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<東京怪談・PCゲームノベル>


 Sorry.

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「さすがに、これは参るよなぁ」
「そうねぇ。大切な資金だもの」
 ラビッツギルドにて事件発生。
 ポリポリと頭を掻いている藤二と、溜息尽くしの千華。
 笑ってはいるものの、それは苦笑。ゲンナリしている。
 彼等が意気消沈している原因。
 それは、倉庫にあった金庫が消えているという事実。
 朝は、確かにあった。間違いない。
 定期的に中を確認するのは、藤二と千華と仕事の一つだ。
 現在時刻は午前十一時。およそ三時間の間に、金庫は消えた。
 運ぶのは容易ではない、巨大な金庫だ。
 一体誰だ。犯人は、どこのどいつだ……?
 
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 むぅ。どうにも腑に落ちないわね。
 イノセンスからラビッツギルドへと姿形や名目を変えた途端にコレでしょう?
 どうして名目だとかが変わったのか、その辺りは私も、まだ把握できいないところだけど。
 その辺りはね、追々聞いていこうと思ってたの。
 聞かずとも、話してくれるんじゃないかとも思ってたわ。
 う〜ん。でもねぇ、泥棒が入るって……考えにくいのよね。
 組織の名目が変わったばかりで、バタバタしてた隙をついたとも考えられるけど。
 容易なことじゃないと思うのよ。
 何だかんだで、ここは、あらゆる意味で猛者が集ってるわけだから。
 それを掻い潜って、大きな金庫を盗むっていうのはねぇ……。
「どう思う?」
 倉庫で腕を組み、チラリと武彦を見やって尋ねるシュライン。
 武彦は、そこらにあった灰皿へ煙草を押しやって消し、溜息混じりに言った。
「内部犯の可能性が高いかな……」
 ラビッツギルド(元イノセンス)の本部にて発生した盗難事件。
 盗まれたのは、倉庫にあった巨大な金庫。
 ギルドの資金が丸々、一瞬の隙に盗まれてしまった。
 警察だとか、その手の組織に申告する前に、
 ギルドの面々は満場一致で、とある人物へ事件解決を望んだ。
 探偵:草間武彦。
 彼ならば、迅速に解決してくれるだろうと踏んで。
 ……決して、思い出したかのように彼へ依頼したわけではない。
 倉庫内を調査しつつ、苦笑を浮かべている武彦。
 連絡がきたとき、武彦はシュラインと共に、カフェで一息ついていた。
 買い物を終えて、少し休んだら帰ろう。
 とても、ゆったりとした、のどかなお昼だったのに。
 二人の時間を邪魔するとは、無粋な奴らだ。
 あそこのコーヒー美味いな。
 あちこちで評判になってるだけあるわ。
 ったくよぉ……あと三杯はいけたのになぁ……。
 まぁ、また今度。いつでも行ける距離にあるから、良いんだけどよ。
 しっかし美味かったなぁ。何つぅかな、あれ。香りっつぅか?
 そういや、似てるような気もするな。こいつが淹れる、それに……。
 チラリとシュラインを見やって物思う武彦。
「うん?」
 首を傾げたシュラインに、武彦は苦笑し「何でもない」と返す。
(…………)
 う〜ん。何かしら。今に始まったことじゃないけれど。
 今日は特に、身が入ってないっていうか、そんな感じね。
 まったりとした時間を邪魔されて不愉快になってるのかな、とも思ったけど。
 ちょっと、そういう感じでもなさそうね。
 面倒くさい……とも違うかな。
 何ていうか。そう、もう犯人の目星がついてる……みたいな?
 どう思う? って質問に、即答で返したしねぇ……。
「シュライン」
「はいはい?」
「これと、同じものがあるか調べてきれくれるか」
 そう言って武彦が差し出したもの。
 何とも美しい、青いバラ。
 それは、倉庫の隅にポツンと置かれていた。
 一言、想いが綴られたカードと共に。
 一輪のバラを受け取り、シュラインは首を傾げた。
 視線は、武彦が手に持っているカードへ。
 武彦は、カードを見せようとはせず、ただ不敵に苦笑するばかり。
 意味深な彼の言動に、何かを感じ取ったシュラインは、
 言われるがまま、一輪のバラを持って、ラビッツギルドを後にした。
 ギルドから少し離れた場所、森の中にある美しい空間。
 色とりどりの花が咲いている。
 それは、自然が織り成したものではなくて。
 人によって、より一層美しく、手が施された庭園のようなもの。
 これは作品。マスターによる、一作品なのだ。
 調べて来てくれるか、と言った武彦は、そう言いながら窓の外、この森を見やった。
 森へやって来たシュラインは、庭園へと踏み入り、手に持つバラと同じ『作品』を探す。
 いや、探すとまでもいかず。その必要はなく。
 青いバラは、庭園の美しさを核作るように咲き乱れていた。
 風に揺れる葉を見つめ、シュラインはクスリと笑い目を伏せる。
 なるほど。そういうことだったのね。
 こんな遠回しなことしなくても良かったんじゃないかしら。
「ねぇ? マスター?」
 目を伏せたまま言うと、花々の陰からスッとマスターが姿を現した。
 いつもの如く、フォッフォッと笑うマスター。
 シュラインは一輪のバラをマスターに差し出す。
 マスターが、それを受け取ると同時に、武彦もやって来た。
 役者は揃った……ってところかしら。
 さぁ、それじゃあ本題。
 聞かせてもらいましょうか。どういうことなのか。

 *

 庭園の隅、ベンチに並んで座り言葉を交わす三人。
 今回の事件は、実は事件でも何でもなくて。
 すべて、マスターが仕組んだ……罠のようなもので。
 マスターの目的は、シュラインと武彦を呼びつけることにあり。
 二人を呼びつけた、その理由というのが……。
「近頃、ここ異界で妙な魔法生物が暴れ回っとるのは、知っておるじゃろう?」
 愛猫シャトゥの背を撫でながら言ったマスター。
 魔法生物……うん、聞いたことあるわ。
 というか、嫌でも耳に入ってくる状態よね。
 いつからだったかしら。一ヶ月くらい前からかな。
 その件で、異界がバタバタと忙しなくなったのは。
「水色のウサギ、でしたっけ?」
「そうじゃ。クロノラビッツと呼ばれる存在じゃな」
「……それが、このお呼び出しに関与していると。そういうことね?」
「いかにも。そやつから、リクル・クリスに関する説明は……もう聞いたかのぅ?」
 武彦を示しながら尋ねたマスター。
 リクル・クリス。えぇ、そのことなら、先日聞いたわ。
 うまぁくはぐらかされた部分もあるけれど。
 ルビーのように赤く美しい宝石。
 でもその実態は、魔物の目玉だっていうアレよね。
 そして、それを求め欲する組織が存在している、と。
「その辺りまでは聞いたわ」
「十分じゃな。して……そのリクル・クリスをな。大っぴらに収集していくことになりそうなんじゃ」
「何か、変化があってのことかしら?」
「そうじゃな。急がねばならぬ事態が発生したというかのぅ」
「……その事態、っていうのは?」
「ふぉっふぉっ。そこは……まぁ、察して欲しいところじゃなぁ」
 うん。まぁ、マスターの口調からして、聞いても教えてはくれないとは思ったわ。
 見た感じ、そのあたりの、より深い詳細については武彦さんも知らないみたいね。
 で……要するに、その収集に協力しろと。
「そういうことかしら?」
「そういうことじゃな」
 淡く微笑んではいるものの、マスターが纏う雰囲気はピリピリと張り詰めている。
 断るっていう選択肢は、ないのね。
 まぁ、こうして呼び出された時点で、そのあたりは予感していたけれど。
 武彦さんは……あの宝石の収集を既に手伝ってるくらいだもの、協力するわよね。
 あ、そうか。これって、要するに私の為のトラップだったってことか。
 何だかなぁ。本当、マスターも意地悪よね。
 武彦さんを隣に置いて、協力してくれって頼むんだもの。
 そんな手段を取られたら、断るなんて、できっこないじゃない。
 まぁ、気になってたっていうのもあるし。
 こんなに用心深くトラップを張らなくても、応じたんだけどなぁ。
 本腰を入れて活動していくことにした、っていうからには、
 まだ準備段階なのよね、きっと。だからこそ、こうして、こっそり実行する必要があったと。
 ふぅ、と一つ息を吐き、シュラインは伏せていた目を開け、微笑んで返す。
 ただ一言「わかりました」とだけ。

 魔法で消した金庫をポンと元に戻し、マスターは言った。
「詳しいことはまた追々な。すぐさま動けるようにしておいてもらえると有難いのぅ」
 フォッフォッと笑いながら、杖をついて歩いていくマスター。
 その背中を見つめて、シュラインはポツリと呟いた。
「やられちゃったなぁ……」
 その言葉に武彦はクックッと肩を竦めて笑う。
 呼び出しが掛かった時点で、彼は、こうなることを把握していたようで。
 金庫が盗まれたことを、神妙な事件と捉えて、
 真面目な顔で「どう思う?」と尋ねてきたシュラインが滑稽だったそうだ。
 まぁ、武彦さんが意地悪なのは知ってるけれど。
 マスターだとか、藤二くんたちも、そうとうな意地悪さんよね。
 迫真の演技だったわよ。何か変だなぁとは少し思ってたけれど。
 まぁ、何にせよ。色々な物事が動き出すようね。
 近頃の異界は、前にも増して物騒というか不可思議な事件が多くなっているし。
 何か、とてつもなく大きな事件の前触れなんじゃないかと示唆していたけれど。
 どうやら、それもあながち、考えすぎではないみたいね。
 時期が来たなら、私も協力するわ。
 こうして何度も出入りしている場所での問題だもの。無関係じゃないしね。
 とりあえずは、武彦さんにくっついて、ちまちまと行動すべきなのかな。
 まだ準備段階のようだし。派手に動き回るのは良くないわよね。
 まぁ、家に戻ったら、そうね。
 ちょっと文献だとか、そのあたりを漁って調べてみようかな。
 私に協力を求めた理由っていうのは、そういうところにあるんだろうし。
 うんうん、と頷きながら武彦と手を繋いで岐路を行く。 
 その途中、シュラインは武彦に尋ね求めた。
 バラと共に置かれていたカードに、何と綴られていたのかを。
 カードには、ただ一言。こう綴られていた。

 Sorry.

 その謝罪の意味を知るのは、もう少し先の話。
 その謝罪の意味を知るが為、歯車は動き出して。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / ラビッツギルド・メンバー
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / ラビッツギルド・メンバー
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / ラビッツギルド・マスター

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
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 2008.09.12 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
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