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<東京怪談・PCゲームノベル>


Leading you to a strange land.

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 特に目的があったわけじゃない。
 今思えば、不思議で仕方がない。
 どうして、あんな何もない森へ踏み入ったのか。
 思い返せば、疑問ばかりが浮かぶけれど。
 それらに対して、追求する気は起きなかった。
 どうしてかな。そうだな……例えるならば。
 運命、とでも言おうか。
 少し、大袈裟かもしれないけれど。
 間違ってはいないはず。
 そうでしょう?
 
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 手指を伝う、生暖かい……鮮血。
 それを眺めていると、スッと心が軽くなって。
 そう、満たされるんだ。
 喚き声だとか、悲鳴だとか。
 そういう類に快感を覚えるタイプの同業者多いけど。
 ん……同業者、って言い方は変かな。
 私は趣味で楽しんでるだけだしね……。
 だからこそ、どこかに属したりしないし、そういう話は全て蹴ってる。
 どこかに属した方が動きやすいって言う人もいるけどね。
 私は、興味がないから。動きやすいだとか、そういうことには。
 ただ純粋に、楽しければ良いの。
 そう、満たされれば。それだけで。
 夜空に浮かぶ、銀の月。
 その灯りを背に、人気のない不気味な道を行く少女が一人。
 彼女の名は、吉良原・吉奈 (きらはら・よしな)
 東京、神聖都学園の高等部に通う高校一年生。
 表向きは。そう、表向きは。普通の女子高生。
 隙のない歩みを見せる彼女には、もう一つの顔がある。
 あちこちで囁かれている、もはや伝説一説のような存在。
 爆弾魔『キラープリンセス』
 その正体が、この小柄で華奢な女子高生だと知ったら。
 誰もが驚くことだろう。
 事実は奇なり。
 信じられないと疑っても一向に構わない。
 けれど、その事実は揺るがない。変わらない。
 まぁ、彼女は、その事実を大っぴらにしたりする気はないようだが。
 誰にも言わず、密かに。楽しめれば良い。彼女は、切にそう願っている。
 今宵も今宵で。
 吉奈は異界へフラリと足を運び、趣味を満喫していた。
 無差別に襲うわけじゃない。きちんと相手は選ぶ。
 恋愛と同じ。彼女の場合、少し……異質かもしれないけれど。
 その辺りは、追々……理解ってくることだろう。
 指先を染める紅を拭き取り、フゥと一息つき、吉奈は歩む。
 さて、どうしようかな。
 このまま、帰ろうか。
 何事もなかったかのように、いつもどおり。
 でも、それも何だかなって気がしないでもないような。
 うーん……何かな、この感じ。
 嫌な予感、とは少し違う感じ……だけど。
 首筋に走る、妙な感覚。
 ピリピリと、僅かな電気が流れるような、不思議な感覚。
 それは、彼女の能力の一つでもある、直感。
 ここは異界。場所が場所なだけに、良くないことの前触れだと考えるのが妥当だ。
 けれど、不思議と……嫌な感じはしなかった。
 この日は、特別な日。だったのかもしれない。
 今、思えば。

 あぁ、うん。やっぱり、気のせいだったのかな。
 そうだよね。ここは異界。あらゆる負が行き交う場所。
 だからこそ面白味があるとも言えるんだけど。
 はぁ、と一つ小さな溜息を落とし、身構えた吉奈。
 突如、彼女の前に姿を現した、異形なる生物。
 理解りやすく言うなれば、魔物だ。
 いつも思うけれど、本当、飽きないよね、ここは。
 まるゲームの中にポンと放り込まれたみたいな感覚。
 向こう……東京、っていうか、現実ではお目にかかれない存在のオンパレード。
 大して驚きもしなくなったっていうのも、何だかなって感じよね。
 ……それにしても、妙な魔物ね。
 隙を見せることなく身構えつつ、首を傾げた吉奈。
 彼女が疑問に思うのも無理はない。
 今、目の前で己に牙を向いている魔物は、妙なのだ。
 これまた不思議なことに、何が、どこがおかしいのかは理解らない。
 けれど、何故だろう。
 いつもとは違う感じがした。
 ただの魔物じゃない……もっと深いような。
 追求すれば、あらゆる事実が判明していくのではなかろうかと思えるような。
 まぁ、何にせよ始末しちゃわないとね……。
 調べてみるのも面白そうだけど、おとなしく調べさせてくれそうにもないし。
 片付けてしまってから、ゆっくり調べても良いわけだし。
 じゃ……いきましょうか。
 一歩踏み出し、刹那の討伐。
 いつものように、急所を一突き。
 何も難しいことはない。
 吉奈は、この日も、ありのままに動いた。
 だが、吉奈は想定外の事態に、踏み込みを躊躇ってしまう。
「……!!」
 吉奈が踏み込むと同時に、どこからともなく炎が飛んできた。
 その炎の狙いは、吉奈ではない。
 吉奈の頬を掠め、炎は、真っ直ぐに魔物へと向かっていく。
 炎は魔物を包み込み、一瞬で不気味な存在を炭へと化した。
 足掻くことも呻くことも出来ぬまま、まさに瞬殺。
「…………」
 一筋の煙を昇らせ、消えていく魔物。
 消えると同時に、ポトリと宝石のようなものが地に落ちた。
 蒼い……とても綺麗な宝石だ。
 拾い上げ、手に取りたいと思う。その衝動。
 吉奈はフラフラと歩み寄り、宝石を拾い上げようと身を屈めた。
 その時。
「触るな!」
「!!」
 背後から抑制の声。
 ビクリと肩を揺らした瞬間の感覚は、あれだ。
 我に返った……その表現が、一番しっくりきた。
 屈めた身を起こし、ゆっくりと振り返る。
 吉奈の目に映ったのは、自分と同い年か少し年上か……特に何の変哲のない少年だった。
 ……と思ったけれど。ちょっと、ううん。違うわね。
 普通の男の子って感じじゃないわ。
 パッと見は、そうね。私と同じ。
 どこにでもいそうな、普通の男の子。
 けれど、そうじゃない。裏の顔を持ってる。
 まぁ、この現状からして、普通なわけないんだけど。
 歩み寄ってくる少年は、屈託のない笑みを浮かべていた。
 さきほど抑制したときの声とは結びつかない雰囲気だ。
 少年は笑みを浮かべたまま、吉奈の横を通り過ぎ、地に落ちた宝石を拾い上げる。
「ん。まぁまぁかな〜。ま、いっか」
 宝石を月灯りに当て、眺めながら妥協の上で納得している少年。
 少年の背中を見つめつつ、吉奈は尋ねる。
「何が……?」
 その問い掛けに、少年は応えてくれなかった。
 ただ屈託のない笑みを浮かべたまま。一言。
「内緒」
 そう返しただけ。
「……そうですか」
 そう言われてしまったら、こう返すしかないわよね。
 まぁ、言えないことって誰にでもあるし。構わないんだけど。
 けれど、少なからず私も関与しているわけだし。
 少しくらい、教えてくれても良いような気がするんだけど。
 まぁ、無理に聞くことでもないわよね。
 そうね。こう考えておきましょうか。
 助けてくれた。そういうことで。
「……えぇと。ありがとう、と一応、言わせてもらいますね」
 そう言うと、少年はニッと笑い。
 吉奈にズイッと歩み寄り、彼女の耳元で囁いた。
「余計なことすんな、の間違いじゃねーの?」
「…………」
 沈黙してしまったのは、事実だからかもしれない。
 心のどこかで、私は、そう思っていた。
 まだ、もう少し。楽しみたい。
 楽しんでから帰りたい。そう思っていた。
 ウサ晴らしとは少し違うけれど、消化不良のようなものが残るのは確かだ。
 獲物を横取りされた。その時の微妙な感覚に似ているかもしれない。
 私の心情を、いえ、私の性を読み取り把握した。一瞬にして。
 あなたは一体、何者なのでしょうかね。
 不可思議な表情を浮かべる吉奈を見て、少年はケラケラ笑う。
 何もかも、見透かされているような、妙な感覚だ。
 けれど、何故だろう。不快ではない。うん、不快ではない……。
「お前、名前は?」
「……吉奈。吉良原・吉奈です。あなたは?」
「俺は海斗。黒崎・海斗。よろしくな、吉奈」
 差し出された手を見やり、思うこと。
 よろしく、と言われても困る。
 何が? 何を? どう、よろしくするのか?
 そう疑問に思ったのは確か。
 けれど、私は少年の……海斗の手を取り、握手に応じた。
 尋ねることをしなかったのは、どうしてだろう。
 この握手の意味は? と、そう尋ねなかったのは、どうしてだろう。
「じゃ、またな!」
「……はい。また」
 嵐のように。唐突に姿を見せて、去り行く少年。
 その存在もまた、魔物と似通う『奇妙さ』があった。
 少年が去り、一人残された吉奈は、握手を交わした己の手を見つめる。
 僅かに残る、温かい感触。
 手指を伝う、血の、快楽の感覚に酷似している……。
 少年が走り去った方向を見やり、吉奈は淡く微笑んだ。
 何に対して笑んだのか。それは理解らない。

 またな、という言葉の意味。
 その言葉に対して、自然と漏れた返答。
 またね。その言葉のとおり。
 あなたとは、また、どこかで会うのでしょう。
 そう、遠くない。その日は、遠くない。
 もう一度、顔を合わせた時。その時は、尋ねても構いませんよね?
 あなたが何者なのか。あなたの目的は何なのか。
 もちろん、私のことも話しますよ。包み隠さず。
 隠したって無駄なんでしょう?
 月灯りに、かざした手を引っ込めて、その手をポケットへ。
 まだ僅かに残る温もり。消えることのない、その温もりを。
 抱いたまま、吉奈は帰路につく。
 またね。そう心の中で再度呟いて。
 握手を交わした、この日。
 
 この日が、スベテの始まりだったんだ。
 今、思えば。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 3704 / 吉良原・吉奈 (きらはら・よしな) / ♀ / 15歳 / 学生(高校生)
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / ????

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
 シナリオ・クロノラビッツへの複線を踏まえた内容となっております。
 よろしければ、是非。ご参加下さいませ。
 作中と同じ言葉を、お届けします。また、どこかで。
 ありがとうございました。宜しくお願い致します。
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 2008.09.10 / 櫻井くろ (Kuro Sakurai)
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