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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


山羊戦隊テラレンジャー 2008 SCREEN SPECIAL


 不定期な放送形態かつ不確定な媒体でのリリースながらも、その圧倒的な世界観やシナリオ展開、何よりも高いアクション性が話題となり、インターネットなどで特撮ファンから支持を受け、その人気が過熱してきた「山羊戦隊テラレンジャー」シリーズ。制作会社は一貫して『この作品は子どもたちのために作られたものではない』ことを理由に、玩具メーカーへのおもちゃの生産を委託しない方針を固持してきた。しかし熱狂的なファンはそれを聞くや否や「なければ作る!」の精神で、シリーズごとに人気のコスプレ衣装やガレージキットまで制作して、世にさらなるムーブメントを提供する。


 この状況を重く受け止めた制作会社は、さすがに重い腰を上げざるを得なくなった。制作にタッチしない取締役たちは、この作品がここまで認知されているとは思っていなかったのである。今さらオフィシャルグッズを出して儲けを出そうとすれば、必ず続編や新作を熱望する声が高まる。金儲けだけを前面に押し出したやり方では、決して世間は満足しないだろう。

 にわかに社内が慌しくなった。各部署から適任者を集めて毎日のようにミーティングを開き、肝心要のグッズ展開は懇意にしていた大手おもちゃメーカーの面々と綿密な打ち合わせを行う。まずは過去の作品……というか、現実に起きた事件を収めたフィルムを見ながらロボの設計図を起こすことから始まった。意外にも今まで登場したロボが多いため、リリースするまでの計画を年単位で立てる必要があるらしい。本来の手法とはまったく逆になるため、思った以上に時間がかかると目算したのだ。
 その間は歴代のテラレンジャーのソフトビニール人形や、連結や変形ギミックに富んだ個別武器の数々を小出しにする戦略で乗り切ることにした。ロボなどの大型商品はギリギリまで値段を調整し、基本的に限られたおもちゃ屋さんとインターネットの予約販売に限定することになった。ただ一部のスタッフからは「その売り方では大量の注文が出た時に消費者の不満が噴出するのでは?」との意見もあったが、もし足らない場合は即座に増産することで落ち着いた。要するに様子見がてら『限定生産』という触れ込みで、ファンの皆様の出方を伺おうというものである。ターゲットがほぼ大人なので、大型商品のリリースはボーナス月に絞った。

 そして新作の制作スタッフには当時のメンバーをかき集め、さらに応援として若手からベテランを加えた陣容で収録することになった。ところが収録するとはいえ、イケメン俳優がつたない演技を見せるわけでも、スーツアクターがアクションをするわけでもない。またスタジオにロボが闊歩する街並みをジオラマで作るわけでもない。そう、忘れてはならない。テラレンジャーはノンフィクションなのだ。本当に地球を支配しようとする敵と戦い、本当に地球を救ってしまうのがテラレンジャーなのである。
 あるひとりの男の情熱が生み出した『テラレンジャー変身リング』を前に、スタッフは何日も何日も腕組みして考えた。だが、どうしても適当な敵が見当たらない。社会悪を倒したのでは特撮ヒーローとしての面白みに欠けてしまう。だからといって王道を守るがゆえに大迫力のアクションシーンを安っぽくはできない。過去の作品を見てもわかるように、テラレンジャーの完成度は思った以上に高いのだ。
 そんな最中、さらなる重圧が製作スタッフを襲う。なんと現在進行中の情報をほんのちょっと流しただけで一大ムーブメントになってしまい、とんとん拍子で今回の新作は小劇場での上映が決定してしまったのだ。おもちゃ開発とは対照的に、何もかもが白紙のままの映像スタッフは頭を抱える。そんな時、ひとりの男が勇気ある一声を上げた。初期の作品を編集した熱い心を持つスタッフだ。

 「昔、特撮作品の虜になって『黒山羊団』なる組織を作り出した魔術師がいたとか。その情報で協力したのが、僕の記憶では草間興信所だったと思うんですけど……」
 「じゃあ、そこに連絡すればそれっぽい敵がいるかもしれないってことか?!」
 「しかもテラレンジャーまで集めてましたから、今の我々からすればスーパーバイザーと呼ぶべき重要人物ですね。」

 話は決まった。新作の運命は草間興信所に委ねられることになった。
 チーフプロデューサーが震える手で草間興信所に電話をかけると、受話器の向こうがなんとも賑やかである。実は都合よく、ある事件が先方を窮地に追い込んでいた。
 なんでも『堅槍岳』との異名を持つ険しい山岳で、古文書に記されているという洞窟を探し出すために、ある考古学者が助手とともに探索していた。そして彼は古代文明の象徴を祭られた洞窟を発見したのだが、その危険さは書物や研究をはるかに超えるものだった。いきなり動かないはずの彫像が音もなく動き出し、学者の腕を握ったかと思うと、みるみるうちに生気を吸い取ってしまったのである。みずみずしい生気は彫像から彫像へと伝播し、ついには古代の封印が解けてしまった。なんとその故郷を宇宙とする『超古代帝国ムジューン』が現代によみがえったのである!
 助手からの最後の通信で『最強の矛・ロンバーン』と『最強の盾・ガラガドス』、そしてザコ『サスーン』と名付けられた邪悪なる存在が確認された。しかし学者先生の著書には『巨大な邪悪神』の存在を示唆する一文もある。動き出したばかりとはいえ、予断を許さない状況だ。
 それを聞いたスタッフは不謹慎にも大喝采。悩み苦しんだ仲間たちと抱き合う者もいれば、唐突にカメラの入念なチェックを始める者、そして地図を持ち出して地形を詳しく確認する者と大騒ぎとなった。チーフプロデューサーは所長を電話口に呼び、単刀直入にこう伝える。

 「その事件、また『テラレンジャー』で解決しません?」

 所長の武彦があきれ返ったのは言うまでもない。だが、これに乗らない手はない。自分と零がテレビの画面に顔を出す程度で、こんな難事件がすんなり解決するのならいいだろう。それに相手はテレビ制作会社。あっちから言い出したのだから、いい報酬を出してくれるはずだ。草間はテラレンジャーシフトでの解決を二つ返事で引き受けた。そしてテラレンジャーは再び復活する!


 草間興信所を司令室に変えるのはお手のもの。大道具さんが狭い部屋の中に背景となる素材を持ち込み、うまく基地に見えるよう組み上げていく。まるで勘違いリフォームのようだ。その脇では武彦と零、そして事務員のシュラインの3人がプロデューサーたちと熱心に話し合いをしている。眉間に皺を寄せたシュラインがメモ帳と電卓を必死の形相で叩きながら、相手方が口にする数字に逐一反応していた。
 そう、これは草間興信所に限ったギャラ交渉の場である。今の状況だけ見れば『持ちつ持たれつ』の関係にある両者だが、興信所まで巻き込んでいろいろするとなれば話は別。プロデューサーが武彦に対して「言い値を出します!」と確約した後でも、シュラインだけは細かく数字を追っていたのだ。彼女の性格が大雑把なトップ会談を実務者協議に変えたのである。その内容は撮影予算から導き出される報酬の兼ね合いから、最新作のキャラクターグッズ販売をした場合のロイヤリティーまでとにかく幅広い。こういう時だからこそ、きっちりガッチリ取らないと……シュラインの気持ちは燃えていた。

 それと同じくらい熱く心を燃え上がらせていたのは、赤いリングを手にしたエルナ・バウムガルトだ。まだ撮影が始まってないタイミングから元気いっぱい。その辺にいるスタッフを捕まえて『犠牲になったヒトがいるのに、堅槍岳の事件で儲けようなんて何考えてるのよ!』と猛抗議している。人間の生み出す文化が好きな少女だが、こういった曲がったことは大嫌いらしい。見た目は少女だからと甘く見ていたスタッフも実際にどやしつけられると、驚きの表情でひたすら謝るしかない。だが、この撮影自体はヒトを助け出すためのもの。それを教えてくれたのは黄色のリングと食べ物を持った仲間の彼瀬 蔵人だった。
 彼もまたエルナと同じく、人間を「ヒト」と呼ぶようなことを生業としている。それよりも注目すべきは、蔵人はテラレンジャーの経験者なのだ。しかも毎回のように同じ立ち位置なので、勝手も心得ている。スタッフも全幅の信頼を寄せており、戦闘でも活躍すること間違いなしと太鼓判を押されている。
 それとは対照的な人物が組み上がった指揮官の席にどっかりと腰を据えていた。前作にも登場した長身の麗人、面白ければそれでいい享楽主義者のラン・ファーである。今回も大勢のスタッフやリングを手にした者たちに「ふふん、今回もバカ騒ぎをするようだな。よし、その案に乗ってやろうじゃないか。感謝しろ!」と高らかに宣言していた。しかしスタッフもバカじゃない。ラン・ファーの性格を読んで、「面白くなると判断したところで、誰かにこれを渡せばいいですよ」とふたつほどリングを預けたのだ。スタッフの魂胆は『そんなに言うなら、あんたが変身しなさいよ』である。

 ようやく詰めの交渉が終わり、シュラインは基地へと変貌を遂げた興信所を見渡しながらゆっくりとジャケットを羽織った。もちろん武彦も零も同じ衣装が用意されている。ラン・ファー以外はすべてそれなりの衣装を身にまとい、いよいよ事件解決へと動き出すのであった。


 シュラインは問題の古文書の写しを手にし、計算疲れを趣味で癒そうと興味深げに覗きこむ。この時から収録はスタートしているが、誰もそんなことは気にしていない。この事件は元はといえば、ここに持ち込まれた厄介ごとなのだ。解決しなければ何も得られない。いやあえて言うなら、何かを失う可能性もあるのだ。シュラインは武彦に聞く。

 「ここにある堅槍岳の資料は……全部ってわけじゃないのね?」
 「今、学者先生の研究室にあったものをこちらに運ばせている。著書とかもまとめてな。」
 「この文字はあんまりメジャーじゃないんだけど、私は何度か扱ったことがあるわ。簡単なものなら読み解けると思うけど……」

 早く教授たちを救出したいエルナは手近にあった地図を突き出す。それにはど真ん中に意味ありげなマークが描かれていた。おそらく洞窟の場所を示しているのだろう。彼女は真顔でシュラインに詰め寄る。

 「じゃあ、ここに教授たちがいるかもしれないのね! 早く読んで!」
 「あ、あのねぇ。みんなが思ってるほど簡単な文字じゃないのよ? それに地図の向きだって合ってるかどうかわかんないし……」
 「すぐに救いたい気持ちはわかりますよ。でも、今は皆さんに頼るしかありません。エルナさんもわかってるでしょう?」

 収録前と同じように蔵人がエルナの燃える心を和らげる。ところが今回はラン・ファーがいることを忘れてはならない。目立ちたがりのわがままさんが全力でエルナの後押しをしてしまう。

 「場所さえわかればこっちのものだ。あとはエルナが大暴れするだけでいい!」
 「そ、そんな無茶な……敵は大物だけでも2体いるんですよ? ひとりでなんとかできる相手じゃないかも……」
 「その時は私が無茶をしてやろう! シュライン、地図の場所は?!」

 武彦が現代の地図を、シュラインが差し出した地図を照らし合わせ、一応の目星をつけた。堅槍岳の南東に位置する森林の中に洞窟はあったらしい。今もムジューンはその辺にたむろしている可能性が高いことがわかった。それだけで十分だと基地を飛び出していくエルナ。その後をラン・ファー、蔵人が続いた。その後も基地内ではシュラインが大きな机の上に散りばめられた資料と長きに渡って格闘することとなる。


 ところ変わって、封印の洞窟。
 あわやのところで助かった教授と助手は信じられない光景に驚き続けていた。それは超古代帝国でありながら、ムジューンは現代よりも一歩も二歩も進んだ高性能の機械を保持していたのである。そしてそれを操作するのは人間の男……ザコのサスーンに見張られながら、さまざまな機械を操って現代の情報を入力させられていた。銀縁眼鏡から流れ落ちる光が、涙のように悲しげに輝く。そこに防具で身を固めた大型の怪物・ガラガドスがやってきた。

 「おお、来生先生とやらは天才だなぁ〜。おでたちの機械を使えるなんて〜。」
 「誘拐しておきながらよくもぬけぬけと……ところで、ロンバーン様はどこへ?」
 「お? あいつはその辺の調査に行ったぞ? 先生も興味があるのか?」

 どうもガラガドスはあまり利口ではないようだ。来生はいちかばちかの賭けに出た。

 「もちろん。もしかしたら新しい情報が手に入るかもしれませんからね。なかなかに興味深い。私も同行させてほしかった。」
 「そりゃもったいない〜。だったらすぐそこにいるから、一緒に行ったらどーだ? 急げば間に合うかもしれないぞ〜?」
 「ありがとうございます。私は急いで参りますので、サスーンたちはここで教授たちの見張りをさせておいてください。」

 ガラガドスは来生の言われるがまま、サスーンたちの配備を始める。来生は教授たちの無事を改めて確認すると、そのまま外へ駆けていった。もちろんこんな場所に帰るつもりはないし、ロンバーンに合流する気もない。彼はかろうじて虎口を脱した。しかし運命はそう簡単に開けない。それは来生 一義が来生 一義であるが故の結果でもあった。彼がその心配をしていないわけがない。だからこそこれは賭けなのだ……逃げ切れるか、逃げ切れないかの大きな賭け。


 エルナたちは堅槍岳の森の中を進んでいた。まだザコのサスーンを見かけていない。基地からの有力な情報も来ない。それでもエルナの足は止まらなかった。ラン・ファーも面白がって走るのをやめないので、蔵人も仕方なくダイエットがてら走るのにお付き合いする。彼の本音を言えば、いったん止まって休憩したいところだった。ついでにおにぎりでも食べて……などと考えていると、目の前にとんがった頭の奇妙な兵士が現れるではないか!

 「こ、これがサスーンですか。手も足もとんがってますねぇ。」
 「いい! 名前以上にザコっぽいところが気に入ったっ!」
 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! こいつらがいるってことは、この辺にロンバーンたちも……とにかく今はサスーンを倒さないと! 出でよ、炎槍ヘスティア!」

 エルナの主武器は炎槍ヘスティアは朱に染まる幻想的な矛槍である。しかし彼女の最初の一振りは明らかに空振り……だったのだが、なんと途中で武器が伸びて目前の敵をあっさりとやっつけた! 実はこの槍は伸縮自在の武器である。

 「ぴぎゃーーーっ!」
 「エルナさん、なかなかやりますね。僕の最近のトレンドは錫杖でしてねー。えっと、その前におにぎりを一口……あーんっと。」

 蔵人が自前の武器を披露したかと思うと、今まで我慢していたおにぎりを一口で平らげる。その隙を突かんと敵が迫る!

 「その一口って、一口で食べちゃうってことなんですか?!」
 「そんなことしてる場合ではなかろう! 蔵人っ!」
 「あ、噛まずに飲んでるわけじゃないんでご安心を。腹ごしらえには程遠いですが、敵は程近くなりましたっと。とおりゃあっ!」

 この時のために黄色く彩られた錫杖を華麗に振り回し、奥の敵を突いたり持ち上げたりしてひとりずつ確実に倒していく。どうやら食べ物に全神経が行っていたわけではないようだ。さすがのラン・ファーも胸を撫で下ろすと、自分の出番がなくなる前に持っている扇子で敵をバシバシ叩いていく。その動作は常に的確だから見ている方も感心してしまう。
 彼らの活躍を基地から見守っているシュラインたちは、彼女たちがザコに負けることはないことがわかってまずは一安心。再び届けられた文献などを開いて、必要な情報を探し始めた。変身することなく戦い続けているエルナたちの足は止まることなく、猛然と洞窟と思われる地点へと向かう。地図が正しかったのかどうかはわからないが、ザコの第二波が奇妙な雄叫びをあげて突っ込んできた。今度はサスーンの数が予想以上に多く、3人は苦戦を強いられる……と思われたところで、エルナは変身リングを天にかざして叫ぶ!

 「オーダーメイドチェンジ! テラロート、エアシャイネン!」

 真紅のスーツに包まれし山羊の戦士は炎槍ヘスティアを構え、ザコを威圧するがごとく名乗りを挙げる!

 「可憐で過激な真紅の妖……じゃない! 山羊、山羊! テラロート!」
 「ゴーゴー! 行け行け、山羊の妖精の小娘っ!」
 「山羊の妖精じゃないんだけどなぁ〜。ま、今はいっか! サスーン退治は私に任せて! 終焉の炎よ、邪悪を焼き尽くせ!」

 エルナは紅炎を噴き上げると、サスーンたちはあっという間に灰になって消えてしまった! そのすさまじい威力に蔵人は舌を巻く。

 「こ、この炎の威力……や、やりすぎの感が否めませんねぇ。」
 「この先に洞窟があるはずよ。早く行きましょ!」
 「テラロート、そうはいかないわよぉ〜。最初のザコのせいで道を逸れちゃったのかな? 大物が先に引っかかったわ!」

 ラン・ファーの言葉どおり、風化したザコの奥には最強の矛と呼ばれる全身武器の固まりであるロンバーンがある人間を追い詰めているではないか! テラロートは迷わずヒトを助けるために走り出す。直情的に追い詰められたヒトを救おうと突っ込んだのだ。ここで蔵人が変身リングを天にかざす!

 「オーダーメイドチェンジ! テラゲルブ!」
 「ぬおっ、このロンバーン様にたてつこうってのか?!」
 「自然で剛毅な黄色の山羊、テライエローならぬテラゲルブ! 今回はドイツ語でしゃれてみました。テラロートだって、ホントはテラレッドなんですよ。そこんところを変えるってのは、やっぱりエルナさんのセンスですよね。いやー、しかし黄色を知っててよかったよかった。」
 「今は取り込み中だ、後にしろテラゲルブ……ぬっ、しまった! 余計なお喋りはテラロートの手助けだったのかっ!」

 なんとロンバーンはテラゲルブの変身シーンを見ていたせいで、テラロートが男を救ったのに気づかなかったというのだ。もちろん男もテラロートも無傷。ふたりの傍にはザコのサスーンがたっぷり倒れている。あまりのマヌケっぷりにラン・ファーは爆笑した。

 「ふふん、バカふたりが今回の相手か。本当は変身はめんどくさいからするつもりはなかったが、今回は興が乗った! 私もやってやろうじゃないか……オーダーメイドチェンジ! テラブラウ!」
 「ぬうっ、多勢に無勢とはまさにこのこと……出でよ、対極の将・ガラガドス!」
 「ふん。最強の盾とやらを打ち砕いてみせよう! 憮然で高貴な群青の山羊、テラブラウ!」

 最強の矛・ロンバーンに召喚された最強の盾・ガラガドスだが、テラブラウを目の前に何をしたらいいのかわからず首を傾げる。

 「んあ? 洞窟にいたのに、なんでおでがここに来るんだ? ロンバーン、どうしたぁ〜?」
 「お前は何も考えずに、その青いのを倒せばいい! 俺はテラゲルブをやっつける!」
 「いいでしょう、ロンバーン。しかし外野がやかましいですねぇ。僕がザコを片付けてあげましょう。はあぁぁぁーーーっ! てりゃぁっ!」

 テラゲルブは渾身の力を込めて錫杖を振り回して地面を突く。すると局地的な地震が起こり、地面に伏しているサスーンたちをすべて粉々にしてしまった! テラロートはすさまじい力が地面に叩きつけられた瞬間に男と一緒に跳び、テラブラウは盾であるガラガドスの肩に飛び乗って難を逃れる。めまぐるしく変わる状況に対応するだけでいっぱいいっぱいになっていたテラロートは、改めて自分が救った男性を気遣った。

 「だ、大丈夫?!」
 「おかげさまで助かりました。私はあいつらに拉致されて現代の知識を提供するよう強要されていた来生という者です。洞窟を抜け出したまではよかったのですが、天性の方向音痴で見事にロンバーンの元へと直行してしまった次第です。」
 「さっきまで洞窟にいた……じゃ、じゃあ、学者さんや助手のみんなのことも知ってるの?!」
 「ご安心ください。彼らは無事です。彼らから得た知識では満足できなかったので、私を拉致したようですね。」

 テラロートは生存が絶望視されていた学者たちが生きていることを知って安心した。だが彼らを無事に救うには、この化け物を倒さなければならない。彼女は炎槍を握りなおし、ガラガドスの前に立ちふさがった!

 「まずはそっちからよ、ガラガドス!」
 「おで〜? どんな攻撃も効かないよぉ〜?」
 「痛たたた……こいつ、なんで一発も効かないのよっ! あーっ、腹が立つわっ!」

 すでに戦闘は始まっていた。動きの鈍いガラガドスにテラブラウの華麗な攻撃はすべて命中するのだが、まったくダメージが与えられないどころか、攻撃する手が痛くなるというおかしな現象が起きていた。ちょっと情けない仲間の仕草を見たテラロートはいきなり奥の手を出そうと、炎槍ヘスティアに力を込める!

 「ツェアシュテーレン……はああああぁぁぁぁーーーーーっ!」
 「熱っ! 熱いってば、エルナっ! ま、まさかそれで突っ込むんじゃ……!」
 「これで終わりよ! 最強の盾いえども、この炎からは逃れられない! はああああぁぁーーーっ!」

 槍の穂先に灼熱の炎を纏わせ、そのまま敵を爆発四散させる超必殺技を予告もなく披露するテラロート! 目にも止まらぬ早さでガラガドスを打ち抜き、この一撃で勝負は決した……と思われた。しかしもうもうと立ち上る煙の中で、最強の盾は姿を変えることなく立ち尽くしていた!

 「お、おで、最強の盾〜! ふんっ! よいしょっと!」
 「ウ、ウソ……きゃああっ!」
  ドスン!

 ガラガドスは超高速で通り抜けたはずのテラロートの頭上まで軽々と飛んだかと思うと、その巨体で一気に押しつぶしてしまった! こうなると身軽さが売りのテラロートは手も足も出ない。ついでに衝撃で炎槍ヘスティアを手放してしまい、近くに転がしてしまった。この武器は敵に使われると厄介なので、いったん自分の意思で消したが、これで形勢が変わるわけではない。最強の盾の思わぬ反撃にテラレンジャーはピンチを迎えた。すでにテラブラウではダメージが与えられないことも実証済みである。それに押しのけようにも弱点がない。ロンバーンの相手はテラゲルブが受け持っているが、不用意に錫杖を振るえば武器を失う可能性もあった。皮肉にも今になって、あっちはあっちで非常にデリケートな戦闘を強いられていることが判明した。

 いったいどっちを攻撃すればいいのか……テラブラウは大きな選択を迫られていた。その時、彼女の耳にシュラインからの通信が入った。テラブラウはクスリと笑うと、テラロートとガラガドスを無視してロンバーンに向かって得意満面で話し始める。

 「さっきはエルナが最強の技を繰り出したけど、ロンバーンにはそういうのないの? もしかして最強の矛とかってハッタリってヤツ? だったら面白くないわねぇ〜。」
 「くっ、戦ってもいない山羊がメーメー鳴きやがる! 俺様にも最高の技があるぜ……お前を一瞬にして貫く、な!」
 「やりもしないのに言うんじゃないよ、この化け物。できるもんならやってみなさい!」
 「後悔するなよ……おおおおおおおおおおおおおおっ!」

 ロンバーンはテラブラウを倒すべく、最高の技で葬らんと全身の武器を一方向に尖らせる。おそらくこれで突進するのが彼の必殺技なのだろう。気合いとともに高まる力は地を揺るがし、猛牛のように地面を蹴る仕草は砂塵を生んだ。来生はわかっていた。この技はとてもテラブラウでは止めれそうにないと……だからこそ、密かに腕にある装置をつけて突撃の瞬間を静かに待つ。不気味な雄叫びは今も続いていた。
 そしてその時はやってきた。ロンバーンがテラブラウを一突きにしようと突撃を敢行! しかし来生がその出鼻をくじくために、洞窟から持ち出した火炎放射装置を無駄だとわかっていながらも噴射する! 幸いにも相手はロンバーン、若干のダメージは与えたものの突進力を殺すまでには至らなかった。だが、その一瞬がテラブラウには重要なのだ。その一瞬で空高く舞い、紙一重で突進を避けることができた!

 「うぬ! まさかそこまでの身体能力があるとは……!」
 「ふう……変身してなかったら、ここまでの跳躍ができたかどうかわかんなかったわ。でも、これであんたは終わりねぇ。悪役にしてはあまりに素直すぎたわ。」
 「なっ、なんだとぉっ?!」
 「さて、ここで問題です。さっきまで戦ってたテラゲルブは、いったいどこに行ったでしょうか?」

 ロンバーンがすべてを悟るのは、テラレンジャーの策に溺れた後だった。テラブラウがロンバーンを過剰に挑発したのは、テラゲルブが自由に動くように仕向けたからだ。彼が目標から外された瞬間、最強の盾に押しつぶされているテラロートを文字通り「力ずくで」救い出したのである。ロンバーンがそれに気づかなかったのは、力を増幅するために集中していたからであり、身を挺してテラブラウがその光景を隠していたからだ。来生の火炎放射は予想外だったが、最高のフォローとなったのは間違いない。
 つまり何が言いたいか……必殺技を外したと思われたロンバーンはなんと同胞であるガラガドスに突き刺さって抜けなくなるという皮肉な状況を生み出したということだ!

  ブサ……ガシュッ!
 「ぬおおおおおおおお! 刃が、刃が! 我が刃が朽ちたぁぁっ! どけ、どけマヌケめっ!」
 「どくのはロンバーンの方だぁ〜! 勝手に突き刺さって抜けないなんて、そんなバカなことあるかぁ〜!」
 「なんともおマヌケな格好になったわねぇ。おかわいそうに。心配しなくてもいいわよ、今からみんなでとどめを刺してあげるから……!」

 それを合図にテラロートは再び炎槍ヘスティアを発現させ、それにテラゲルブの錫杖がセットし、最先端にはテラブラウの扇子が合体。さらには来生の火炎放射装置もセットされ、最終必殺技『スーパーヴァイスバスター』が完成した!

 「あたしひとりの力で貫けなくても、みんなの力があればきっとできる!」
 「今こそゴーよ、ゴーゴー! 負ける気がしないわ! あーっ、気持ちいい瞬間っ!」
 「久しぶりに戦いましたが……衰えてませんね、ロンバーン。もっとも僕はあの頃と人相も名前も変わりましたけど。でも、次はありません。」
 「皆さんのタイミングで行ってください!」

 「「「スーパーヴァイスバスターっ!!」」」
 「う、うひいいいいいっ、ロ、ロンバーンっ!」
 「ぬ、抜けな、ま、まさかっ! あぎゃああぁぁぁぁーーーっ!」

 最強の矛が最強の盾に突き刺さったまま、強烈な真白き閃光に溶かされていく……浄化の光が消えた時、もうすでに強敵はいなかった。勝負は決したのである。
 基地にいるシュラインたちもテラレンジャーの完全勝利をしっかりと見届けた。この作戦に踏み切る直前の通信は本当に短いものだった。研究室から送られてきた紙の束の中に紛れていた古文書の切れ端に書いてあった短い一文をそのまま伝えた。そう、「攻撃と防御は同居しない」と。そこから戦いの場でそれを実践するセンスが彼女たちにはあった。幸いにも、来生という協力者にも恵まれた。最後は全員の力で勝てた。シュラインはこの勝利を改めて噛み締めた。


 テラレンジャーは来生に頼らず洞窟を探し当てて学者と助手を助け出すと、現代の知識をも蓄えた超古代帝国の遺産である洞窟を破壊した。もう邪悪な力は誰の手にも渡ることはないだろう。学者先生も別の研究に情熱を注ぐ決心をし、エルナたちに改めて礼を述べた。もちろん彼女たちは制作会社からも感謝され、無事にテラレンジャーはその収録を終えた。この作品が公開されるのは初冬になるらしい。もちろん出演者たちのギャラは前払いだが、その後も臨時の収入があるかもしれないそうだ。やらせ一切なしのテラレンジャーがスクリーンを彩るのはそう遠くない未来の話である。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業 / 本作での配役】

3179/来生・一義       /男性/ 23歳/弟の守護霊(?)兼幽霊社員 /拉致された科学者
5795/エルナ・バウムガルト  /女性/405歳/デストロイヤー /テラロート(レッド)
6224/ラン・ファー      /女性/ 18歳/斡旋業 /テラブラウ(ブルー)
0086/シュライン・エマ    /女性/ 26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 /バックアップ
4321/彼瀬・蔵人       /男性/ 28歳/合気道家 死神 /テラゲルブ(イエロー)

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。なんとテラレンジャーシリーズ・第4弾です!
感謝感謝の第4作はテラレンジャーの名前もかっこよくなっちゃいましたよ〜。
これはお客様のアイデアをそのまま使わせていただいた次第です、はい(笑)。
今までにない変わったテラレンジャーになって、私は気に入っております!

さすがに5度目はないとは思いますが……やってもいいならやろうかなぁ?(笑)
また通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界などでお会いしましょう!