|
【SMN】FINAL Mission「Justice」 〜Side-A〜
依頼者:New Order
依頼内容:倉嶋邸防衛
タイプ:オープン
依頼詳細:
「Void」が我々の重要な協力者である「倉嶋大義」氏を狙っているらしい。
もちろんそうやすやすと氏に危害を加えることを許すつもりもないが、万全を期すため、主に屋敷外部での敵の撃退を依頼したい。
敵もかなり本腰を入れてくるようなので、「猫の子一匹通すな」とまでは言わないが、可能な限り多くの敵を食い止めてほしい。
確かに今の社会はその根本に「悪」をはらんだまま成長してきており、はなはだ不完全で歪んでいると言わざるを得ないが、我々はまだ人類そのものに絶望してはいない。
一度今の社会、ないし秩序を打ち壊した後、今度こそ「悪」をその根源とせぬ正しき世界を、我々の手で作り上げる。
それこそが我々の正義であり、我々はそれが可能であると信じている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……屋敷、でスか。どう見ても実態は要塞でスね」
屋敷外部の見取り図を見て、デリク・オーロフは正直な感想を口にした。
「New Order」も協力しているとはいえ、この「屋敷」の設計そのものが、すでに万一の時の篭城用としか思えない。
何重にも展開される強力な結界のため、遠距離からの攻撃はいかなる手段であってもほぼ無効。
どうにか結界をこじ開けて、あるいはすり抜けて中に入ったとしても、屋敷自体は又別の結界で守られているし、敷地内にも多くのトラップが仕掛けられている。
外部だけ見てこれでは、中も恐らくかなり要塞化が進んでいるであろうことは想像に難くない。
「まあ、こんな時のために作ったという側面もあるからな。
こっちも倉嶋氏のおかげでいろいろ助かってる部分もある。持ちつ持たれつだ」
「レヴ」がそう言うのなら、まあ、そうなのだろう。
それよりも今重要なのは、いかにしてこの屋敷の警護をするか、である。
「……で、敵の編成はどう見まス?」
「霊鬼兵やポゼッショナー、呪物使いにゾンビ使い辺りはもちろん、ナグルファルもドヴェルグ級なら普通につぎ込んでくるだろうな。
さすがにヨツンまで突っ込んでくることはないだろうが、逆に言えば『ない』と言いきれるのはそれくらいだ」
「だとすると、こちらも同等以上の戦力が必要になりそうデスね」
「無論だ。こちらもヨツンは出せないが、すでにドヴェルグ十体の運び込みも終わっている」
ここまでするのには、もちろん倉嶋大義がそれだけの重要人物であるということもあるだろうが、お互いの組織の「意地」というものも少なからずあるだろう。
「相当派手な戦いになりそうデスね」
「他の連中も忙しいようだからな。『Void』もこれを好機と見たんだろう」
ならば――課せられる責任も重いが、それだけにうまくやった際に得られるであろう功績も少なかろうはずがない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最初の防衛ラインとなったのは、やはり屋敷外部に張り巡らされた結界だった。
結界外部から内部への攻撃はもちろん、結界内部から外部への攻撃も結界に遮断されてしまうが、今回のように目的があくまで防衛である場合、それは守備側にとってはさほどの問題とはならない。
敵はどうにかして結界を破らなければならないが、こちらは結界がそのまま維持されるならそれはそれで構わないからである。
そうなると、当然能力を使って結界を破らなければならないのは攻め手側ということになる。
守備側ではそれを待ちかまえていて、結界が破れた瞬間一斉攻撃を仕掛ければいい。
つまり、ほぼ確実に先制攻撃の機会はこちらにあるのである。
そして当然、攻め手側の先鋒はその集中砲火に晒されることを覚悟しなければならない。
いくら「自分を含めた全人類を死滅させる」ことを望む「Void」であっても、そのような「死番」を買って出られるものは、そう多くなく。
必然的に、部隊の先頭に立ったのはほとんどが量産型霊鬼兵で、中にぼちぼちゾンビ使いのゾンビが混ざる、と言った程度だった。
「……これを見る限り、敵の士気はそこまで高くなさそうでスね」
やや拍子抜けしたところではあるが、ひとまず結界の破壊からこちらの先制攻撃まではすでに双方とも想定済みなので、ここまではあまり大きな策を仕掛ける余地も、仕掛けられる危険もない。
問題は、敵の第二陣以降にある。
先鋒から少し距離を置いて控えている敵部隊は、皆揃って違った格好をしており、ここからでは誰が何なのかを判別することすら難しい。
もちろん敵もバカではないのだから、何らかの意図を持って布陣を決めているはずであり、その作戦を推測することしかできないのは一つの大きな不安要素となる。
だが。
明らかに、見た目から相手が何者であるか判別できる敵もいた。
ドヴェルグである。
いかにナグルファルとしては小柄な方とはいえ、その3mほどもある巨体を見まがうはずもない。
それを見越して、デリクは事前にこんな策を編み出していた。
「距離によってあまり威力の減衰しない攻撃手段を持っている人たちに、ドヴェルグを狙ってほしいのでスが」
「先頭の敵じゃなく、いきなり後方のドヴェルグを狙うのか?」
「ハイ。この編成であれば、あきらかにドヴェルグは主力としての働きを期待されるでショウ」
「なるほど。出会い頭で、一機でもそれを沈めるか、大ダメージを負わせられれば……?」
「敵の士気にも、少なからず影響が出るでショウね」
その策が、はたして吉と出るか凶と出るか……それが判明する時は、もうまもなくだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
敵の霊鬼兵の呼び出した怨霊たちが、結界を突き破らんと一斉に攻撃をかけ始める。
一匹一匹の怨霊など物の数ではないが、それでも「塵も積もれば山となる」の言葉通り、無数の怨霊による一斉攻撃が確実に結界を蝕んでいく。
そして、ついに結界が破れる、という瞬間。
あらかじめ備えていた遠距離攻撃部隊が、一斉に攻撃を放った。
多くのものは、今結界を破ったばかりの霊鬼兵たちに向かって。
一部の遠距離攻撃に長けたものは、手前の敵ではなく、最も近くに陣取っていたドヴェルグに。
次の瞬間、「Void」側の先頭に立っていた霊鬼兵たちは、その多くがなぎ払われ。
後方のドヴェルグは――倒すには至らなかったものの、不意をついてぐらつかせることには成功していた。
(……まあ、中の中といったところでスか)
デリクとしては十分に満足が行くというほどの戦果ではなかったが、とにもかくにもこうして戦端は開かれたのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
旧「虚無の境界」由来の組織同士の戦いは、お互いに大量の怨霊を使役するため、周囲の空間全体に異様な禍々しい力が満ちることになる。
その空間の中では、怨霊を糧とするナグルファルや、怨霊を力とする霊鬼兵やポゼッショナーは普段の三倍、とまではいかずとも、明らかに普段以上の力を発揮することができる。
そうなると、そういった場でも普段通りの力しか発揮できないそれ以外の能力者、例えば呪物使いやゾンビ使いなどにとっては、この状況は相対的に見れば不利ということになる。
つまり、そういった戦力的な面だけで言えば、最初に霊鬼兵を減らしてしまった「Void」の戦い方は、本来下策中の下策なのだ。
けれども、それを計算に入れても、戦況はそこまで有利というほど有利には進まなかった。
「各員、うかつに持ち場を離れるな! 味方の罠を踏むようなヘマはするなよ!」
事前にデリクと「レヴ」が指示を徹底したおかげで、今のところこちらの方が地の利を活かして戦えてはいる。
それでも一気に押し返すことができないのは、ひとえに敵の戦力の多さと質の高さにあった。
特にドヴェルグ同士の戦いはその操縦者の技量及び魔力の差が顕著で、霊鬼兵たちのサポートでどうにかこうにか持ちこたえているという状況にある。
他では士気と作戦の差でこちらが押しているとはいえ、ドヴェルグ隊が総崩れにでもなれば戦いの行方は一気にわからなくなる。
紙一重でそれを防げているということは、最初にデリクが狙わせたドヴェルグの動きが落ちているおかげとも言えるだろう。
「あまり思わしくないでスね。アレを出しまスか?」
デリクがそう尋ねると、「レヴ」は少し考えてから首を縦に振った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「総員、下がって守りを固めろ!」
「レヴ」の合図で、屋敷外に展開していた部隊の多くが敵と交戦しつつゆっくりと後退を開始する。
とはいえ、屋敷そのものはすでに別の結界で覆われているため、彼らが下がってこられるのは「屋敷の周り」までが限界となる。
それを見て、敵軍は一気に気勢を上げ、一気に踏みつぶさんとばかりに押し込んできた。
が。
それこそが、この屋敷に隠された最大の罠のトリガーだったのだ。
「この見取り図を見て、何か気になるところはないか?」
最初に見取り図を見せられた時。
意味ありげに尋ねる「レヴ」に、デリクは庭にある大きな池を指差した。
「この池が怪しいでスね。
お金持ちの屋敷としては珍しくもないものかもしれませンが、やはりこの要塞のようなお屋敷には似合いませン」
その言葉に、「レヴ」はニヤリと笑い。
「正解だ。そこに、この屋敷最大の切り札がある」
はっきりと、そう言いきったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
敵味方の、それもドヴェルグまでがごった返す中で、はたして地面の小さな揺れに気づくものはいただろうか。
十数秒ほど続いた、その小さな揺れの後。
突然、池の中から巨大な腕が伸びてきた。
続いて、ヨツンにしてはさすがに小さいが、それでもドヴェルグのそれをはるかに上回る大きさの頭部が現れる。
予想外のことに驚く敵部隊に、その巨大なナグルファルは一声叫んで巨大な剣を振るった。
(はてさて、はたしてうまくいくかどうか、でスね)
「レヴ」のいう「この屋敷最大の切り札」。
それは、上半身だけでも軽くドヴェルグのサイズを上回る、巨大なナグルファルであった。
「でスが、これだけのものがあるなら、最初から出しておいてもいいのでハ?」
最初はデリクもそう思ったものだったが、実はこのナグルファルにはそうできない大きな理由が一つあった。
このナグルファル、制作費の関係もあって、なんともともと上半身しか製作されていないのである。
よって、池の外に配置すれば一目でその弱点がばれてしまうし、池の中でも最初からずっと出しっぱなしではさすがに怪しまれる。
このナグルファルで最大限の戦果を上げるためには、相手の不意をついて出して敵を混乱させ、敵がこの不自然さに気づく前に撃退する必要があったのだ。
そうなると、このタイミングで、こういう形で運用するのが最善、というよりこれ以外に利用法などないだろう。
事前の作戦会議ではそう提案したデリクであったが、やはり実際にうまくいくかというと、一抹の不安を感じずにはいられなかった。
(見た限り、敵にそこまでの策士はいないようでスが……)
けれども、デリクのその心配は杞憂に過ぎなかった。
不意に出現した巨大ナグルファルに、慌てて敵のドヴェルグ部隊が向かってくる。
しかし上半身だけとはいえこちらは5m級、純粋な攻撃力や耐久力だけならドヴェルグを大きく上回る。
さらに、敵のドヴェルグ部隊が後退したのに合わせてこちらのドヴェルグ部隊が、そしてその他の部隊も一斉に攻勢に転じたため、敵ドヴェルグ隊はこちらのドヴェルグと巨大ナグルファルに挟み撃ちにされる形となり、これまで押し込んでいたのが嘘のようにあっけなく倒されていった。
それによって敵軍そのものが総崩れとなり、「Void」軍は這々の体で逃げ帰っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
撤退する敵にある程度追撃を加えた後、「深追いしすぎるな」の指示を出して呼び戻す。
そこまでやり終えて、「レヴ」は一つ大きく息をついた。
「終わってみれば、なんだかんだで大勝利だったな」
だが、デリクは全く違ったことを考えていた。
確かに、今回の戦いは「New Order」の勝利、「Void」の敗北に終わった。
とはいえ、他にも三つもの組織があり――「Terrors」まで数に入れれば四つになる――その全ての組織の利害は複雑に絡み合っている。
その中で、はたして一つの組織のみが勝ち続け、勢力を伸ばしていくことなどはたしてできうるのだろうか?
「各々の組織を内部分裂させて、潰し合わセル」
誰にともなく、デリクはそう口にしてみた。
「突出した力ヲ持つ組織が出なイように。様々な正義を主張する者が睨み合いを続け……」
組織が二つしかなければ、その二つのパワーバランスが崩れれば一気に事態は動く。
しかし、これが三つになり、四つになると、なかなかそうもいかなくなってくる。
一つの強大な組織の存在が他の全ての組織にとっての驚異となり、最愛「敵の敵は味方」という論法が成立してしまう可能性さえあるからだ。
「そして、今日モ平和、ト。
ソレがこの状況を作り出シタ者の目的ではないでショウか」
仮にどこかの組織がこの戦いに勝利を収めるようなことになれば、その組織の「正義」が世界を支配することになる。
そうなれば――「Void」や「New Order」、「Leaders」などであればもちろんのこと、「Peacemaker」や「Judgement」が残った場合でも、世界はある程度の変革を――つまり、痛みを強いられることになる。
それを避けるための、一番簡単な方法は。
永遠に、この戦いに「勝者」を出さないこと。
デリクには、それこそがこの状況を作り出した者の狙いであるように思えてならなかった。
「ねェ、「レヴ」さん?」
デリクの問いかけに、「レヴ」は黙ったまま何も答えようとはしなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ーーーーー
From: 「レヴ」
Subject: この状況に関する考察
先日は協力感謝する。
これで敵も当面はあの屋敷を攻めようなどという気は起こさないだろう。
あの時の言葉については、確かに考えさせられるところも多くある。
水面下で多数の組織が戦いあい、表沙汰にはならないまでも多くの犠牲者が出ている。
何者かがこの薄氷の上の、それもハリボテの平和を維持することを望むのなら、
確かにこの状況はどの組織よりもその連中にとって都合がいいのかもしれない。
だが、そうとわかっていても、我々は退けないし、他の組織もそうだろう。
例えそこまで全てが何者かの目論見通りであるとしても、「正義」とはそういうものだ。
一度それを掲げた以上、それを曲げて退くことは許されないのだから。
ーーーーー
結果:倉嶋邸の防衛に成功(目標達成)
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3432 / デリク・オーロフ / 男性 / 31 / 魔術師
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
西東慶三です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。
・このノベルの構成について
このノベルは全部で九つのパートで構成されております。
今回は事件の性質及び参加者数の都合上、完全個別となりました。
・個別通信(デリク・オーロフ様)
いつもご参加ありがとうございました。
デリクさんの描写の方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
今回は戦闘の規模のこともあって、自ら前線に出るシーンはありませんでしたので、そういう意味では少し地味になってしまった感もありますが、まあこうした戦い方もある、ということで。
当シリーズはこれにてひとまず幕となりますが、もし何かございましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
|
|
|