コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


不幸の手紙配達

 早朝、学園高等部の校舎に最初のチャイムが鳴り響いた。
 それぞれ気ままに雑談していた生徒も、それをきっかけにゾロゾロと席に着き始める。
 全員が席に着いた直後、タイミング良く教師が姿を現した。しかしその中年教師の眉間には、深くシワが刻まれている。
 教師は重い足取りで教壇まで進む。それから、一つだけ穴が空いたように誰も座っていない席をチラと見て、口を開いた。
「みんな、おはよう。あー、実は田中さんが事故にあって、しばらく学校はお休みするそうだ。コラコラ、静かにしろ。大丈夫、命には別状は無いらしい。骨折と打撲ぐらいで、後遺症が残るほどの怪我も無いそうだ」
 事故、という言葉に一時は騒然とした教室だったが、大事にはならなかったと聞いてゆっくりと沈静化していく。
 教師は神妙な顔付きで教室を見回した。
「ま、みんなも良く気を付けてな。最近、校内で怪我や病気が多くなっている。幸い全て大事には至って無いが・・・・」
 教師はそう注意を促した後、一通りの連絡事項を伝え、一時間目の授業を開始した。

 一時間目が終了した、束の間の休み時間。
 雫はササッと影沼ヒミコの座る席まで移動して、授業中ずっと考えていた事について話し始めた。
「ねぇ、ヒミコちゃん。田中さんなんだけど、やっぱりアレが原因なんじゃないかな?」
「アレって・・・・最近、幽霊が不幸の手紙を配って回ってる、っていうあの噂の事?」
 怪奇探偵クラブに所属している二人には、顔を突き合わせればアレで話が通る。
 雫はヒミコの言葉に満足そうに頷いた。
「うん、それそれ! ほら最近、校内全体で怪我や病気が多いって先生も言ってたし。これは怪奇事件の匂いがするよね!」
「でもあれって、どんな噂だっけ・・・・? 幽霊が不幸の手紙を書いて、ここの生徒に配ってるんだっけ?」
「ううん、違うよヒミコちゃん。それは最近出てきた少数派の噂! 大部分の内容は、・・・・今はもう使われていない旧校舎にポツンと私書箱が置いてあって、そこに不幸の手紙を入れておくと、幽霊の郵便配達人がそれを回収して配って回る・・・・って噂だよ☆ それで、その手紙を貰った人は、そこに書かれた不幸の目に遭うの。あ、でも不幸は怪我と病気限定で、それも命に関わるような事は起こらないらしいけど」
 流れるように雫が語るのを、ヒミコは少し目を白黒させて聞いていた。
「そうなんだ・・・・、さすが詳しいね、雫ちゃん」
「あったり前だよー♪ 他にも、その幽霊は十日ごとに夜中に現われるとか、校長先生もその手紙を貰って今療養中とか・・・・」
「こ、校長先生もなの?」
「あ、うん。まぁ噂だけどね」
 そしておもむろに雫は深いため息を吐く。
「あたしも、怪奇探偵としてぜひこの噂を追いかけたいんだけど・・・・、今ドラマや番組の出演が決まっちゃって時間が無いんだよねぇ」
「ああ、うん。でも仕方無いよ。雫ちゃん売れっ子だしね」
「そうなの、エヘ☆ ・・・・ってただ怪談の季節だからなんだけどねー。ま、仕方無いや。この怪奇事件、誰か解決してくれる人居ないかなぁ」
 雫は困ったような笑顔で言って、ぼんやりと窓の外に目を向けた。

 その日の放課後、場所は変わって曲芸同好会の部室。
 そこで今日は特別コーチとして、さる有名サーカス団から一人と一匹の客が迎えられる事になっていた。同好会の面々は、憧れのプロ団員に会えるというので、練習もロクにせず雑談に花が咲いていた。
 ふとそんな折、ふいに部室の外から歓声のようなモノが聞こえてきた。かと思うと、それはどんどんと近付いて来て、――曲芸同好会の部室のドアが開く。
 そこからヒョッコリと中学生ぐらいの女の子が顔を見せた。
「あいやー、思てたより凄い人ね。どもみんな私が特別コーチに呼ばれた桃・蓮花アルよ」
 そう自己紹介するなり、どこから取り出したのかボールやスティックを手に持ち、全部ごったにして華麗なジャグリングを見せる桃・蓮花。
 部員達の間からは意識せず感嘆の声が上がる。
「バウバウッ!」
 ふいにそんな鳴き声を聞いて部員達の歓声は更に大きくなる。
 蓮花の後ろから入ってくるのは、蓮花の良きパートナーであり、サーカス団の名物の一つであるジャイアント・パンダ、飛東であった。
 飛東は、「めぇぇぇぇ」と鳴きながら、まるで胸を張るような自己主張をしてみせる。
「くすくす、わかたよ、今紹介してあげるね。コチラ私の相棒、ジャイアントパンダの飛東ね」
「めぇぇぇぇぇっ!」
 紹介に応えるように片手を上げる飛東に、いっそう歓声は高まる。
「今日はミチリコーチしてあげるから、みな覚悟するよろし」
 言いながらジャグリングしていたボールは自分に、スティックは飛東に投げ分けて同時にキャッチすると、蓮花は部員達にウインクしてみせた。

 その後、一輪車に二人乗りしてのジャグリングやバランスなど、人間離れした芸を披露した後で、部員達にもこん棒のジャグリングや複数枚の皿回しなどの実践指導を行った。
 そうこうする内にあっという間に時間は過ぎ、部活はひと時の休憩に入る。
 そこで生徒達と雑談していた蓮花は、この学校にまつわる不気味な噂を耳にした。
「・・・・不幸の手紙を配る幽霊? 嘘よ、そんなの居るわけ無いね」
 鼻で笑って否定する蓮花に、しかし部員は激しく首を横に振った。
「いやそれがこの噂、本当の話みたいなんですよ! あ、なんだったら、怪奇探偵クラブと掛け持ちしてる子が居ますから聞いてみて下さい。・・・・おーい、可奈ちゃんちょっとー!」
 と、あまり乗り気では無いのに、強引に話を聞かせようとする部員。
 しかしやってきた女の子が話す内容を、蓮花は次第に熱心に耳を傾けるようになっていた。
 特に、この曲芸同好会からも被害者が出ていると聞くと、瞳にはありありと不愉快そうな色が浮かぶ。
「この曲芸同好会の部員達はみな私の後輩みたいなものアルね! それを傷つけるなんて私許せないヨ! どうにかできないアルか!?」
「バウバウッ!」
 まるで蓮花の怒りに同調するように、隣で飛東が荒々しく鳴く。
「あのう・・・・、それなら私と同じ怪奇探偵クラブの、影沼ヒミコって子がこの事件を詳しく調べてたみたいですけど・・・・」
「そなのか! 私その子に協力するアルよ!」
 そう言って蓮花は立ち上がると、怪奇探偵クラブの場所を聞き出して部室を飛び出して行った。

「・・・・そうなんですか、ありがとうございます蓮花さん。私一人じゃどうしようも無くて困っていて・・・・」
 影沼ヒミコは、そう言って苦笑を浮かべる。
「私門限が厳しくて、ここに遅くまで残っていられ無いんです。あの、申し訳無いんですが、・・・・本当に幽霊が出るのかどうか、深夜の旧校舎を見回りして頂けませんか?」
 それは十人に頼めば九人は尻込みするであろう依頼だったが、蓮花は当然の如く簡単に頷いてしまう。
「お安い御用ね! その噂の真相を突き止めないと、私もスッキリしないあるよ!」
「めぇぇぇぇぇっ!」
 隣で飛東も、ブンブンと首を縦に振っていた。

 それから蓮花と飛東が旧校舎の見回りを始めて、三日。
 最初の方こそ気が張っていた一人と一匹だったが、一向に現われない幽霊に少し緊張が緩み気味だった。
「やぱりただの噂だたのよ・・・・」
「めぇぇぇぇ・・・・?」
 と、そんな会話をしながら蓮花は懐中電灯をあちこちに振り向けて歩く。旧校舎はかなり古ぼけていて雰囲気は抜群だったのだが、元々あまり怖いもの知らずの性格な上に、もう見回りも三日目とあって、恐怖心はゼロに近かった。
 隣の飛東にいたっては幽霊を怖がるのでは無く、床が抜ける恐怖と戦いながら歩く始末である。
 そんな弛緩しきった二人だったが、――ふとその時。
 白い影のようなモノが視界の端に映った。
「・・・・ッ!」
「め・・・・っ」
 体を強張らせて、急いでそちらを確認する蓮花と飛東。しかし、問題の影は廊下の角を曲がって行ってしまったらしい。
(飛東、今の追うね)
(めぇぇぇぇ)
 ヒソヒソ声で追跡を開始する二人。廊下の角からそっと顔だけ出して様子を窺うと、白い影は少し離れた所に立ち止まっていた。そこには、私書箱が置かれた机がある。
(旧校舎に私書箱はいくつか置かれてたけど、手紙を回収するのはあの箱らしいね)
(バウバウ?)
(・・・・そうね、とりあえずアイツ泳がせる。今からどうするか見るね)
(バウ)
 飛東がそう返事するのと同時に、幽霊はまた歩き出した。どうやら外に向かっているようである。
 蓮花と飛東はその後ろをそっと付ける。幽霊が気付く様子は無い。
 そのまま付いていくと旧校舎を出て、現在の校舎の玄関口に辿り着く。
 幽霊は玄関のドアをすり抜けると、鞄から手紙を取り出して下駄箱に配り始めた。
 そして全ての手紙を配り終えると同時に――幽霊はフッと姿を消した。
 しばらくの静寂。
 たっぷりと五分間は置いた後で、ガサッと生垣の中から蓮花と飛東が出てきた。
「・・・・どうやら噂は本当だったね。手紙を回収するアルよ」
 そう言うなり蓮花は、玄関口の扉をピッキングする。それは無論サーカスで身に付いた技ではなく、その以前の職業で覚えた技術だった。
 飛東も通れるように、両扉を大きく開く。そうして、幽霊が配っていた場所を思い出しながら、飛東と手分けしてテキパキと手紙を回収した。
 そうして二十通にも渡る不幸の手紙を全て回収すると、今度はそれらを詳しく検分していく。
 当然不幸の手紙に差出人の名前が書いてあったりはしない。誰が出したモノなのかは分からないが――気付いた事が一つ。
「・・・・筆跡が、全部似てるアルね」
 手紙に目を通しながらポツリと蓮花が呟く。
「バウ」
 飛東が鳴いて蓮花に何かを知らせようとしてくる。
 そちらに目を向けると、飛東は手紙を二枚繋げて持っていた。
 これらの不幸の手紙は、全て普通のノートの切れ端のような物で書かれている。
 そして飛東の持つ二枚の手紙は、――切れ目がピッタリ繋がっていたのだった。

 数日後。
 すっかり陽も落ちて、空には星が見え始めた頃。
 コソコソと人目から隠れるようにして、旧校舎に近付く一つの影があった。その人物はダッと旧校舎に駆け込むと、ホゥッと安堵の息を吐く。
 それから例の私書箱の前に立つと――ふいに鞄から沢山のノートの切れ端を取り出した。
「ちょっと待つアルね」
 不意に声が掛かって、その人影は腰を抜かす。ダーン! と騒々しい音を立ててその場にへたり込む。それから首を必死に曲げて、声のした方を振り向くと――チャイナドレスを着た女がクスクスと笑いながら立っていた。
「おまえが犯人ね? そんな手紙を配って楽しいアルか?」
「な、何だよお前! く、来るなぁぁぁ!」
 その男は立ち上がると、背中を向けて逃げ出そうとした。しかし、その鼻っ面にゴム鞠のような衝撃を受けて逆に倒れてしまう。
 見ると、そこには巨大なパンダが立っていた。「めぇぇぇぇ」と鳴きながら、男を見下ろしている。
「パパパパンダ!? なんでこんな所に・・・・、くそ、どけぇ!」
 パンダよりは、と方向を変えて向かって来た男を、蓮花は手刀の一撃で失神させた。その勢いとは裏腹に呆気なく地面に倒れ伏す男。
 それを見て、蓮花は飛東に向けてニッコリと笑った。
「さて、犯人の正体も分かったし、一件落着あるね」
「めぇぇぇぇ」
 と返事しながら、飛東はどこからともなくロープを取り出して、器用に男を縛り始めた。

「すいませんでした・・・・」
 怪奇探偵クラブの部室。そこで男は椅子に座らされ、蓮花やヒミコ、雫に頭を下げていた。
「日常が、何もかも楽しくなくて・・・・。勉強勉強の毎日で嫌気も差していて、刺激が欲しかったんです。親は良い大学に入って安定した生活を送れって言うんですけど、僕が欲しかったのは刺激だったんです。もっと胸が躍るような事をしたかった・・・・」
「あいやー、何ヨおまえ! 世の中舐めたらダメよ! そんな甘い事言いながら社会に出たら、あっという間にプーなるよ!」
「バウバウッ!」
 と、激しく攻め立てる蓮花と飛東。
 それでますます男はうな垂れて「すいませんでした・・・・」と呟いた。
「まぁ、あの私書箱には友人からお札貰って貼っといたアル。もうイタズラ出来無いよ」
「でもイタズラする気も起きないぐらい、これからは刺激的な毎日を送れると思うけどねー」
 ウンウンと頷きながら雫は楽しげに呟く。
 そこへヒミコが、心配そうな顔で会話に割り込んだ。
「あのぅ、そんなのん気にしてて大丈夫でしょうか・・・・。部室のドアが蹴破られそうなんですが・・・・」
 その言葉通り、ドンドン、と激しく叩かれる部室のドア。
 その向こうに居る生徒達は、口々に罵詈雑言を吐き散らしながら男の名を呼んでいた。
「ひぃぃぃ! お願いです、助けて下さいー!」
「・・・・まぁ、そういう運命アルよ」
「めぇぇぇぇぇぇ」
 助けようにも、自業自得であり、それにいくら蓮花と飛東でもあの群集の勢いは止められない。我関せず、と二人が立ち上がると同時に――ドアは限界を超えて蹴破られてしまった。
 部室の中になだれ込んでくる大勢の生徒。
「うわぁあああ!! 誰かぁぁぁ!」
 怪奇探偵クラブに、不幸の送り主の断末魔が響いた。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7317/桃・蓮花/女性/17歳/サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】
【7318/飛東/男性/5歳/曲芸パンダ】

【NPC/SHIZUKU/女性/17歳/女子高校生兼オカルト系アイドル】
【NPC/影沼・ヒミコ/女性/17歳/神聖都学園生徒】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 どうも、倉葉倉です。
 この度は『不幸の手紙配達人』のシナリオ参加、ありがとうございました。
 なんだかほのぼのとしたのは私だけでしょうか。(主に飛東に)
 犯人も無事見つかり更生させる事が出来ました(?)し、一件落着という感じがしました。お疲れ様です。

 もしお気に召しましたら、またのご参加お待ちしております。