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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に、精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。


〈吉良原・吉奈〉
 全てが終わったが……、レノアに映ったものは、吉良原・吉奈の死に体である。まだ、彼女が生きていること事態がおかしかった。
「吉奈! 吉奈!」
 門が閉じ、雲すらない蒼天の下、戦いが終わったはずなのに……。レノアはなぜ無茶なことをと問いたかった。彼女は治癒魔法を施すが、吉奈の肉体組織の崩壊が早い。
「止まって! おねがい! 止まって!」
 彼女は、第六位信仰呪・完全治癒を思い出そうとしても、ヴォイドの戦いや門の閉鎖によって高位の呪文を消耗している。残っているのは軽傷治癒や下級治癒しかない。
「貴女はもう闇に打ち克ったのよ! だから、前に言ったように日の当たる空の下を駆けられるのに!」
「……レ、レノア……」
 吉奈が気が付いた。
 泣きながら治療呪を唱えているレノアの頬に残っている右手で撫でる。
「レノア…私は殺人鬼よ。今まで…沢山の男を殺したわ」
 告白。
 しかし、レノアは必死に呪文を唱え彼女を助けようとしている。彼女の過去は関係がないように。
「……黙って! 創造言語で……」
「私は……もう……むりよ……。レノア、でも、聞いて欲しいの」
 吉奈は話はじめる。
「私は、ある日を境に……人を殺す。父親ぐらいの……と、年の差の男をこの右手で、爆死さ……せていたの……。その衝動、絶対的性は……抑えられ……なかった。神様は分……かってい……たんだと思う。そう言う存在になった以上、私はまともな死……に方は……しないと。体の欠点も、この力の所為……。だけど、だけど……」
「……だから、だから何? 吉奈は、償いは出来るでしょ!」
 レノアが、声ではない声で呪文を唱えるがやはり無理だった。
「でもね、貴女のひたむきな……生き方、光が……羨ましかった。私もそう生きたかった。でも……」
 涙がこぼれる。
「でも、……貴女とずっと過ごしていたことは楽しかった……」
 吐血。もう自分でも分かる。『死』が訪れる。
 走馬燈が頭から既に見えない『目』を通して、映っている。
「絶対に助ける! だから! 生きて生きて償いを!」
 レノアは、様々な創造言語で詩を歌う。しかし、効果がない!?
(……影斬が止めているの? いや、影斬に『其処までの権利』はない……ではなぜ?)
「レノア……」
「吉奈……。吉奈ぁ」
 レノアは吉奈の体を抱きかかえる。
 鬼鮫、ディテクター、影斬はそれを黙って見守っていた。


〈贖罪〉
 もう、力が出ない。出血の量も尋常じゃない。もうだめだな。
「ねえ、レノア」
「なに?」
「私死んだら、地獄にいくのかしら?」
「そんな! だから! そんなことないです。絶対に!」
「……。だといいのだけど」
 レノアはもう、確信してしまった。死の臭いが確実に彼女に迫っている。今まで否定していただけだ。ならば、彼女はあの詩しかないと思った。
 影斬が感づいたのか、動く。
「ゲートキーパーが、個人のために、門を開くというのか? それは止める!」
「彼女が生きるすべは、『此』しかないのです! 影斬。お願い! 止めないで!」
「……む……しかし、それだと……」
 レノアの必死の声に、影斬が詰まる。
「影斬、大事な人を失う気持ちは……お前も『人であった』時にあったではないか、織田義明」
 ディテクターが影斬を止めた。
 影斬は頭をかく。別れやそう言った悲しさは彼も知っているのだ。
「しかたない……特例だ。……装填抑止として……認可する。レノア。しかし、それをすると……彼女の世界では、君や私達のことを忘れる。いいな?」
 時間さえも巻き戻すのは、意に反する物だった。
 レノアは頷いた。
「ええ、彼女が心の隅で残ったこのことを思い出し、将来……性に打ち克つことを信じます」
「彼光がもたらされることを願う」
 影斬も何かしら『創造言語』の一語を入れた。
 周りが光に包まれる。
「レノア……?」
 吉奈は、もう耳も聞こえず目もほとんど見えない。
 レノアの声だけが、聞こえる。感触で目を手で閉ざされた事を知った。そして、彼女の綺麗な声の子守唄が聞こえてきた。


 そうして、思い出す。
 過去、大好きだったはずの母や父が歌ってくれた気がする……。ああ、幸せだったあのときは戻らない。
 でも、できるなら、できるなら………。
 私は、私は、生きていきたい。
 レノアと。
 光が満ちていく。

 レノアの唄。それは……。


〈夢の狭間の会話〉
 さて、君はどうしたかった? もう、彼女は死ぬ定めだった。しかし、個人的な事情で、彼女の死を歪めた。並行世界での直接干渉ができるとしても、行きすぎた行為だ。

 あの子は、迷い子です。なら、何もなかった事にした方がいいです。

 絶対的性を克服できると思うか?

 出来ると、信じています。

 よほど、あの少女が大事だったのだな。そして、信じている。

 当たり前です。あの子は、最期に……戦ってくれました。『私のために』。

 そうか……。そう信じているなら……もう言わない。


〈夢と……〉
 吉奈は目を覚ました。
 何も、個性がないアパート。
 なぜか自分は涙を流している。
「夢? でも……おもいだせない……」
 何か悲しい夢。切ない夢のようだ。
 しかし、それが何か、全く思い出せない。
 いつも独りでここに住んでいるのに、何か物足りない。MP3プレイヤーから好きな音楽を流し、着替える。
「ねえ、何飲む?」
 マグを取り出し、珈琲を淹れるが、不意に、誰もいないのに、言ってしまう。
「? おかしいな?」
 そう、私はここで独り暮らしなんだ。
 日付は春頃。吉奈は、首をかしげていた。
 窓を開けて空気を入れ換える。その時目にとまった物がある。窓辺に、ひとつの白い羽根が落ちていたのだ。
 それを見たとき、吉奈は、恐る恐る、大事に、手に取る。
「なぜだろう……。なぜ、悲しいの? どうして……? うっうう……うわあああああん」
 彼女は涙が止めどなく、流れ、ずっと泣いていた。その涙の意味を知らずに。

 ずっとずっと泣いていた。蒼い空に、白い羽根が舞い落ちる事も気付かずに……。

END


■登場人物
【3704 吉良原・吉奈 15 学生(高校生)】

■ライター通信
滝照直樹です。
『蒼天恋歌 7 終曲』に参加して頂きありがとうございます。
 発注文を見たとき、涙が溢れそうでした。そして、想いを込めて書き上げました。この悲しみと、切なさを忘れないために。
 全てが幸福な終わり方ではなくても、感動が与えればそれは良いお話しだと思います。今回、そのチャンスを戴けて、嬉しく思います。
 感動できましたでしょうか?
 
 本当にありがとう。

滝照直樹
20080820