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<東京怪談・PCゲームノベル>


 リクル・クリス

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「様子を見に行ったほうが良いんじゃないかしら」
「だな。まぁ、大丈夫だとは思うけど」
 不安気な表情で言った千華と、煙草をふかしつつ、それに賛同した藤二。
 二人の意見を受け、マスターは伏せていた目を、ゆっくりと開けた。
 ふむ……。確かに、少しばかり遅いかもしれんのぅ。
 苦戦しているということはないじゃろう。
 おそらく、いや、確実に、遅れている原因は……アレじゃろうなぁ。
 ふぅ、と息を吐いたマスター。
 見やっていれば、自分に指示が飛んでくる。
「すまんが、様子を見て来てくれんか」
 
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 何かトラブルがあったのなら、連絡が来るはずなのよね。
 でも、メールも電話もきてない……ってことは、よ。
 特に心配することもないような気もするんだけどねぇ。
 まぁ「行ってきます」を聞いてから、かなりの時間が経過しているし、
 大丈夫だとは思うけれど、ちょっとだけ気になるところもあるわね。
 仕事を終えて疲れた〜って休憩してたら、いつの間にか寝てたとか。
 そういうオチも……なきにしもあらず、よね。うん。
 マスターに指示されたとおり、様子を伺いに現場へと向かうシュライン。
 五時間ほど前のことだ。
 武彦は、美味しい仕事に行ってくると言って出掛けた。
 とても嬉しそうな顔をしていたのを覚えている。
 どんな仕事? と尋ねようか迷ったけれど、聞かなかった。
 ワクワクしているところへ、水を差してしまうような気がしたから。
 その後、マスターや藤二くん、千華さんから聞いた話によると。
 武彦さんは、ジラウバっていう魔物を討伐しに行ったそうなの。
 前に一度、私も討伐に参加したことがある魔物なのよね。
 思い返してみても……特に危険だった印象はないの。
 私でもサクサクと討伐できたくらいだもの。
 武彦さんが苦戦するってことは、万が一にもないと思うのよね。
 でも、戻ってこない。一向に戻ってくる気配がないの。
 仕事事態はね、一時間もあれば済んでしまう内容だと思うのよ。
 行き帰りの時間を考慮しても……五時間も要するなんてこと、ありえないのよね。
 藤二くんや千華さんさえも心配していたし……。
 厄介なことになってたりしなきゃいいんだけど。
 連絡が来るかもしれないと、何度も携帯を確認しつつ現場へ向かったシュライン。
 だが、道中、武彦から連絡が入ることはなかった。
 現場である湖に到着し、キョロキョロと辺りを窺ってみる。
 何のことはない。武彦を、すぐに発見することができた。
 武彦は服のまま湖の中へ入り、一心不乱に……同じ行動を繰り返している。
 水面をバチバチと叩いて水面を揺らし、
 それに驚き、ピョンと飛び跳ね出現したジラウバを愛銃で仕留める。
 本当に、それだけ。その繰り返し……。
 一気に片付けてしまえばいいのに。誰もがそう思う。
 というか、武彦の性格上、ちまちまと始末していることが、まず、おかしい。
 ……何か変ね。いつもと違うっていうか。
 夢中になってるっていうか、我を忘れてるっていうか……?
 現に、私がこんなに近くまで来たのに、気付いていないみたいだし。
 むぅ。声、掛けても良いのかしら。
 声を掛けにくい雰囲気であることに少々躊躇いつつも。
 シュラインは、そこらじゅうに咲いている巨大花の花びらを一枚プツンと取り、
 それを筒状にクルクルと丸めながら、武彦に声を掛けた。
「武彦さん」
「!」
 その声でハッと我に返り、振り返って笑う武彦。
 どうした? と言う武彦に、シュラインは苦笑を返した。
 それは、こっちの台詞よ。って言いたいところだけど。
 とりあえず、協力するのが先かな。
「お手伝いしに来たのよ」
 クスクス笑いながら、筒状に丸めた花びらに口を付けるシュライン。
 ストローのように、花びらを水面に差し込んで。
 音を流し込む。
 水面を振動させる、特別な音。
 ユラユラと、小刻みに揺れる水面。
 人の耳には決して届かない、その音は、ジラウバたちを驚かせる。
 次々と飛び跳ね、姿を見せるジラウバ。
 一斉に飛び跳ねるがゆえに、その光景は気持ち悪くもある。
 おぉ、すげぇ! と笑う武彦に、シュラインは「早く早く」と瞬きで合図。
 せっかく協力してくれているのに、ボーッとしてちゃ失礼だ。
 武彦は「ごめんごめん」と謝り、笑いながらジラウバを仕留めていった。
 絶命したジラウバは、すべて煙となって消えていく。
 一時、不気味だった湖は、元の美しさを取り戻した。
 
 何でまた、ジラウバが大量発生したのか。
 その辺りも気になるところだけど。それよりも。
「武彦さん……何してるの」
 首を傾げて尋ねたシュライン。
 討伐は終えたというのに、武彦が湖から出てこないのだ。
 何してるのと尋ねても、ちょっと待ってと言うだけで。
 ザブザブと湖を徘徊するばかり。
 何かを探しているかのようにも見えるけれど……。
 湖畔で座り、戻るのを待っていたシュライン。
 三十分後、ようやく武彦が湖から上がり戻ってきた。
 巨大な麻袋を手に……。
「なぁに、それ」
「ふっふっふ。知りたいか?」
「何よ、もう。意地悪なことしないで」
「はは。中、見てみろ」
「うん……?」
 麻袋の口を開いて見せる武彦。
 首を傾げながら覗き込んでみると……。
 麻袋の中には、赤い宝石が、どっさりと入っていた。
 パッと見は綺麗な……ルビーのような宝石だが、どこか不気味な感じもある。
 それも当然だ。これは宝石というよりは、ジラウバの目玉なのだから。
「き、気持ち悪いんだけど……どうするの、これ」
「金儲けに使うの」
「お金……? これを欲しがる人がいるってこと?」
「人っつぅよりは、組織ぐるみで欲しがってる感じだな」
「えっと……それって、私も知ってる組織?」
「いや。まだ知らないな」
「…………」
 私が知らないってことは、海斗くんや藤二くんも知らないのかしら。
 それに『まだ』って何よぅ。妙に気になる言い方して……。
 ニヤニヤと笑っている武彦の腕をパシパシと叩き、催促するシュライン。
 武彦はストンと隣に腰を下ろし、麻袋から宝石を一つ手にとって、
 それを掌の上で転がしながら、ゆっくりと説明していった。
 この宝石……いや、ジラウバの目玉は『リクル・クリス』と呼ばれる代物で。
 高い魔力を宿す、魔法石の類であり、使いようによっては兵器ともなりうるもの。
 リクル・クリスを欲している組織というのは無数に存在し、
 中には、関与すべきでない闇の組織も存在している。
 最近『ラビッツギルド』へと姿を変えた、元イノセンスも、
 これを欲している組織の一つだ。
 ただ、まだ公にすべき事柄ではないらしく、
 武彦は、マスターと約束した上で、この仕事を請け負った。
 その約束とは、収集できたリクル・クリスの五割を、ラビッツギルドに収めるというもの。
 収めた暁には、お小遣いというには巨額すぎる報酬を授ける、とのことで。
「ふぅん。なるほどねぇ。コソコソと動いてたわけですかぁ〜」
「ま、まぁ、そう言うなよ。仕方ねぇだろ。今はまだ」
「まぁ、いいんだけどね。マスターに、それだけ信頼されてるってことだし」
「まぁなぁ」
「で?」
「んぁ?」
「そこで終わりじゃないでしょ? まだ続き、あるわよね?」
 ニッコリと微笑んで言ったシュライン。
 武彦はポリポリと頭を掻きながら笑い、
 さぁ、戻るか! そう言って勢い良く立ち上がった。
 シュラインの言うとおり、まだ終わりじゃない。
 リクル・クリスには、まだまだ追求の余地がある。
 けれど、言えない。今はまだ、言うことができない。
 武彦の、はにかんだ笑顔を見れば、それは一目瞭然だ。
 まぁ、仕方ないわよね。言えないのなら。
 お仕事の一環なわけだし、これ以上追求するのは野暮よね。
 時期がくれば、ちゃーんと話してくれるんだろうし。
 それまでは、待ちますか。
 それにしても、綺麗な宝石よね。
 ……ちょっと気持ち悪い感じは、どうしても拭えないけど。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / ラビッツギルド・メンバー
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / ラビッツギルド・メンバー
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / ラビッツギルド・マスター

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
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 2008.09.11 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
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