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<東京怪談・PCゲームノベル>


メイドと少女の、週末的関係


1.

 管制卓。
 キッチン。
 それぞれ『仕事』をする場なれど、放つ音は大違い。
 カタカタとキーボードを叩く音、食器洗いの水音が響く。
「サキさん」
「はい」
 内藤・祐子は絶やさぬ笑顔で振り向き、話しかける。
「この前、外にでたの、いつです?」
「一昨日、1802時、裏のハーブに水をあげました」
「いえ、そういう意味の、外でなくて」
 考えながらも祐子の手は、皿を磨き上げひょひょいと重ねていく。
「いわゆる外出ですよ〜。非番も、たまにもらってるんでしょ? 最後に外に出たのいつぐらいですか?」
 考え込む、沈黙。
「四ヶ月ほど前、他勢力との交渉に出たときです、夜間でしたが」
 祐子の手がぴたりと止まる。
 流しを水がうつ音だけが続く。
「よしっ!」
「?」
 何か思いついた風の祐子に、サキが振り向く。
「たまには息抜きに、外にでた方がいいです。良いに決まってますよ、サキさん」
 キーを叩く指が、思わず止まる。
「はあ。ただし私は直射日光にきわめて弱いですので――ってキャ!?」
 すでに、サキの襟首は、がっちりと祐子の怪力の手中にあり。
 手足をばたつかせながら、サキはずるずる引きずられていく。
「それなら今日は曇りですし、いきましょういきましょう!」
「きゃ、うあ」
「いいですよね、泰蔵さん」
「ん?」
 少し離れてシガリロをくゆらせ、新聞を読んでいた基地司令は天気欄をちらりと見、
「ま、雨が降りそうもないしの。いいんじゃないかの」
「ということでいってきますね〜。あ、泰蔵さん。夕飯とお夜食は冷蔵庫の下の段です」
「おう、いつもありがとう」
「え、司令、その」
「たまにはいいぞ」
「いってきま〜す」
 誘われたというより、半分さらわれる感じで二人のデートが始まった。


2.

「ここ、ですか」
「そうです、私の勤めている洋服屋。ささ、どうぞ。準備は万端ですよ〜」
「……準備?」
 とはなにか、を聞く間も二人は店内へ。
 到着までに数人とすれ違った。
 メイド服とオペレータ風の少女。
 コスプレとでも思われたか一瞬みな驚いた。
 が、完成度と美貌が良すぎて浴びたのはむしろ、憧れと賞賛と嫉妬のまなざしであった。
「さて、どれからいこうかな〜」
 楽しみを抑えきれない様子で、服をピックアップする祐子。
 わけもわからず立ち尽くす、サキ。
「よし、これからいきましょう」
 たたんだ状態では、どういった服かはわからない。
「一着目、ご案内〜!」
 一着、目?
 それをサキが聞くまもなく、試着室におし込まれる。
「……これは……」
 試着室内で広げてみて分かったのは、背中の大きく開いたルージュピンクのマーメイドドレスであった。
 翼の銀飾りが胸にあしらわれている。
 公のパーティー用に、ということだろうか?
 すすめてもらって着ないのも失礼、なのだろうか。
 そう考えて、いそいそと着替えるサキ。
 そのスキに、祐子はサキの靴を、黒いエナメルヒールにすり替える。
「祐子さん、出来ました。ピッタリです」
「そりゃそうですよ〜、この時のためのオートクチュール、ふふ……そこの靴はいてくださいね」
「はい」
「では、オープンっ!!」
 一気にカーテンをひく祐子。
 いつのまにやら、照明まで整えている。
現れたのは、銀の髪と飾りを輝かせ、大人なルージュを見事着こなしながらも、どこかあどけない、サキであった。
 そのギャップがまた、そそる。
「グッジョブ!グッジョブナイスチョイス内藤祐子!」
 祐子、こっそりガッツポーズ。
「似合いますよ〜。すごーく似合いますよサキさん」
「なんだか祐子さん、異様にテンション、上がっていませんか……?」
「気のせいですよ〜。ではっ。一枚お願いします」
「へいへい。お任せをっ!」
 いつ呼んだのか、青みがかった黒髪の写真屋が登場。
 パチリ。
「じゃ、つぎは、これ試してください」
「はあ……」
 もはや戸惑い従うしかないサキ。
 試着室の中で開いてみると、シルバーグレー基調に淡いピンクレース、そのところどころにパールのついたセパレート。
「着替え終わりました……けど」
「どうかしました?」
「おなかと、背中と、肩と、ふとももと、とにかくスースー、します……」
「とにかくオープン!」
「キャ!」
 写真屋がヒュぅ、と口笛を吹いて、パチリ。
 豊満とはいえない。
 むしろ小柄で細いサキだが、露出の高さと恥じらう表情がまたツボである。
「うんうん、サイコーです。よかったよかった」
 パチリ。
「もー一枚いくっスー」
 パチリ。
 衣替え。
 パチリ……。
 パチリ……。


3・

「いやー、楽しかったですね〜」
「は、はい」
「サキさん大丈夫? 疲れてませんか?」
「問題ありません。たいして歩いていませんし、電子員とはいえロードワークは欠かさず――」
「じゃ、えいっと」
 祐子はいきなり、サキの腕にぶら下がるように絡む。
 密着。
 というより祐子の方がはるかに怪力、身をまかせているよう見えているだけ、なのだが。
「あ、サキさん、あれ! あれ、見てください」
「どれですか」
「あのワゴンですよ〜。不定期出店で神出鬼没、レアで有名なアイスクリーム屋なんです」
「なるほど。外のことはあまり知りません。参考になります」
「ここのミントバニラは有名ですからおすすめですよ〜。サキさんハーブ好きでしょ」
「それは確かに少し、楽しみ――」
「じゃあ、バニラクッキーとチョコのダブル“も”、いっしょにお願いします」
「え。私が、買う、ん、ですか……」
「だって私、祐子は、両手がふさがっていますよ?」
「それは祐子さんが、腕を絡めて、私から離れないからだと思います」
「あっ。エンジンかかりました。早くしないとアイスが逃げます!」
 去ろうとするアイス屋を急いで呼び止める。
 お目当てを二人それぞれゲット。
 歩きながら味わう。
 と、こんな調子でクレープを買ったり。
 司令への土産にドーナツ店に寄ったり。
 祐子のほしがる景品狙いでUFOキャッチャーに興じたり。
 帰路につくころには日がくれかけていた。
「重ねがさね。楽しかったですね〜」
「はい……」
「試着したものはお店でキープしときますね。要るときは無料リースします〜」
「いいんですか?」
「営業目的じゃないですし〜、クリーニングするのどうせ私ですから。お任せあれ、です」
 そういって祐子は、にっこり笑う。
 しかし写真は取っておこうと、こっそり思った。


0.


「お、いいところに戻ってきた」
 二人を泰蔵は、なぜかパイロットスーツ姿で出迎えた。
「偵察目的だろう。有翼妖魔が一匹、低空でうろうろしている。今、日野が機動のみで足止め、様子見しとる」
 サキは、手近な管制卓にいそいで座る。
「動きも単調でのろい。決められた自動操作のようだ。ワシが落とそうかとしてたとこじゃが、祐子さん、たのめるかの?」
 最後まで聞かずとも。
 祐子は既に、魔剣をかたわらに浮遊させ預言書を手にしていた。
「では、お掃除です〜」
 駆け出す。
 デスクに座ったサキの背後を通り際、祐子はその頬にいきなりキスして、そのまま駆け抜ける。
 羞恥と驚きで、緊張に固まっていた白陶のようなサキの頬が一瞬だけ、染まる。
 祐子はすでに空中へ。
 ディスロートを構える。
「ゴミさん発見です〜」
 突進。
「お料理剣術……。たんざく――斬り! それ!」
 月光見えるはずの無い曇り空に。
 魔剣が無数の三日月を描く。
 無数の斬撃。
<CIC『シュヴィンデルト』サキより内藤・祐子。ターゲット撃墜確認。>
「了解です」
<スクランブルミッション・コンプリート。RTB>
「内藤・祐子、ラジャー、です。ねね、さっきのキス、どうでした?」
<……着地時には不整地に注意してください。以上>
 ――聞いて、言う子じゃない、か。
 誘導をうけながら基地へ。
 祐子はただ、くすくすと、笑う。
 その笑みの意味は?
 彼女のみぞ知ること。である。



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○登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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3670/内藤・祐子/女性/22歳/迷子の預言者

NPC/高月・泰蔵
NPC/高月・サキ
NPC/日野・ユウジ
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☆ライター通信          
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サキ、お気に召していただけたようで大変嬉しいです。
またまた祐子様に基地は潤されてばかりです、ありがとうございます。
女性同士のデートを描くのは初めてですがお気に召していただけたら、と思います。

サキの絵を描いてくださったイラストレーター・渡会 敦朗氏とのコラボ告知は……前回しておりましたね(汗

思い出によろしければどうぞ。

フォトスタジオ・渡 【渡会 敦朗】
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=2362

それでは祐子様、厳しい残暑が続きますがお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。

あきしまいさむ拝