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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


草間兄妹の海水浴 1

「よし、今月の仕事は終わった!」
 草間武彦が、すべての書類を片づけ終え、背伸びする。
 相変わらず怪奇事件に関わるなかで、夏は集中してその件がくるのだが、
 今年の7月と8月の狭間だけは仕事を入れないと心に決めているのである。
 妹の草間零が、楽しみにしている海に行くからだ。二泊三日で。
 怪奇や怪談、都市伝説は噂が先行し、現象を発現するのは盆から彼岸である。
 噂だけで行動するのはSHIZUKUとアトラスがする。
 実際の問題解決は、こっちの仕事でだ。先に少しだけでも休ませてもらう。命張っているからなとか。
 去年はかなり遅れて、遊んだが、あの異界ではあまり関係がない。常夏の異界。
「で、いつの間にお前がいるわけだからな。『早く来い』みたいな感じで」
「きゅい。」
 応接のソファーで、アイスコーヒーを飲む白い髪、白い肌の少女がいた。
 空鯨。その異界の界王。
 そんな風には見えないが……。
 隣にはなにか変な小麦色が要るが気にしない。いつものことだ。
「零、五月、準備するぞ」
「はーい。」
 まず、人間様は旅行の準備である。


 天空剣道場。
 綺麗にワックスが張られている道場の床。そこに人影が2つ。影斬こと織田義明と鳳凰院美香が瞑想をしていた。
「うおーい」
 瞑想をじゃまするのんきな声がする。
「紀嗣」
 美香がその声に気がつき、目を開けた。
「なんかさー。草間さんが海行こうってメールきたー」
「海?」
 美香は怪訝な顔をする。
「ああ、もうそんな季節か」
「師匠。あなたには、季節感がないのですか?」
 ジト目。
「近頃季節感を感じなくなった」
「あんた。時間とまってんのか?」
 影斬の言葉に紀嗣が呆れる。
「私の体内時計は……それは、いいや。いつもこの時期に、草間さんところの常連と、あやかし荘の因幡さんと、ここに入り浸る愉快な仲間で、海に行くんだ」
「愉快な仲間扱いかよ。俺ら」
 ため息をつく。いや、事実そうだから。
「私は、行きたくない」
「そう言うな。のんびりするのもまた、能力を抑えるのに必要だぞ?」
「そうだぞねえちゃん」
 影斬と紀嗣が拒否する美香に言う。
「……私……だから……」
「は?」
 影斬は聞き取れなかったが、美香の表情で何となく察しがついた。
 ここで、かわうそ?並の馬鹿がいたら、とんでもないボケをかますだろうが、それはそれとして。
「泳げないのか?」
「……」
 頷いた。
「泳げる練習しないとな」
「決定ー」
「まて! 勝手に決めるな! 私は!」
 結局、連れて行かされるので、半分諦めている。
 ただ、こういう事が楽しいと、思い始めている自分にとまどいを感じているのだが……。

 こうして、恒例の深淵海水浴場に向かうのである。



〈車で〉
「それほど大所帯じゃ無いというか。各自車で移動なのか」
 草間がメールを送信し、返答来たのは数名。
「少ないけど、いつものメンバーよね」
 シュライン・エマは、全員の身支度を草間零と五月、空鯨で始めている。その合間に草間にアイスコーヒーを出した。
「ふむ、新規もいるけどな。自前の車やバイクで向かうそうだ。地図も送っておいた。現地集合みたいなノリになるな」
「みなでわいわいじゃないのきゅい?」
 空鯨が小首をかしげる。
「それでも、マイクロバスぐらいは借りる方向だけどな。俺に、シュラインに零、五月に鯨、恵美に撫子、皇騎、義明、茜、美香に紀嗣、イシュテナに石神だ」
 さらりとメモを取る。
「明日菜さんたちは別の車なのね」
「左ハンドルだよ。金持ちだ!」
 メールの写真がBMWのXシリーズで、オープンカーにもなる代物だった。


 天空剣道場には珍客が来ていた。静修院樟葉である。彼女は実際、ここに寄ったことはない。
「なにかな?」
 影斬こと織田義明が彼女を出迎えた。
「新しい退魔師が居ると聞きまして、その……相談に」
「……ああ、隠しておきたい事と、退魔対象にならないように、口添えか?」
「はい」
 彼女にとって此は死活問題。
 居間で話をして、通い妻となっている天薙撫子がお茶を持ってくる。
「美香様や紀嗣様は分かって下さいます」
「妖魔の妖気を遮断するというより、一時的にその部分を封印できるのかも考えるが」
「魂と同一化しているためそれは……それに、天空剣だと美香様辺りが分かるのでは」
「ふむ」
 考える。
「驚いたときにフォローはしよう。向こうもそう怪訝な顔はしないはずだ」
「?」
「妖気を醸し出すのは、なにも、君だけではない。それに、妖気自体が『悪』とは限らないだろ?」
 と、縁側の猫に交じって猫より大きい小麦色の毛玉がいた。
|Д゚) なんぞ?
「あ、納得しました」
 樟葉は微笑んだ。
|Д゚) ……
|Д゚) 解せぬ


〈集合・出発〉
 草間興信所に集まるのは、マイクロバスに乗るメンバーだ。シュラインに零、五月に鯨、恵美に撫子、皇騎、義明、茜、美香に紀嗣、イシュテナに石神、そして草間だ。そして、既に車で来ているのは、明日菜に祐子、樟葉である。風宮の姿はない。
「皇騎さん〜」
「茜さん……」
 茜はもう皇騎にべったりである。
 撫子はというと、
「あの、その、離れてくれませんか祐子様」
「ええ、いやですー」
 祐子が抱きついて離れない。
「ごめんなさいね」
 明日菜が苦笑しながら、祐子の襟首を掴んでひっぺがえした。
「……よろしく」
 イシュテナは、零に挨拶してから、鳳凰院姉弟、初顔合わせの人、なじみの人にと、お辞儀をする。
 石神はというと、どうした物かと悩んでいる。監督係になっている義明が、声をかけた。
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
 とはいっても、嘘は言えない。ため息を吐く。
「あの人とは……本当に友達になりたい……」
「ふむ。それは、美香次第だな」
 手に顎を当てて考える義明。
「どうかしました? 師匠」
 美香がやってきた。
「ん? ああ……」
「いえ、今回行くところが、どういうところなのか織田さんに聞いていただけです」
「そうなの……」
 美香は、一寸身を引いて距離を置く。
「姉ちゃん! 一緒に座ろう!」
「紀嗣! ちょ、ちょっとまって……」
 弟に引っ張られる。
 石神はため息を吐いた。
「はーい、みんな、荷物ちゃんといれた? 出発するわよ〜」
 シュラインが点呼をとる。
 さあ、出発だと賑やかになってきた。

 明日菜の車が先頭に、走っていく。途中で、バイクと合流する。ウィンカーで合図を送っていた。
「誰?」
|Д゚) あ、風宮?
 なぜか運転しているのは、かわうそ?
「知ってる人?」
「だれ?」
 紀嗣とイシュテナが訊く。
「ああ、風宮だ。記憶喪失らしいが、渾名がある」
 草間が代わりに答えた。
「渾名?」
 紀嗣とイシュテナが顔を見合わせた。
 撫子は、バスの揺られ具合で眠くなり義明の肩に頭を置いて眠っている。茜がニヤニヤと笑っていた。
「よしちゃん、見せつけちゃって〜」
「お前もすればいいだろう」
 ジト目で睨む。
「茜さん……」
 皇騎が苦笑していた。
「シュラインさん、あの、実は」
「どうしたの? 美香ちゃん」
「……えっと、その」
 何か言いたげな美香なのだが、どういえばいいか分からないらしい。
 石神は、じっと窓から景色を眺めている。森しか見えない。
「……今山道よね?」
 ロードマップからすると、海から明後日の方向に向かっている様な気がする。
|Д゚) あんしんする
「いや、だから、なぜあんたが運転しているかわかんないだけど」
|Д゚) んー。交代制
「答えになってない!」
 そう、突っ込んでいる間に、周りが開けた。
「きゅいきゅいー♪」
 空鯨が嬉しがっている。
 一面の青。あを。空も、彼方先までの海も、青だ。
「おお!」
 起きている人全員は、窓から海を見る。
「おお、夏はこうでなくちゃ!」
「これが……海……」
 イシュテナが、知識として知っているが(ある意味直に見る)初めての海を眺め呟く。

 そして、バスが止まった。

〈挨拶と〉
「今年もよろしくお願いします」
 シュラインが深淵旅館の女将達に挨拶する。
「いらっしゃいませ」
「きゅい」
「鯨様……急かしてはダメですよ」
「きゅいー」
「おーい、荷物だすの手伝ってくれー」
 草間が男呼んで、バスのトランクを開ける。皇騎や義明、紀嗣、零が手伝う。
 一旦、部屋を割り当てられ、荷物を置いてから、今後の計画を話すという草間。
「お、海が一望できる!」
「ですよ。ここは凄いところです」
 驚く紀嗣に皇騎が言う。
「で、長谷先輩とあんた、恋人?」
「え、え、まあ、そうですが……」
「……なら、いいか……」
「?」
 皇騎が義明を見るが、義明は肩をすくめるだけだった。
「すごい……」
 イシュテナが窓から見る海に心奪われている。
「……?」
 恵美が、彼女の目の前で手を振ってみる。
「反応無いですね」
「感動して意識失っているのかしら?」
 シュラインが苦笑した。
 一方、茜と美香が風宮の乗ってきたバイクをみている。
「ほほー、これは」
「分かるのですか?」
「格好いいがいわかんないね」
「……先輩」
 そんな、やり取りの中、バイクから離れていた風宮が固まる。
(可愛い子だ!)
「あの!」
 また、悪い癖一目惚れ発症。
「ごめんなさい!」
「いえ、なにも言ってないんですが……」
「バイク勝手に弄ろうとしてごめんなさい!」
 美香が謝る。
(素直で良い子だ!)
 顔に出る風宮。
 美香が何かに感づいた。
「あの!」
 風宮が真剣な目つきで美香に詰め寄った。
「ごめんなさい!」
 たたみかけるように割り込んで答える美香。
「また……何も言ってないですけど」
「えっと、……それは……無いか良くない言葉が出るからです」
 と、かなりトゲの入った返答であった。
 そして……。
「ねえちゃんに近づくなああああ!」
 二階にいたはずの紀嗣が、ダッシュで風宮を蹴り飛ばしていた!
「どうして――?!」
 2m程飛んで、一度バウンドする風宮。そして沈黙。
「こら――っ! 紀嗣!」
 美香と茜に今度は紀嗣が叩かれていた。
「まだ治っていないのね……」
 シュラインが苦笑する。
「あまり近寄らない方が良いですねぇ……」
 明日菜の後ろに隠れて一寸怯えている祐子が言った。
 庭にある水道にタライ一杯に水を張って其処にスイカや夏野菜を浸けて、冷やしながら、縁側に座り、旅の疲れを癒す。麦茶が美味しい。
「俺は、これからバーベキューの準備をする。しかし、他の連中は自由にしてくれていいぞ」
「はーい」
 草間の言葉に素直に返事をする一行であった。


《昼風呂》
 湯煙が、浴場を包み込んでいる。そこに1人だけ、湯船に使って、手を伸ばす人。
 シュライン・エマである。
「うーん、気持ちいい!」
 朝や夕方以降に浸かることはあるとしても、こうした真っ昼間に風呂を入ることはない。ましては温泉である。かなり貴重な体験だ。
「お湯加減道ですか?」
 夏江が訊ねてきた。
「いいですよ。ありがとうね」
「いえいえ、浴衣置いておきますね」
「ありがとう」
 こうして、ゆっくり疲れを取って、浴衣に着替えたシュラインは、草間のバーベキュー準備を手伝うことにした。
「さて、手伝うわ。武彦さん」
「お、サンキュ」
 バーベキュー用のコンロに炭を設置している。
 野菜や肉やら、魚やらが運ばれてくるのだがどれも重たい。
「ね、武彦さん」
「なんだ?」
 にこにこ顔のシュラインは上目使いで、草間に話しかける。
「それが終わってからで良いから、重いモノお手伝いして欲しいなぁ」
 と。
 草間はかなりドキッとしたらしい。顔に出ている。
「あ、ああ、男手ならそろそろ義明や皇騎あたりが手伝ってくれるだろう……うん」
「武彦さんに♪」
「……わかった」
 項垂れる草間武彦であった。
 彼はシュラインに弱いのだ。尻に敷かれている訳である。
 零が、浴衣姿の片手だけで、切った材料を籠一杯に持ってくる。
「お兄さん、頑張ってお仕事(バーベキュー準備)して下さいね。皆さんで手伝いますから」
「おう……遊びは真剣だぞ」


〈バーベキュー〉
「おーい準備できたぞぉ」
 草間と義明が砂浜に向かって皆を呼ぶ。
 撫子やシュライン、祐子、明日菜、樟葉、義明、恵美と美香はバーベキューを手伝っていた。
 イシュテナや、石神、皇騎に茜が戻ってくる。
 風宮だけは髪の毛を真っ白に染めて、戻ってきた。
「どうした? あいつ」
「海の生物にも失恋したみたい」
「……」
|Д゚) 失恋魔神キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
「いわないでええええ! って、失恋魔神なの?!」
 叫ぶ風宮。
「ああ、心配するとつけあがるから、放置だ」
 草間が言った。
「酷いです草間さん!」

 シーフードバーベキューの様子になって、潮と海の幸が焼ける香りが空腹へを誘う。
「キンキンに冷えたドイツビールをどうぞ!」
 明日菜が草間に酌をする。
「お、そうきたか! 皇騎、義明も飲め!」
「はい、では戴きます」
 素直に応じる義明に、遠慮気味の皇騎。
「男で酒飲めるのはお前らしか居ないんだ」
 草間が言う。
 ああ、確か成年男が今回少ない。
|Д゚) ←これは論外
|Д゚) ふっふっふ
 風宮の方は、連続失恋を回復するために、もりもり食っていた。飲む方には回らないようだ。

 イシュテナも、他の人達と話題に必死に付いていこうとするが、首をかしげることが多い。石神も、大人しく聞き手に回っているようだった。
 美香と親しくなりたい人が多いので、美香が困って義明の隣に座ってしまう。撫子は一寸驚くが気を取り直す。
「人気者じゃないか」
「あのだから、あたしは……」
 義明は彼女あたまを撫でる。
「うう、恥ずかしい」
「勇気出して」
「皆さんは、美香様のことが好きなんですよ」
「……」
 紀嗣が、睨んでいるがスルーする義明と撫子。
「妹さんが出来た感じ?」
 シュラインが微笑む。
「可愛い妹ですね」
 照れることなく、義明は答えた。
 美香は緊張気味に、又輪に入っていく。

「きゅいきゅいー撫子さんありがときゅい♪」
 空鯨は撫子の用意した浴衣を着て、嬉しく待っている。偶に『ぺちん』とこけてしまうのだが。其処が又可愛くて一寸人気者になっている。
 イシュテナが無言で空鯨を、抱きしめていた。
「きゅいー♪」
|Д゚) 所謂萌えですね。分かります

 こうして、一日が終わる。

〈サプライズ〉
 未だ日が昇らない頃……美香が起きる。
「ん? ……?!」
 彼女は悲鳴を上げようとしたが、押し黙った。
「寂しいのね……貴女も」
 美香に抱きついて眠っている、祐子を撫でて、少し抱きしめ返す。
 そして、美香は彼女を起こさないように手をほどき、朝の散歩に向かうのであった。


2話に続く。




■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0461 宮小路・皇騎 20 男 大学生・財閥御曹司】
【2922 隠岐・明日菜 26 女 何でも屋】
【2980 風宮・瞬 23 男 記憶喪失中 ソニックライダー(?)】
【3670 内藤・祐子 22 女 迷子の預言者】
【6040 静修院・樟葉 19 女 妖魔(上級妖魔合体)】
【7253 イシュテナ・リュネイル 16 女 オートマタ・ウォーリア】
【7348 石神・アリス 15 女 学生(裏社会の商人)】

■|Д゚)通信
|Д゚) みなー、参加さんくすー!
|Д゚) 各自個別とか有るのでよろ
|Д゚) 新ジャンル「失恋」
|Д゚) 天と地の境を見た!
|Д゚) そんな海水浴ですよ、旦那!
|Д゚) と、いうことで
|Д゚) 2日目と3日目(エンディング)の2話に続く
|Д゚) クラゲ大量時期じゃないので、安心して海遊びしよう!