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<東京怪談・PCゲームノベル>


フレイム・ブレイバー

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 炎を操る、コウモリの魔物『レックリート』
 かつて貴族が住んでいたという屋敷の中。
 追い詰めた魔物が、最後の悪足掻き。
 トドメを刺そうとした矢先、
 魔物が灼熱の炎を、惜しむことなく吐き出した。
(……これは、まずいかも)
 一瞬で紅く、炎に包まれた屋敷。
 逃げ場がない。さぁ、どうする……。
 
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 ……うん。これは、あれね。ピンチって感じね。
 激しく燃え揺れる炎を前に、ウン、と一つ頷いた夏穂。
 彼女の手には、魔物(レックリート)の片足。
 とある呪術師に頼まれて。採取しにやって来た。
 目的は達成された。あとは戻るだけ。
 だったのだが、そうもいかない、この状況。
 突如、凶暴化した魔物が大暴れ。
 小さな口から、灼熱の炎を吐き出して、館を赤く染めてしまったのだ。
 何ていうか、うん……文献だけじゃ、わからないものよね。
 私が読んだ魔物百科に書かれてたレックリートの情報には、
 炎を吐くだなんて書かれてなかったもの。
 コウモリなだけに暗闇を好み、潜むけれど。
 人を襲うなんてことはない、そう書かれていたもの。
 実際、この片足は容易に入手できた……っていうか採取させてくれたし。
 どうしてかしら。どうして、急に凶暴化してしまったのかしら。
 ついさっきまで、とても温厚で。
 私の肩に乗って、他愛ない話をしていたのに。
 どうしてかしら。どうして、急に……。
 あらゆる生物、とくに魔物やその類と心を通わせることができる夏穂。
 今日も今日とて、仲良くなっていた。
 確かに、レックリートは夏穂の肩に乗り、楽しそうに鳴いていた。
 本当に成立しているのかどうか、そこは当人にしか理解らないことだろうが、
 夏穂とレックリートは、他愛ない話をしていた。
 どうしてここに住むようになったの? と夏穂が問えば、
 レックリートはキィキィと、その質問に答えるように鳴いていた。
 本当に、突如。突然のことだった。
 バサリと夏穂の肩から飛び立ち、炎を吐き出した。
 何か気に障るようなことでもしてしまったのか。
 思い返してみるも、その節はない。
 舞い上がる炎を煙、コホコホと咳き込みながら、夏穂は辺りを見回す。
 逃げ場がない……っていうのは、このことよね。
 八方塞がり……窓を割って外に……出ようにも、窓まで辿り着くのも困難。
 どうしたものかしら。とりあえず、この子を落ち着かせることから始めたほうが良さそうよね。
 何か、何かあるのよ。そうに違いないわ。
 この子は、むやみやたらと人を襲うような子じゃないもの。
 そう、さっきまで楽しく御話していたんだから。
 咳き込みながら炎の中を歩み、レックリートへと歩み寄っていく夏穂。
 どうしたの、一体何があったの。話してくれないかな。
 そう告げながら歩み寄っていくものの、聞く耳持たず。
 レックリートが吐き出す炎は、勢いを増していくばかりだ。
「あっ……つ……!」
 吐き出された炎が、夏穂の頬を掠めた。
 瞬時に赤く腫れ上がる、彼女の綺麗な白い肌。
 参ったわね、これは……御話できる状況でもなさそう……。
 でも、傷付けたくはないのよね、極力。
 どうにか、何とか……落ち着かせるだけでも……。
 懐から、スッと取り出した魔扇子を広げ、レックリートを見据える夏穂。
 この状況で尚、魔物を傷付けずに何とか出来ないかと模索するのは、彼女ならではの行動と言えるだろう。
 魔扇子から清き水を放ち、炎を少しずつ抑えていく。
 だが、大人しく鎮火させてくれるはずもない。
 レックリートは、更なる灼熱の炎を吐き出していく。
 このままでは埒が明かない。
 心苦しいけれど、少しだけ……痛い思いをしてもらわねばならないかもしれない。
 大丈夫、大丈夫よ。私は、あなたを始末しようだなんて思わないから。
 ただ少しだけ。御話できるように、そうしたいだけだから。
 夏穂の瞳から、フッと光が消えた。
 理性は保てている。大丈夫、暴走することはない。
 少しだけ。本当に、少しだけ……あなたを、おとなしくさせるだけだから。
 スゥと息を吸い込んで、精神統一。
 魔扇子へと集中していく意識と魔力。
 ぼんやりと灯る白い光は、次第に大きくなっていった。
 目の前に魔力の塊。それを持つ、可憐な少女。光の消えた瞳。
 それらすべてを合わせれば、今、己が置かれている状況を読み取ることは容易い。
 集められた魔力が、己に向けて放たれる。
 それすなわち、己を死を意味する。
 危機を悟ったレックリートは、すぐさま対処した。
 自分の身を護るべく、その対処を。
「!!」
 バキンと音を立てて崩れる足元。
 夏穂の足元めがけて炎を吐き出したレックリート。
 燃え崩れた床は、脆さの極み。
 よろめいきつつ、夏穂は体勢を立て直そうと試みた。
 だが。
「痛……っ」
 崩れた床板に挟まれ、右足を負傷。
 痛みに耐えつつ抜き取るも、夏穂の右足には、鮮血が滲んでいる。
(まずいわ、これは……ちょっと……どうしようかな……)
 痛みに顔を歪め、ペタリとその場に座り込んだ夏穂。
 とりあえず止血と、治癒魔法をかけなくては。
 主が治療に専念できるようにと、
 彼女を護る獣である蒼馬も必死にサポートしている。
 炎の勢いは増していくばかり。
 ポタポタと、涙のように滴る汗。
 灼熱地獄の中、朦朧とする意識。
 はぁはぁと息を切らしながら、止血・治療作業を行う夏穂。
 心のどこかで、最悪のパターンを想像してしまっていたのも無理はない。
 まさか、こんなことになるなんて。
 息を切らしつつ包帯を歯で千切る夏穂。
 まるで想定していなかった事態。
 ありえない事態。
 そう、ありえないのよ。こんなの。
 何か、理由があるに違いないの。
 あの子が凶暴化したのには、理由があるに違いないの。
 よく考えてみて。突如……うん、確かに突然だったけれど。
 その前に、何か変わったことはなかったかしら。
 あの子に、異変は起きていなかったかしら。
 痛みに眉を寄せつつ思い返して数秒後。
 夏穂は、ハッと思い出す。
 そう。そうよ。あの子、チラリと窓の外を見たわ。
 その次の瞬間、急に炎を吐き出したのよ。私の肩から離れて。
 そう。そうよ。あれは、まるで……何かに怯えていたような。

 ガシャァァァァァンッ―

「!?」
 思い返して、何かを掴めたような気がした、その時だった。
 ガラスの割れる、激しい音。
 次いで、夏穂の目の前にドサリと転がった……猪。
 ただの猪ではない。鋭い牙、不気味な瞳の色。
 魔物の類であることは、一目瞭然。
 ピクついているところを見るからに、気絶しているようだ。
 一体なぜ、猪が窓を割って入ってきたのか。
 誰かが投げた…………?
 コホンコホンと咳き込みつつ、目を凝らして窓を見やる。
 すると、炎を引き裂くようにして、とある人物が勢い良く飛び込んできた。
「夏穂ぉぉぉーーーーーーーー!?」
 大声で夏穂の名を呼ぶ。その人物は……海斗だった。
「海斗……?」
 キョトンと目を丸くして、小さな声で確かめるように呟いた夏穂。
 その声に反応し、海斗は炎を掻き分けて、夏穂の元へ駆け寄ってきた。
「いた!! っつか、お前……足……」
「あ、うん。大丈夫。もう治療は済んだから……」
「…………」
 大丈夫だと夏穂が言ったのにも関わらず。
 海斗はキッと睨み付けた。その眼差しの先には、レックリート。
 海斗の真剣な眼差しを見て、夏穂は咄嗟に理解する。
 そうか。あの子、怖かったんだ。
 この猪の魔物の気配を感じて、護ろうとしていたんだ。
 そうよ。そうよね。確かに灼熱地獄だったけれど。
 私に危害は加えていなかった。
 さっき、足場を崩されたのは、
 じっとしていろ、って。そういうことだったのよ。
 やっぱり、この子は悪い子なんかじゃない。
 私を、護ろうとしてくれたんだもの……。
「てめー!! っざけんなぁぁぁぁぁ!! おりゃああああああ!!」
「って、ちょっ……海斗っ……!!」

 ドガシャァァァァンッ―


 *


「あぁ……こんな、コブになっちゃって……」
 優しく撫でながら治療する夏穂。
 彼女が治療しているのは、海斗に全力の飛び蹴りを食らわされたレックリート。
 吹き飛ばされた拍子に、壁に叩きつけられたレックリートの頭には、巨大なコブが……。
 眩暈と失神により、炎を吐き出すことのできなくなったレックリート。
 夏穂は、すぐさま駆け寄って治療を施した。
 何で、そんな悪者を治療してやるんだ! と鼻息を荒くする海斗。
 魔扇子から噴き出した清き水により、すっかり鎮火した屋敷の中。
 夏穂はクスクスと笑って説明した。
 レックリートが吐き出していた炎に悪意や害はなかったこと。
 自分を護ろうとしての行動だったこと。
 右足の怪我も、私を護ろうとした証だということ。
 元凶は、海斗がブン投げた、この猪の魔物であるということ。
 夏穂の説明にポリポリと頬を掻き、バツが悪そうに苦笑する海斗。
 彼もまた、あらゆる意味で勘違いをしていた。
 夏穂がなかなか戻らないので、心配で様子を見に来た。
 来て見れば、屋敷は炎で包まれているし、
 この巨大な猪の魔物がウロついているし……。
 海斗は、夏穂が閉じ込められていると判断した。
 この猪の魔物も、レックリートの仲間だと判断して。
 その結果、猪をブッ飛ばしてブン投げて窓を割り突入。
 名前を呼び叫んで発見すれば、夏穂は右足を負傷していた。
 で、怒りに任せて、レックリートに飛び蹴りを食らわせた……と。
「えーと、さ。よーするに、悪者は……この猪だけだったってことだよな?」
「うん。そういうことになるわね。気配に気付かなかった私にも責任があるんだけど」
「んで……こっちのコウモリをブッ飛ばしたのは……間違いだった、ってことでOK?」
「うん。この子は被害者さんってことになる……わね。ふふ」
「でもさ、お前に怪我させたのは事実なわけだしさー」
「私を思ってのことだもの。そんなに酷い傷でもないしね。ほら、もう治りかけてるわ」
「…………」
 ワシワシと頭を掻き、ペコリと頭を下げた海斗。
 ごめんなさい。そう告げたは良いものの、レックリートは、まだ失神したままだ。
 その気持ちは、ちゃんと届いてるはずよとクスクス笑う夏穂。
 海斗は夏穂のいつもどおりの笑顔を見て、ドカッと彼女の隣に腰を下ろした。
 それにしても、びっくりしたわ。
 うん、まぁ、あなたの突飛な言動はいつものことだけど。
 まさか、あのタイミングで来てくれるだなんて思ってなかったから。
 何ていうかな、童話の……王子さまみたいだったかも。
 なんて、ちょっとオカシイかな。でも、本当に、そんな感じだったのよ。
 落ち着きのない王子様だけど……ね。
 レックリートの治療を終え、救急箱の蓋をパタンと閉じ、鍵をかけた夏穂。
 もう大丈夫だと思う。私はまだ仕事の途中だから。
 この魔物の片足を、依頼人さんに届けてこなくちゃ。
 そう言いつつ、夏穂は淡く微笑んで立ち上がった。
「海斗も一緒に来る?」
「待った」
「……ん?」
 首を傾げる夏穂。
 海斗は座ったまま、夏穂の腕をパシッと掴んで俯いている。
 どうしたの? と尋ねても無言のまま。何も言わない。
「あ、もしかして、どこか怪我してる? どこ?」
 ちょこんと海斗の前に座り、顔を覗き込んだ。
 すると海斗は、パッと顔を上げて。ジッと夏穂を見やる。
(……?)
 依然、首を傾げたまま、きょとんとしている夏穂。
 理解できないのも無理はない。口に出して伝えていないのだから。
 夏穂をジッと見つめつつ、海斗は悟っていた。自分の想いを。
 今更って気もするけどさ。はっきり理解ったんだ、俺。
 お前じゃなくてもさ、仲間が危険だった知ったら、慌てて飛び出すよ。
 それは当然のことだし、誰だって、そうだと思う。
 でもさ。違うんだよな。お前だと、違うんだよ。
 余計に不安になるっつーか、心配でたまらなくなるっつーか。
 大丈夫だろ、とか、そういう軽い気持ちでいられなくなってんだ。
 皆の前ではさ、確かに言うよ。そーやって、軽い口調で。
 あいつなら、心配いらねーだろ。って。
 確かに、そう言った。今日も、そう言ったよ、俺。
 でもさ、そう言った十秒後には、飛び出してたんだ。
 お前んとこに、急いで行かなきゃ、って。
 言ってることと、やってることが滅茶苦茶なんだよ。
 そーなんだ。いつからか、滅茶苦茶になってんだよ。
 いつだって滅茶苦茶じゃないかって笑うかもしんねーけどさ。
 違うんだ。お前が絡むと、余計に周りが見えなくなるっつーか。
 だからさ、何が言いたいのかっつーと、よーするに……。
「夏穂」
「うん?」
「お前さ」
「うん」
「俺のこと、どー思う?」
「え? どう思うって……」
「うるさいとか元気だとか、そーいうのはナシで」
「…………」
 むぅ、と眉を寄せて難しそうな表情をしている夏穂。
 彼女の顔を見て、海斗は瞬時に後悔した。
 ぐはっ。何、聞いてんだ、俺。
 当たり前だろ。そんなこと聞かれたら困るっつーの。
 つか、これじゃあ遠回しじゃねーか。俺らしくねぇ。
 探るよーな真似するなんて、俺らしくねーっつーの。
「夏穂」
「うん?」
「もーいーや」
「え? 何が?」
「さっきの質問」
「あ、うん。わかった」
「えーと、さ」
「うん?」
「お前さ」
「うん」
「俺の、彼女になんない?」
「…………」
 キョトンと目を丸くし、呆けた表情をしている夏穂。
 彼女の顔を見て、海斗は瞬時に後悔した。
 うげっ。何、言ってんだ、俺。
 その言い方はねーだろ。何で、そんな言い方になっちゃうんだよ。
 上から目線っぽいじゃん、今の言い方だと。
 やべぇ。失敗した。今のはないわ。
 こないだ読んだ本に書いてあったじゃねーかよー。
 女の子に気持ちを伝えるときの条件的なヤツ……。
 すげー自己中な言い方だったし、場所は場所で、お前……こんな焼け焦げた屋敷だし。
 タイミングもズレまくりだと思うし、ああああ……何してんの、俺。
 次から次へと浮かぶミスポイントと後悔。
 それらにガックリと肩を落とし、掴んでいた腕を放した海斗。
 ずずーんとヘコんでいる海斗を見つめ、夏穂はプッと吹き出した。
 何を考えているか、手に取るように理解る。
 あなたのことなら、何でも理解るようになった。
 つもりでいたけど。さすがに、これは予想外。
 まさか、こんなところで気持ちを伝えてくるなんて。
 でも、そういうところも全部含めて。あなたらしいな、って思うわ。
 クスクス笑い、海斗の額にチュッと口付けた夏穂。
 詮索するのは野暮ってもの。
 その、ささやかな可愛らしいキスに。
 どんな意味が込められているのか。聞かずとも、理解るべきで。
「か、帰るか! あ、依頼人とこ行くんだっけか」
「うん。ここからすぐだよ」
「そか。んじゃ、行こーぜ」
「うん」
「手ぇとか、繋いで……みね?」
「ふふ。うん」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / ????

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 そして、海斗ですが……これから、よろしくお願いします。
 色々とご迷惑をお掛けするかと思いますが……(笑)
 どうか、末永く。ある種の"パートナー"でいてあげて下さいませ。
 そちらの意味でも、ありがとうございますと、心から。
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 2008.09.02 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
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