コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


偽の恋人募集中

【プロローグ】
 吉良原吉奈が、妹尾静流と初めて顔を合わせたのは、草間興信所でのことだ。
 静流が、恋人のふりをして祖父の誕生パーティーに一緒に行ってくれる相手を探している、という話は草間武彦から聞いた。というか、事務所に遊びに来ていてたまたま小耳に挟んだのだが、静流が二十八歳とかなりの年上と知って俄然興味を持ち、草間に無理矢理頼み込んでこうして引き合わせてもらったのである。
「かの妹尾家主催のパーティーに参加できる機会なんて、めったにありませんからね。協力させていただきますよ」
 彼女はやわらかな物腰かつ丁寧な物言いだが、有無を言わせぬ口調で言った。
 ちなみに、静流の実家は資産家で、祖父の大(まさる)はさまざまな企業の顧問などをしている。それもあって、経済界に詳しい人間からすれば、有名な一族でもあった。
 彼女の言葉にしかし、静流は幾分困った顔をしている。
「その……たしかに恋人のふりをしてくれる人を探してはいますが……あなたでは少し年が離れすぎていて、恋人というより妹としか見てもらえないのではないかと……」
 言いにくそうに、そんなことを告げる。
 たしかに吉奈はまだ十五歳だった。といっても中学はすでに卒業しており、現在は神聖都学園の高等部一年に在籍している。だが、短い銀髪と赤い目、白い肌をして背も低く細身の彼女は、制服を脱いでしまうともう少し幼く見える。それに、長身の静流と並ぶと大人と子供といった風情でもある。
 たとえそれが真剣なつきあいだったとしても、世間一般的に言って、二十八の男が十五の少女を恋人だと言って連れ回していれば、犯罪者呼ばわりされかねない。ましてや、「恋人のふり」をしてもらうのにこれは、あまりに奇抜すぎはしないか。
 静流が彼女を目にして、そう考えたのも無理もない話である。
 だが、彼女は平然と笑って返した。
「だからかえって信憑性があるんじゃないですか。今まで妹尾さんが恋人である私を家族に会わせなかったのは、年が離れているので、それをとやかく言われたくなかったからだ――という理由ができます」
「それは……」
「大丈夫です、私に任せて下さい」
 更に困った顔をする静流に言って、吉奈は邪気を感じさせない艶やかな顔で笑いかけるのだった。

【1】
 そして、誕生パーティー当日。
 会場は、都内にある有名ホテルの最上階だということで、吉奈と静流はそのホテルの一階ロビーで待ち合わせをすることになった。
「こんばんわ、妹尾さん」
 待ち合わせ場所で、吉奈はやわらかい笑みを浮かべて静流を見上げる。今夜の彼女は、スカートの裾と袖口に白いレースのフリルがついた、フォーマルな黒のドレスをまとっていた。もちろん、バッグも靴もそれに合わせて黒い。化粧も派手にならない程度に薄く施している。おかげで多少は大人っぽい雰囲気だが、それでも高校生ぐらいだろうと誰の目にも映るのは、いかんともしがたい。
「こんばんわ」
 答えた静流は、ベージュの涼しげなスーツ姿だった。が、あえて彼女の服装などの感想を口にしなかったのは、どう言っていいのかわからなかったためだろう。女性とつきあったことがないわけではないし、女友達もいるが、さすがに十以上も年下でしかもほぼ初対面となると、言葉一つにもいちいち躊躇してしまうらしい。
 吉奈は、そんな彼の言動を内心に面白く感じながら、そちらへ手を差し出した。
「それではエスコートして下さいますか。『静流さん』?」
 もちろん、名前で呼んだのは「恋人」ということを意識してだ。
「あ……。はい」
 とまどいつつも、静流は彼女が腕に腕をからめて来るのを待って、歩き出す。
 たしかにこの態勢では、どれだけ年が離れて見えようとも、二人を「兄妹」と見る者は少ないはずだ。その証拠に、すれ違う人々が皆、一瞬ぎょっとした顔でこちらをふり返って行く。
 それは、パーティー会場に到着してからも、同じことだった。
 ちなみに会場は、最上階の一番大きな広間を使っていた。全面ガラス張りの大きな窓からは、外の夜景が一望できる。天井には豪華なシャンデリアが輝き、床に敷き詰められたじゅうたんは客の足音さえ吸い取ってしまうほどだ。会場内はすでに招待客であふれていたが、適度に空調が効いているため、汗をかくようなことはない。
 パーティーは立食形式で、部屋のあちこちにはさまざまな料理を持ったワゴンが置かれ、給仕たちが飲み物の入った盆を手に会場内を歩き回っていた。部屋の隅には生バンドがひかえており、会場内に静かな音楽を提供している。
(さすがに資産家の妹尾家のパーティーですね。金はかかっていても、無駄に派手ではないし、上品です)
 吉奈はそれらを見やって、胸に呟く。
 静流の祖父・大は、その会場の一画に作られた貴賓席におさまり、静流の両親や親族らしい者たちに囲まれ、談笑していた。
「おじいさん、今夜はお招きありがとうございます。そして、誕生日おめでとうございます」
 吉奈を伴ってそちらに歩み寄った静流が声をかける。
「おお、静流か。久しぶりにおまえの顔を見たような気がするぞ」
 破顔して言った大は、七十代だろうか。きっちりと整えられた髪も、鼻の下にたくわえられた髭も白い。しかし背筋はぴんと伸びていて、スーツを着た姿もさまになっている。
「すみません。仕事が忙しくて、なかなかおじいさんの顔を見に来ることもできなくて……」
 静流は苦しい言い訳をして、持参して来たプレゼントを手渡した。
「まあ、それはそうだろうがな。たまには顔を見せてくれんと……こうしてわしの方から強引に呼び出すしか、しかたがなくなる」
 大は笑って返すとそれを受け取り、吉奈をふり返った。
「ところで、こちらはどなたかな? ずいぶんとお若いお嬢さんだが」
「私が今おつきあいしている方で、吉良原吉奈さんです」
 静流が腹を据えたように答えると、さすがの大も目を見張る。静流の両親と、その場にいた親族たちも目を丸くし、驚きに顔を見合わせた。
 だがむろん、こうした反応は吉奈には当然予測できていたことなので、彼女はおちつき払って大に頭を下げる。
「吉良原吉奈です。静流さんには、いろいろとお世話になっております」
「これはこれは、丁寧な挨拶、いたみいる」
 答えて大は、静流を見やった。
「静流、いくらわしに結婚をせっつかれるのが嫌だからとはいえ、これはいくらなんでも見え透いておるぞ。……まあ、冗談としては面白いかもしれんがな」
「いえ……冗談ではなく、彼女は……」
 言いかける静流を遮って、吉奈は大を真っ直ぐに見据えて返す。
「冗談だなんて、どうしておっしゃるのでしょう? 私と静流さんは、真剣におつきあいしています。たしかに、私と静流さんは十以上年が離れていますけれども、世の中にはそんな夫婦はごまんといますでしょう? それに、私は今十五で、誕生日が来れば十六になります。日本の法律では、女は十六歳から結婚できるのをご存知ないのでしょうか。……静流さんはこれまで、そんなふうに真剣に取り合ってもらえないかもしれないからと、私をなかなかご家族に紹介してくれませんでした。でも、誕生日が来れば結婚できる――その事実に、二人で相談して今日こうして私も共に来させていただいたのです」
 おちついた口調で、理路整然と語る彼女に、大は今度はさっきとは別の意味で驚いたようだ。
「ふむ。ではあなたは本気で、静流とのことを考えていると言われるか。……しかし、あなたの年齢とその外見ならば、静流のようなおじさんを相手にせずとも、いくらでも年相応の男の子が周囲にいるように思うがの。それに、その年で結婚を決めては、のちのち後悔することになるかもしれんぞ。なにしろ、人生は長いからな」
 幾分面白そうに、大はそんなことを言う。だが、吉奈はかぶりをふって、きっぱりと返した。
「いいえ。私は後悔なんてしません。この先、何十年生きようと、静流さん以上に愛せる人に出会えるとは思えませんので」
 途端に大は声を立てて笑い出した。
「なるほどのう。……それを、あなたが若いゆえだと言うのは簡単なことだが、祖父としてはこの孫をそこまで気に入ってくれたことに、感謝せずばなるまい」
 そうして笑い止むと、うなずいた。
「よかろう。吉奈さん、あなたが十六になっても気が変わらなかったら、この不肖の孫の妻になってやってもらえるかな」
「はい、喜んで」
 吉奈は大きくうなずく。
 周囲の者たちは静流も含めて、この思いがけない成り行きに、ただ目を丸くするばかりだった。

【2】
 生バンドの演奏がダンス音楽に変わると、吉奈は静流を誘ってフロアに出た。
 誘われるままに彼女をリードして踊りながらも、静流はまだ驚きが覚めないようだ。
「いいんですか? あんな約束をしてしまって……」
「本気で今日ここで、見合いまがいのことをさせられたくないなら、あれぐらいやらないとダメです。それに、約束は『私が十六になっても気が変わらなければ』ですからね。婚約したわけでも、結納をかわしたわけでもありません」
「それはそうですが……」
 平然と返す吉奈に、静流は心配そうだ。それを見やって、彼女は笑う。
「私は別にいいんですよ? このまま十六になったら静流さんと結婚しても」
「吉奈さん……」
 静流は、軽く目を見張って彼女を見やる。だが、すぐに顔をしかめた。
「そういう冗談は、やめた方がいいですよ。男はバカですから、本気にする者もいて、あなたに不埒なことをする輩も出ないとも限りません」
「冗談のつもりはないですけど?」
 吉奈はさらりと返す。
「私、年上の人が好みなんです。兄妹どころか、親子と思われかねないぐらい年の離れた人が。だから、私としては静流さんがもう十ぐらい年上でも、全然平気ですけどね」
 口調はさっきからと変わらないが、わずかに熱を帯びた言葉に、静流も本気と取ったのだろう。小さく溜息をついた。
「あなたの嗜好はわかりましたが……私はそれには応えられませんので……」
「どうしてですか? 年下すぎるのは好みじゃないからですか? それとも、周囲の反応が怖いですか?」
 問い返しながら、吉奈は周囲に軽く視線を投げる。
 周囲の招待客たちからは、二人はさっきからずっと奇異の目で見られ続けていた。中には兄妹か何かと思ってか、ほほえましげな笑みを浮かべて見ている者もいるが、ぎょっとしたようにこちらを凝視する者たちの方が断然多い。それは吉奈からすれば滑稽なだけだが、静流にとってはずっと続くのはそれなりに苦痛だろう。
「……どちらもですね」
 しばし考え込んだ静流からは、そんな答えが返った。
「正直ですね」
 吉奈は言って、ふいにダンスの足を止めた。
「少し疲れました。あちらで休んでいますから、飲み物を持って来ていただけますか」
「いいですよ。何にしますか?」
 解放されて少しホッとしたように、静流が尋ねる。
「ウーロン茶を」
「はい」
 静流はうなずいて、踵を返した。
 その背を見送り、吉奈は小さく肩をすくめる。
 たかが年の差でいちいち仰天するなど、ばかばかしいとの思いも彼女の中になくはない。しかし一方では、そんな人々の反応がおかしくてならないのも本当のところだ。それに静流は生真面目でその反応が、いちいち面白い。
(でも……殺したいほど好み、というわけではないようですね)
 胸に呟き、彼女は薄く笑った。
 彼女には、本当に好きになった相手は殺さずにはいられないという、とんでもない性(さが)があるのだ。
 そのまま彼女は、フロアの隅に置かれているベンチへと歩み寄る。そこに腰を下ろそうとした途端、彼女は周囲を数人の女性たちに取り囲まれた。
「なんでしょう?」
 彼女はしかし、少しも動じず、女性たちを見回す。
 女性たちは、四十代五十代とおぼしい者もいれば、二十代と見える者もいた。察するところ、妹尾の親族か、今日静流と引き合わされるはずだった娘たちとその母といったところだろう。
「あなた、本当に静流の恋人なの?」
 最初に口を切ったのは、十五から二十歳のどれとも取れる年齢の、セミロングの茶色い髪と黒目がちの大きな目をした女性だった。
「そんなはず、ないわよねぇ。だってあなた、どう見ても中学生でしょう?」
 続いて、五十代ぐらいの女性がトゲのある口調で言う。
「いえ、高校生です」
 吉奈は冷静に応じる。
「あらそう。でも、どっちにしても、かわりゃしないわ。だって、静流にロリコン趣味なんてないってことは、はっきりしてるんですもの」
 最初の女性が言って、乱暴に彼女の腕を取った。
「さあ、さっさと白状しなさいよ。どうせ静流に頼まれて、恋人のふりをしているだけなんでしょう? それとも、何か静流の弱味でも握ってて、そっちから恋人にしてくれって迫っているの?」
「どっちでもありません。私はあの人の恋人です。十六になったら結婚します。さっき、おじいさんのお許しもいただきました」
 冷静に返す彼女に、相手は徐々に気持ちが昂ぶっているようだ。
「嘘おっしゃい! そんなこと、あり得ないわ!」
「そうですよ。妹尾のお義父様が、こんな子供と静流さんの結婚を許すだなんて!」
 女性の叫びに、もう一人が賛同し、更に他の女たちも声を上げる。
「だいたいあなた、なんだって年相応の男の子の中から彼を選ばないの? 二十八なんて、あなたにとったらおじさんでしょうに」
「まさか、金目当てなんじゃ……!」
「まあ、子供のくせに、いけ図々しい!」
「これだから、今時の子供は……!」
「親の顔が見てみたいわね!」
 それほど大人数ではないのだが、パーティーの静かな喧騒を貫いて、まるで蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
(あらあら。静流さんは、ずいぶんもてるんですね)
 吉奈は内心でそんなことを呟きつつ、冷静な声音で応じた。
「本当に愛していれば、年齢なんて関係ありません。お金が目当てなら、静流さんではなくそのお父さんかおじいさんにアタックします。みなさん、結婚式にはご招待しますので、その時に両親の顔もじっくり見てやって下さい」
 あまりに冷静で理路整然とした返事に、さすがの女性たちも二の句が告げなくて、ただ口をパクパクさせるばかりだ。静かになったところに、パーティーの喧騒と音楽が戻って来る。
 愉快そうな笑い声が響いたのは、その時だった。

【3】
 笑い声に吉奈たちがふり返ると、そこには静流の祖父・大が立っていた。
 大は笑い止むと、吉奈以外の女性たちに声をかける。
「どうやら、おまえたちの負けのようだな。その子は、たしかに年は若いが、おまえたちの太刀打ちできる相手ではないぞ」
「おじいさま!」
 声を上げ、小さく身悶えするようにかぶりをふったのは、あの十五から二十歳までのどれとも取れる女性だった。
「笑ってる場合じゃありませんわ。この人は、静流と結婚して妹尾の財産を手に入れるつもりですのよ!」
 決め付けるように叫ぶ彼女に、吉奈はいつそんなことになったんだと内心に突っ込みを入れる。
 と、大が女性をじろりと睨み据えた。そして、ふいに厳しい声で言った。
「いい加減にせんか、唯! 他の女どもも。恥ずかしいとは思わんのか。おまえたちのしていることは、子供にも劣ることだと、なぜわからん」
「おじいさま……」
 まさか怒られるとは思っていなかったのか、唯と呼ばれた女性は呆然とその場に立ちつくす。だが、さすがに他の女性たちは恥ずかしげに肩をすぼめた。そして、ふいに唇を噛みしめて何か抗弁しようとしている唯の手を、中の一人が引っ張る。
「離してよ、私は……!」
 わめく彼女を連れて、女たちは大に次々と頭を下げ、その場を立ち去って行った。
 それを見送り、大は吉奈をふり返る。
 もちろん吉奈は、この一連の騒ぎにも動じてはいなかった。それに気づいて大は笑う。
「実際、見上げたおちつきぶりじゃな。……どうだな? 本気で静流の嫁になる気はないか」
 尋ねる口ぶりは、彼女が静流の恋人だというのが嘘だと見抜いているとも取れる。
(なかなか、食えないご老人ですね)
 胸に呟きつつも、彼女は返す。
「先程あちらで、十六になったら結婚してもいいと、お許しをいただいたばかりですが」
「そうだったな」
 笑いながら言って、大は先程の女たちが自分の親族だと説明した。中でも静流の従妹の唯は、今年で二十歳になるが、中学生のころから静流の花嫁になることを夢見ていたという筋金入りだった。ちなみに唯は、これまでも静流の恋人たちにあれこれと嫌がらせをしており、彼が実家に寄り付かなくなった原因の一つでもあるという。
「――その唯が、あなたにはかなわなかったのだから、なかなかたいしたものだ」
 大は最後に笑って付け加えた。
 そこへ、ようやく静流がウーロン茶のグラスを手にやって来た。なんとなく疲れた感じなのは、もしかしたら彼もどこかで親族につかまっていたのかもしれない。
「すみません、遅くなって」
 侘びの言葉を口にしながら吉奈にグラスを差し出し、大の姿に軽く目を見張った。
「おじいさん、どうかしたんですか?」
「いやなに。吉奈さんと、もう少し話してみたくなってな。姿を見かけたので、雑談しておったところだよ。……だが、若い者の邪魔をしてはいかんな」
 大はかぶりをふって言うと、小さく笑って立ち去って行く。
 静流はその背を怪訝な顔で見送るばかりだ。
 吉奈も、ただ黙って見送る。大がさっきのことを静流に聞かせたくないというなら、話す必要はないだろうと彼女も思う。というか、いちいちこんなことを詳細に話すのは面倒なだけだ。
(それにしても、年の差カップルに世間の風は冷たいことですね)
 胸の内に苦笑して、彼女はグラスに口をつけた。

【エピローグ】
 結局、吉奈が静流と共に会場にいたのは、二時間ばかりのことだった。
 会場ではそろそろ帰り支度をする人間も現れ、吉奈も静流と共に一階ロビーへと下りて来ていた。
 さすがにここではもう、二人は腕をからめてもおらず、知らない人の目からは兄妹とも見える程度で驚いたようにふり返って行く者も少ない。そのことに吉奈は、内心少しだけ笑ってしまう。腕をからめあっているかいないか、すぐ近くで見詰め合っているかいないか、その程度のことで人は他者の関係をさまざまに誤解するのだから。
(それほど人は人に、本当の意味で興味を持たないということかもしれませんね)
 胸に呟き、吉奈は小さく肩をすくめた。
 その彼女に、静流が礼を言う。
「今日は、つきあっていただいてありがとうございました」
「いえ……」
 小さくかぶりをふって、吉奈は一応訊いてみる。
「それよりも、この先も本当に私とつきあって下さるつもりはありませんか?」
「いえ……それは……」
 静流は困ったような顔でかぶりをふった。
「そうですか。残念です。でも私、おじいさんに気に入られてしまったようなので、もし何かフォローが必要なことがあったら、遠慮せずに声をかけて下さい。また、協力させていただきますので」
 彼女はそれへ、そつなく返す。
「ええ、ありがとうございます」
 静流は生真面目にうなずいた。そして、自宅まで送ろうかと言ってくれたが、吉奈は断る。
「それでは、今日は楽しかったです」
 そう告げて、一礼すると彼女は踵を返した。そのまま、ロビーの雑踏の中を出口へと向かう。
(『殺したいほど好き』にはなりませんでしたけど……でもやっぱり、年上の方っていいですね。料理も美味しかったですし、いろいろと堪能できましたね)
 軽い足取りで、嬉々として胸にそんなことを呟きつつ、彼女はホテルを後にしたのだった――。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3704 /吉良原吉奈(きらはら・よしな) /女性 /15歳 /学生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

●吉良原吉奈さま
はじめまして。ライターの織人文です。
シナリオに参加いただき、ありがとうございます。
コメディっぽい感じになったかどうか、ちょっと怪しいですが――
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。