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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『二閃の邂逅』



「手際よくやりなよ……あの方への捧げものだからな。手落ちがあっちゃあいけない……」
 薄暗闇に、掠れた女の声が響いた。綻びたロングのインバネスを着込んだ者たちが、無言で頷く。目深に被ったフードのせいで、男女の見分けも付かない。
 上階から微かに漏れ聞こえてくる激しい音楽。女はまるでそれが目に見えるかのように憎々しげに睨み付けている。三十路程度の若さながら、その声は老婆のようにしゃがれ、狂気に湿っていた。
「ひひ……まあ、今のうちに愉しんでおくといいさ。愉しんで、ねェ……」
 女の背後で、何かが黒くうねった。獲物を待ち受ける、蛇のように。



 ライブハウスの中は、熱気と興奮に包まれている。暗闇の中、派手にステージを照らす照明と、申し訳程度の明りが、都市文化にある独特の雰囲気を作り上げていた。いつものこと。いつもの夜。
 赤羽根 灯(あかばね あかり)は目当てのバンドも聞き終えて、ほくほくと上気しながらバーカウンターに座った。
「お姉さん、ジントニック一つ!」
 調子に乗ってそんなことを口走る。こういう日は、何となく自信が湧く。
 今日使っているのはライブ用にとっておいた高級ブランドのアイシャドウだ。チョコレート色のグラデーションを作って目尻を強調しつつ、眉は鋭さを意識してくっきりと引いてある。ファンデーションは落ち着いたライトブラウンだが、濃いチークでラインは強調した。服装も可愛くなりすぎないように気を使っている。演出自体は大人の女だ。元が十六歳であることに変わりはなくとも。
 バーカウンターの女性がちらりと自分を見た。とんっ、と、小麦色の飲み物が目の前に置かれる。ふと首をかしげて、灯はしげしげとそれを眺めた。
「おねーさん、これ、ジンジャエール。私が頼んだの、ジントニック」
 女性は遠目で見ると大人びて見えたが、よくよく見れば二、三歳ほどしか違わぬらしい。若々しい声で言った。
「あんた、子供だろ! 化粧くらいじゃ、あたしの目はごまかせないよ」
「ええ、あたしこう見えても……」
「二十歳だとでもいいたいのかい? せいぜい、十七。行っても十八、だろ? 証明できるものが出てくれば、信用してやってもいいけどね?」
 証明書。あるわけもない。十六歳なんだから。がっくりとうな垂れて、灯はため息をついた。
「せっかく、ばっちりキメてきたのになあ。どうしてわかったの?」
「大人っぽいメイクをしても、ぽいのと、本物はまた別!」
「う〜、やっぱり、前髪ぱっつんなのがいけないのかなあ? 気に入ってるんだけど」
「あのねえ……大人に見られたかったら、大人になるまで待つのが一番。あたしはごまかす手伝いなんかしないからね」
「そんなこと言って、お姉さんだってバーカウンターで働いてるじゃない。えーっと……」
 女性が胸元につけている名札には「竜王寺 珠子(りゅうおうじ たまこ)」とある。
「たまご、さん?」
「……たまこ」
 引き攣った笑顔で珠子が受け取ったのを見て、灯は慌てて話を戻した。
「珠子さん、まだ二十歳じゃないんじゃ?」
「十八だよ。でも、それとコレとは別。あたしは仕事なんだから。飲まなきゃいいだけ」
「お客さんに出すカクテルなのに、試飲したりしないの?」
「それは秘密」
「ずるーいー!」



 階上の音楽は鈍い振動になって、階下まで伝わってくる。曲の内容がつかめるほどではないが、音楽であることは理解できる程度に。
「儀式の準備が整いました」
 フードの集団の一人が、こそこそと囁く。
「やっとか。全く、待たせやがって。しかし、やかましいねえ。若々しい、魂どもだこと……」
 女は明らかに憎悪と嫌悪を滲ませて呟いた。
 ライブハウスの地階にあるスタジオで、女は謡うように呪文を唱え始めた。言葉の端に、嘲笑が滲んでいる。



 少女は赤羽根 灯と名乗った。朗らかな娘で、酒も入っていないのによく喋る。お気に入りのバンドの話から、ファッションの話まで、子供っぽいところはあるものの趣味は合った。
「珠子さんは十八なのに、大人びてるよね? 短いジャケットが似合うっていいなあ。私ももっとおへそ出したりしたいんだけど……」
「出せばいいだろ。服なら原宿に良い店沢山あるって」
「だって、私じゃちょっと子供っぽいかなって」
「そりゃ子供なんだから、仕方ない」
「容赦ないなあ……やっぱり、化粧かなあ。今度は紫のシャドウ試してみようかな」
「嫌でも大人になるんだから、今ごまかさないでもいいだろ。似合う服とかコスメを選ぶんなら、今度一緒に見に行ってやっても良いよ。あたし、夢はアパレル系だしね」
「ぶぅ……でも、珠子さんとなら一緒に行きたいな」
 ふてくされる灯を笑いながら、グラスを拭く。今日はライブのペースものんびりしていて忙しくもないし、仕事に関係したハプニングもない。こうした会話も悪くない。
 ふと、灯がカウンターの後ろに置いてあった長い布袋に目を留めた。
「……それ、珠子さんの?」
「ん、まあね」
 御神刀「九頭竜」だった。布袋にくるんでいる状態では、剣道の竹刀か、楽器か何かにしか見えない。灯は布を透かすようにそれを覗き見ると、微笑んで言った。
「素敵なの、持ってるね。大事にしてあげてね」
 珠子は一瞬、目を丸くした。軽く頷いてそれに応える。この娘には何かがあるのか? 『力』が?
「たまに、そう言われるよ。霊感ってやつ? あたしにはそんなのないからよくわからないけど」
「まあ、霊感というか……――」
 その時、ふと、灯が体を強張らせた。まるで、時間が止まったかのように、ぴたりと動きを止めたかと思うと、ばね仕掛けのようにばっと振り返る。目の色が失せ、開いたままの口が閉じる。
「どうした?」
「あ……う、ううん。私、そろそろ行かなきゃ! 明日もバイトだし……それじゃあ、また来るね、珠子さん!」
 時計を見ていきなり立ち上がると、慌しく灯が立ち上がった。思わずこちらも飛びのくような勢いだ。挨拶もそこそこに走り去ろうとする後姿に言った。
「あたしはこの時間は大体、ここにいるから、いつでも来なよ!」
 灯が振り向き様に手を振って応える。全く、騒々しい娘だ。嫌いじゃないけど。今度、本当に一緒に出かけてみようか。
 安堵のような、ちょっと気が抜けたような溜め息をついて、九頭竜に触れる。何か、呼んでいるような気がした。
「いい娘だよね。あんたもそう思う?」
 ふざけて問いかけた瞬間だった。九頭竜から、電撃のような警告が、珠子の脳裏に発せられた。
 危険が迫っている、と。
 心を撃たれるような唐突の告白。珠子は身を強張らせた。警告は、更に激しく鳴り響き、衝撃的なことを告げる。
 危険が迫っている。ここと、お前と……あの娘に――、と。



「何を、しているの?」
 息を切らしながら、灯はライブハウス地下のスタジオに駆け込んでいた。出演を控えたバンドや、特にライブハウスが営業していない時間に、練習用に貸し出しているところで、小さな音楽室ほどの広さがある。
「まさかこんな邪魔が、入るとはねえ。あとは、仕上げだけって時に……」
 部屋の真ん中で、インバネスのフードを下ろした女が笑っていた。その背後には、同じような格好の男女が四人。地面には、獣か何かの血がべったりと塗りたくられ、得体の知れぬ紋様が描かれている。禍々しい気配が、その紋様から立ち上ってきていた。飢えに苦しむ獣のような、残虐な気配が。
「それは……なに?」
「排水溝、いや、掃除機みたいなものかね?」
 女は笑いながら言った。
「人の魂を吸い込んで、うちの偉い人のところに送る装置……みたいなもんさ」
「魂? もう一度聞くけど……それで、何をしようとしているの?」
「ここまで来たなら、何となくはわかってると思うのだけどね?」
 珠子と話している最中、突如として背筋に走った悪寒。邪悪な何かが、地下から手を伸ばそうとしている気配。飢えた獣の舌で首筋を舐められるような感覚を覚えて、灯は席を飛び出したのだった。
「あたしは虚無の境界ってところで働いててねえ。霊を捕まえて偉い人に送る仕事をしてるんだ。だがいちいち探し出すのは面倒くさくてね……仕方なくこうして『勧誘』に来たというわけさ」
「勧誘?」
「ほっつき歩いてる霊を捕まえるなんて面倒くさいだろう? 生きている人間にも同じものがあるなら、まとめて引きずり出した方が手っ取り早い。そういうことさ」
「つまり、魂を引きずり出すためのもの? 『偉い人』っていうのに送り届けるために……?」
「ご名答。上のやかましいゴミの魂を吸い込んで黙らせるための、掃除機代わりってわけさ。まあ、しょぼくれた魂だ。まとめたところで大した捧げものにはなるまい、と、思っていたけど――」
「申し訳ないけど……そんなことさせない……!」
 光が、浮かびあがった。灯の能力。浄化の炎。着火の音を響かせて、無数に自分を取り巻く。女が笑う。
「――こいつは運がいい。活きのいいのが、いたようだね……やれ」
 フードの連中が乱れのない動きで拳銃を抜く。轟音が、一斉に鳴り渡った。



 九頭竜の導く声に従い、廊下を走っている時だった。ライブハウスの音響に慣れた耳さえつんざくような爆音が響き、スタジオの扉が弾けた。廊下にぶつかり、ひしゃげた板と化して落ちる。飛んできた破片を防ぐため、とっさに珠子は顔を覆った。
 ――これは……!
 もう闘いが避けられぬことを悟り、九頭竜を引き抜く。白木柄から白く光る刃が現れ、薄暗い明りの中に浮かび上がる。
 警備員も、引っ込んだはずのバンドのメンバーも、皆廊下で倒れていたが、灯の姿はない。今の爆音は、まさか……。
「灯っ!」
 まだ、煙を吐くスタジオに飛び込むと、激闘の跡が目に入った。妖しげなインバネスを着込んだ男女が、ところどころに倒れている。皆、意識を失っているだけのようだが、激しい一撃を喰らったのか、服の胸元が焼け焦げていた。溶けてひしゃげた、拳銃らしきものも落ちている。ちろちろと燃え残った火が床板を舐め、壁が激しい衝撃で引き裂かれて、木屑を散らしていた。
「た……まこ、さん?」
 振動に明滅する明かりの中に、異様な光景が浮かび上がった。灯の躯が、黒く長いものに巻きつかれて、空中に浮かび上がっている。灯を縛り上げているのが髪の毛だと気付いた時、彼女の後ろから髪を伸ばした異様な女が姿を現した。口が裂けんばかりの狂った笑みを浮かべている。
「馬鹿な娘だ。本命を討ち損じるとはね……闘いは、頭から潰すもんだよ」
「あなたが……仲間を盾に……」
「敵の、それも捨て駒の命を気にかけるとは、優しいねえ。まあ、それで負けてりゃ世話ァない。しかし、仲間がいたとは意外だね」
 女が振り返る。仲間呼ばわりされて、一瞬、珠子は混乱した。このとんでもない現場を作り出した張本人は、明らかに灯だろう。彼女がどんな力の持ち主かは、周囲を見渡せばおおよその見当はつく。まあ、あの女も、その一人だろうけれど、そういう類のものの『仲間』にされるのは許容しかねる。非常に関わりたくない。尤も、放っておくことも出来ないわけだが。
「あたしはその娘の仲間じゃないよ。このライブハウスの従業員さ」
「ほほう? で、その従業員がお客様に何か御用なわけかい?」
「もちろん。あたしの責任において乱暴なお客様にはお仕置きを加えて、警察に向けてつまみ出す……ってとこかな。その娘を離して、大人しくするなら、痛い目みないで済むよ」
「珠子さん、私はいいから逃げ……――」
 灯を締め上げる髪の毛が、その喉を押さえつける。女がにやりと笑って珠子を指差した。蛇のように長くのたくる髪の毛が、珠子に踊りかかる。刹那、九頭竜がそれを切り裂いていた。雷撃がそれを薙ぎ払い、縮れて落ちる。実力を察したのか、水が引くように髪の毛が引き下がった。
 女はひっひ、と、乾いた笑いを漏らすと、言った。
「格好いいねえ、お姉ちゃん。あんたも、この娘と同じで中々の手練のようだ。なるほど、なるほど……しかしね、恫喝ってのはこうやるもんだよ?」
 みしみしと、こちらまで聞こえてくるような音を立てて、女は灯を締め上げると、鋭利な刃物のように髪を薄くまとめて、灯の額にそっと近づけた。灯が鈍く呻く。
「やめろっ!」
「武器を捨てな。一歩でも、動いてごらん。お友達の綺麗なお顔を……ぞりっと削ぎ落とすよ」
「アンタ……その娘とはさっき会ったばかりだ。人質になるとでも思ったか?」
「おぉ、賢いお姉ちゃんだ。そう考えるなら、とくとごろうじろ。一ひねりで、真っ赤なお顔ののっぺらぼうの出来上が――」
「……っ、わかったよ!」
 おや? にやけた顔だけでそう問い、女の髪刃がぴたりと止まる。顔を押さえつけられ、ほとんど身動きのとれぬであろう灯が、小刻みに首を振った。見捨てて逃げろといいたいのか。
「……見捨てられるわけがないだろ……武器を捨てるから、その娘だけは放せ。じゃなかったら、命を懸けてでも、あたしはアンタを斬――」
 背後からひゅっと風を斬る音がしたかと思うと、右の太股に痺れるような痛みが走った。
「ぐっ!」
 背後に倒れていた女の部下の髪の毛が、いつの間にか長く伸び上がり、錐のように鋭く尖って、刺し貫いて来たのだった。膝が落ちる。
「珠、子さ……ん!」
 そのまましゅるしゅると巻き付いてくる髪を眺めて、女はさも嬉しそうに唇を釣り上げた。
「強く、そして優しい……が、若いね。打つ手が甘い。あたしが操れる髪の毛は、契約を結んだ相手の髪全てだってこった。捨て駒でも、こうして使えば役に立つからねえ。ひっひっひ」
「く、そっ……卑怯者!」
 見えてさえいれば、いくらでも防げたものを。この力と卑劣さに、灯も足を掬われたのだろう。
 珠子は九頭竜の雷撃を呼ぼうとしたが、何故か上手く行かなかった。
「おぉっと、無駄だよ? あたしの操る髪は、封じの力がある一種の結界でね。これで悪霊を捕まえるのさ。あんたたちがいくら強かろうが、巻き付かれれば何もできないただの小娘だろう?」
 女は甲高く笑うと、灯をほうり捨てるように脇にどかすと、珠子に顔を近づけた。
「畜生……その娘だけでも放せ!」
 言われたとおり躯に力が入らない。使えるのはせいぜい、歳相応の女の筋力だけ。今、この女の注意が自分に向いている以上、斬りかかっても避けられる。足に巻きつく髪の毛を斬り払うにも、本人が見ている前では……――
「馬鹿を言うなよ。こんなに力のあるのが二匹も手に入るとは、運がいい。持って帰って、じっくり弄って殺してやる。いい怨霊になれば、死後もあの方が可愛がってくれるよ……末永く、ねェ」
 絶望の帳が降りる瞬間、ふと、珠子の脳裏を、何かが掠めた。
 ――……本人が見ている? 巻き付いた相手の力を封じる?
 まだ、九頭竜はこの手にある。巻きつかれているのは足と腰までだ。
 ……なるほど。いちか、ばちか、だね。
 瞬間、珠子は半ば倒れた姿勢のまま、女の方へ九頭竜を放り投げていた。
「さあ、まずはここの魂を――……っと、馬鹿な抵抗を」
 女がさっと身をかわし、怒りに顔を歪ませる。頬に、赤い筋が入っていた。
「そんな苦し紛れの一撃が、当たるとでも思ったのかい?」
 これが最後の抵抗だ。外れたら、万事休す。もはや武器もない。珠子はぎっと唇を結んだ。女が珠子の顎を掴み、乱暴に顔を上げさせる。
「どうやらあんたには、この場でキツイお灸を据えなきゃならないようだね」
「……かもね。でも、その前にあんたに用がある奴がいるみたいだよ?」
 とん、と、女の肩に、細い手が置かれた。振り返る。事態が理解できぬように、口を半分開けたまま女が呟いた。
「お前、どうして動け――」
「お灸を据えられるのは、あなたの方よ!」
 灯の手から放たれた炎が、女の胸倉にぶち当たった。濁った悲鳴があがり、女がスタジオの外まで吹っ飛んで行く。派手に壁に激突する音が響くと、巻きついていた髪の毛がだらりと力を失い、珠子の拘束を解いた。
「苦し紛れが、当たったね……」
 起き上がってくるものはすでにいない。戦場となったスタジオには、肩で息をする二人の少女が残った。珠子は溜め息を落とした。安堵の溜め息を。



「あーっ! これにて、一件落着っ!」
 IO2の捜査官が虚無の境界のテロリストを引っ立てていくのを確認して、灯は心置きなく躯を伸ばした。地下でガスが漏れ、その影響で警備員やバンドのメンバーは気を失ったことになっているし、スタジオの惨状は不運なガス爆発ということで事なきを得た。世はこともなし、だ。
「あのなあ……」
 太股に包帯を巻いた珠子が、うんざりした様子で言う。尤も、傷口は灯の治療で、ほぼ塞がっているため、念のための処置だ。夜風が涼しく二人の戦いを労っていた。
「下手を打てば、今頃どうなってたかわからないんだぞ? 本当にギリギリだったんだから」
「あはは、ホントに……」
 灯が懲りない笑顔でいう。自身が力を発揮することを抑えられた珠子は、躯中に髪が巻き付く寸前、九頭竜を放り投げた。女ではなく、灯を拘束する髪の毛を狙って。あの女は使い手のみに気を取られ、御神刀の魔を裂く能力が健在であることを見落としたのだ。
 ふと、灯の表情から生意気な皮肉が消え、澄み渡るような素直な笑顔になった。
「珠子さん、頼もしかったよ。来てくれなかったら、大変なことになってたかもしれない」
「……あなたこそ、頼もしいよ。あなたのおかげで一人も死ななかった。あの女どももね」
「珠子さん」
「珠子でいいよ。堅苦しいの好きじゃないし」
「じゃあ……ありがとう、珠子」
「こっちこそ。職場を守ってくれたし。あたしも助けられたからね」
 二人はぱんっと手を合わせた。口の端を恥ずかしげな笑みが掠める。
「じゃあ、私は帰るね。明日バイトなのはホントだし」
「ああ、気をつけ……なくても平気か」
 笑いながら帰路に着く灯の背中を眺めながら、珠子は溜め息を落とした。疲労の溜め息を。ふと、灯が振り返る。
「あ、そうそう、また今度、何かあったら呼ぶから!」
「また……?」
「暇があったら、手伝ってね! 今後もよろしく!」
「ちょ、ちょっと待……あたしはもう、あんな――」
 慌てて走り去っていく灯には、その声は届いていない。珠子はぽつりと一人残され、呆然と口を開いたまま固まる。ようやくその口が音を紡いだときには、灯の背中は見えなくなっていた。
「よろしく……」
 珠子は三度目の溜め息を落とした。安堵でも疲労でもない。とんでもないじゃじゃ馬娘との出会いに対しての溜め息だった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【5251/赤羽根・灯(あかばね・あかり)/女性/16歳/女子高生&朱雀の巫女】
【5215/竜王寺・珠子(りゅうおうじ・たまこ)/女性/18歳/少し貧乏なフリーター兼御神刀使い】



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■         ライター通信          ■
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 灯様、珠子様、ノミネートありがとうございます。二度もノミネートしてくださり、ライターへの私信で諸々のお心遣いをしていただき、真にありがとうございました。お二人の物語における重要な部分を任せていただけたことを、とても嬉しく思っています。

 今回は、灯様と珠子様の初の出会い、ということでしたので、お二人が闘いを通して赤の他人からパートナーとして認め合う関係になる、ということを意識して書かせていただきました。また、お二人が関わる暗い世界と、元気なお二人の対比を意識して、二人のシーンではほのぼの笑えるように、闘いは重くシリアスにするように心がけました。

 そのため互いに助け合う逆転劇を用意したのですが、サスペンス色が濃くなってしまい、お二人の快活なキャラクターを戦闘シーンで演出しきれなかったことが反省点です。戦闘について特に指定がなく、サスペンス調の方が得意なので採用したのですが、またご縁がありましたらご指定くだされば他の方向でも努力してまいります。

 気に入っていただけましたら幸いです。それでは、また別の依頼で会えますことを、心よりお待ち申し上げております。