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<東京怪談・PCゲームノベル>


東郷大学奇譚・最終決戦! 夏祭りだよ全員集合!?(前編)

〜 嵐の予感 〜

 東郷大学のキャンパスには、一般の学生や学外の人間の立ち入りが禁止されている場所も少なくない。
 その中でも、最も厳重に警備されている場所の一つが、「無限迷宮入り口」である。

 もともと無限迷宮は東郷大学の一期生・暮田統悟(くれた・とうご)によって設計され、彼が率いる「迷宮研究会」によって建築されたもので、内部構造が刻一刻と変化する仕組みになっており、一度迷い込んだら脱出は至難と言われている。
 事実、この迷宮を設計した統悟本人が、後に「迷宮をさらに拡張する」と言い残して迷宮へ向かい、そのまま行方知れずになっている。
 今日では、この迷宮は「迷宮管理委員会」という専門の委員会の管理下に置かれているが……今となっては、そもそもこの迷宮が何のために作られたのか、それを知るものはほとんどいない。





「失礼します」
 学長室に入った最上京佳(もがみ・きょうか)を待っていたのは、学長の東郷十三郎(とうごう・じゅうざぶろう)と、諜報部に所属する学生の七野零二(しちの・れいじ)、そして風紀委員会長の武力(たけ・ちから)であった。

「揃ったようだな。では始めろ」
 学長の言葉を合図に、零二がいくつかの資料の束を取り出す。
 間近に迫った夏祭りに関するものと、これまでの「悪党連合」の活動に関するもの。
 そして、明らかに「悪党連合」内部に潜入していると思しきスパイからの情報なども中には存在していた。

 それらについて一通り説明したあとで、零二はこう結論づけた。
「以上から、今年の夏祭りには『悪党連合』の総攻撃が予想されます。
 おそらく、四人集を中心として学内各所で事件を起こし、こちらの戦力を分散させる手を取ってくるでしょう」

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〜 未知と未知との遭遇 〜

「あ、啓斗さん! 来てくれたんですね」
 当然のように「前衛芸術部」の部室を訪れた守崎啓斗(もりさき・けいと)を出迎えたのは、「ここにいる人物の中では最もまともに近い人物」、すなわち桐生香苗(きりゅう・かなえ)であった。
「今、ちょうど比嘉先生も笠原先輩も展示の方に行っちゃってて、一人で退屈だったんです」
 そう言って、彼女は嬉しそうな顔をして――ふと、啓斗が持ってきた「あるもの」に目をやった。
「ところで、啓斗さんはどうして炊飯器なんか持ってきたんですか?」

 そう。
 啓斗の今回の目的は、最近ずっと封印したままになっている「魔法の炊飯器」を、この前衛芸術部の部長・笠原和之(かさはら・かずゆき)に見せてみることだった。
 もともとは「食べても食べても炊きたてご飯が出てくる魔法の炊飯器」だったものが、途中から妙な方向にネジ曲がり始め、最終的には「およそ炊飯器で作れそうな物を全部混ぜ合わせたような不思議な物体」を出してくるに至ったため、さすがに今は使用していないのだが――この混沌具合は、和之の「芸術」とある種通じるものがある……と、啓斗はそう感じたのである。

「ああ、ちょっと和之にこれを見せたくてな。何かインスピレーションが湧くかと思って」
 啓斗はそう答えたが、この魔法の炊飯器、端から見る限りでは本当にただの炊飯器である。
 となれば、当然外からは見えないその「中身」に興味が向くのは、ある意味当然のことだろう。
「啓斗さん、これ、中に何が入ってるんですか?」
 香苗にそう尋ねられて……とっさに的確な言葉が見つからず、つい考え込んでしまう啓斗であった。

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〜 芸術的な炊飯器? 〜

 講義棟の方に行っていた和之が、前衛芸術部の顧問で彼の師匠でもある比嘉惣太郎(ひか・そうたろう)と一緒に戻ってきたのは、それから少し後のことだった。

「あ、先輩、比嘉先生、お帰りなさい」
 なぜか少し残念そうな香苗に首を傾げる和之と、苦笑する惣太郎。
 そんな二人に、啓斗はさっそく持参した「魔法の炊飯器」の説明を始めた。

「なあ笠原、実はこの炊飯器、あんたの芸術に匹敵するくらい凄いんだ」
「その炊飯器がですか?
 こう言ってはなんですが、一見したところただの炊飯器にしか見えませんが」
 そう言いつつも、しっかり話に食いついてくる和之。
「名づけて芸術炊飯器。炊く飯が芸術的というか、何というか」
「なるほど、芸術的なのは中身の方なんですね。さっそく見せてもらってもいいですか?」
 もちろんこういう展開になることは予期していたのだが、いざ実際開けるとなると、やはりかなり抵抗がある。
「い、いや、今此処で開けてもいいんだが、どこか安全な場所があれば……」
 炊飯器を開けるのに安全な場所が必要と言われても、普通はピンと来るまい。
「夏祭りなんだし何かあったら危険……いや、こちらの話で……」
 案の定怪訝そうな顔をする和之に、啓斗は慌ててフォローを入れようとするが、ますます泥沼にはまる。

 と。
「まあ部室棟はいろいろと物騒だし、展示室の方に行ってみるか?
 そんなに芸術的なら、飛び入りで一緒に展示してもいいかもしれないし」
 不意に、惣太郎がそんなことを言い出した。
「先生、しかしあの部屋の展示品のバランスはきわめてデリケートで……」
「何、さっきのでコツはわかってるだろ? また計算し直せばいいだけさ」
 なぜか難色を示す和之をあっさり説き伏せ、ご機嫌な様子で啓斗を促す。
「……ま、まあ、そっちの方が安全だというなら……」
 本当は「展示品がいっぱいあった方がよっぽど危険だろ!」と言いたかった啓斗であるが、さすがにそれを面と向かって言うことはできなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 迷宮と異空間 〜

 部室棟を出て、講義棟へと向かう途中。
「ところで、このキャンパスには迷宮があるって聞いたんだが」
 啓斗がそんなことを聞いてみたのは、あくまで単なる場つなぎと、ほんの少しの好奇心のためであった。

「ああ、無限迷宮ですね。構内の外れに入り口のある」
「でも、あそこって確か立ち入り禁止じゃなかったですか?」
「制作者が自分で中入って行方不明になったから、危なすぎるんで閉鎖したって聞いたけどな」
 啓斗の予想を超えて、なぜか一斉に話に食いついてくる三人。
 ヘタをすればそっちだけで盛り上がって置いて行かれかねない状況を感知して、啓斗は先に「本当に聞いてみたかったこと」を聞いてみることにした。

「まさか、俺達が何時も放り出されるあの羽カエルの出る異空間がまさにそれ……なんて言わないよな?」

 その言葉に、一同は顔を見合わせ。

「さすがにアレは違いますよね?」
「完全に時空歪んでるしな。さすがにアレは違うだろ、うん」
「でも、無限迷宮も無限っていうからには多少は時空が歪んでそうですよね?」

 再び迷宮の話で盛り上がり始める三人。

「それじゃ、どこかで迷宮に繋がってる可能性もあるかもな」
「迷宮の入り口は普通な感じらしいですが、そこより奥のことは一切わかってませんしね」
「そうですね。何しろ奥まで行って戻ってきた人がいませんから」

 ……要するに、この三人にとっても迷宮はほとんど未知の存在であり、啓斗の仮説が正しいかどうかを判断できる材料すらない、ということらしい。
 そんなグダグダな結論に、啓斗は小さくため息をついた。





 そうこうしているうちに、四人は展示室へと辿り着いた。
 相変わらず精神衛生上非常に悪そうな和之の作品と、それと比べるとまだ普通に見られる香苗含めた他の部員の作品がいろいろ並んでいる。

「ここなら多少のことがあっても大丈夫なはずです」
 和之の言葉に、啓斗は一度頷いた後、意を決して炊飯器を開けた。
 もちろん、「あまり長い間この場にいたくない」という自己防衛本能が後押ししたことは言うまでもない、のだが。
 啓斗にとって、というより四人にとっての誤算は、炊飯器の中身が「多少のこと」ではなかったことであろう。

 炊飯器の蓋が開いた瞬間、和之と惣太郎が頑張って調整したはずの「展示品のバランス」が、修復不可能なまでに崩壊し……辺りが「割れた」。

 かくして、「噂をすれば何とやら」の言葉通り、四人は周囲一帯を巻き込んで「あの羽カエルの出る異空間」へとダイブするハメになったのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 対決! 新型人間VS新型芸術 〜

 何かが聞こえる。
 まだぼんやりする頭で、啓斗は懸命にその正体を探った。
 金属音。爆発音。何かの鳴き声。

 ……まさか、誰かが、戦っている?

 その認識が、瞬時に啓斗の頭をスッキリさせる。

「ここは!?」

 跳ね起きるように身体を起こす啓斗。
 その視界を、不意に派手派手しい物体が遮った。
 そして、顔に感じる明らかに嫌な感触……。

「……って、いきなりか!」

 とりあえず張りついた羽ガエルを引きはがして放り投げ、辺りを確認する。
 すっかり惣太郎と和之の二人は目を覚まして何やら相談していたが、香苗だけはその隣でぐったりしていた。

「桐生さんは?」
 尋ねる啓斗に、和之が苦笑する。
「さっきのカエルを見て失神したみたいです。桐生さん、ああいうのダメみたいで」
 ということは、どうやら戦闘とは無関係らしい。
 だとすると、気になるのは「誰が誰と戦っているのか」である。

「さっきから誰かが戦っているような音が聞こえるんだが……何だ?」
 その問いに、今度は惣太郎が真面目な顔で答える。
「俺にもわからないが、一応見に行ってみた方がいいかもな。
 さっきのに巻き込まれた人が何かに襲われているなら大変だし」
 確かに、先ほどの事件で「こちら側」に飛ばされたのが、展示室の中にいた人間だけとは限らない。
 だとすれば、その原因を作った和之や惣太郎はもちろん、引き金を引いてしまった啓斗にも、どうにかして救出する責任はあるだろう。
 そう考えて、一同は戦闘の行われていると思しき方へと向かった。





 戦闘が行われていた場所に向かった一同が見たものは、傷つき倒れた大量の「筋肉質の巨大クラゲ」と、数機のパワードスーツ、そしてどこかで見覚えがあるような長髪の美女であった。

「なかなか手こずらせてくれたが、今ので最後のようだな」
 最後のクラゲを撃ち落としたパワードスーツの一機が、勝ち誇ったように女の方へと向き直る。
 察するに、彼女がこのクラゲたちを操って、もしくは飼い慣らしていたのだろう。
「こんなワケのわからない空間に放り込まれて手ぶらで帰るのもシャクだからな。
 戦利品代わりにつきあってもらおうか?」
 残りのパワードスーツも彼女を包囲するように集まってきて――。

「やめろ!」
 啓斗が飛び出したのと。

「やめないか!」
 惣太郎が飛び出したのと。

「やめておけ!」
 彼らのボスらしい真っ黒なパワードスーツが飛び出してきたのは、完全に同時だった。

 予期せぬ事態に、二人と一機はお互いに顔を見合わせ……やがて、黒いパワードスーツが和之と惣太郎を指して大声を上げた。
「貴様ら、前衛芸術部だな! これは貴様らの仕業か!!
 せっかく講義棟を占拠して我々の力を示そうと思ったのに、よくも邪魔をしてくれたな!?」

 まあ邪魔というか完全に事故なのだが、結果的に悪党連合の野望を阻んだのであれば、結果オーライということもできるだろうし、そんなことをいちいち説明する必要もあるまい……と、思っていたら。

「お前たちの企みくらい、俺はちゃんとお見通しなんだよ。
 何年この大学で美術教師やってると思ってるんだ?」

 なぜか勝手に惣太郎が話を作って、「狙い通り」だったことにしてしまう。
 そんなことをすれば、当然悪党連合に「敵」認定されることは避けられず。
 先ほどまで女性の方を襲っていた連中まで、こちらに向かってくることになり。

「よかろう!
 この究極覇王・瀬野田ルシオ(せのだ・るしお)を敵に回したこと、後悔するがいい!」
 その声を合図に、パワードスーツが一斉に殺到してくる事態となってしまったのである。

「……ど、どうするつもりだ?」
 ひとまずパワードスーツを食い止めるように前に出つつ、この事態を招いた惣太郎に訊いてみる。
 ……が、返ってきたのはこれまた無責任きわまりない返事であった。
「俺に考えがある! しばらくお前と和之で敵を食い止めておけ!」





 戦況は、決して有利とは言い難かった。

「これでっ!」
 和之のスケッチブックから次々に生み出された怪生物が、壁となってパワードスーツの行く手を阻む。
 中にはそれなりに戦闘能力のあるものもいることはいたが、さすがに連携のとれた動きのパワードスーツを相手に長時間持ちこたえられるものは少なく、次々と呼び出されるはしから倒れては消えていく。

 そして啓斗の方も、ルシオの駆る黒いパワードスーツの前に、ほぼ防戦一方に追い込まれていた。
「……っ!」
 ルシオのパワードスーツに搭載された「念動兵器」が、不意に全く予期せぬ方向からの砲撃を仕掛けてくる。
 気配を察知することすら難しいそれをギリギリで回避できても、そこには敵のパワードスーツ本体が待ちかまえているのだからたまらない。
「どうした! 我らを止めるのではなかったのか!?」
 啓斗の技量と身体能力だからこそどうにか防ぎ切れているものの、常人なら何回死んでいても不思議はないレベルである。

「おい、まだなのか!?」
 試しに惣太郎にそう呼びかけてみたが、返事一つ返ってきはしない。
「そう時間を稼がせてたまるか! 次で終わりにしてくれる!」
 ルシオがそう叫び、全方位からの同時攻撃を仕掛けようとした、まさにその時。

「っしゃ完成だぁっ!」
 惣太郎が一声叫んで、啓斗が持参した「魔法の炊飯器」を手に取った。
 一体何をするつもりなのか……と思う間もなく、惣太郎が炊飯器を持ち上げ、彼の描いた魔法陣とも絵ともつかぬ奇怪な紙に向かって、その中身をぶちまける!

 次の瞬間、毒々しい色の光が辺りを包み――。





 その後に起こったことは、実は啓斗にもよく理解できていない。
「無数の腕と脚と顔がデタラメについたような化け物が現れ、パワードスーツ共をみんなまとめて放り投げ、どこか別の次元に投げ飛ばしてしまった」ような気もするのだが……なにぶん、その「化け物」が、ある程度奇怪な生物に免疫のできてきていたはずの啓斗にとっても精神的ダメージの大きすぎるデザインだったために、記憶が半ば飛んでしまっている。
 羽カエル程度でも気絶するほど繊細な感性を持っている香苗があの化け物を見ずに済んだのは不幸中の幸いだったのだろう。

 そして、啓斗がもう一つ理解できないのは。

「アンタはアタシの命の恩人だよ。
 それに、アンタはアタシの好みにもピッタリだし……よかったら一緒にここで暮らさないかい?」
「あー、言われてみりゃ向こうに帰っても嫁の来手もなさそうだしな。
 わりとここからなら普通に行き来できそうな気もするし、それもいいかもな」

 あの長髪の美女が、すっかり惣太郎を気に入ってしまい。
 その上、惣太郎の方もまんざらではなさそう、という事実であった……。

(俺なら、こんな異空間に住み着くくらいなら、悪党連合に連行された方がマシだと思うが……)

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〜 目覚めの時 〜

 一方その頃。

「迷宮」の入り口は、すでに「悪党連合」の別働隊によって完全に占拠されていた。

 指揮をとっていたのは、四人集の一人で「鬼才参謀」の異名をとる芦北倉真(あしきた・くらみ)。

 しかし、彼が本来は悪党連合ではなく諜報部に所属する人間であることを知るものは少ない。
 そして、今回の作戦が、全ては彼ら諜報部――そして、その上に立つ学長・東郷十三郎による計画であったことも。





「迷宮」の扉が、ゆっくりと開かれる。

 まるでそのことを予期していたかのように、そこには二人の男が立っていた。
 二人とも年はおよそ二十代後半。
 一人はがっしりとした体つきの大男、そしてもう一人は引き締まった体躯の小柄な男である。

「やれやれ、これでようやく私もお役御免か」
 大男の方が、達成感に溢れた様子でそう口にする。
「そうだな。俺にとっては、むしろここからが始まりだが」
 それに、小柄な男がそう答え――それから、目の前に集まっている悪党連合の面々を見渡して、鷹揚に頷いた。
「出迎えご苦労。後輩諸君」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2239 / 不城・鋼  / 男性 / 17 / 元総番(現在普通の高校生)
 0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17 / 高校生(忍)
 0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17 / 高校生(忍)

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■         ライター通信          ■
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 西東慶三です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 このノベルは六つのパートで構成されており、最初と最後のパートを除いた四つについては全て個別となっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(守崎啓斗様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 ノベルの方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 迷宮と異空間は別枠扱いですので、プレイングから異空間のことと判断してこういう展開にさせていただきました。
 ちなみに異空間で遭遇したクラゲ使いの美女は大昔に温泉で遭遇した啓斗さんの後頭部に思いっきりお盆を投げつけた人と同一人物なので、ひょっとしたら思い出したくない記憶になっているかもしれません……。
 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。