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着せ替え人形
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ばふっ、と。 そんな音だった。
異界にある巨大図書館で読書中、聞こえてきた妙な音。
爆発……にしては、可愛らしい音だったような。
音は、地下から聞こえてきたような気がした。
あまり知られていないが、この図書館の地下には研究室がある。
どんな研究をしているのかは……まぁ、ご想像にお任せしよう。
ヒントを言うなれば「ここは異界」そんなところで。
地下で何らかの実験をしていて、失敗でもしたのだろうか。
珍しいこともあるもんだ。
何だかんだで、研究室にいるのは優秀な者ばかりなはずなのに。
まぁ、誰でも失敗することはあるし。
それにしても……綺麗だなぁ、これ。
地下から噴出すようにして出現し、図書館全域を覆っている、七色の煙。
失敗が生み出した幻想的な光景……ってところかな。
などと思いつつ、美しさに、つい、見惚れてしまっていたのだが。
(ん……? あ、あれっ……?)
どうしたことか。次第に景色が色褪せていくではないか……。
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「な、何ですのっ、これはっ」
視力を奪われた状態で、右往左往しているアレーヌ。
友人に頼まれて、とある文献を借りに来たのだが。
とんだハプニングに巻き込まれたものだ。
ちょっと見えにくいだとか、そんなレベルじゃない。
完全に真っ暗。何も見えない、失明状態にある。
以前から、あちこちで噂にはなっておりましたから。
この図書館の地下では、怪しげな実験ばかりが行われていると。
けれど、どうして今、どうして今日、今、ここで失敗しますのっ!?
いや、まぁ、失敗ではなく成功の証なのかもしれませんけど。
私の視力を奪うくらいですから、成功なはずありませんわよね。
まったくもう……どうしてくれますのっ。
何も見えませんわ! まったくもって何も見えませんわ!
とりあえず図書館から出ようと、フラフラ歩きながら進むアレーヌ。
壁伝いに、おそるおそる進んでいくものの……何だろう、この気分は。
すぐに元に戻るんだろうけれど、不安になってしまう。
闇の中にポィッと放り込まれたかのような。
視力を奪われると、脆くなってしまうのだろうか。
私らしくない、と苦笑を浮かべつつ、何とか図書館を出たアレーヌ。
さて、ここから、どうしたものか。
友人が待っているから、急いで戻りたいのは山々だが。
この状態で帰るのは至難の業だ。
おとなしく待つか……いや、誰かに助けを求めた方が早いか。
アレーヌは携帯を取り出し、友人に連絡を入れようと試みた。
だが、見えないがゆえに。アドレス帳を開くことさえ、ままならない。
「あぁっ、もぅっ!」
もどかしさからイラつき、不満を露わにしたときだった。
不愉快そうにしているアレーヌに、手を差し伸べる女が一人。
大きなキャリーケースを引きながら歩み寄って来た、
その女は、とてもスレンダーな……見るからに美女、といった印象を受ける。
まぁ、当のアレーヌは見えていないのだが。
「どうしたの?」
女が声を掛けると、アレーヌはハッと我に返り。
「助かりましたわ。どなたか存じませんが、代わりに連絡して頂けます?」
「連絡? あぁ、携帯かな?」
「あそこで被害を被り、何も見えませんの」
アレーヌが指差した方向を見やって首を傾げる女。
まぁ、それも無理はない。
アレーヌは図書館を示したつもりなのだろうけれど、
彼女が示した方向は見当違いの方向で、そこには森しかないのだから。
付近にある施設といえば、図書館しかない。
そう判断した女は、首を傾げたまま苦笑し、事態を把握した。
「なるほど。そういうことね」
「えぇ。まったく! 迷惑な話ですわ!」
「そうねぇ。ちょっと問題だと私も思うわ。えぇと、誰に連絡すれば良いのかしら?」
同調しつつ笑う女に、アレーヌは携帯を渡し、
友人の名前を教えて、連絡するように頼んだ。
言われるがまま、女はアレーヌの携帯を操作し、彼女の友人へ連絡。
友人は、あと一時間ほどで向かうから、そこで待っているように女に言伝を頼んだ。
その言伝を伝えると、アレーヌは安堵の息を漏らし、その場にストンと腰を下ろす。
返してもらった携帯を懐にしまい、やれやれと肩を竦めるアレーヌ。
独り言のようにブツブツと文句を言うアレーヌを見やり、女はクスクス笑う。
「災難だったわね」
「まったくですわ」
「ふ〜ん……」
「? 何ですの?」
「あ、ごめんなさい。あなた、お名前は? あぁ、私は千華よ」
「アレーヌですわ」
「そう。アレーヌちゃん。ちょっと……いいかな?」
「何ですの?」
「お友達が来るまで、あなたの身体を借りたいんだけど」
「はぁ? どういうことですの」
「うーん。わかりやすくいうと、着せ替え人形……かしら」
「何ですのっ、それ。私は玩具じゃありませんのよ!」
「あぁ、ごめんなさい。わかってるわ。ただ、あなたスタイルが良いものだから、ね」
「……まぁ、そこは否定しませんけども?」
「私ね、デザイナーやってるのよ。今、発表会の後なんだけど」
「ふぅん。そうですの」
「ね、いいかな? 暇つぶし程度に。ね?」
「……仕方ないですわね」
「ふふ。ありがとう。じゃあ、さっそく」
暇つぶし、とは言ったものの。
実際のところ、楽しめるのは千華だけだ。
アレーヌは何も見えない状態ゆえに、どんな服を着せられているのか理解らないのだから。
助けてくれた恩もあるし、モデルになるだけなら構わないか。
そう思ったが故に、アレーヌは許可した。
だが、許可したことを彼女は、この後、後悔することとなる。
うーん。やっぱり、赤ね。
アレーヌちゃんには、赤が一番似合うわ。
黒も捨てがたいけれど、やっぱり、赤が一番しっくりくるのよね。
見たところ、まだ若いんだろうなぁ。お肌ツヤツヤだし。
十七、八歳くらいってとこかしら。
こう言っては何だけど、ちょっとキツめな印象はあるわよね。
特に目が。でも、嫌味な印象はないのよね。
ただ純粋に、目力があるっていうか。
こういうタイプの女の子って、イジりがいがあるのよねぇ〜。
楽しそうに笑いつつ、次々とキャリーケースから服を出してはアレーヌに着せていく千華。
セクシーかつキュートな、赤いフリルのドレスや、
どうして、そんなものまであるのかとツッこみたくなるような、
制服やチャイナドレス、メイド服などなど……。
アレーヌのスタイルの良さは異常ともいえる。
何を着せても、ぴしっとキマってしまうのだ。
変になってしまうだろうなぁと苦笑してしまうような服でも、
見事に着こなし、カッコよく見せてしまう。
あれこれと着替えさせつつ、千華はノリノリになっていった。
その結果。
アレーヌは、露出満点な真っ赤なボンテージを着せられる羽目に……。
「あ、ちょっと腕上げてもらえるかな?」
「……あなた、何を着せてますの」
「うん?」
「嫌な予感がしますのよ……私……」
「大丈夫、大丈夫。すっごく似合ってるわ」
クスクス笑いながら、カシャリとシャッターを切った千華。
着替えさせるごとに、千華は、それらをカメラに収めていった。
撮った写真を確認し、ふむふむ……と、あれこれ思案している千華。
と、そこで。アレーヌの耳に、聞き覚えのある声が届く。
「お〜い。千華、何やってんだ……って、おぉ〜」
ちょっとダルそうな声。間違いない。藤二の声だ。
「……おぉ〜って何ですの」
不可解な表情を浮かべて言ったアレーヌ。
そんなアレーヌを見て、藤二は事態を何となく把握する。
まぁ、アレーヌが言われるがまま、ボンテージを着るとは考えにくい。
辺りには千華が作った服が散乱している。
となると……何らかの理由があって、アレーヌは自由が利かない状態にあるのだろう。
腕を組みなおしたりしているから、身体ではないな。
となると……目か。視力を奪われている状態なのかな、了解。
「いやいや。似合ってるなぁと思ってよ」
「……私には理解りませんのよ」
「いや、マジで似合ってるよ。あ、そうだ。これ持ってみて」
「何ですの……ちょっ、煙たいですわ!」
「いいからいいから、はい、持って。吸わなくていいから」
「ごほんっ、ごほんっ」
藤二に渡されて、アレーヌが持ったのは吸いかけの煙草。
ボンテージを纏い、片手に煙草。
何というか……女王様っぽい……。
「どうよ、千華。こういうのは」
「まぁ、悪くはないアイテムね」
「鞭があれば完璧なんだけどなぁ」
「……それは、あんたの趣味でしょ」
楽しそうに笑っている藤二と千華。
煙草の煙に咳き込み、耐え切れなくなったアレーヌは、ポィッと煙草を放り投げた。
煙草が地にポトリと落ちると同時に、アレーヌの視力が戻る。
暗闇から、突如光の中へ放り込まれたような、すさまじい眩しさに目を細める。
次第に目が慣れていき……全てを把握できる状態に戻った途端。
「きゃっ!? な、何ですのっ、この格好はっ!!」
自身が纏っている、セクシーなボンテージに驚きギョッとするアレーヌ。
「あ。戻ったみたいね」
「ん。何だ、もう終わりか。残念」
キャリーケースをガサゴソと漁っていた藤二は、本当に残念そうな顔をしていた。
手には、これまたセクシーな下着らしきものを持っている。
瞬時に、視力が回復して良かったと、しみじみ感じるアレーヌ。
*
元の服へ戻り、一息ついたと同時に、友人が迎えにやって来た。
友人が来るまでの間、藤二から紹介され、アレーヌは千華という女を知る。
藤二の幼馴染である千華は、ちょっと変わった性格をしていて。
モデルを頼めそうな女の子を見つけると、
やたらと仲良くなろうと接触してくるのだそうだ。
千華の御眼鏡に適い、アレーヌはモデル候補へ。
「また、よろしくね」
そう言って笑いながら手を振る千華を見て、アレーヌは苦笑した。
何ていいますか……類は友を呼ぶ、とでも言いますの?
また変な知人が出来てしまいましたわ……。
まぁ、色々な服を着るのは嫌いじゃなくてよ。
どうしても、とおっしゃるようでしたら、また、よろしくしてあげても構いませんわ。
ただし、次は上等な紅茶なりお菓子なり、
それなりの用意をした上で、申し出て欲しいものですわね。
無償で私の身体を使うなんて、笑止千万でしてよ。
……今回は、特別ですわ。
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6813 / アレーヌ・ルシフェル / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・退魔剣士(?)
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / ラビッツギルド・メンバー
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / ラビッツギルド・メンバー
シナリオ参加、ありがとうございます。
遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
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2008.09.11 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
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