コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『追い詰められて』

投稿者:なつ 18:14

初めて書き込みさせていただきます。
長野に住んでいるなつといいます。中学生です。
怪奇現象について相談できる場所を探していて、こちらの掲示板を見つけました。

相談は、新宿区で一人暮ししている従姉のことです。
小さな頃は、よく遊んでもらったんですが、従姉が東京で一人暮らしを始めてからは、ほとんど連絡をとってませんでした。

近々、東京に行く予定が出来たため、久しぶりに電話をしてみたところ、なんだか従姉の様子が変なんです。
何かに怯えてるんです。電話の向こうから、大きな物音も沢山するし。
従姉に何の音か聞いたら、ポルターガイストだと言うんです。
そんなこと、あるわけないと思うんだけど、従姉の声が真剣だったので、気になっています。

すみませんが、外からでいいので、近くに住んでる人がいたら、様子を見てきてもらえないですか?
もし、解決してくれた場合、お礼は3000円くらいまで払えます。
よろしくお願いします。

    *    *    *    *

 駅から20分ほど歩いたところにある、小さなアパートだった。
 塗装がはげており、お世辞にも綺麗なアパートとはいえない。
 鈴城・亮吾はアパートを見上げながら、なつ――本名、相川奈津という少女に聞いた部屋を探した。
「多分、あの端の部屋だろうな」
 その部屋には明りがついていない。
 現在の時刻は20時。まだ帰っていないのだろうか。
 外から様子を見るだけでもいいと言われていたが、亮吾は奈津の従姉に会ってみるつもりだった。
 従姉の名は『金田美穂』。19歳の大学生だそうだ。
 入り口のポストのネームプレートを確かめると、やはり美穂の部屋は2階の一番端の部屋のようである。
 階段を上った亮吾の目に、美穂の部屋のチャイムを鳴らす中年女性の姿が映った。
 返事がないらしく、中年女性はドアを叩きだした。
「金田さん、金田さん!」
「すみません、どうかされたんですか?」
 亮吾は女性に近付いて声をかけた。
「はい。私一階に住んでる者なのですが、時々凄い物音がするんで、気になって訪ねてきてるんですよ。本人が出てこなくても、こうしてドアを叩くと、しばらく静かになるので」
 そう説明をした後、女性は頭を下げてその場から去っていった。
 どうやら美穂は部屋にいるらしい。
 部屋の中は、今は静かだ。
 亮吾もチャイムを鳴らしてみる。
 ……しばらくして、ドアが開いた。
 長い黒髪の女性であった。
 あまり活発ではないらしい。肌がとても白かった。
「金田美穂さんですよね? 俺、鈴城亮吾っていいます、従妹の相川奈津さんの友達の」
「なっちゃんの……」
「はい。俺、心霊現象とか詳しいので、何か力になれるかもって思って」
 亮吾がそう言うと、美穂はまるで縋るような目で、亮吾を見たのだった。
「入って、くれる……?」
「はい」
 美穂に招かれて、亮吾は玄関に入った。
 ――そこには、女性の部屋とは思えない光景が広がっていた。
 部屋には足の踏み場もないほど、様々なものが散乱している。
 箪笥や本棚などはないが、服をかけてあるハンガーやプラスチック製の衣装ケースなどが倒れており、衣服も散らばっていた。
 食器類は、紐で縛られている。
「いつもじゃないの。突然、物が散乱しだして……」
「原因は色々考えられます。とりあえず……片付けましょうか」
 亮吾は安心させるためにも、穏やかに微笑んでみせた。
 美穂はこくりと頷いて、細い指で洋服を拾い上げてハンガーにかけていく。
 酷くやつれている。早くなんとかしてあげないと、肉体も精神もかなり危ないと思われた。
 亮吾はゴミや本をまとめながら、美穂に注意を払っていた。

 1時間後、部屋の片付けを終えた2人は、小さな丸テーブルを挟んで、向かい合って座っていた。
 美穂は憔悴しきっていて、話しをしてこない。
「あ……何か飲む? 紅茶くらいなら、淹れられるから」
 そう言って、美穂は立ち上がり、ヤカンに水を入れると火を点けた――その時だった。
 カタカタと物が揺れ出す。
 紐で縛られている食器類は動かなかったが、ハンガーにかけられた服がふわりと浮かび、衣装ケースの蓋が開く。
 亮吾は瞬時に金属類を磁場結界で押さえ込もうとする。
 しかし、その力は思いの外強い。押さえ込もうとすれば、するほど反発する力が強くなる。
「あっ」
 美穂が声を上げる。
 高温のヤカンが浮かび上がり、美穂に迫る。
 亮吾はヤカンに集中をし、無理矢理流し台に落とすと、美穂に近付きその腕をとった。
 洋服が乱舞の如く、空中を飛びまわっていく。
「いや、いや、いや……っ」
 美穂は怯えて蹲ってしまう。
「……なんだ、これは……」
 亮吾も酷く混乱した。
 霊的な力を感じない。
 彼女にとり憑いているモノの存在でも、地縛霊の仕業でもない。
 本当に、何の理由もなく、物が飛びまわっているのだ。
「包丁が紐を切ったら、どうしよう……っ」
 美穂が震えながら声を上げる。
 すると、カタカタ揺れていた包丁が、食器類を繋いでいる紐を切り、浮かび上がった。
 亮吾は磁界を強め包丁を押さえ込む。
「お皿が割れて、飛びまわったら、どうしよう……っ」
 ガチャン
 激しい音を立てて、皿が割れて破片が飛びまわる。
 ――その時点で、亮吾は気付いた。
 これは、彼女が起こしている現象だ。
 彼女自身の持つ能力が暴走をしている。
 彼女が恐れれば恐れるほど、この力は強くなるだろう。
 悪い現象をイメージすれば、それは現実のものとなってしまう。
「やだやだやだやだーっ! あああああっ」
 美穂は叫び声を上げながら、頭を激しく振っている。
「美穂さん、美穂さんっ!」
 亮吾は美穂の両肩を掴んだ。
「落ち着いて! 大丈夫だから、絶対」
 そう言い切って、亮吾は自分の中の精霊の力を解放し、美穂の能力に絡めて鎮めようと試みる。
「ダメ、私の側にいると、物が襲い掛かってくるッ!」
 飛びまわる本が、亮吾の背と肩にぶちあたる。そして、亮吾のこめかみを雑誌が叩いた。
 亮吾は左のこめかみを押さえて、集中を高める。
「大丈夫、絶対! 深呼吸をするんだ!!」
 力の暴走は、本当に苦しいものだ。
 自分だけではなく、人をも傷つけて。
 更に自分を追い込んでいく。
「ああっ、いやいやっ、やめてーっ!」
「何も起きないと信じろ。自分は誰も傷つけないと強く決意しろ! これは君自身の問題なんだッ」
 叫ぶ美穂の気持ちが痛いほど分かる。
 かつて亮吾も、精霊の力を暴走させてしまったことがあるから――。
「落ち着いて、俺のことを信じてくれれば、大丈夫だから」
 美穂が目を閉じて、強く頷いた。
 途端、亮吾の力は、より深く美穂の力に絡まり、浸透し、中和していく。
 荒れていた美穂の呼吸も、少しずつ落ち着いていった。
 本がバサバサと落ちていく。その上に、衣服がふわりと覆いかぶさる。
 降り注ぐ皿の欠片から、覆いかぶさって美穂を守り、亮吾はゆっくりと美穂の背を叩いた。
「もう大丈夫。目を開けて」
 美穂がそっと目を開けて、身体を起こす。
 部屋の中は、亮吾が訪れた時より荒れていた。
「また、片付けないと」
 亮吾は疲れ果てた表情で、それでもにっこりと笑ってみせた。
「はい……」
 美穂は返事をして、涙を流した。
「大丈夫だから、美穂さんがしっかりしていれば、もう起きないから!」
「はい……っ」
 もう一度返事をして、美穂は涙を拭う。そして精一杯の笑みを浮かべる。だけれど、涙は直ぐには止まりそうもなかった。

 片付けを手伝おうと思ったのだが、美穂に止められてしまい、亮吾はそのまま帰宅することにした。
「本当はもっと休んでいってほしいんだけど……。ご両親、心配してると思うから。私から電話したら、変な誤解されるかもしれないし」
 亮吾を気遣う気持ちだけではなく、しばらく側にいてほしいとも思っているのだろう。美穂は目を伏せて少し寂しげな笑みを浮かべていた。
「これ、俺の携帯の電話番号。電話くれれば、すぐに駆けつけるから。瞬きほどの速さで」
 美穂はくすりと笑って、亮吾が差し出したメモを受け取った。
「ありがとう。落ち着いたら、電話するね。会ってくれる?」
「もちろん。……美穂さんも頑張って。きっとその力があってよかったって、思える日が来るからさ」
「うん」
 美穂は今までで一番嬉しそうな笑みを見せた。
「それじゃ、また!」
「またね」
 通路を歩き、階段に差し掛かった時、振り向いてみるとまだ美穂は亮吾を見ていた。
 美穂が軽く首をかしげて微笑む。
 亮吾は大きく手を振って笑顔を見せ、階段を下りていった。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266 / 鈴城・亮吾 / 男性 / 14歳 / 半分人間半分精霊の中学生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ライターの川岸満里亜です。
『追い詰められて』にご参加いただき、ありがとうございました。
とてもよい形で解決でき、嬉しく思います。
今回の事件は、亮吾さんにとっても、力があってよかったと思える事柄の1つになりましたでしょうか。
この度はありがとうございました。
またお目に留まりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。