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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ -message-

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 CHRONO LABBITZ ---
 
 Can't you see,
 when you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 星を砕くほど、想い募らせれば。
 いつかきっと、俺達の世界は変わっていくんじゃないだろうか。
 溢れる力の限り、羽ばたいて見せてよ。
 失うものなんて、ないんだから。

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 あぁ、うん。なるほどね。そうかそうか。
 こっちで設定しちゃうと、あっちが動かなくなっちゃうんだなぁ。
 む〜……どうしたもんかなぁ、これ。
 せっかく思いついたのに、さっそく大きな壁に衝突しちゃったよ。
 異界にある森のすぐ傍、ひっそりとある公園のベンチにて、あれこれ思案している雪穂。
 今日も今日とて、研究熱心な彼女は、魔法具の開発に余念がない。
 五分前、ふっと下りてきたアイディア。
 自分の魔力を増幅させる魔法具。
 パッと見は、何の変哲もない普通のペンダント。
 あからさまに魔法の道具ですよ〜という雰囲気を出したくないが故のデザイン。
 設計図や内部構造、実際に作用するチカラなど、様々なことを考慮しつつ製作していった。
 けれど、魔法具において、増幅の類の能力を持たせることは、とても難しい。
 過去にも何度か、こうして増幅機的なものを製作しているけれど、
 どれも納得のいく出来にななっていない。
 う〜ん。本当、難しいなぁ、こういうのは。
 火だとか水だとか、そういうものを出せるようにするのは簡単なんだけどな。
 まぁ、ライターとかも、僕の中では魔法具の一種なんだよねぇ。
 普通の人は火を出したりできないけれど、ライターを使えば、火を扱えるようになるわけだし。
 便利な道具程度にしか思ってないんだろうけど。
 僕からすれば、あれを考えた人も相当なキレ者だと思うんだよね。うん。
 そんなことを考えつつ、あれこれとペンダントに手を加えていく。
 開発者としての意地というものは、やはり存在する。
 何かを生み出す以上、妥協なんてしたくないのだ。
 ただ、こうして夢中になっていると、周りが見えなくなってしまって。
 ハッと気付いたときには、魔物に囲まれていたり……ということが多々ある。
 作業に没頭していた雪穂の手が、ピタリと止まる。
 感じ取った、妙な気配。
 いつもなら、そう、いつもなら。
 すぐさま身構えて臨戦体勢になったけれど。
 この日は違った。
 確かに、妙な気配ではあったけれど、嫌な感じではなかったから。
「うさぎさんだ……」
 ポツリと漏れた言葉。
 ゆっくりと振り返った雪穂の目に映った、何とも不思議な生物。
 まぁ、見た感じは、彼女の言うとおり、うさぎだった。
 けれど、一般的なそれと大きく異なる点が一つ。色だ。
 例えば、小さな子供に『うさぎを描いて』と言ったら、
 大半が、白かピンクのクレヨンを手に取り描き出すことだろう。
 だが、今、雪穂の目に映っているウサギは、青い。
 空のように青いということでもなく、水色というか……淡い青だ。
 ヒョコリと姿を見せた水色のウサギは、
 可愛らしく尻尾と耳を揺らし、雪穂をジッと見つめる。
 ふと、思い出す、とある神話。
 双子の姉が、夢中になって読んでいた神話。
 タイトルは……失念してしまったけれど、内容は把握している。
 あの神話に登場する、悪魔の使い。
 外見にしても動きにしても、目の前にいるウサギは、それとピッタリ重なる。
 まるで、神話の中へ、絵本の中へポンと放り込まれたかのような感覚。
 加えて、持ち前の好奇心と、動物好きな点も重なって。
 ウズウズと、欲求を抑えることができずに、雪穂はウサギを追いかけた。
 森の中へと、ピョンピョン飛び跳ねて逃げていく、水色のウサギを。
 好奇心に支配されていた彼女が、気付くことはなかった。
 誘われていることに。

 *

 森の中、見失ったウサギを探して、キョロキョロと辺りを窺う雪穂。
 あれぇ……? おかしいなぁ。確かに、こっちに逃げて行ったのに。
 どこへ行ってしまったんだろう。茂みを掻き分けつつ探す雪穂。
 フッと消えてしまったことが、彼女の好奇心を更に刺激する。
 確かに、不思議な動物だとは思う。
 けれど、ここまで追求する必要はあるだろうか。
 心のどこかで、そう疑問に思っていたところはある。
 けれど、止まらない。止められなかった。
 何が何でも、もう一度。
 あのウサギを、目にしたい。
 出来うることなら、ギュッと抱きしめたい。
 その欲求は、大きくなっていくばかりだった。
 けれど、そこに疑問を抱く余裕はない。
 ウサギを探す雪穂。本人は気付いていないけれど、
 今、彼女の姿を一言で言い表すなれば『無我夢中』それが当てはまる。
 雪穂の必死な姿。それに応じるかのように。
 ヒョコリと茂みから姿を見せた水色のウサギ。
 雪穂は、すぐさまウサギに駆け寄る。
 駆け寄るというよりは、飛び掛るかのような。
 ガシッと捕まえた、水色のウサギ。
 ふわふわの感触と、何とも優しく柔らかい……温もり。
 その感覚に、どこか懐かしさを覚えた。
 自然と目を伏せたのは、安心感からか。

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「雪穂。その本、取ってもらえるかな」
「うんっ」
 遠い遠い、淡い淡い、けれど色褪せることのない思い出。
 薄暗い書斎。ぼんやりと橙色のランプが灯る、思い出の場所。
 そう、僕は。いつも、ここにいた。パパと一緒に。
 最初のうちは、抱っこされて、ここに来てた。
 けれど、いつからかな。僕は、自分の足で、ここに来るようになった。
 それこそ、パパがいないときでも、一人で、ここに来てた。
 約束ってわけじゃないけれど。特別な時間っていうのがあって。
 午後三時。おやつの時間になると、パパは必ず、ここに来たんだ。
 僕がいることを知ってたんだろうね。
 いつも、美味しいお菓子を持って、優しく笑って、ここに来たんだ。
 階段を下りてくる、その足音と、扉が開く、その音。
 僕は、その音が大好きだった。待ち遠しかったんだよ。
 パパは、いつも難しい本を読んでた。
 それが、魔法の本だってことは理解ってた。
 いつからかな。僕も、その本を読むようになった。
 パパが読んで聞かせてくれていた本を、自分で読めるようになった。
 机に頬杖をついて、真剣な顔で本に視線を落とすパパ。
 僕は、その隣で、玩具を作ってた。
 そうだよ、あの頃はね、玩具でしかなかった。
 とても、魔法具だなんて呼べた代物じゃなかったよね。
 でも、作る玩具が次第に精密になって。
 その様を見ていたパパは言ったんだ。
 嬉しそうに笑って「さすがだな」って言ったんだ。
 それが嬉しくて、僕はたくさん作った。
 褒めて欲しかったわけじゃない。
 認めてもらいたかったわけじゃない。
 そんな難しいことじゃなかったんだ。
 ただ純粋に、パパと同じ、魔術師でありたかっただけなんだ。
 パパは、何でも卒なくこなすことができた。
 天才だとか鬼才だとか、そういう言葉は、パパの為にある言葉だった。
 僕はね、心から慕っていたんだ。パパを。
 でも、パパは言った。
「魔術は万能じゃないんだよ。完璧になんて把握できないんだ。どんな魔術師でもね……」
 目を伏せて微笑んで言った、パパの顔。今も覚えてる。
 その言葉を聞いたとき、悔しいような気分になったよ。
 パパに出来ないことなんてないよ! そう叫びたかった。
 でもね、パパの悟ったような顔を見ていたら、
 それは、言うべき言葉じゃないって思ったんだ。
 僕と同じように、パパもまた追求を止めることが出来ない。
 例え、決して超えられない壁があったとしても。
 何とか、その壁を壊せないかと考える。
 壊せなくてもいい。泥臭くてもいい。
 無様に醜い格好で、壁をよじ登ったっていい。
 どんな手段であれ、その壁を越えられるなら。

 僕にとって、すべてだったパパ。
 その存在が失われた日は、雨模様。
 よく、覚えていないんだ。そこだけ、欠落しているみたいなんだ。
 どんなに頭を捻っても、鮮明に思い出すことは出来ない。
 覚えているのは、雨の音と、その音に掻き消される、叫び声。
 叫んでいたのが誰なのかも、思い出せない。
 誰かが、笑っていたような気もするけれど、それも思い出せない。
 僕にとって、すべてだった存在。
 パパを失った、その日と、それから数日間の間。
 その記憶は、欠落している。思い出そうとするとね、耳がキーンとするんだ。
 気持ち悪くなって仕方がないから、いつしか僕はやめた。
 思い出そうと、記憶を引っ張り出そうとすること。
 出来うることなら、すべてを失ったことも欠落させられればなんて……思っていたかな。
 帰る場所、抱きしめてくれる腕。
 それらを失った僕は、かけがえのない、唯一の肉親、
 同じ傷を負った、双子の姉と一緒に、組織に身を寄せた。
 覚えているのは、妖艶な女性が微笑んで。
 一言、言った台詞だけ。
「いらっしゃい。ようこそ―……へ」

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 我に返り、ふっと目を開く。
 腕に抱いていた水色のウサギの姿はない。
 あれっ……どこに……。
 顔を上げ、またもや消えたウサギを追おうとする視線。
 その視線、視界の中、不思議な光景が映る。
 自分を見つめる、淡く微笑んで見つめる。
 その人物は……紛れもなく、自分自身だった。
 鏡に映るかのような、その姿。もう一人の自分。
 呆けていた僕に、僕は手を差し伸べた。
 その手を取ろうと、僕も手を伸ばす。
 けれど、どうしてかな。触れることができない。
 すぐそこに、僕の手はあるのに。触れることができない。
 遠い。遠いんだよ。果てしなく、遠いんだよ。
 手を差し伸べながら、僕は何かを呟いていた。
 とても小さな声、聞き取ることなんて出来やしない。
 何を言ってるのか、首を傾げて耳を澄ます。
 唇の動きを読み取ろうと努力する。
 けれど、読み取ることは出来なくて。
 結局、何も伝えることが出来なかった。
 僕は、僕に、何も伝えることが出来なかった。
 フッと煙となって消えた、もう一人の自分。
 夢から醒めたかのような感覚に、雪穂は笑った。
 脳内で再生された、色褪せなき大切な思い出。
 もう一人の自分、伝えられなかった言葉。
 それらが全て、一本の糸で紡がれる。
 思い出したよ。あの神話の名前。
 クロノラビッツ。
 うん、と頷き、歩き出す雪穂。
 時は満ちたり。戸惑うことはない。躊躇いもない。
 むしろ歓迎だ。自分を探す、その旅が始まるというのなら。
 一歩、また一歩と踏み出す雪穂。
 彼女が向かう先は、ラビッツギルド。

 星を砕くほど、想い募らせれば。
 いつかきっと、俺達の世界は変わっていくんじゃないだろうか。
 溢れる力の限り、羽ばたいて見せてよ。
 失うものなんて、ないんだから。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師

 クロノラビッツ:オープニングシナリオ参加、ありがとうございます^^
 冒頭にある大きな壁は、父親が越えようとしていた大きな壁と掛けています。
 同じ魔術師である父親が超えられずにいた壁を、娘が越える日が来るとしたならば。
 或いは、それが自分を探すことを意味する行為や結末だとしたならば。
 小さな魔術師が、大いなる存在と化す、その日まで。
 どうか、お供させて下さいまし。気に入って頂ければ幸いです。
 後続シナリオへも、是非ご参加下さいませ。お待ちしております^^
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 2008.09.18 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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