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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


バラバラ事件を追え!

「う〜ん、みんなの話をまとめると、バラバラ事件ってことだね。右手・左手に左足に、かたっぽの耳……え〜と、右だっけ? と残りの胴体? 五分割かあ」
 SHIZUKUの前には、初等部の制服を着た子供たち。
 まだ低学年だろう。みんな一様にうなだれている。
 一人の少年が涙目で口を開いた。
「ちょっとからかってやろうと思っただけなんだ。だって、小学一年生にもなって、ウサギのぬいぐるみがないと学校にも来れないなんて恥ずかしいヤツだなって思って。それで取り上げてやったら、わんわん泣くから面白くなっちゃって」
 他の少年たちが続ける。
「みんなでワーっとバラバラにしたんだ。その時はすごく面白かったんだけど……」
「アイツ、あれから五日も学校休んでるんだ。ボクらのせいかと思って、ぬいぐるみを返してあげようって決めたんだけど」
 それが、簡単ではなかったらしい。
 悪ノリした子供たちはバラバラにしたぬいぐるみの体を、とんでもない方法で街中にバラまいていたのだ。
 右手は、野良猫の首につけて逃がした。
 左足は、近所のドブ川に投げ込んだ。
 胴体は、通りがかったトラックの荷台に。
 右の耳は風船につけて飛ばしてしまった。
 探そうにも子供達の手にはおえない。見つかったとしても、この状態ではそうとう傷みも来ているだろうし、縫い合わせても元通りにはなるまい。けれど、子供達の必死さを見ていると、むげにもしにくいというものだ。
「あれ? 一個たりなくない? 左手はどうしたのかな?」
「これ……左手だけ持ってたんだ」
 おずおずと、ちぎれたぬいぐるみの左手が差し出される。
「そっか。じゃあ毛色とかはそれでわかるね。手がかり一つゲット! ……のその前に!」
 SHIZUKUは腰に両手をあてて、仁王立ちになると、少年たちをにらみつけた。
「女の子をいじめたりする男の子はカッコわるいよ? もう絶対にやっちゃダメだからね! 約束できるね?」
 口々にあやまる子供たち。
 SHIZUKUは、にっこり笑ってうなずいてやる。
「ヨシヨシ! ……あ、良くないかも、あたし今日から丸三日撮影だよ。困ったなあ」
 子供たちの不安そうな目が、SHIZUKUを見上げている。
「え〜っと、大丈夫! 信頼できるお兄さんかお姉さんにお願いしてあげるから!」
 SHIZUKUはケータイを取り出しながら、周囲をみわたした。
――誰かいないかなあ……。

 神聖都学園、初等部校舎の傍ら。 
「ほんっとにゴメン! 助かったよ。後、よろしくね!」
 集った五人のぬいぐるみ捜索隊の面々に、ビシっと敬礼してSHIZUKUが走り去った後、まず口を開いたのは、シルビェート・ザミルザーニィだった。
「バラバラのぬいぐるみ捜索て、またえらい難儀な話やなぁ」
 子供達が一途な視線で見上げてくる。
「そうだよね。でも、どうにかしたいんだ……」
「ムリかなあ」
 不安そうにうつむく子もいる。
「心配しないでいいんですよ。シルビィさんは大変だって言ってるだけで、無理だって言ってるわけじゃないんですから」
 シルビェートの傍らで、鍋島美寝子(なべしま・みねこ)が優しく微笑んだ。シルビェートの語り口はどうも誤解されがちだが、美寝子はシルビェートの気持ちを理解している。
 シルビェートは子供達をどうにかしてやろうと本当に一生懸命なのだ。だからこそ、親友の美寝子にまで応援を頼んだ。
「……甘い」
 十種巴(とぐさ・ともえ)がつぶやく。
 一同の視線が、巴に集まった。
 巴は大きめの石の上に腰をおろしていた。考え込むように腕組みし、目を閉じていたが、ピリピリした眉間のあたりが内心を表していた。
 巴の目が、くわっと見開かれた。
「ふざけんじゃないわよ!」
 立ち上がって、仁王立ちになると、子供たちを見下ろした。
「どうにかしたい? ムリかなあ? 子供だからって甘えてるんじゃないわよ! 貴方達ねえ、本当にどうにかしたいって思うんなら、どれだけ大変でも絶対見つけるからボクたちを手伝ってくださいくらい言えないわけ? 私達はお手伝い、あなた達が自分で探そうとしないでどうするの!」
「貴方、そこまで言わなくても、この子たちだってね……」
「当人たちのやる気を聞いてるのよ」
 割って入ろうとした一反木綿子(かぞり・ゆうこ)に、巴はぴしりと言った。 生来の負けず嫌いから、言葉を返しかけた木綿子だったが、思いなおした。子供たちの前で喧嘩になるのも大人げない。ここは彼女に任せてみよう。
 続けて、と巴に一つうなずいてみせる。
「で、どうなの?」
 巴の問いかけに涙目になっている子供達の中、一人の少年だけが、キッと顔を上げて見返した。にらみつけるような表情になっているのは、泣かないように頑張っているからだろう。
「決まってるだろ、そんなの!」
 巴は無言で、待っている。
「絶対見つける! ……だから」
 顔を真っ赤にして、怒鳴った。
「手伝ってください!」
 ――お、案外骨があるじゃない。
 思っても顔には出さないでおく。甘やかすには、まだ早い。
「わかった。手伝ってあげる。貴方、名前は?」
「小暮将太(こぐれ・しょうた)」
 彼が子供達のリーダー格らしい。
 他の子供たちも口々に名乗る。
「ええと、将太君」
 声をかけたのは、これまで様子を見守っていた鞍綴・誌織 (くらとじ・しおり)だった。誌織には、彼の名前で思い当たることがあった。
「そのぬいぐるみの女の子、なんてお名前なのか、お姉さんに教えてくれる?」
「……高野ミカ」
 ちょっと口ごもってから、そう答える。
「やっぱり!」
 自然と顔がほころぶ。
 神聖都学園の図書館で働く誌織は、児童書を担当している。その貸し出し簿で、二人の名前を覚えていた。
 女の子向けの童話や花の図鑑だのを、男子が借りているので不思議に思っていたのだが、それが将太だった。そしてその謎は、今解明された。それらの本を将太の前に借りているのは、いつも高野ミカだったのである。
 ――いいわね、いいわね、小さな恋のメロディ! 次のお話はこの子たちネタにしようかな。う〜んと、出会いは……
 『神聖都の歩く蔵書目録(恋愛編)』の異名を持つ誌織は、がぜん盛り上がっていた。密かに執筆している恋愛小説のストーリーまで考え始めてしまう。
「あ、あの…?」
「だ、大丈夫ですか?」
 木綿子と美寝子の声も耳に入っていない。
 夢想に浸っている誌織からは、ハートマークなオーラが放出され続けている。
「あ〜……おうち、前見えてはるか〜? あっちの世界行っとらんと、戻ってきぃや〜?」
 見かねたシルビェートが、誌織の目の前あたりで片手をひらひらさせた。
 ハッと我に返る誌織。
「あ、あはは、何でもないんですよ」
 ありまくりだろう! と、全員の視線がツッこんでいたが、言葉にされたのは、ごく建設的な意見だった。
「とりあえず、人数おることやし、手わけせぇへん?」
 シルビェートの言葉に、美寝子がうなずいた。
「ですね。ええと……」
「の、その前に」
 木綿子が、一歩前へと進み出た。
 ぐるりと一同を見渡してから、コホンと小さく空咳ひとつ。ちょっと声色を変えて、
「アテンションプリーズ! 私、キャビンアテンダントの一反木綿子と申します。本日ご搭乗の皆様のお名前を教えて頂けますでしょうか?」
 普段の声音に戻って続ける。
「……なんてね、まずは自己紹介、なんてどうでしょう?」
 一瞬のとまどいの後、みんなの顔に笑顔が生まれる。
「そやなぁ…」
「ですね。では、わたくしから。鍋島美寝子と申します……」
 みんなの心が一つになった。
 ぬいぐるみ捜索隊、結成の瞬間だった。

 自己紹介と相談の後。
 捜索隊は手分けして探索を開始した。
 子供達は巴と一緒に足で探している。シルビェート含め他のメンバーたちには子供達と一緒にはゆけないわけがあった。
 正体まではっきりとはわからないものの、お互いに相手が人外のものであることは悟っていた。子供達と一緒では、能力が使いにくい。
「なんか、すごい面子やったねぇ」
「わたくしたちと、近いものを感じますわ」
 シルビェートは美寝子と共に、子供たちがぬいぐるみの左足を投げ込んだというドブ川へと向かっていた。
 もっとも美寝子のほうは、ドブ川を目指しているわけではなく、一緒に歩きながら協力してくれそうな動物を探している。
「あ、四匹発見です! 子猫可愛いですにゃ!」
 ふと見上げた古式ゆかしい日本家屋の屋根の上、母猫とおぼしき猫に、子猫とおぼしき三匹がよりそうようにして、ひなたぼっこしている。
「おしっぽ、ぱったりぱったり揺れてますにゃ! たまりませ〜ん」
 脇目もふらず、猫まっしぐらに駆け出してゆく。
「ミネコ、目的忘れんといてや!」 
「おしっぽ〜〜〜!」
「ちょ、真昼間やで、周りの目気にしいよ。あかん、中身猫になってもうとる……ま、ええわ。気ぃとりなおして」
 自分に言い聞かせるシルビェートである。
 考えるだけで不安になる親友のことを、ひとまず頭から追い払い、ドブ川へとたどりついた。
 土手を降りて、川面へと近づく。
 川幅は三メートルほど、両岸はコンクリートで固めてある。
 さほど深さはないようだが、流れはそれなりに速い。
 濁った水と、コンクリートの隙間から生える、萎れた雑草を目にして、少し憂鬱になる。
――可哀想になあ。水も、草も、もっともっと綺麗なええもんやのに。
 子供たちも、何の気なしに、ここにぬいぐるみの左足を投げ込んだ。傍らに、『ゴミを捨てるな!』という看板があるにも関わらず。
――でも、あの子ぉら、根はええ子らみたいやし、あの子らが大きいなったら、いろいろ変わるんかもしれへんね。
 そっとその場で屈みこむと、濁った水へと手を差し延べた。
 シルビェートの指先が、流れる水へと触れる。
「だから、教えてんか。おうちらの流れてゆく先んこと。運んでいったもんが、ある筈なんや。おうちらが優しゅうしたったら、人間はきっと返してくれるえ」
 目を閉じて、水へと語りかける。触れた指先から、水の流れゆく方向へと、知覚がひろがってゆく。流れそのものが、自分の体の一部になってゆくかの感触。同時にシルビェートの魂も流れそのものと同化してゆく。人の五感とは違う流れ水の知覚で周囲を探る。
 流れに逆らって動く小さな生き物たちの感触がある。
 少しゆけば、排水溝より新しい流れが加わり。
 その勢いで、小さく渦巻くポイントを越えて。
 不快なざらつきを残すのは錆付いた空き缶。
 さらに進めば、やがて川は地下へともぐってゆく。
 その入り口に、鉄の格子。
 ぐんなりと、柔らかなものがひっかかっている毛玉のようなもの。
――これや!
 シルビェートは、今や自身そのものと化している水の指で、毛玉を掴みとった。そのままするすると、一筋の流れに来た道を逆流させてたぐりよせる。
 やがて。
 戻り来た水流から、シルビェートの生身の手に、ぬいぐるみの左手が受け渡された。
 意識を水から自分の体へと戻して、目を開く。
「えらいくたびれてしもうとるなぁ」
 心地よくふわふわだった筈の左足は、濁り水に濡れそぼってスポンジもはみだしてしまっていた。 

 夕刻。
 子供たちとぬいぐるみ捜索隊は神聖都学園前で合流した。
 シルビェートが左足を。
 美寝子が右手を。
 誌織が将太から預かっていた左手と、頭つきの胴体を。
 そして最後の一つ、右耳を将太が差し出す。
 木綿子と巴がちらりと視線を交わし、小さくうなずきあった。この右耳は、木綿子が探し出したものを、巴に頼んで子供たちに再発見させたものだ。
「まずは、縫い合わせてみますね。お裁縫は得意なんです」
 木綿子が針と糸を取り出し、バラバラのぬいぐるみを縫合してゆく。
「そんで…このあとどうしてやるかやなぁ。このぬいぐるみ無しでも、そのミカいう子ぉが、学校行けるようにならなあかんわなぁ」
「そこなのよ! この子たちにちゃんと謝らせもしたいしね」
 巴が、大きくうなずく。
「このウサギさんのお友達にと思って、こんなのも作ってみたんです。お友達の大事さを教えてあげられないかと思って」
 木綿子が、縫合の手は止めずに視線でうながす。
 木綿子が持ってきたらしい紙袋を、美寝子が開けて中身を取り出す。
「うわぁ、可愛い!」
 パッチワークで作られたクマのぬいぐるみだ。
 ぬいぐるみを見て、誌織がパンと手を打ち合わせた。
「閃きました!」
 一同の視線が集まる。
「ええ、これしかありません! 姫をさらう王子、そして甘いキス!」
 誌織の中では、何やら甘いロマンスが炸裂中のようだ。
 約五秒。
 ハートマークの幻影だけが周囲を飛び交った後。
「おうち…すまんけど、わかるようにしゃべってやってんかぁ…」
 シルビェートがぼそりとつぶやいた。
 かくして、十分ほどの会議の後。
 買出し部隊が、長い棒と画用紙にマジックを調達に出かけることとなり……計画は発動した。
 
 高野ミカは自分の部屋のベッドで寝ていた。大好きなウサちゃんがひどい目にあって、ひとりで一生懸命探していたせいでひきこんでしまった風邪が治らない。けれど寝ていても、考えるのはウサちゃんのことばかりだ。
 トントン……
 窓に、何かが当たる音がして、目を向けた。
「ウサちゃん……!」
 夕焼けの中、ボロボロの、けれどもとの形になったウサギのぬいぐるみが、窓ごしに手をふっていた。
 あわてて起き上がろうとしたとき、その横にクマのぬいぐるみが現れた。続いて、ウサギの口から話された言葉のように、画用紙に書かれた吹き出しが現れる。
『おともだちできたよ。いままでありがとう』
 ミカにむかって、ぺこりとおじぎをするウサギ。
 クマのぬいぐるみが、ウサギのほっぺにチュっ、とかわいくキスすると、二匹は仲良く手をつないで窓辺から消えていった。
「いかないで、ウサちゃん……!」
 窓辺にかけより、窓を開ける。
 大好きなウサちゃんの姿を探した。
 どこにもいない。そのかわりに。
 子供達の姿が、二階のミカの部屋を見上げていた。
 口々に、謝る子供達。
「ほんとは仲良くしたかったんだ」
「ごめんなさい」
 将太が叫ぶ。
「ミカ! ほんとにゴメン! 明日、むかえに来るから、一緒に学校行こう」
 ミカは、こくりとうなずいた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4036/シルビェート・ザミルザーニィ/女性/105歳/輸入雑貨店主】
【4696/鍋島・美寝子(なべしま・みねこ)/女性/72歳/土木設計事務所勤務】
【5641/一反・木綿子(かぞり・ゆうこ)/女性/82歳/キャビンアテンダント】
【7090/鞍綴・誌織 (くらとじ・しおり)/女性/26歳/大学図書館司書補】
【6494/十種・巴 (とぐさ・ともえ)/女性/15歳/高校生、治癒術の術師】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございます、法印堂です。
締め切り内とはいえ、お待たせして申し訳ありません。

五名もの魅力あるPC様方にご参加頂くことができまして、
嬉しい限りです。
全員の魅力をうまく表現できていればよいのですが……。
また少し長文になりすぎてしまいましたが、楽しんでいた
だけましたら幸いです。

関西弁と京都弁の使いぐあいや、水妖の力の使い方など
(こちらはかなり手探りで演出してしまいましたので)
NGがありましたら、お知らせください。

気にいっていただけますよう祈りつつ 法印堂沙亜羅