使の微笑みのような淡く優しい笑顔を浮かべて言ったシュライン。
その裏に、悪魔の顔がチラ見したことで、武彦は大人しく従うことにした。
在庫整理。そう聞けば、何とも容易い仕事のように思える。
が、何名かが集まり、全員で一つの作業をこなすというのは、実に難しい。
全員が最初から最後まで真面目に働けば、すぐに完了するのだろうけれど。
人間というものは、誘惑に弱く、集中力持続にも限界がある。
と、まぁ、そんなわけで……。
(可愛いなぁ、これ)
棚を整理していた途中、綺麗なガラス細工の剣のペンダントを発見した雪穂。
もうかれこれ五分。彼女は、じーっとペンダントと睨めっこしている。
欲しいだとか、そういうことを思っているわけではない。
(よしっ)
メモとペンを取り出して、サカサカと何かを書き出した雪穂。
ここを、こうして。ここに、こういうデザインを取り入れて。
色は何色が良いかなぁ。白? 黒? 赤でもカッコいいかも。
えぇと、必要っぽい材料は、クリスタルと〜マジックストーンと〜……。
どうやら、新しい魔法具のアイデアが浮かんだようで。
雪穂は仕事を忘れ、アイデアメモに夢中になっている。
で、梨乃は、というと。
「…………」
彼女もまた、睨めっこ中だ。対戦相手は、絶版古書。
ずっと読みたかったものらしく、没頭してしまっている。
海斗は海斗で、眠そうに欠伸をしながら耳をホジっているし、
武彦は、世界の煙草図鑑を見つけて、これまた没頭中。
……何ですか、このカオスな状況は。
一人、真面目に作業していたシュラインは呆れ、大きな溜息を落とした。
しょうがないな、って放っておくと、本当に好き勝手にやっちゃうわね、これは。
何とかせねばなるまい。そう思ったシュラインは、全員を叱って回る。
雪穂の頭を撫で、あとでゆっくりやりなさいね、と微笑んで。
梨乃から本を取り上げて、あとで読ませてもらいましょうね、と微笑んで。
海斗と武彦には、互いの意欲を増徴させる為、二人に競争を提案。
シュラインのこの行動により、作業は再開され、
とても良いスピードで進行していった。
だが、途中でハプニングが起こる。
武彦が、こっそりと吸っていた煙草の吸殻の火が、古書に着火。
ボッと紅く染まった倉庫内で、一行は一瞬、ボーッと呆けた。
ゴゥゴゥと燃える古書。その原型がなくなりかけ、
他の古書へと移る、その時、ようやく一行は我に返る。
と同時に大パニック。
「武彦さんの馬鹿〜っ!」
「け、消したはずなんだが」
「すげー。めっちゃ燃えてる! あっははは!」
「あっはははじゃないよ〜! 水! 水!?」
バタバタと走り回る雪穂。その傍で、梨乃は魔銃を抜き、
「撃ちます」
そう言って発砲した。放たれた水は炎を沈め……られない。
勢いが増していくばかりの炎は、そう容易く消せない。
「きゃー! どうしましょ! きゃー!」
「お、おちつけ! おちつけ、シュライン!」
「キャンプファイヤーみたいだなー! あっははは!」
シュラインと武彦は、しどろもどろ。海斗は呑気にケラケラ笑い。
そんな三人を落ち着かせる為にも、と、雪穂と梨乃は精一杯の処置。
二人揃って放つ水の魔法。倉庫内が狭い為、魔力を抑制するのは骨が折れる。
だが二人の努力の甲斐あって。何とか炎を沈めることが出来た。
つ、疲れた……ホッと安堵の息を漏らし、一行が揃って座り込んだ時だ。
「どうですか。調子は? ……って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
雑貨店の店長が、紅茶と菓子を持って様子を見に来た。
入手困難な古書が何冊も炭と化している。
加えて、倉庫のあちこちに煙草の吸殻。
誰がいつの間に食べたのか理解らないが、お菓子の空き箱まで……。
有り得ない進行状況に、プルプルと肩を揺らす店長。
一行は顔を見合わせ、口を揃えて言った。
「ご、ごめんなさい……」
*
謝罪の後、それまでのサボり癖はどこへやら。
一行は機械のようにテキパキと真面目に作業した。
どういうわけか、ものの一時間で完了してしまった倉庫整理。
全員で力を合わせれば、こんなにも早く片付くのか……。
そう、しみじみと悟ると同時に、心から後悔した。
滅茶苦茶にしてしまった商品の弁償代ということで、報酬は全て没収されてしまったのだ。
「…………」
今更後悔したところで、どうにもならない。
次の共同任務は、真面目にやろうね……。
一行は、そう肝に銘じた。ちーん。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント(草間興信所の所長)
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.07.29 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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