コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


 ロビンの誘惑

------------------------------------------------------

 甘い香りを放つ魔法の果実 『ロビン』
 桃によく似た、その果実は、様々なものに用いられる。
 中でも一番多い用途は、フレグランスとしての加工。
 完成したフレグランスは 『ロビンエッグ』 として市場を回る。
 果てしなく高価な上、出回っている数も少ない為、入手は非常に困難だ。
 それらの要素もあってか、ロビンエッグは大人気。
 若者だけでなく、中年層・熟年層も欲するほどだ。
 レアだから欲しいと思う。もちろん、それもあるだろう。
 だが、ロビンエッグを欲するものの目的は、別のところにある。
 魅惑の果実、ロビン。それを用いたフレグランス。
 ロビンエッグには、不思議な効能があるのだ。
 その効能とは……。
 
------------------------------------------------------

 三時間前―

「おい、三下」
「へ。あぁ、藤二くん。こんにちは。いや〜、最近、涼しくなりましたよねぇ」
「おぅ。って、そんなつまんねぇ世間話したくねぇわ。はい、これ」
「……何ですか、これ。香水……?」
「猛獣使いの子にプレゼントしてやって」
「紗枝さんに、ですか。……ご自分で渡せば良いんじゃ」
「出入り禁止なの。俺」
「何でですか……」
「その辺は、察してくれよ」
「いや、わかりますけど」
「じゃあ聞くな」
「すみません……」
「んじゃ、よろしくな」
「あ、藤二くん。今日のショーは……」
「行くよ。当然、な」
「……はぁ。わかりました。伝えておきますね」
「いや、別に伝えなくてもいいよ」
「……? わかりました」
「んじゃな」
「あ、はい〜。お疲れ様です」
 偶然、道端で藤二と遭遇した三下。
 やぶからぼうに渡された、香水。
 紗枝に渡してくれと承ったそれは、とても可愛らしいボトルの香水。
 どうして僕伝いで渡すんだろう……まぁ、出入り禁止なら仕方ないか。
 えぇと、ショーが始まる前に渡しておこうかな。
 終わった後でも良いけれど、疲れてるだろうから、事前の方が良さそうですよね。
 いそいそと、サーカス団のテントへと向かう三下。
 三下は知らない。
 偶然なんかじゃなく。
 藤二が、待ち伏せしていたことを。
 渡してくれと頼まれた、手に持つ香水が、どんな代物であるかを。
 当然、香水を贈られる紗枝も。
 知らない。知るはずもない。

「紗枝さん。お疲れ様です」
「ん。あぁ、こんにちは。今日も観に来てくれたんですね〜」
「えぇ、まぁ。あの、これ」
「うん……? 何ですか?」
「プレゼントです」
「へぇ。香水ですか。ありがとう」
「あ、僕からじゃなくて……」
「うん?」
 自分からの贈り物ではない。
 そう三下は伝えようとした。けれど。
「紗枝ー! ごめーん! 時間押してるから急いでー!」
「あ、はーい」
 ショーが押しているらしく、団員から急ぐようにとの言葉。
 紗枝は慌てて準備を済ませ、ステージへと向かって行く。
 もう一度「ありがとう」と三下に御礼を述べて。
 せっかく貰ったんだし、さっそく着けていきますねと。
 香水を太ももと首筋に吹き付けて……。
 あー……いえ、それ、僕からの贈り物じゃ……ないんです……けど。
 いそいそとステージへ向かって行く紗枝の背中を見つつ、困り笑顔の三下。
 まぁ、いいか。後からでも伝えれば。
 おっととと。ショーが始まってしまいますね。僕も急がなきゃ……!

 *

 週一限定エロティックサーカス。
 おかげさまで、今宵も満員御礼。
 しばらく様子を見ることにして、その結果。
 この限定サーカスは正式なショーとして成立した。
 いや、紗枝からしてみれば、成立してしまったと言うべきか。
 当然、観に来る客は、(鼻息の荒い)男ばかり。
 むさ苦しい雰囲気の中、ショーはいつも大盛況である。
 三下に貰った香水を纏い、ステージへ。
 スポットライトを浴びつつ、紗枝は思う。
 良い香りね、この香水。爽やかなんだけど、妙に残るっていうか。
 私、好きだな。こういう香り。
 意外と、良いチョイスするのね。三下さん。
 自分好みの香りに包まれ、気分は上々。
 普段は恥じらいながら、あらゆるショーを披露するけれど。
 不思議と、今日はノリノリ。
 どうしてかな。何か、ハイになっちゃうっていうか。
 まぁ、たまには、こんな日があっても良いわよね。
 楽しんじゃおう。今日くらいは。……恥ずかしいことに変わりはないけどね。
 淡く笑み、ステージの中心で、あらゆる技を披露していく紗枝。
 一つ一つの仕草が、普段よりも色っぽく艶っぽく見える。
 本人の気分もあるのだろうけれど……。
 一つ一つの技、その合間に飛び交う歓声と指笛。
 いつもなら。そう、いつもなら。
 この歓声と指笛が恥ずかしさを増徴させるのに。
 どうしてかしら。……何か、変だわ。私。
 何ていうか、これ……。あっ、うん……何ていうか……。
(気持ちイイ……)
 恥ずかしいはずなのに、酔ってしまっている自分がいる。
 その事実に覚える、躊躇いと恥じらい。
 けれど、それがまた、色っぽさに拍車をかける。
 観客の歓声と指笛は、激しくなっていくばかり。
 何かが、おかしい。
 一部の客とサーカス団員は、そう感じていた。
 いつもとは比にならないほどに盛り上がるショーの中。
 観客席で腕を組み、くっくっと楽しそうに笑う藤二の姿があった。
 その笑顔は、悪戯な笑み、というやつだ。
 藤二が三下伝いに紗枝へ贈った香水。
 それは、ロビンエッグと呼ばれる代物。
 一吹き纏えば、あなたの虜。
 その香りは、あらゆる異性を虜にしてメロメロにさせてしまう。
 お茶目なアイテムというには度が過ぎている。
 使用者さえも蕩けてしまう、そんな香水。
 かなり入手困難な代物なのだが……どこで手に入れてきたのやら。
 また、この香水の効能は、尻上がりな特徴を持つ。
 時間が経てば立つほど、その威力が増していくのだ。
 香りが消えるまで、その効能は最大限を維持する。
 ショー開始から、二十分が経過した時のことだ。
「うおおおおおおおおおー!!」
「紗枝たぁぁぁーーーーん!!」
「!! きゃあああああ!?」
 歓声を上げていた観客の一部が、ステージへと登り、紗枝に襲い掛かる。
 傍から見ていると、それは「辛抱たまらん」そんな状態に見えた。
 襲い掛かってくる観客達の尋常ではない雰囲気に慌て、
 紗枝は手持ちの鞭を振り回し、その衝撃波で群がる観客を追い払う。
 紗枝に群がる観客は増え行くばかり。
 もはや、ステージ上は滅茶苦茶なことになっている。
 事態収拾が効かないと、サーカスの団長はアナウンスを飛ばした。
 今夜のショーは、これまで。と。
 だが、会場の雰囲気は治まることなく。
「いやー!! 来ないでぇぇぇー!!」
 紗枝は半泣き状態で、ステージを飛び降りて逃亡した。

 一体、何事か。
 普段から激しいといえば激しいけれど、今日は尋常じゃない。
 身の危険を、ここまで感じたことはなかった。
 息を切らし、森の中へと逃げ込んだ紗枝。
 呼吸を整えつつ、何度も後ろを振り返る最中。
 紗枝は、もしかして……と一つの仮説を立てる。
 考えてみれば、その仮説に辿り着くのは容易いことだ。
 三下に貰い纏った、この香り。この香水。
 多分っていうか、確実に……この香水の所為よね。
 三下さん……これ、どこで買ったのかしら。
 某骨董品店とかだったりするんじゃないかしら。
 そうだとしたら、納得できるのよね。この事態……。
 懐から取り出した香水を眺めつつ何とも言えぬ笑みを浮かべる紗枝。
 洗い流してしまえば良いのではないか。
 そう思った紗枝は、森にある泉へと慌てて向かった。
 だが。
「!! きゃあああああああああー!?」
 どこからともなく、続々と出現する森の住人たち……。
 獣や魔物、人外であるその存在が、一斉に紗枝へと飛び掛る。
 多勢に無勢……。纏めて飛び掛られては、成す術がない。
 紗枝を拘束する存在、それらはまさに獣……。
 ステージで襲い掛かってきた観客らと同じように、フンフンと鼻息を荒くしている。
「ちょ、待っ……やぁっ!!」
 身動き取れぬまま。
 獣達は、紗枝をひん剥いていく。
 ビリビリと服を裂く鋭い牙や爪。体中を舐め回すザラついた舌。
 悲鳴さえも荒い鼻息に掻き消されてしまう。
 あらゆる『最悪の事態』が頭を駆け巡った。
(こんなカタチで失うことになるなんて嫌っ……!)
 何を失うんですか? だとか、その辺りのことは置いといて……。
 絶体絶命な危機的状況なのは確かだ。
 けれど身動きが取れないが故、どうすることも出来ない。
 ギューッと固く目を閉じ、覚悟を決めたときだった。
「ヘフガァッ!!」
「んっ!?」
 獣達が妙な声を上げて……次々と失神していくではないか。
 拘束が解け、ガバッと身体を起こして見やれば。
 そこには、脱がされたブーツが転がっていた。
 辺りに充満している刺激臭。ピクついている獣達。
 身体から放たれる刺激臭というのは不思議なもので。
 当人は気付いていないことが多い。
 故に、紗枝は首を傾げた。
 まぁ、よく理解らないけれど。
 危機を回避できたことは確かだ。
 ボロボロになった服、露わになる身体を恥じらい隠しつつ、紗枝は不敵な笑みを浮かべる。
 怒りの矛先が向かうのは、当然……。

 *

「さ、紗枝さん。だから何度も言ってるように、あれは僕じゃなくて……」
「犬は喋らないんですよ〜? ふふふ」
「ひぃ!!」
 ニッコリと、とても可愛らしい笑みを浮かべて、ピンッと鞭を張る紗枝。
 怯える三下は、何とも滑稽かつ惨めな姿。犬の格好をしている。
 とんでもないものをプレゼントしてくれましたね。
 その御礼に、と紗枝は、とびっきりのお返しを贈る。
 森の中、ひっそりと、それでいて激しく執行される償いの儀式。
「ほら。何モタモタしてるの? くぐりなさい! ほらっ!」
 ピシッピシッと鞭で地を叩きつつ、三下……いや、犬に命ずる紗枝。
 微笑んではいるものの、その迫力は凄まじい。
 抵抗しても無駄だと悟った三下は言われるがまま。
 用意された火の輪をヒィヒィ言いながら何度も何度も潜る。
 償いの儀式が執り行われている会場、森の隅にて。
 必死に笑いを堪えている藤二。
 面白いものが観れて、大満足だ。
 けど、やっぱり。見てるんじゃなく、俺も参加する方に回りたいね。
 いや、償いの儀式じゃないよ? 群がり襲い掛かる方に、ね。

------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 6788 / 柴樹・紗枝 (しばき・さえ) / ♀ / 17歳 / 猛獣使い&奇術師(?)
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
 アイテム『ロビンエッグ』を贈呈致しました。ご確認下さいませ。
-----------------------------------------------------
 2008.09.10 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------