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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【東京衛生博覧会 後編】


「人にとって、美しい姿勢とされているのだろう?」
頬に血飛沫の跡を残す男が言った。
「『どうしても叶えたい願いの為に、何でもする』という事は」

「素敵な事なんだよねぇ?」
コケティッシュな笑みを浮かべ、猫は勝ち誇った。
「『夢が叶う』っていう事は」

「覚えはないんでしゅか?」
Drは、唇の端を引き攣らせた。
「『大事な誰かの為になら、どんな事も厭わない』という気持ちに」

血の濃い匂いが立ち込めていた。

豪華なオークション会場に、息をするのも煩わしい程の熱帯のジャングルに、そして、薄暗い倉庫に。


引き金は、いつ引かれたのか?
彼らの本当の目的は何なのか?
この物語は、何処へ疾走して行くのか?


何にしろ、血の花は咲いた。
後戻りの出来ない場所に、貴方はいた。


男は、猫は、そしてDrは問うた。

「さぁ、これから、どうしようか?」

まるで、子供のように。

「さぁ、これから、どうしようか?」





SideB

【 向坂・嵐 編】







目の前に広がる光景を、果たしてこれは現実だろうか? 悪い夢をいているのではないだろうか?と嵐が混乱を覚えたのも、無理からぬ話ではあった。


それ程、酷い有り様だった。
爆ぜて飛んだキメラ達の亡骸が、累々と横たわる会場で嵐の体が自分でも意識しないままにガタガタと小刻みに震える。


臆病者と自分を笑おうとして、それも無理な余裕のなさに項垂れる。

喉が震えていた。

目の奥が熱く、ツキツキと痛む。

泣き出しそうだ。

乾いた目をして嵐は呻く。

泣き出しそうだ。

余りの憤りに、涙なんか一粒すら流れはしなかったが、こういう風に泣く事もあるのだと思った。

嵐は、全身で、瞳を濡らさず泣いていた。

「…んだよ…これ…っ!!」

掠れた声で嵐は呻く。

ぐしゃぐしゃと曜が綺麗に整えてくれた髪をかき乱し、痛みを堪えるように、ぎゅうっと目を閉じ、唇を引き結ぶ。


悔しい。 悲しい。 痛いし怒りで全身が震えてる。
何より、哀しくて、哀しくて、どうしようもなかった。

例えば俺に何が出来ただろう?

考え出すとキリがない、

周りにある光景。
この光景に至るまで、何も止められなかった、力の足りない自分。

そして…、目の前にいる男、呉虎杰そのものが。




唯ひたすらに、哀しくて哀しくて、嵐の心を責め苛んだ。




止める。



心の底から誓う。


止める。

己の全身全霊を持って、呉虎杰を退ける。


…何度でも。




「外道が…」

静かな声。
血に塗れながら、剣呑という言葉をそのまま具現化したかの如き表情で、曜が虎杰を見つめていた。

「何が目的かは知らんし、知りたくもない。 お前が望むものが城だろうが、他に何があろうが、そんな事はどうでもいいんだ」

曜は、苛烈な怒りの最中にあっても美しくて、むしろ、こういう惨劇の最中だからこそ、際立つその凛々しさは、血に塗れた会場の中で、更に輝いて見えた。

「…ただ、よくも私の目の前でやってくれたもんだ。 ここまで歪で虚ろな人間は裏でも珍しいが……一途な外道など生きてるだけで世間の迷惑だ。 お前も、他者の理解など最初から期待していまい。 お前はここで望みを叶える事なく散れ!」

ビリビリと肌が痺れるような殺意に満ちた声で吼え、懐から数枚の札を取り出し、曜は素早く印を結びだす。

蘇鼓が、虎杰の問いにヘラリと笑い、「生き物ってのは際限なく欲を積み上げていくもんさ」と軽い口調で言い放った。

「どんだけお題目口にしようが、悲壮な顔して語ってみようが、結局はただの性(さが)。 美しくも醜くもねぇよ。 でも知ってるだろ? "願い"ってのは頑張れば叶うって訳じゃねぇ事よ。 お前がこれまで他人の願いを潰してきたように、お前の夢もぷちっと横から潰されちまうのが世の定めってな?」と告げる。
コキリと腕を回して骨を鳴らし、「文句はねぇだろ? 己が今まで積み重ねてきた所業の結果さ。 因果応報だっけ? ケケケッ! 俺ぁ、あんま好きな言葉じゃねぇがな! でも、お前の末路にゃ相応しいよ。 潰してやるよ。 夢ごと、その命も」と言って、高みから虎杰を見下ろした。

竜子が、真っ赤に染まったフロアに立ち尽くし、泣きそうな声で喚いた。

「…お前…何者なんだよ…っ!! なんで、王宮の事を知ってるんだよ…!! 一体、何の為にっ!! これは!! こんな事を!! 一体何の為にっ!!」


竜子の声に、虎杰は静かに笑うだけで何も答えず、「お前達はどう思う?」と、誰にともなく問いかける。

「…ぁあ?」
低い震える声で、虎杰を睨み据えながら、質問の真意を嵐が問う。

「命の価値の話だ」

「…命の…価値?」

唸り声。
その言葉すら汚らわしく、震える声で一歩踏み出し、嵐は「何が言いたい」と問い掛けた。

「平等ではない、それは分かっているだろう?」
「…だが、尊厳は平等だ」
嵐は己が信念を掛けて虎杰と相対する。
「確かに生まれや育ちや国や才能や容姿や学歴や…、まぁ、面倒臭い色々で、人間が皆平等なんざ、無邪気な物の言いを俺だってしやしねぇよ。 だが、その差で『殺して良い人間と、そうでない人間』がいるなんて考え方はねぇよ。 そんな頭の悪ぃ理屈は何処にも通用しねぇよ。 他人の命をこんな風に奪って良い理由なんざねぇんだよ、どれだけ探したってな」
虎杰は言い募る嵐の顔をしげしげと見返し「お前には『特別な人』はいるか?」と問うてきた。
突然の問い掛けに、目を見開き、嵐は何度も瞬く。
「何をおいても守りたいもの。 その存在があれば、どのような困難にも立ち向かえると思える人間はいるか」と、問いを重ねる虎杰。
嵐は脳裏に、妹や友人の顔を思い浮かべ、コクリと深く頷いた。

「かけがえのない存在か?」

穏やかな声。
嵐は戸惑いを隠さないまま、それでも再度頷けば、にいと虎杰は唇を裂き、「家族…恋人…友人…まぁ、どんな関係性でも構わない。 全くの赤の他人より、そういった存在の方がお前にとっては大事の筈だ。 いや、お前だけでない、お前も、お前もだ」と言いつつ、順繰りに蘇鼓と曜を指差した。

「何が言いたい?」

嵐は我慢できずに唸る。
詭弁を弄されている気がしてならなかった。
狂った屁理屈。

子供の我が儘。

「…何も、立場や生まれを言いたい訳ではない。  そんな不平等感なんざ、今や、年端もいかないガキすら分かってる事だしな」

そう語る虎杰の言葉は嵐と同じ意味を持つのに、嵐の語彙に含まれる感情とは間逆の虚無感に満ちていて、遠い場所を見るような眼差しをして虎杰は、言葉を続けた。


「だが、加えて、人というものは、感情を有するが故に、区別をする。 博愛主義。 聖人等と呼ばれ、この世の者全てを愛しているという人間は言い換えれば、『誰も愛して等いない』人間なんじゃないのか?と、俺は思うわけだ。 誰だって、誰かを『特別』に思う。 他の誰かよりもな。 平等は既にない。 人間一人一人が、人間を区別し、順位をつけ、自分にとって守るべき人間を決めて、その選別から漏れた人間の為に、命を懸ける事はしない。 どれ程優しい人間等と言われていても、ニュースで流れる悲惨な出来事に対し、その場で眉を潜めるだけで、実際の行動に移れる人間なんざ、そうはいないんだ」

そうだろ?とばかりに首を傾げる虎杰を睨みながら、嵐が「だからなんだってんだよ?」と唸った。

「だから、こういう事をして良いって言うのかよっ!!!」

語気荒く詰め寄る嵐の顔を見つめたまま、表情を変えずに虎杰は言葉を続ける。

「そもそも、他者の為に自らの命を賭けて行動する事、そのものが『選別』である事も、見逃してはならない事実だろう? 一人の人間が救える人間は余りにも少ない。 誰を救うか? どの国の為に助力をするか? どの悲惨な現実に、助けの手を延べるかすら、それは選択の内にあり、誰かを救うという事は、手を延べなかった誰かを見捨てるという事になる。 生きとし生ける者全てが愛しい人間というのは、誰も愛していない人間であり、全てを救いたいと思う人間は、何もしない人間だ。 何も選ばずに生きる事は、神以外には為し得ない。 誰も特別に思わずに、ただひたすらに、平等に人を愛せる人間はいない。 つまり、なぁ、お前。 俺は、例え自分が間違っていようが、この行為が呆れる程の悪行であろうが、お前がどれ程俺を非難しようが、悔い改める事はないんだ」


それは、嵐に対する宣戦布告だった。

命を奪う事は出来ない。

強く、思う。

甘いと言われようとも殺して止める事は考えられなかった。

取り返しのつかない事。
人の命を奪う事。

それだけは、絶対に出来ないと思う嵐に対し、だが、それでは自分は止めれらないと虎杰は告げているのだった。

命を奪わねば、停止する事のない狂気。

「特別な人がいる。 その人の為ならば、どれ程の悪行も俺は平然と行えるし、その覚悟はとっくの昔に決まっていた。 特別な人に比べれば、他の人間が屑に見える。 世界中で、あの娘だけが美しい。 だから、言葉は、俺には、届かない。 何も」

嵐は、目を見開き、虎杰を震えながら見つめる。

「…俺を止めたいのなら、俺を殺せ。 スイッチはずっと前に押してあるんだ。 もう、止る事も、引き返す事もない。 俺も思っちゃいないよ。 俺の言葉で、お前達の心を動かそう等とはな」

静かな声。
言い訳の効かなさは自分自身承知の上という事か。

覚悟を持って、悪党として生きる人間の、性質の悪さを嵐は理解できず、どんな言葉も届かないと言う虎杰の姿に絶望を覚えた、

嵐はそれでも命は大事だと、虎杰に訴えたかった。

届くまで、何百回でも、何千回でも、何万回でもだ。



覚悟を決めた悪党程、手に負えない代物はない。
大義名分や、譲れない理由等という耳障りの良いモンを後生大事に抱えて、平気で狂い続ける。
曜が虎杰の言動に「望む所だ」と囁くように告げ、そして、ピン!と揃えて立てた中指と一指し指で札を撫でた。

「端から、貴様を許すつもりなぞない…」

曜が真っ白な札を空中に放り投げる。
バラバラと舞い散る札に記された文字が眩い光を放つ。

「急急如律令!!(急げ! 律令の如く)」

曜が、そう咒文を唱えれば、大量の死によって汚れ、淀んでいた空気が徐々に清浄化し始めるのを感じる。
だが、同時に曜の剣に、ジジジジ…と不穏な音を立て、時折蜃気楼の如き揺らぎを起こして、周りの空間を歪んで見せる程の、尋常ならざる力が宿るのを嵐にも見えた。

何か、真っ暗な力を、あの剣が吸収していっている。

虎杰が、曜の様子に危機感を抱いたのだろう。
部下であるキメラ達に指示を下し、一気に襲い掛からせてくる。
キメラ達には、既に、人としての感情はないのか、この惨状や、明らかに自分達の事すら「捨て駒」として認識している己の首領についての発言も意に介さないように躊躇のない様子で襲い掛かってくる。
だが、嵐は虎杰の言葉に呪縛されたかのように、どうすれば? どうすれば?と考え続けて動けなくなる。


殺したくないんだ、誰も。

それは虫の良い話だと言うのだろうか?



竜子がそんな慌ててマシンガンを撃ち放しながら「嵐っ?!!」と名前を呼んできた。

だが、巧く反応できず、ギクシャクと彼女に顔を向ける。


竜子も傷ついた顔をしていた。

殺したくないという嵐の意思を汲んでくれた彼女。
きっと、竜子も嵐と同じ人種だろうに、それでも気丈に今、キメラに立ち向かっている。


(何やってんだ…俺!!)

恥かしくって悔しかった。

キメラの牙が、嵐に襲い掛かる。
握り締めた剣がやけに重い。



自分の命を大切に出来ないやつが、他人の命を大切に出来る筈がない。



嵐は自分にそう言い聞かせ、何とかその攻撃を振り払おうとする。

だが、その反応は余りに遅すぎた。
尖ったキメラの爪先に喉笛を引き裂かれそうになったその瞬間だった。

蘇鼓が嵐に素早く駆け寄ると、その体を横抱きにして、一気に飛び上がる。
その刹那、キメラの群れが雪崩込むように嵐の立っていた場所を覆い、蘇鼓に抱えられたまま宙に浮いた嵐は、やっと今の状態が認識できたかのように「うわっ!! 何だ、これっ?!」と叫んだ。
足元が不安定な状況に一瞬恐慌状態になり、必死に蘇鼓にしがみつこうとしてしまう。

「馬鹿野郎!! おらっ! じっとしろ! 力を抜け!! 限りなくだらーんとなれ!」
蘇鼓が具体的だか、いい加減だかな台詞を嵐に喚き散らしてくる。
「ていうか! こんなトコで、ポケーっとするんじゃねぇよ!! 気合入れろ! 気合っ!!」
蘇鼓にそう叱られると、嵐は自分の有り様が余りに情けないものであった事にシュンとなって、「うん…悪ぃ…」と答えた。

眼下はキメラが群れとなり、羽を持つ蝙蝠型のキメラが嵐達めがけて飛んできている。 広間の奥部分までもは侵食されておらず、今は竜子と曜がお互いの武器を構えて奮闘しているのを蘇鼓が確認し「何腑抜けてんだか知らねぇけど、今は、そんな場合じゃねぇだろ?」と嵐に言って、彼女たちの傍へと向かって飛んだ。
それから、蘇鼓がまるで、自分の似合わぬ説教を誤魔化すかのように「ケケッ」と軽い笑い声をあげる。
嵐が、そんな蘇鼓を振り返って見上げ「おう…。 その通りだ。 サンキュ。 助けてくれて」と礼を述べた。

そうだ。
今は腑抜けている場合じゃない。
何のつもりで、ここに来た?
力なき者である事を自覚しながら、それでも、友達を助けたくって、自分の意思でこの場に足を腑見れたんだろう。

足手まといになるのが一番最悪だ。

精一杯出来る事をやらなきゃ…。

そう自分に言い聞かせ、蘇鼓に素直に自分の気持ちを伝える。

「何ていうか、ちょっとビビったんだ。 あいつが、自分には何の言葉も通じねぇし、自分を止めたいなら殺せ…なんて言うからよ…」
嵐は俯きながら言い、蘇鼓が首を傾げる姿を見て、伝わり難かったかと嵐は反省すると更に言葉を重ねた。

「…命は…そんな簡単なもんじゃねぇだろう?」

ポツンと漏らした呟きは、戦場と化すこの場所では、もしかすると、余りにも場違いな台詞かもしれなかった。

「俺は…いやだ。 向かい合う事をせず、命を奪う事で自分の思い通りの結果を得ようとする事は、俺はいやだ。 多分、それが一番確実に危機を回避出来る方法で。 あいつを生かす事で、また沢山苦しんだり泣いたりする人が、生まれるかもしれない。 俺は、間違ってるのかもしれない。 でも、それは、あいつと一緒になるという事だ。 自分達の気に喰わないから、相手の命を奪うという事は、それはあいつと同じ生き物になるという事だ」

嵐の言葉に、蘇鼓は何度も何度も首を振り、痛ましげな表情を見せて嵐の顔を覗きこんだ。

「…てめぇの魂は美しすぎる」

嘆くような言葉に、嵐の体が硬直する。

「生き難いだろう…。 それでは、あまりにも生き難いだろう」

嵐が何度も、何度も瞬いて、蘇鼓をじっと見上げれば、蘇鼓はまるで幼子に言い聞かせるかのような声で言ってきた。

「救えない魂もある」

それは厳かにすら聞こえる声音だった。

まるで、神の託宣のような。

まるで、絶対的啓示のような。

訳もなく頭を垂れたくなるほどの、清らかな声。

 
「世の中にはな、己の命より大事なもんっつうのを、見つけちまう人種がいてな…己の命だけ天秤に乗せりゃあいいもんを、そこに他人の命まで乗っけちまうような阿呆がいるんだよ。 己の命を賭ける覚悟を、そのまま他人の命の軽さとして認識し間違える阿呆がな」

嵐は、じっと蘇鼓の言葉を聞いていて、蘇鼓は嵐の為に懸命に、懸命に言葉を紡いでいた。

彼は真摯だった。
今日一日の間、嵐が見てきた、ふざけていて、掴みどころがなく、飄々として、いい加減な、そんな蘇鼓の姿は何処にもなかった。

それは、実は本当に珍しいことで。
今まで誰も為し得なかったくらい珍しいことで。
蘇鼓という人間を知るものから見れば、驚きを隠せないような光景であるのに、自らの魂の美しさで持って、そんな蘇鼓を引き出した嵐は、己の稀有さに気付かずに、無心になって、蘇鼓の言葉を聞き続けた。


こいつは 優しいやつだ


嵐はぼんやりとそう思う。

何とか、傷付けまいと、俺の心を傷付けまいと、今、蘇鼓は必死になってくれている。


きっと、嵐の望みは、どうしたって、その意思に添うてやる事など出来はしないものなのだろう。

だから、嵐が然るべき時に、己を責めて傷つかないでいられるように蘇鼓は言葉を重ね続けてくれているのだ。

「阿呆なんだよ。 あいつは。 どうしようもないな。 届かない。 絶対に。 お前の魂は、あいつには眩しすぎて、こちらに目を向ける事すら出来やしまい。 それでも、もし、嵐が、あいつを俺達がブッ殺すっていう選択を許容できないのなら…」
蘇鼓は溜息を吐き、「目を閉じて、耳を塞いで蹲ってろ。 それでいい。 それでケリがつく」と言い、そして眼下を指し示せば、そこには、曜が自身の力を行使して、先程より量を増やした鬼共によってキメラを次々に駆逐していく姿が見えた。

リミッターを外したのか、際限なく湧き出る鬼達は、キメラにどれだけ食い殺されようとも、一向に数を減らす事はなく、曜は無限じみたその召喚数と真っ暗な力を、自身の剣に吸収し、その力を行使して召喚状態を維持する永久機関じみた物量戦術を、彼女はたった一人で行っていた。

「…どう足掻いたって、虎杰に勝ち目はねぇよ。 相手が悪すぎるし、曜は虎杰を生かしておくつもりは、きっとサラサラねぇ。 忘れろ。 どうしても辛いなら。 見ないフリをしておけ。 これから起こる事を」

嵐は、息を呑んだまま、曜と蘇鼓を交互に眺め、そして、項垂れた。


諦め…るのか?

確かに曜は、その姿形からは想像できない程に強かった。

数での圧倒的振りを、たった一人で跳ね返し、その苛烈さでもって、己が手で虎杰の首を取る決意を決めているようにも見えた。

さっきまで、一緒に、竜子や、蘇鼓と衣装を選んだり、騒いだり、真面目にやれって曜に叱られたり…。

何だか遠い出来事のように思えてしまう。

諦めるのか…命を…。

虎杰に視線を向ける。
すると何故か、虎杰も此方を見ていた。

自分とは、余りに違う人間だった。

嵐は、そんな顔をしても仕方がないのに、口を引き結んだまま、困ったように眉を下げた。

虎杰は、そんな嵐を見て、何故か、胸が痛くなる程に、穏やかな笑みを浮かべて見せた。


あんな風に笑えるくせに。


どうして、酷い事ができるのだろう。


飛び立とうとする蘇鼓に向かい、嵐は、それでも、振り絞るように叫ぶ。


「俺はっ!!」


大きく息を吸い込んだ。


「俺はっ! 見てる!! この物語の顛末全てをだ!! 見ない振りはしねぇし、出来ねぇっ!!」
蘇鼓が分ってたという風に、少し笑うと「勝手にしな」と答えて、そのまま高く飛び上がった。


曜が嵐に視線を送り「無事か?」と問い掛けてくる。
嵐がコクンと頷けば、ほっと安堵の表情を見せ、「キメラの攻撃が苛烈化している。 とにかく、私の傍を離れるな」と言い聞かせるように言ってきた。
嵐は、そんな曜の顔を見て、「なぁ…曜」と、静かな声でその名を呼ぶ。

「お前、虎杰の事を殺すのか?」

そう嵐が問えば、曜は真っ直ぐな眼差しで嵐を見返して、「そのつもりだ」と淀みのない声で答えた。


曜は今日 学校の制服を着ていた

曜はまだ 高校生だった。

曜は 嵐より年下だった


「…嵐。 お前のような人間からすれば、私が非道に見えるだろう。 そんなお前の感情を、私は否定する気はない。 私は非道だ。 人非人だ。 虎杰を非難する事は出来ない。 所謂、ご同類というものだ。 だからな、嵐。 お前が、哀しい顔をする事はないんだ。 非道が非道を殺す。 どうせ、どちらも地獄行きの身の上だ。 早いか遅いかだけの事。 醜く、蹴落としあうだけの、滑稽な見世物だよ。 嵐には関係のない話なんだ」

曜が嵐に言い募る。

哀しい事を言わせてしまっている
酷い言葉で、彼女は自分自身を傷付けている。

曜が非道でない事くらい、嵐は勿論承知してた。

子供の薔薇姫の為に憤り、嵐や竜子を必死に心配し、ふざける蘇鼓を叱りながら面倒を見て…。
そんな非道なんぞいる筈がない。


彼女も懸命だった。
嵐を傷付けぬようにと。

蘇鼓も曜も、嵐は違う生き物なんだと言いたげに、手を出すな、目を閉じていろ、無関係等と、嵐に虎杰殺しを強要する事もなく、どちらも嵐を責めなかった。

いっそ、それはただの甘さだと、自分だけ手を汚さないでおこうと、理想論を口にしているだけだと、責め立てて欲しかった。


俺は なんだ?

我が儘を言って、駄々をこねてるみたいじゃないか。

二人を困らせて、結局何の役にも立たない。

俺は、どうしたいんだ?

何故、虎杰を殺したくないんだ?

「…関係なかねぇよ」

辛うじて、それだけは曜に言う。

曜は優しく笑って答えなかった。

「関係なかねぇよ」

ここにいる。

再び虎杰に視線を向ける。
やっはり、虎杰も此方を見ていた。

何故、見るのか?

まるで、嵐を試すかのように。

何故、見るのか?

その眼差しの寄る辺のなさに、虎杰の魂の孤独に思いを馳せた。




突然、広間の空中に突然渦を巻く空間の歪が出現した。

「?!」

その唐突な存在感に、ポカンと口を開けたまま、一体何なんだ?と経過を見守ってみれば、「あーーらよぉット!!」となんか、無闇矢鱈に軽快な声と共に、突然、一人の男が渦の中から飛び出し「ア! スイマセーン! 若干目測を誤りましタ!! 予想外ニ、何か、高いデス!! 高いデスー!!」と、落下しながら、これまた軽快に渦に向かって注意する。

その、注意している本人はと言えば、掌になにやら不思議な文様を浮かび上がらせると途端足元の空間が微妙に歪み自分の落下速度を調整して、ゆっくりと地面に下り立ち、「ふぃー」とわざとらしい仕草で額を拭った。
だが、後から続くものは、そうは巧くいかない。


「っ!! 高っ!!! 本当に予想外に高っ!! ていうか!! ちょっと、これっ!!! 誰か?! 誰かぁぁぁぁぁ?!!」と叫びながら、為す術もなく落ちてくるのはシュライン・エマで、次いでチーコを守る道行きにて、一緒に旅路を共にした水商売の匂いが濃く漂う妙に色気のある中年男性、兎月原正嗣が「ええええぇぇぇえ?!!! 高すぎない?! これ、高すぎない?!」と喚きつつも、くるりと体勢を変えて着地の体勢を整える。

ちょっと、エマはやばくないか?と、危惧して落下する様を硬直しながら眺めれば、蘇鼓が一気に跳び寄ってエマの体を掴んで、床に激突の危機から救う。

兎月原も、大五郎によって腰の部分の衣服を咥えられて、救出されており、エマが蘇鼓の顔を見上げると、「蘇鼓さん?! え?! 何?! ちょっ、ここは?! 千年王宮じゃないの?! ていうか、デリクさん?! デリークさーん?!」と、先に下り立った男に、必死に呼びかけていた。

デリクと呼ばれた男はエマに、テヘッ☆と舌を出して笑いつつ「スイマセーン! ベイブさんに、私が向こうに向かおうとしているのがバレて、邪魔されちゃいましタ」とデリクは群青色の長い睫に覆われた綺麗な目を瞬かせ、爽やかと言ってすら良い口調で言い放った。
結構美形にも関わらず、全身から放たれる「私、胡散臭いでス!」のオーラに掻き消され、かなり宝の持ち腐れな事になっているデリクに、エマは「バレたって…」と一度絶句し、それから蘇鼓を見上げ「助かったわ…ありがとう」と礼を述べた。

「どーいたしましてっ!」と蘇鼓が飄々とした返事を返しつつ床に降ろせば、一目散に駆けてくる竜子に向き直ると、両手を広げ、エマは飛び込んでくるその体を抱きしめた。

「っ!! 姐さんっ!!」

竜子の言葉に「だから、姐さん呼びはやめなさいっって!」と突っ込みつつもエマがぎゅっとその体を抱きしめる。
「大丈夫? 怪我はない?」
エマの問い掛けに、うんうんと頷いて「姐さん達は?!」と竜子が問い返せば「大丈夫よ」と笑い返して、周りを見回す。
「嵐君も、曜ちゃんも元気そうで安心した。 それに、蘇鼓さんもね?」
エマに言われて蘇鼓が肩を竦めると「ていうか、てめぇらどうして突然ここに?」と、嵐も気になっていた事を問い掛ける。
「えーとですネ…」
そう言いながら、蘇鼓の問い掛けに、エマより先に、デリクが口を開く。
「まず、初めまして…で宜しいですよネ? えーと、蘇鼓さン?」
そう声を掛けられ蘇鼓が頷けば、「ソレに…嵐さンと、曜さんモ…薔薇姫姿の時には、此方から一方的に拝見させていただいてはおりますガ…ご挨拶は初めてさせて頂きマス」と頭を下げた。
だが自己紹介などしあっている状況でないのは確かで、キメラが次々と襲い掛かってくる最中、デリクは、自身の影に何か潜ませているのか、キメラを一呑みにさせるという驚異的光景を作り出しながら、ついと、虎杰を眺め「ここに来るつもりはなかったのでスガ、ある意味好都合かも知れまセン」と頷く。

「簡単に説明すると、私、普段はしがない英語学校の講師をしているのですが、先日、ある雨の日。 特売の日にスーパーに買い物に行く途中、突如雷に打たれてしまいまシテ、その際、何と奇跡的に第六勘に目覚メ、空間を歪める能力を手に入れる事が出来ましタ。 その能力を行使して、千年王宮とこちらを行き来する事が出来ており、今回も渦中のあの城へDrと黒須さんを含め、お運びしようとシタのですが、うっかり、私ってば、あの城の王様に嫌われてしまっておりまシテ…」

えへへ…という風に頭を掻くデリクに、竜子が「すげー!! お前の力って、そうやって手に入れたモンだったのか!! なんか、アメリカの映画みてぇ!!!」と感激したような声を上げている。

ああ、馬鹿って…馬鹿なんだな…。


身も蓋もない事を思い、そんな竜子を、嵐が「いや、明らかに嘘だから。 間違いなく嘘だから」と、最早優しい位の声音で正せば、エマが「ねぇ? どうして? この時点で、言ってる事の訳八割が嘘!!という荒業を行使できるの? もう病なの? そういう体質とか、呪いとか掛かってるの? そういう一族なの? 一子相伝の秘密とかがあるの? ねぇ? ねぇ、ねぇ?」と真顔で問い質す。
「いえ! そんな、八割が嘘だなんテ!!」
心外とばかりに握り拳を固め、「基本私は9割の打率を心がけていマス!」と言い切るデリクに、エマがガクリと膝をつき、初対面ながら、出会って二秒でデリクの信用ならない具合に呆れさせられてしまいつつ、曜がその一切の騒ぎに関与しないといった声音で「ところで、キミが一緒に運ぼうとしていた、その肝心のDrと黒須さんとやらは…何処に?」と問い掛けた。

ああ、そういや、黒須のおっさん何処よ?と辺りを見回せど、その姿が一切見当たらない。

デリクが、曜の顔を見返し、それから周囲を見渡して「あ…落っことしちゃいマシタ」と、軽い声音で呟いた。

その瞬間、周囲の人間も驚かざる得ない反応を見せたのは兎月原で「何処に?!」と叫んで、デリクの肩を掴んだ。
キョトンとしながら、「多分…」と言い、眉を顰め、一瞬口を噤むと「このビルの屋上デス」と答える。
その言葉を聞くや否や、、呆気に取られる程の速度で兎月原がキメラ達を殴り倒しながら走り出し、「…でも、一緒に、幇禍サンもいる筈ですから、滅多な事にはなってませんヨー!!!」とデリクが、その背中に声を掛けども、彼は振り返りもしない。
嵐は何で、そんなに必死に…と、驚いて、ポカンと見送る事しかできなかった。

そのまま兎月原は、まさに脱兎と呼ぶに相応しい走りを見せてあっという間に、フロアから消え去った。

そんなに、兎月原と、黒須は仲が良かったろうか?と思い返すも、いや、別段、あんな風に必死になる程の付き合いはなさそうだったよな?と思い至る。

すると、嵐と一緒のようにぽかんと兎月原を見送っていた蘇鼓も思うところがあるのか、突如身を翻すと、彼の後を一目散に追いかけ始めた。
大五郎と、帝鴻も蘇鼓と一緒にフロアを飛び出していく。
え? 蘇鼓に至っては、黒須と会った事はなかった筈だよな?と考え込みかけたところで、ふと、デリクが兎月原の背中にかけた言葉が気になった。

確か、黒須と一緒に、幇禍もいる筈とか何とか言ってたよな?
え? 幇禍って、蘇鼓の本名なんじゃねぇの?
色々疑問が頭に浮かべども、竜子はその一切を気にしていないのか「っていうか、あたいも行く!!!」と宣言し、遅ればせながら、黒須を案じて走り出そうとするが、その行く手をあえなくキメラ達に阻まれる。


嵐はとにかく、先程までの混乱状態からは何とか脱し、キャンディソードでキメラ達に相対すると、剣を振り回し、その攻撃を何とか避けて回りながら、とにかく今は無心になって、曜の手助けをする事に決めた。

曜の生み出す鬼は数に限りがないのか、無限に等しい数湧き出てきており、その圧倒される能力に舌を巻きつつ 同時に自身も、華麗な剣技を披露し、キメラを叩き伏せている。
そして、時折、苛烈な目で虎杰を見据えており、嵐は、先程のやりとりを思い出して、ぎゅうっと胸が痛むような心地を覚えた。

他の面々も、それぞれ自身の能力を駆使して、キメラとの先頭を繰り広げる中、突如、悲鳴めいた声を竜子があげた。


「っ!!!! 不味いっ!!!」

胸元に手を這わせ、目を閉じて、それから竜子がブンブンと首を振る。

「やばい!! やばい、やばい、やばい!!」

泣きそうな声。
その切羽詰った様子に驚いたように「何があったの?!」とエマが問い掛ける。


「Drが行っちまった!」


「何処ニ?!」

デリクが勢い込んで、竜子に尋ねる。

「千年王宮に…チェシャ猫が召還した?! どういう事だ?! 直接城に呼ぶなんて、鍵の力がないと、出来る筈がない!!」

そう混乱した声で喚く竜子の言葉の意味が分らずに、嵐は首を捻りながらも、何だか余りよくない事態に見舞われている事だけは何とか察する。

「いえ!! 出来マス!!」とデリクは叫ぶ。

「チェシャ猫は、鍵の持ち主でス!! 彼女は、元は現世の人間だっタ!」

驚いたような顔をして竜子がデリクの顔を見返してくる。

「…こっち側の人間…って事ぁ、あたいと同じような立場って事か?!」

竜子の言葉に、嵐も目を剥いた。
だって、嵐が千年王宮で見た女には、猫の耳と尻尾が生えていた。
あれが、もし、元は人間だったとしたら…あの女も……キメラ?

「そウ、だから、彼女が、ベイブさんに鍵を付与されている可能性ハ、大いに高いでス」とデリクが答える。
「で…でも、それにしたっておかしいんだ。 鍵の力を持ってしても、せいぜいこっちの世界で条件の一致する場所に王宮への入り口を開けられる位で、今回みたいに任意の場所への召還なんて、そんな事…鍵の持ち主の、血縁者や余程心を通わせた相手にしか出来ない」と竜子が言えば「血縁者なのよ!」とエマが叫んだ。

「チェシャ猫は、Drの妹なの!!」

鍵というものを巡るやりとりにはさっぱりついていけなかったが、エマの叫んだ言葉の意味は、痛い程に理解できた。

「っ!!! んだよ、それ! どういう事だよ!」と嵐が叫び、「詳しく説明が聞きたい」と曜も唸るように乞う。

エマが、そうね…という風に頷くと、こちらに向き直り、竜子も交え事態の説明を行ってくれた。

「まず…何処から説明すれば良いのかしら? とりあえず、鍵の話からさせてもらうとね…」とエマが言えば、竜子が頷きながら、自分の胸元より、コロンと一本の「小指」を取り出す。

「う…あ…」
「何故、小指なんかを?」

曜と嵐、それぞれ戸惑った反応を見せれば、竜子は「これが、王宮の鍵なんだ」と驚くべきことを告げた。

「王宮の鍵っていうのは、あたいや誠みてぇな、現世の人間が王宮にて生活する事になった場合に、ベイブから渡される、現世とこの城を繋ぐ鍵なんだ。
この鍵は、王宮中のありとあらゆる場所の扉を開ける鍵にもなるし、この鍵を持ってりゃあ、中には性質の悪いやつもかなりいる城での生活の安全が保証される。 鍵っつうのは、自分自身の肉体の一部じゃなきゃいけなくってな、あたいは自分の小指に鍵の力を授けて貰った」
「って…でも、お前、小指生えてんじゃん」と嵐が竜子の両手が、どちらも五本指が揃ってる事を確認すると「まぁ、それは、色々あったんだよ」と説明してくれる気はないらしく、サクサク話を先に進める。
竜子が鍵の説明を終えるのを待って、エマが「つまり、Drとチェシャ猫っていうのは、昔、城の住人だった。 今の、黒須さんと竜子ちゃんみたいにね? でもベイブさんは、ある時期Drを現世…つまりこっちの世界に放逐し、チェシャ猫を城の奥深くに閉じ込めた。 Drは現世に戻される際に、鍵を取り上げられたそうなんだけど、チェシャ猫はまだ王宮の住人だから、その鍵は彼女が持っている」とそこまで説明すれば、竜子が自分に語り掛けるかのように「ああ、そうか。 鍵を使って、こっちと道を繋ぐことが出来るのは、城の表層での使用に限られる。 チェシャ猫は、今回反乱を起こして、城の表層まで出てきちまった。 だから、Drを城に召還できたんだ」と呟き、「んで、Drと、チェシャ猫が兄妹っつうのは、どういう事なんです?」とエマに尋ねた。

「どういう事も何も、言葉通りよ」とエマは肩をすくめ、それから舌先で唇を湿らせると「これは、デリクさんが、Drとの舌戦にて引っ張り出した情報なんだけどね?」と前置きする。
「千年王宮って、迷い込んだ人の願いを一つだけベイブさんが叶えてくれてるらしいのよ。 どういう気紛れだかは知らないけどね? で、Drは、どうしても叶えて貰いたい願いがあってあの城に迷い込んだ」

「願い?」

曜がそう問い返すとエマは一度頷いて、「Drの望みっていうのはね、自分の妹の命を救う事だったの」と答えた。

嵐は、息を呑み、曜も動揺を露にした。

チェシャ猫がDrの妹で、Drはチェシャ猫の命を救うために、あの城を訪れた…。

「Drは、生まれた折より不治の病を患い、成人を迎える事なく死出の旅へと送り出される事が運命付けられていた自分の妹を、別の生命体と融合、合成させる事によって、命を救おうと医学の限界に挑み破れ続けていたそうよ。 何度も、何度も人体実験を繰り返してね? 人を攫い、動物と掛け合わせては、数多もの陰惨な死を齎していたみたい。 当時はね、きっと、今よりも街燈が少なくて、夜の闇が深かったからDrは然程労せずに、人を攫えていたでしょうね」

「そんな…狂ってる…」

曜が呻く言葉にエマも頷く。

「まぁ、まさに、マッドサイエンストだったってわけよ。 だけど、現代医学ですら為し得ていない人と動物の合成なんて、その時代に成功する筈はないわ。 彼は、殺人鬼と成り果て、狂気の人体実験の果てにベイブさんに出会い、そして乞うた。 キメラを作る術を。 人と動物の合成を作る為の技術を。 ベイブさんは、その望みに答え、そして、その結果生まれたのが……チェシャ猫、そして彼らが開発し続けてきたキメラよ」

はふっと息を吐き出し「まぁ、ここまでが、私達が今分ってる事よ」とエマが言えば、「ていうか、これをどうやってDrから引っ張り出したのか、俺はそいつも気になるよ…」と言いつつ、デリクの背中に怖いものを見るような視線を送る。

「あいつはとにかくすげえ口が回るかんなぁ…。 絶対口喧嘩しねぇほうが良いぞ?」と、それは微妙に役には立たないというようなアドバイスを竜子から受けつつ、嵐は今知りえた情報を何とか頭の中で整理しながら、竜子に「なんか、城での生活って…大変そうだな…」と同情してしまった。
とにかく鍵の説明一つとっても、なんだか、ところどころ引っ掛かりを覚える不穏さがあって、そんな場所で暮し続ける苦労を思う。

「んあ? いや? まぁ、住んでみたら、結構楽しいぜ?」と竜子は笑い、それから「また遊びに来いよ。 何もかんもすんでからな」と誘われて、ちょっとヒき気味に、でも、竜子を傷付けないように、「うん、考えとく」と当たり障りのない返事をしておいた。

虎杰が、Drが城に召還されてという事に対して、「そうか、あいつが城へ向かったか!」と嬉しげに手を打った。

デリクが虎杰に視線を向け「…どうなるんでス?」と低い声で問う。

「つまり、城が私の手に落ちる公算が、高くなったというだけさ」と嬉しげに虎杰は言った。

「チェシャ猫…彼女は普段は美しい女性の姿をしているが、本来の姿は、別にある。 巨大で、力強く、しなやかな獣。 強大な力を持つ、彼女にかかれば、あんな城等一たまりもない。 キメラ化の際、彼女の要望で、普段は人の姿でいられるように、Drが力をセーブするよう造ったそうだが、ある薬を投与すればリミッターは解除され、本来の姿を取り戻す。 Drしか持たぬその薬。 彼が向かうという事は、彼女が本来の姿、実力を持って、城を制圧に掛かるという事。 勝ち目はない。 お前達に。 そしてこの世界に」

その言葉に、嵐は青ざめ、他の面々も、同じく動揺の激しい表情を見せる。
つまり、Drが城に向かうことによって、とんでもねぇ、化け物が向こうで目覚めてしまうという事で、城が壊れてしまえば、何もかもが御仕舞いだという風に竜子から聞いていた嵐。
王宮でたくさんの魔物相手に奮闘していた翼の身を案じ、次いで翼と同じく、今王宮で城を守ってくれている、曜の後輩の事も想った。
曜も、一際顔色を失くし、「燐…」と小さく呟くと、ぎゅっと拳を握り締める。

デリクも、油断ならぬ表情は形を顰め、瞳を険しくさせると、爪を噛み、何かを思い悩んでいる。
そして、デリクは地を這うような声で「…好き勝手は…させまセン。 あの城を、守ると決めてる子がいるんでス」と低く唸る。

そして、デリクはその掌を翻し、そこに痣のように浮かび上がる魔法陣に淡い光を放たせた。

「デリク…さん?」

不思議気に問い掛けてくるエマに、「今…幇禍サン達のいる、屋上に、千年王宮に繋がる入り口を作り出しまシタ…」と呻く。

「大丈夫なの?」と先ほどの事を鑑みてだろう、エマが問い掛けると、デリクは眉を下げ、少し曖昧な表情を見せた。

見れば随分と顔色が悪い。
ここまで随分と無理を重ねてきたらしい。

すると、竜子がデリクの不安を察したのだろう。
「いいよ、あたいが道巧くあいつらが辿りつけるよう、ベイブに乞うて道を繋ぐ。 ここに同じ入り口を作ってくれ」と言った。
城の住人というのは、随分色々出来るのだなと感心しつつ、奇跡の方向音痴人間竜子に、道を繋ぐとか出来るのだろうか? 繋いだ先が、チョモランマとかだったら、兎月原や蘇鼓達はどうなるのだろうか?と、とんでもないようでいて、竜子を知る者なら皆、深く納得してくれる心配をしてしまう。
デリクは竜子の言葉に頷いて、再び痣を光らせ、先程兎月原達が現れたのと同じ渦を出現させると、こちらの渦と、屋上に作った渦というのをつなげてあるのか、蘇鼓達にコンタクトを取るべく渦に向かって声を出した。

「後を…追ってくださイ!!」

デリクの叫び声が届いたのかどうか…。
デリクが必死の声で言葉を続ける。
「お願いしまス! 渦の中に飛び込めば、千年王宮に辿り着けまス! 向こうに、ウラという女の子がいるのでス! Drが向こうに向かった事は、千年王宮にとって、危機的状況を齎しマス!! 私は…私は、彼女を失いたくナイ!!! とても大事な、私にとって特別な子なんでス!! だかラッ!!!」

すると、曜も渦に顔を突っ込むようにして、「蘇鼓!!! それに兎月原さんっ!!! 頼む!! お願いだ、燐を…燐を、助けてやってくれ!! 頼む!!!」と叫んだ。

泣きそうな声。
曜が、凛として、あれ程の強さを誇る曜の声が不安と恐怖に震えていた。

「あの子に、何かあったら…私はっ!!」

その痛ましいまでの声の切実さに、兎月原が「黒須さんはここにいてくれ…」と言う声が聞こえてきた。

「…兎…てめぇは行くのかよ」
蘇鼓が、兎月原に尋ねる声が聞こえる。

「ここで、終われないだろう?」

当然という風に答える兎月原に、デリクが顔を輝かせ、「あんたは?」と彼に問われ、返事をしない蘇鼓の様子に、即座に眉を顰める。
そして、難しい表情のまま「すいまセン、お二人は、蘇鼓サンと一緒にいた虎について何かご存知ですカ?」と小声で曜と嵐に問い掛けてくるので嵐は素直に、「大五郎の事か?」と呟いて、「確かあいつは、蘇鼓の幼馴染らしいぜ?」と教えてやった。

デリクが、「ありがとう御座いマス」と礼を述べ、なふり構っていられないといわんばかりの表情ながらも、冷静な声で「…蘇鼓さン、貴方ガお連れしていった虎ノ大五郎さン…でしたッケ? 忠告というノハ、何ですガ…少し気になる事がありましテ、どうも、キメラ化をさせられているようでスガ、Drが手術の際に体に保険として施したのハ、爆弾だけじゃなかったようですヨ?」と、明らかな出鱈目を自信たっぷりに並べ立てる。
「爆発処理をしなけれバならない程、緊急の事態でない状態で、購入したキメラに飽き、処理したいと望んだ場合、手術時に体内に仕込んである物質が、何か特定の成分を含むものを口にすると、化学反応を起こし、毒素となってキメラの命を奪うように処置してあったようデス。 一体、何の成分を引き金に、その物質が毒素に変じるのかは分からないのですが、キメラ化させた生物はそこら辺の毒物では、到底命を奪えぬ程に、極めて丈夫に作り変えていたようデスので、それは、それは大変強力な毒素になるみたいデスヨ? 大五郎さん、聞けば蘇鼓さんの大事な幼馴染だそうデ、物質は、Drが持っている薬剤を摂取さえすれば、無効化も可能なようですガ…このまま、千年王宮に逃げ込まれてしまえば、薬剤を手に入れる事は難しいですヨネ?」と、言い募った。

よくもまぁ、これだけベラベラと口からでまかせで喋れるものだと呆れつつ、それだけ必死に、ウラという少女を救いたいのか…と嵐が感嘆すれば「ちーきしょう。 俺ぁ、賽銭一つ上げて貰ってねぇのによう…」と面倒臭そうに蘇鼓が意味の分からない事を言い、それから、笑いを含んだような声で、「…何の成分を摂取したら、おっ死んじまうか分かんねぇっつうのなら、この先、大五郎はおちおち飯も、安心して食えねぇって訳か…」と呟いて、それから「しょうがねぇなぁ…行ってやるよ!!」という喚き声が渦の中から聞こえてきた。

明らかに安堵の表情を浮かべつつ、デリクは竜子を振り返る。

「竜子さん、デハ、お願いしまス」と頼めば、彼女は硬い表情で頷いて、「ここに飛び込みゃ、いいんだな?」と言い、それから渦にその身を躍らせた。

そして一息つく間もなく次にデリクは、キメラ達の防衛線となってくれている曜に視線を向ける。


「…曜さん!」


そう呼びかけ「虎杰に接近さえ出来れば、彼を仕留める自信はありマスカ?」と問い掛けたデリク。
今度は何を企んでいるのか、「勿論だ!」と、即座に、曜は自信を持った声で返答するのを聞いてデリクが満足げに頷くと「…接近するチャンスなら、私作ってあげられるかも知れない」と、そうエマが呟きながら、懐からスイッチを一つ取り出す。

「…それは?」

「このビルのブレーカーと、予備電源に自動発火装置を仕掛けてきたの」

にやりと笑うエマに驚いたように、「いつの間ニ?」とデリクが問えば、「通気口から、倉庫通路に侵入しようとしている時にちょっとね」といって彼女は笑った。
侮れない…というか、ちょっと凄すぎる。
嵐は尊敬の念をもってエマを見つめてしまう。
「それで、このフロアの電気を一斉に落とすつもりですネ?」とデリクが聞けば、「オフコース」とエマは頷き、「一瞬とはいえ、真っ暗になれば、キメラ達や、虎杰の動揺を誘えるでしょ。 その間に、曜ちゃん、虎杰に接近できる?」と彼女に問い掛ける。
曜は頷き、それから嵐を自分の傍に手招くと、自分の位置から、虎杰までの距離を測り、そして「このフロアが、もうじき真っ暗になる。 8秒、心の中で数えた後、嵐はその剣を何処にでもいいからぶつけて光を作ってくれ」と頼んできだ。

確かに竜子から貰ったこの剣は、攻撃の際に派手な光を放つという、然程役に立ちそうもない機能を兼ね備えている。

嵐は、自分の行動で、虎杰の命が奪われる結果になる事に納得しかね、頷けないでいると、そんな様子の嵐には気付かぬ様子で、エマが「準備は良い?」と曜に問い掛けた。
彼女が頷くのを確認して、エマがスイッチのボタンを押す。

暫くは、フロアに何の変化もなかったが「落ちるわよ」とエマが呟いた瞬間だった。

一気にフロアが暗くなり、傍にいた筈の曜の気配が掻き消えた。
虎杰へと迫っているのだろう。
行く手に存在しているキメラを斬り伏せる音だけが聞こえる。

嵐は迷っている場合じゃないと、逡巡を振り切り、心の中で「1 2 3 …」と静かに数を数え始める。

冷や汗が額に浮かんだ。

虎杰の穏やかな微笑を思い出す。

キメラを大量虐殺した事を嵐は許す気等ないし、そもそも、キメラそれぞれにいるであろう家族、恋人、友人の事を思うと、いてもたってもいられない気持ちになった。

子供のキメラや薔薇姫もいたのだ。

両親は、どんな気持ちで我が子の行方を捜しているのだろう。

こんな場所で無残に、「処理」等というおぞましい言葉を使って、殺されてしまったと知ったなら、どんなに絶望するんだろう。


「6 7 8」


その瞬間、嵐は壁に剣を思いっきりぶつけた。

パァン!!と派手な炸裂音をさせながら剣が光の粒を撒き散らし、眩いばかりの光が目を劈いた。

一瞬の光の中、曜が「そこだ!!!」と叫び、虎杰の腹を狙い過たず刺し貫こうとする。

しかし、その光は、同時に虎杰に曜の位置を知らせる事にもなったらしく、懐から抜き去った銃を彼女に突きつけた。

「危ないっ!!!」

エマが悲鳴をあげた瞬間だった、再び闇に包まれる寸前、虎杰お背後に一人の髪の長い女が立つ姿が見える。


「…っ?!」

息を呑む。
まるで、怪談めいた現象。
そのまま闇にフロアが沈んだが、一体、何が起こっているのか確認せずにはいられずに嵐は、また、剣を壁に打ち付ける。

フラッシュのように光る世界の中で、下半身が大蛇の、黒髪の女が、虎杰に絡みついて、噛み付き、曜の剣がその腹を刺し貫く情景が見える。


「…黒須…のおっさん?」

鳥取砂丘で一度見た、彼の本性によく似た姿。

長い髪。
下半身が蛇の姿。


この場に、彼と同じような生き物が、もう一人存在している等とはおかしな話で、正体は彼しか思い当らぬと思いつつ、然し、何故か、あれは女性だったと嵐は強く確信した。

髪の隙間から覗いた顔立ちも、美貌と言って良いほど整っていたし、どうしても黒須とは思えない。


では、あの女は一体誰なのか?

キメラの一人が、あの爆発から何らかの手段で生き残り、こちらに加勢してくれていたのか?

何にしろ、虎杰は致命的な傷を受けた。
キメラ達の動揺が伝わり、虎杰の呻き声が聞こえてくる。

死ぬのか?


嵐は、激しく動揺する。
そして、また、強く自分に言い聞かせた。

これは、そうなれば、自分が殺したも同然となるのだ…と。

この場にいる。
曜に加勢した。
自分の手が血で汚れずとも、それは間違いなく殺人への加担。
曜に全て、背負い込ませるつもりなど、嵐には到底なかったのである。

だが、くぐもった虎杰の笑い声が闇の中に響きだすに至って、ヒヤリとした今まで感じたことのないような恐怖感が、嵐を襲った。


「…阿呆…共が…もう…助かるまい…」

「お前がか?」

曜が暗闇の中、少し上擦った声で問い掛けている。
彼女も、間違いなく、虎杰の命を奪ったという確信を抱いていたのだろう。
予想外の虎杰の反応に動揺を隠せぬ声で、「無駄だ。 強がろうと、失血死は免れない」と曜が言えば、また、虎杰は低く笑った。

「鬼姫」と、曜に呼びかけて、「お前と遊べて、中々楽しかったよ。 出来れば、意識を保ったまま、お前の殺してやりたかったが、そうはいかないみたいだ」と、苦しげながらも、余裕のある声で言い、「…では…さようなら…」と静かな声で囁いた。

ミシリ…と何かが歪む音が聞こえた。


ミシミシミシと、フロア内の空気が膨張するような息苦しい感覚に嵐は襲われる。



一体何が起こっている?


突然、上空からコンクリートを打ち砕く、破壊的な音が聞こえ、ついで、瓦礫フロアに雨のように降り注ぎ始めた。

上空にある月の光や、街の光が差し込み、漸く嵐は今の事態を視認出来る。

だが、その光景は出来れば現実のものとは思いたくない姿をしていた。




何十本じゃ効かないだろう。
何百本もの腕が、その体から生えていた。

まるで、醜悪な鬣のように。

全長は何m程になるのか…。

何しろ、無駄に天井の高いフロアを突き抜けて、その顔が屋上に飛び出しているのだ。



歪な異物。

何百もの人を無理矢理合成したような、それはそれはグロテスクな化け物。
巨人とみるには「人の範疇」から余りに外れ、されどこれまでのように獣と人との合成とみるには、その姿に一切の獣の姿を見る事はできなかった。

よく見れば、たくさんの腕に覆われた、その顔の下に続く体には、これまた夥しい程の数の人の顔が浮かんでいる。


「…虎…杰?」

震える声で曜が呟く。


ザザザザザと不気味な漣めいた音をさせながら、顔を覆う腕が動き、その下から大きな穴の如き鋭い牙がびっちりと生えた口が覗いた。

口の中に、夥しい数のキメラ達が見える。
虎杰が咀嚼すれば、酷く耳障りな音が聞こえ、手を伸ばし、手当たり次第に触れるキメラ達を、虎杰は口の中に放り込み、己の力に換えているようだった。
見る見る間に、己が味方である筈のキメラを食い散らかす虎杰の姿を見て、嵐は慄きながらこれもキメラなのか?と、疑問を胸に抱く。

先ほど、虎杰が言っていた。
チェシャ猫のリミッターを外す薬液をDrが持っていると。
虎杰自身も普段は力を抑え、人間の姿を保ちつつも、この本性を隠し持っていたのだろうか?
命の危機に瀕し、自身のリミッターを解除して、この姿になったと言うのだろうか?


しかし、キメラと見ようとしても、これは余りにも醜悪で、吐き気を催さずにはいられない姿をしていた。



「ひゃああああ!!! なんだぁぁぁぁ?!!」

竜子の素っ頓狂な声が屋上から聞こえてきた。

見上げれば、大きく開けられた穴の淵に、竜子がへたり込んでいる。

巧く、二人を誘導できたのだろう。

竜子の傍にはスーツ姿の眼帯をした蘇鼓と全く同じ顔の男がいて、嵐は思わず、「何で、蘇鼓着替えてんだ? しかも、髪の色まで変えて…」と首を傾げずに入られなかった。


「う…ええっえ…な…んだ…こいつ…」


竜子が吐き気を堪えるような声で言う。


嵐も、その醜悪さに耐えかねて「気持ち悪…っ」と小さく呻いた。

すると、虎杰が大きく口を開く。
そして、酷い匂いのする息を大量に吐き出しながら、唸り声のようなものをあげた。


「あ”…あ”…あ”あ”あ”…」



口中より、ぞろぞろと、大人の拳大程の黒に黄色い斑点の散った不気味な甲虫がぞぞぞぞ…と溢れ出てくる。


体内で、喰い散らかしたキメラを養分に変え、あの生き物を造りだしたのか?

どろどろとした粘液に塗れた甲虫達は、自分の口からも、汚らしい液体を吐き出していた。
すると、その粘液に打たれたフロアの床に敷かれたカーペットがじゅうっと不穏な音を立てる。

視線を向ければ、白い煙をあげながら、カーペットに穴が開いていて、それが極めて危険性の高い液体である事を嵐は察した。

甲虫達が、ジジジジジと羽音を立てて空中に浮かび、
一気に男と竜子二人に襲いかかり始める。


あんなの、対応できる数じゃない。

エマが「逃げなさい!!! その蟲は、溶解液を吐き出すの!! 降りてきて、こっちに合流してっ!!!」と叫ぶ。

竜子と顔を見合わせて、蘇鼓と同じ顔をした男が彼女の手を引っ掴むと、ぐいっと引っ張り、気持ちの悪い蟲の群れに突っ込む。

「っ!!! ぎゃーー!!! ねばねばしてるのが!! 触った!! 触ったよう!! うがぁっ!!」
喚く竜子に、「馬鹿!! 口を空けてると、蟲、食べちゃいますよ?!」と、怒鳴りながら、化け物が突き破った床より一気に男がフロアに飛び降りてくる。

途中で、竜子を抱き上げて、そのまま、床に降り立つその姿に、思わず感嘆してしまう嵐。
それは他のメンツも同じらしく一瞬事態を忘れ、「やんややんや」と皆、喝采を上げつつ男を迎えた。
何にしろ、味方であることは確からしいし、この状況で、戦力が増すのは何よりも有り難かった。

「ヒーローみてぇ!!」
「凄いわ! なんか、映画とかでしか見たことないもの!!」
「いやぁ、流石幇禍さんでス!!」
皆が褒め称えれば、「いや、それほどでも…」と言いつつも、分かりやすく男が照れる。
とはいえ、またしても、デリクはこの男を「幇禍」と呼んだ。
この男が幇禍ならば、つまり、蘇鼓であるという事になるのだが、どうもその仕草、様子を眺めていると、蘇鼓だとは思えない。
何より口調が全く違った。

幇禍と呼ばれる男は溶解液のせいか、上等なスーツの所々に穴が開いてはいるが、一気に走りぬけたせいか、肉体にまで傷は負ってないようだし、竜子も、素肌に浴びたところから、血が滲んではいるが、いずれも致命傷ではなさそうだ。
デリクが再び痣の力を使って、異空間の防護壁を作り出してくれたので、その防護壁の中で、とりあえず作戦を立て直すことにする。

だが、そんな最中、「ていうか、あいつは、大丈夫なのか?」と凄く戸惑った真面目な声で、曜が、化け物の屋上に突き出してしまった頭の辺りを指差した。

視線を向けて、嵐は固まる。


えーと…何で、あんなところに?と思えども、やはり先ほど暗闇の中で見た、下半身大蛇の女の正体は、彼だったのかと、自分の認識間違いを認めるしかなくなった。


黒須が、いた。

何か、捕まってた。

うぞうぞとした化け物の顔を覆う手に掴まれるようにして、なんか、下半身蛇のまま、逆さ吊り状態の、それだけで、うん、かなりホラーとして成立するね!!な、黒須の姿を視認して、嵐はどうにも、こうにも頭痛を覚える。

黒須が余り運の良くない性質である事は、前に会った時から、ようく、よーーうっく分ってはいたが、それにしたって、この運の悪さは、もう「面白い」というしかない。
面白い運の悪さって…と同情しつつも、嵐自身若干「面白い運の悪さ」の持ち主だったりするせいもあって、逆さ吊り状態の彼に我が身を重ね合わせて切なくなりつつも、心から「がんばれ」と声援を送らずに入られなくなった。

「曜ちゃん…大丈夫…黒須さんは、無闇矢鱈に丈夫だから…」
にこりと笑いながら、何だか、大変いい加減な調子でエマが言い、曜が「いや…えーとだが、なんか、白目をずっと剥いてるんだが…」と、小声で訴えども「大丈夫、大丈夫」とニコニコしながら「私、黒須さんの事、信じてるもの」となんか良い台詞風の事を爽やかな声で言う。

エマが闇雲に前向きな発言を繰り返すその気持ちを幾分理解しつつ、嵐も意味もない微笑を浮かべれば、「ぎゃーー!!! 誠ーー!!がなんか、もう、なんか、えーー?!!! 凄い大変な事になってるのは分かるんだけどあたいの言葉では説明しきれない事にっ!!!!」と、竜子が喚き散らす。

「…ぶふっ…!!!」と、明らかに、それは噴出したんだよね?というような声を漏らしつつ、幇禍が肩を震わせた。
どうも、黒須の有り様が、彼のツボにHITしたらしい。
白目を剥いたままの黒須が何か、振り子っぽく、左右に体を揺らし出すに至って、幇禍はとうとうしゃがみ込み、耐え切れないと言った様子で、床を叩きながら体中を震わせ出した。

その様子を何を勘違いしたのか竜子が「幇禍…誠の為に…そんな風に怒ってくれるだなんて…お前、ほんと良い奴だな…」と頓珍漢な事を言い、更に、幇禍は体を大きく揺らす。

だが、そんな間抜けなやりとりのせいで、何の計画も立てられないまま、虎杰が数百の腕を振り上げ、こちらに振り下ろそうとするモーションが嵐の視界の端に引っ掛かった。

「…っ!! 防ぎきれませン!! 皆さン、避けテッ!!!」


デリクが叫び、それぞれが、めいめい各所に四散する。



「あ”!!! あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!」

虎杰の叫び声。

何だか、寂しそうな声に聞こえた。



「蘇鼓!!!」

そうとりあえず、その正体を確かめるべく、ラジオネームの方で呼びかけつつ、幇禍に声を掛けるが、傍によって見れば見るほど彼とは思えず、「あれ? 蘇鼓…じゃねぇ?」と首を傾げる。
「魏・幇禍と言います。 兄がお世話になっています」と幇禍に告げられて、「え? それって、蘇鼓の本名じゃねぇの? ラジオネームが蘇鼓でさ」と問い質した。

幇禍が嵐の言葉にきょとんとした顔を見せると、突然頭上に影が掛かる。

「いっ?!」と見上げれば、化け物の顔を覆っていた腕達が、ぞぞぞぞ…と此方に向かって、触手のように伸びてきて、その掌からダラダラとこれも、溶解液だと思われる粘液を生み出し、二人に浴びせようと追ってきた。

粘液で溶かされるよりも、下手に捕まれば、あの手の群れに四肢を引き裂かれる可能性の方が高いと、本能で悟り、嫌だ、溶かされながら、八つ裂きとか、凄くいやだ!!と真っ当な感想を抱いて、とにかく逃れる為に走り出す。

夥しい腕の群れに並んで後を追いかけられながら「うぎゃああ!!」と、叫びつつも、好奇心は抑え切れずに「お…俺は嵐! とにかくっ! お前は、蘇鼓の弟なんだな?!」と確認した。
幇禍は頷きがてら、後ろを振り返りもせず、両手を素早く脇の下に通して、撃ち放す。
その堂に入った動作に、蘇鼓とはまた別タイプの手練である事を、嵐は悟ると、幇禍の攻撃の結果はどうなったのか確認すべく振り返ってみた。

彼の銃撃によって、幾つかの化け物の腕が零れ落ち、血を撒き散らしながら、床でのたうっているが、到底本体にまで銃弾が届かず、本体にもダメージは与えられなかったようで、追って来る速度も変わらない。

あんな化け物どうすりゃいいんだよ?と混乱しつつ
正面を見れば、曜が紙の札を空中に投げ、印を結んでいた。

彼女が更なる無数の鬼を召還する。
背後に生み出される鬼達に、「行けっ!」と曜が命じれば、一気に化け物に飛び掛って行った。

化け物の体中に飛びつき、噛み付き、その口中に放り込まれ、踏みしだかれ、鬼の肉の潰れる音、骨が噛み砕かれる音が響く。
チラリと視線を送れば、化け物に食い荒らされる鬼達という、余りに猟奇でグロな光景に「うわぁ」と心から呻いてしまい、その光景を作り出す一端を担った曜が、鬼共が食い荒らされるに従って、その身に纏う力を増していっている事に、脅威を抱いた。


曜は 化け物に喰われた鬼の 怨みつらみ 無念 苦しみ 全て喰って 己の力に換えている


「私の背後に回れ!!」
曜の言葉に従い彼女が作り出した、無数の鬼の防壁の背に駆け込む。

幇禍が、曜とすれ違い様に、「あの手の中に、大きな目が見えたんです。 あすこを攻撃できれば、ダメージを与えられるかもしれない! 顔を覆っている腕を、何とか退ける事は出来ませんか?」と声を掛けた。
曜が振り返り、一瞬思案の表情を見せた後「考えてみる」と一度頷く。

そして、鬼の数を更に増やすべく、再び札を空中に四散させた。

悪夢めいた光景は陰惨を極め、階下フロアにいた人間や、ビル外の者達が騒いでいる声も聞こえてきた。
人が集まりだしている。

「不味いわね…」

駆け寄ってきたエマが、小さく呟く。
確かに、騒動になるのは、色々と差し障りが在るだろうし、バイト先に、ばれようものならどう言い訳して良いか分らない。
なんか、やけにみみっちい自分の心配が情けなくなるが、生活がかかっているせいもあり、どうしよう?と悩む嵐の耳に「…一応お聞きしたいのですが……」と、幇禍が問い掛けてくる声が入った。

「あぁ?」と嵐が問い返すより早く「アレ…って、もしかしたら…呉虎杰だったりします……?」と、虎杰を指差す。

そうか、彼は、虎杰の変異の場に立ち会っていなかったっけと思い至り、嵐が数秒瞬いて、瞬きを続けたまま「ぴんぽーん」と低い声で答えてやる。

実際自分でも、「あれ、虎杰なんだよな」と思うと、現在立ち会っている現象全てが、現実とは思いがたくて、やっぱり悪夢の最中にいるような気にしかなれなかった。

「あれ…は、キメラなんですか?」

そう、幇禍の重ねての問い掛けにデリクが「完全体でス」と答えてにやりと笑う。

デリクの言葉に視線を向ければ、「キメラ開発の慣れの果テ。 進化の先を目指した行き止まリ」と歌うように告げ、「ねぇ、人は、もう、進化を終えているって説を、ご存知でス?」と、デリクは問うた。
エマが、「ああ、聞いた事ある。 これ以上、外見上の変化は人間は齎されないっていう奴でしょ?」と
言えば、デリクは頷き、「環境にあわセ、その形態を長い年月をかけて変えていク、その『過程』を進化と呼ブ。 人間は、現状で進化の果てにアルという事が科学の力でもって証明されてしまっタわけですガ、あの男は…Drは己の仕える人間ニ、その先の生き物となる為の手術を施したのでしょウ。 材料は、獣でなクテ…『人』。 進化の果てに行き着いた同種の生き物を掛け合わセ、合成サせ、際限なく膨らませタ、異形の『キマイラ』…。 なんと醜い……。 Drが己のコンプレックスすら注ぎ込んで出来上がったあノ、異形、早く壊して差し上げねバ、むしろ気の毒というものでしょウ」と、虎杰を指差しデリクは滔々と述べる。
嵐は、デリクの言葉に虎杰を見上げ、あの姿なら、躊躇なくその命を奪えるかもしれない思い、思い込もうとして、やはり、巧く自分を誤魔化せない事に気付いた。


腕の隙間から、その奥に隠された大きな目が覗いている。

ぎょろりと、虎杰が嵐を見た。

また、見た。


何故、虎杰は嵐を見るのか。

怪物めいた姿になりながら、それでも何だか、その目は穏やかに見えて、また、胸がズキリと痛んだ。


エマも「まぁ…早くなんとかしないと、流石に黒須さん死んじゃうかな?って感じだしね」と言いながら、はふっと息を吸い込んだ。
「……五秒、私がジェスチャーで合図を出すから、みんなそれまでしっかり耳を塞いで。 出来るかどうか、自分でも不安だけど、超音波。 あの、体の表面に浮き出ている人間の顔達。 確り見ると、耳も、ちゃんとみんなついてるのよね。 あの、顔達の耳の鼓膜を、超音波使って傷付けられるか試してみる。 巧くいけば、あの腕を退けられるチャンスを作れると思うし…」
「そうすれば、俺が、あの化け物の目を撃ち抜ける…と」
エマの言葉に続けて幇禍が呟いた。
「…隙さえ作って貰えば、後は私が斬り込む」
そう凛と告げる曜に、デリクは「ならば、出来るだけ迅速ニ、そして危険なく接近できるよウ、空間を歪めた穴でお運びしまス」と、提案する。
そんなデリクを、心配げに振り返り「大丈夫なのか? 顔色が悪い。 力を行使しすぎじゃないのか?」とその身を案じる曜。
確かに、元より白い肌をしているが、今は青ざめ、完全に血の気が引いている。
「…決めたのデ…。 全力を尽くすト」
そう言って笑うデリクの顔がいやに晴れ晴れとしていて、少し嵐は羨ましくなった。
「…あたいも行く」と、竜子がマシンガン片手に、デリクに告げた。
「曜が、あいつに一発食らわせる、手伝い位は出来ると思うから、あたいも一緒に運んでくれ」と竜子が言うのを聞き、嵐はぎゅっと目を閉じて、それから「俺も、行く」と、宣言した。


これ以上の迷いは、ただ悪戯に行動を鈍らせるだけだ。

思い切れ、嵐。

ああなっては、もう人じゃない。

皆が全力を尽くしている。

俺だって、俺だって。

「俺も、全力尽くしてぇんだ」

曜を真っ直ぐな眼差しで見て言う嵐に、彼女は何かを言いかけ、困ったような顔をして、竜子と嵐を交互に見比べ、そして、「ふう…」と溜息を吐く。

「死んだりしたら…地獄まで追っかけて、お前ら二人とも、引きずり戻してやる…」

本気極まりない声で、随分怖い事を告げ、「だから、私にいらん手間を掛けさせない為にも、絶対に死ぬな。 絶対にだ」と、曜は美しい眼差しで、二人を見据えて、願うように告げると、ツイと虎杰に視線を向けて、「では、化け物退治と参ろうか」と、淡々とした声で言った。






エマが大きく息を吸い込む。

「OK?」と指のジェスチャーで見せつつエマが、周りを見回すと皆、両耳を手で塞いで頷いた。
嵐も、しっかり耳を塞いで、コクンと頷き、エマが、やや緊張の面持ちをしつつ、虎杰に向かって口を開く。
さほど大きく開いたわけでない、エマの綺麗な形の唇からいかなる音声が漏れているのか、エマ自身も耳を塞ぎつつ、目を細め、額にうっすら汗を滲ませながら、無表情に声を出している。

すると、最初のうちこそ、然程の変化の見られなかった虎杰が、突然その大きな体を折り曲げ、「あ”ぁぁぁっっ!!!」と耳を塞いでいても、鼓膜を揺らす苦悶の声を上げ始めた。

ゾゾゾゾと、腕がまるで反射神経であるというかのように、本体へと収縮し、そして、無数に浮き出る顔という顔についた両耳を、各々の手が塞ごうとする。
その動きによって、腕の守りが失われ、むき出しになった目玉を嵐が視認するかしないかのタイミングで、エマが「やっちゃって!!!」と叫びながら、虎杰を指差した。

間髪いれず、幇禍が、その目玉に連続して銃弾を叩き込む。
引き金を引きながら、弾切れと同時に素早く地面に投げ捨て、素早く武器を懐から引っ張り出し、持ち替え、撃ち放し続ければ目玉が弱点の見た幇禍の予想通り、痛みに身を捩じらせ、その猛攻を前に、虎杰が首を仰け反らせ、ガスン!!と轟音を立てて膝をついた。

「今でス!!」

デリクが叫び、痛みを堪えて、素早く空間の歪を作り出せば、一気に竜子、嵐、そして曜の順番で飛び込でいく。

渦の中をあっという間に通り抜ける。

ぎゅっと剣の柄を握り締めた。

心臓が、激しく胸を打つ。

本当に良いのか? 嵐。

納得は出来ているのか、自分の行動に。


されど、時は迫る。



まず、竜子が渦から飛び出すと、落下しながら、目の周囲を守る腕に銃弾を当て、派手な光を撒き散らしながら、その動きを止めた。

嵐は息を大きく吸い込んで、一気に飛び降り、その剣で、虎杰の目玉を斬りつける為に振りかぶる。


ぎょろんと、目玉が動き、まっすぐ嵐を見た。


「見るな」


思わず呟いた。


「あ”…あ”あ”あ”あ”…」


虎杰が唸った。

そして、それは、誰にも聞こえなかった。
嵐にしか聞こえなかった。

でも、確かに言った。

虎杰は呼んだ。


「嵐」


小さな声で、嵐の名を。

きっと、竜子や、曜に繰り返し呼ばれているのを耳にした虎杰が覚えてしまったのであろう、その名前を。

悪党は
悪党で
人でなしで

そうやって 思い切れたら 何の苦労もないのに



何故 俺の名を呼ぶ



振り下ろした剣は狙い過たず、その眼球にぶつかり、火花が弾けるような派手な音を撒き散らした。
閃光に目玉が細まり苦しげな咆哮が響き渡る。


地面に降り立ち、虎杰に背を向け一気に離脱を図りながら、嵐は巧く呼吸が出来ない自分に気付く。
眼球を叩いた瞬間の感触が手にこびりついている。


あの声が、虎杰が嵐を呼んだ、あの声が鼓膜に張り付いているような気がして、嵐は「畜生」と呻いた。


畜生。
畜生。
畜生。
畜生。




俺は 弱い。


「黒須さんっ!!! お願いっ!!!!」   


エマが、突然、黒須に向かって叫んだ。
視線を向ければ、逆さ吊りにされていた黒須がいつの間にか、その長い尻尾を使って、ぐるりと無数の腕の間を掻い潜り、虎杰の首をミシミシと、骨の軋む音が聞こえる程に締め上げ出す。

にいっと笑う、その顔は血に濡れ、何処か狂っていて、それは間違いなく、黒須の顔なのに、見間違いようもなく、黒須誠の姿をしているのに、その顔に、美しくも艶やかな、一人の女の顔が重なって見えた。

にいいいっと裂かれた唇から「観念するんだな…」と、怖気を奮うような、何処か甘美な声が漏れる。


「お仕置きの時間だよ…」


女とも、男ともつかぬ声が黒須の唇から零れ落ち、嵐は、訳も分からず、それでも悟った。


さっき闇の中で見た女は、こいつだ。


女がいる。

黒須の中に。


艶やかで、しなやかな女蛇の気配。


黒須とどういう関係かは分らぬが、彼の中に潜む女が今、表出している。


「霧華さん…」

幇禍が小さく呟いた。

彼は、黒須の中に棲む女の正体を知っているのか。
されど、今は、そこに興味を向けている暇はない。


バチバチバチっと、一際大きな音を、異空間の歪が立てる。




そして


穴の中から


長い髪をたなびかせながら

全ての幕引きを請け負った少女が一人、虚空より降り立つ。





剣を真下に構え、「覚悟!!」と叫んで、曜が容赦なくその目玉に剣を突き立てる。



パキン!!!とガラスが割れるような音がまず聞こえ、そして、一気に、その目玉から真っ赤な血飛沫が吹き出した。



「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁ!!!!!」

断末魔の声を虎杰が上げる。


嵐は、その様から目をそらせずに凝視した。


曜は振り返りもせず、素早く黒須を横抱きにして、床に降り立ち、そのまま虎杰から、一目散に離れた。

虎杰が硬直したまま、前のめりになり、そして轟音を立てて崩れ落ちたその姿を息を呑んで見つめていた。



すると、暫く後、ゆっくりと、その体が溶けるように分解され始める。

無理矢理に合成されたと思わしき人の体が一人、また一人と本体から崩れ落ち、そして風に吹き荒ばれ、粉に変じて消えて言った。

サラサラサラと風に吹かれ、どんどん小さくなってく虎杰は、瞬く間に元の人の姿に戻る。

倒れ伏したまま動かぬ姿に、息絶えたか?と思えども、虫の息なれど、まだ微かに意識はあるのか、その掌がザリザリと音を立てて床を這った。


「…あ…かね…茜……茜……」


繰り返し、誰かの名前を呼んでいた。

うつ伏せになったままの虎杰は、何かを探すかのように、床に手を這わせ続けていた。


呼ばれている。

そう思った。
虎杰は、自分を呼んでいる。


それは、諦念に似た確信だった。

嵐は足を踏み出す。


「…それが…お前の特別な人の名前か?」


静かな声で問うた。

ゆっくりと、虎杰が顔を上げると、曜の攻撃の影響か、無残に潰れた目があって、それでも嵐の方をしっかり向くと、「そうだ」と静かに答えた。

憔悴の滲む声。


「…茜。 それがチェシャ猫の名前ですカ?」


デリクが、穏やかな声で問い掛ける。

「……ああ」

途切れ途切れの掠れた声。

「…彼女に…一目なりとも…会いたかった…」


呟く声の温度は、彼がチェシャ猫をどう想っているかという事が一目瞭然の熱が篭っていて、ああ、つまり、そういう話だったのかと、嵐はこの物語の全容を悟った。


デリクが今や、鬼や人の血が入り混じった血の池と化した床に掌を翳す。


「…真実を下さイ。 白雪サン」


そうデリクが声を掛けて、その表面に掌を浸せば、波紋が広がり、そして突然銀色に変じた血の池に猫の耳が生えた一人の女と、大きな姿身越しに相対する一人の男の姿が映し出された。

それは、今よりも若き日の虎杰の姿。

鏡の化身であるという白雪の力を、デリクが自身の力を使って、こちら側に呼び込んだのか…。



「逢瀬。 チェシャ猫さんト、貴方の…で間違いないデスよネ?」

デリクの問い掛けに「無粋な。 覗き見るものではないだろう…」と虎杰は憮然とした声で答える。



一枚の大きな鏡に手を這わせ、チェシャ猫は頬を染めて向こう側を覗いていた。
鏡の向こう側の虎杰は、チェシャ猫と同じく鏡に手をあてて、彼女と顔を突き合わせていた。

「鏡よ 鏡 世界で一番 美しいのは だぁれ?」

無邪気な声でチェシャ猫が問う。
鏡の向こうの虎杰は少し笑って、それからチェシャ猫を指差した。

「ふふふ」と肩をすくめ、掌を唇に当てて「嘘。 違うわ」と言って、それから自分の猫の耳に手をあてる。

「だって、こんなものが生えてる」
すると虎杰は首を振って「関係ないよ」と囁いた。
「尻尾もあるのよ?」
「それも、可愛いじゃないか」
「わっち、人間じゃないの。 お城の化け物なのよ?」
「それでも、お前は美しいよ」
虎杰の言葉に、また「ふふふ」と笑い、それからピタリと鏡に張り付く。

「世界で一番?」
「ああ、世界で一番」
「わっち、お姫様になれるの?」
「俺がしてやる。 お前をお姫様に」

何度も何度も瞬いて「約束」とチェシャ猫が言えば、虎杰も頷き「ああ、約束だ」と答えた。



つまり、チェシャ猫と、虎杰はこのようにして、通じていたという事か。

恋仲。

愛しい女を お姫様にする為に。

この男は数々の悪行を働いてきたのだろう。

「この…鏡は…?」

嵐が、訝しげに呟けば「白雪。 現世と、城を繋ぐ鏡なんて、あいつ以外ありえない」と竜子が答える。
「チェシャ猫サンは、白雪サンを通じて、虎杰さンと出会い、そして恋に落ちた」と、面白がるような声でデリクは言う。


「チェシャ猫さンの為に、虎杰サンは、千年王宮を手に入れるあリトあらゆる方法を探しタ。 少しでも城に近づく為ニ、力を手に入れようと裏の世界に身を投じ、チェシャ猫さんに会いたい一心デ、組織のトップにまで登り詰メ、そシテ、彼女と同じ『獣』と『人』を融合する技術と知識を有シタ一人の男を自分の傍らに置イタ」

「それが……Dr…」
エマが呟けば、デリクは「正解」と静かに答え、「Drが、貴方が自分を裏切らなイと断言した理由が分かりまシタ。 確かに、大事な大事な恋人の兄ヲ、裏切れる筈がナイ」と、呟く。

Drという男は、そんなに、虎杰を信頼していたのか…。

嫌になる程、それは人間らしい有り様、


それを、でも、嵐は肯定する気はなかった。


罪は罪だ。


人殺しは人殺しで、大量虐殺者は、大量虐殺者なのだ。

「最後のピースは、貴方と、チェシャ猫さンとの関係性だっタんでス」

デリクが、溜息を吐き出した。

「もっと早くに思い至れバ、余り遠回りをセズに済んだのデスが…」

そう悔しげに呟くデリクに「そうか…あいつは、あいつで、俺を信じてくれたのか…」と虎杰が穏やかな声で言う。
「悪党には悪党の絆がある。 人非人、外道、非道、悪逆を…尽くそうとも人は…一人では生きられない…。 笑うか? アレは、私にとって唯一信頼に足る、本当の友であったのだ…」

そう独白し、そして、虎杰は嘆いた。

「夢なんぞ…やはり、叶うもんじゃ…ないな…どんな…事もしてきたが…それでも彼女には届かなかった……」




それは、まるで、自分が悲劇の主人公であるかのような声で。


それは、まるで、世間の厳しさを嘆くような、自分が何をしてきたのかを、全く分っていない声で。


それは、夢に敗れた男が嘆く、真っ当めいた声で。



そんな声で、虎杰のような男が、「夢は叶わないものだ」なんて、そんな風に嘆いて欲しくなんてなかった。
たくさんの人間の夢を見る権利すら奪い続けてきた男に、自分の夢が叶わなかった事を、嘆いてなんて欲しくなかった。


嵐は堪えきれず、虎杰に怒鳴る。


「この…糞馬鹿野郎っ!! 詭弁言ってんじゃねぇよ! 『何でもする』と『何でもしても良い』は全然違うだろ?!」


拳をぎゅっと握り締め、全身を震わせながら、虎杰をギリリと睨み据える。



「友達がいて…好きな人がいて…お前、なんでこんな事出来るんだよ?」

虎杰が嵐にまた顔を向けた。


「人を好きになる事を知ってる奴が!!! どうして、人を傷付けられるんだっ!!!」

叫ぶような声。


「だったら!!! なんで、考えない!!! お前が殺した人達にはなぁ! お前が、キメラの材料として踏みつけにしてきた人達にはなぁ!! みんな、それぞれ、大事な人が、特別な人が、誰に奪われる事も許される筈のない未来が、あったんだよっ!!」


地団太を踏む。


いつの間にか赤い色に戻っていた、床を浸す血の池が、パシャンと嵐の足元で飛沫を上げた。


「飯食って!! TV見て!! 仕事帰って酒のんで!! 嫁さんとケンカしたり、恋人とメールしあったり!! 友達と遊ぶ約束を楽しみにしたり!! 下らない漫画読んで笑ったり!! 嫌な事を電話で、田舎の母ちゃんに愚痴ったり!! そういう普通をさぁ…!!」


悲鳴のような声だった。


「そういう普通を…なぁ…誰が滅茶苦茶にして良いっつうんだよ…そんなの……誰にも許されねぇよ……っ!」

虎杰が何度も瞬いて、「何故…? なぁ、お前、なんでそんなに怒る必要が…ある? 自分の特別な人間に比べて…、そんな、取るに足らん…斟酌するに足りない命など…」と問う虎杰を、嵐は「命は比べられねぇよ」と呻くように否定した。

「自分にとって、その人の大切さという意味での価値ならば、比べてしまうのが、人間っつう生き物だ。 俺だって、ダチや家族は他の奴らより大事だよ。 それは否定しねぇよ。 でも、だからって、命を比べて、そいつらの為なら、誰かを殺して良いなんて、俺は絶対思わねぇ…。 俺のダチや家族も、そんな事は望んじゃいねぇ。 それが、俺の誇りだよ」

嵐は一歩踏み出し、言い聞かせるような、それでいて、悔いるような声で言う。

「なあ、虎杰。 お前、特別、特別っつうけどな…特別なんかじゃない、普通が、実は一番大変なんだぞ? 普通に働いて、普通に人を好きになって、普通に家族を作って、普通に幸せになって……普通は、偉いんだ。 普通は、並大抵の努力じゃ手に入んねぇんだ。 誰にも、そういうのを馬鹿にしたり、ないがしろにしたりなんて、されちゃならねぇもんなんだ。 お前みてぇな、弱虫なんか比べもんにならねぇ程な、普通っつうのは…尊いんだよ…」



届かない。

自分の言葉など。

絶望はしていて、それでも語る。

嵐は拙い言葉で、


嵐の魂が欲していた。

伝えねばならない。

この男に伝えねばならない。



「あんたが王宮を欲しがる理由は分かったよ。 だから尚更譲れない。 惚れた女のために、屍の山築いて、それで女を姫様になんざ仕立てあげたって、そんなの虚しいだけだろう? 寂しいだけだろう? 人を好きになるっつうのは…もっと…こう、あったけぇもんだ。 もっと、こう幸せなもんだ。 もっと……もっと、優しいもんだよ、本当は」


嵐が、不意に、慈悲に満ちた、それはそれは静かで、綺麗な、穏やかな声で言った。


「人を好きになる事の本当の喜びを、お前は知らないんだ。 可哀想に」

虎杰は、嵐に顔を向けたまま、不意に弱り果てた、子供のような声で言った。


「お前遅いよ」

「……」

「もっと早くに 俺に会いに来てくれていれば」



もしくは?



不意に、嵐は後ろを振り返った。



デリクがいて、曜がいて、エマがいて、幇禍がいて、竜子がいた。


ごめんなさい。


心の中で詫びた。


ごめんなさい。


俺は、俺を裏切れない。

だから、皆を裏切る。


しゃがみこもうとした。


虎杰を引っ張り起こして、何とか逃げ出そうとした。





嵐は、虎杰を救おうとした。





彼を許しはしない。

でも、殺すことは出来なかった。

その先の事は何も考えてなかった。


だが、寂しい寂しい孤独の塊めいた声に、嵐を見た虎杰の眼差しに、やっぱり俺には誰も殺せないと強く、強く思った。


虎杰は嵐を見ていた。


もしかしたら、虎杰は、自分とは正反対の嵐に救いを求めていたのかもしれない。


魂の救済を。



虎杰が笑った。


「ありがとう」


その声は、やはり嵐にしか届かずに、嗚呼、この男は死ぬのだと、嵐はその瞬間悟った。




もっと、早く出会っていれば、Drよりも早く、裏社会に彼が身を投じるよりも早く出会っていれば、この男の道を、嵐は正せていたのだろうか?





いや、そんな未来は



ない






「♪Humpty Dumpty sat on a wall
 ♪Humpty Dumpty had a great fall
 ♪All the king's horses and all the king's men
couldn't put Humpty together again」



王様の馬みんなに 王様の家来みんな合わせても
ハンプティを元には 戻せやしなかった


壊れた 卵は もう元には戻りません!






空から合唱が微かに聞こえてきた。



見上げれば、東京の夜空。
星の見えない夜空。



堕ちる。

墜ちる。

猫が。


落ちる。


チェシャ猫が、天から銀色の剣に刺し貫かれて落ちてきている。



如何なる者が、彼女を天から蹴り落としたのか?

どうやら王宮での闘いも、翼達の勝利により収束を迎えたらしい。

虎杰が、どこにそんな余力が?と驚嘆せずにいられない精神力でもって、よろよろと立ち上がった。




「一度も想い人に会えた事等なかったようなのデ、本望でしょウ」


デリクが淡々と虎杰に告げる。

虎杰は、もう、何も聞こえず、何も見えない様子で、ただ、天を仰ぎ、彼女を待ちかねていた。

キメラという禁忌の術で持って、裏組織のトップに立った男。

ただ、恋の為に。

ただ、恋の為に。
滅ぶか。


また 救えなかった


嵐は悔いた


強く 深く



俺は 弱い


それでも、目を開き続ける。


見届けねばならなかった。

誰よりも嵐は虎杰の最期を見届けねばらならなかった。



嵐は知らない。


それでも、嵐は虎杰の魂を最期の最期、救ったのだ。


その呆れる程に優しい優しい、暖かな、その気持ちで。


満身創痍で、それでも、天を仰ぎながら、酷く明るい、悲しいほどに明るい、幸福そうな笑みで虎杰が両手を広げる。



チェシャ猫が笑った。
最期の意識で。


「やっと…会えた…」


小さく猫は呟いた。


「ずっと会いたかった」


虎杰も笑って応えた。



猫の胸を刺し貫いている銀の剣が、そのまま虎杰の心臓も刺し貫いた。
落下した猫を虎杰は抱きしめ、そして、地上に倒れ伏す。



現世と王宮、たった一度として、直接、触れ会う事もなく、鏡越しで想いを育んだ、憐れな、憐れな、恋人同士。
漸く、最期の、最期、この上ない悪辣と、暴虐の果てに、二人は抱き合う事が出来た。


悲恋の結末である。 
悲しい終末である。


しかし、悪党の恋であった。

悪党の最期であった。



「…じゃあな」


嵐はそう小さく呟く。
何かを振り切るように。
噛み潰すように。

別れを告げた。

じゃあな。



「お見事!! お見事!!!」



パチパチパチと手を叩いて、「よっこらせ」という言葉と共に、何処からともなく道化が現れる。


「…っ!! お前!! なんで?!」

竜子が叫んで道化を指差せば、「さっき、魔術師殿と白雪が通じ合った時にちょっくらね」と言いつつ、そこに立つ面々を見回す。

「いやぁ、今回は君達の活躍のお陰で、本当に助かった! 礼を言う」と言いながら頭を下げる道化師に「あ、お礼は良いから、ねぇ、早く、彼、なんとかしてあげて?」とエマが指差す先には、下半身蛇の姿のまま完全に伸び切っている黒須がいて、竜子が慌てて駆け寄り「誠!! 大丈夫か?! 誠!!」と必死の声で呼んでいた。

「う…る…せぇ…」

そう言いながらも手を伸ばし、竜子の頭に手を伸ばすと、その金色の髪を優しくなでて「喚くな…響くんだよ…」と弱った声で黒須が言う。

「…ああ…よかった…」と安堵の声を漏らす竜子。

その首根っこに齧り付こうとして、今の黒須に飛びつくことすら躊躇したのか、どうして良いのか分らないと言う風に涙の堪った目を緩めて「えへへ…」と竜子は小さく笑った。

「…生きてる」
「当たり前だ」
「すっげぇ、心配したんだぞ」
「おう。 悪かったな」

黒須がそう答えながら無心になったように竜子の髪を撫で続ける。
竜子は猫のように目を細め、「みんな…が助けてくれなかったら…お前、ほんとに死んでたんだからな」と言う言葉に、黒須は頷き、それから、こちらに目を向けてくると「世話になった」と言って頭を下げた。


とにかく、一人は救えた。

嵐はそう思うことにした。

竜子が心底笑ってて、黒須もなんだか安堵したようで、だから、もう、とにかく、そう思い込むことにした。


一人は救えた。


それが精一杯。

この手の届く範囲。



「とっととお城に帰ってあげなさいな」とエマが言い、嵐が「向こうの連中にもヨロシクな」と竜子に声を掛けた。
曜が「燐に、なるだけ早く戻ってくるように伝えてくれ」と心配そうな顔で言う。
幇禍は……別段何も言うべき事が思い当たらなかったのか、笑顔で手を振っていた。

「竜子さン…ちょっとばかり、私、お城に用事がありますのデ、一緒に向かわせて頂きたいのですガ、宜しいですカ?」


そうデリクが言えば、竜子は頷き、「じゃあ、あたい、さっきの事もあるし、一足先に道をきちんと繋いでおくよ。 デリクは、その後を追ってきてくれ」と告げて、小指の鍵の力を使い、千年王宮に向かう。
竜子の姿が掻き消えたのを確認すると、デリクは道化を振り返り「貴方もご苦労様でしタ」と鮮やかに笑って告げた。


「いやいや、何々。 中々コキ使われて大変だったが、そこそこ楽しかったよ」

道化がそう言い「じゃあ、私もそろそろ戻ろうか」と言って、黒須の傍に向かう。

「いやぁ!! 酷い有り様!! ジャバウォッキー!! まぁ、丈夫なお前のこった! 大丈夫だろう、その位? ほら、とっとと帰るよ?」と手を伸ばし、その体を抱え上げようとする背中に、デリクが笑って声を掛けた。




「何処へデス? アリス」




空気の温度が、少しだけ下がった。



「道化師アリス。 ジャバウォッキーを何処へ連れて行くつもりでス? 駄目ですヨ、折角我々が助け出したのニ、貴方の手で、何処かにその人を葬られてしまってハ、元も子もありまセン」

デリクが道化を指差せば、道化は首を少しだけ傾けて笑うと、その瞬間カシャンと音を立てて、その体が崩れ落ち、黒須の上に散らばる。


「っ!!」


悲鳴めいたものをあげようとしたらしい黒須が辛うじて、叫ぶのを止め、そして、自分を連れて行こうとしていた物の正体に「んだよ…これ?!」と混乱したように喚いた。


関節という関節がぐにゃぐにゃと在り得ない方向に折れ曲がっている。

赤い糸が、その節々から垂れ下がっていた。


まるでマリオネットのように。

まるでマリオネットのように。


「いややわ…。 バレてもうた。 まぁ、流石っちゅうトコやねぇ…名探偵さん?」

道化の背後から、灰色の肌に、真っ赤な唇。 真っ黒なウェーブのかかった髪を肩まで伸ばし、白いリボンのあしらわれた、大きなヘアバンドを髪につけ、黒のエプロンドレスのワンピースを身に纏った、何処か見るからに不吉な少女が現れた。

「アリス…?」

一体、誰だそれ?
ここへ来ての新たな登場人物に、嵐は頭がついていかずに混乱した。


アリスの名を訝しげに口にするエマに、「ひひひ」と口を歪めて下品に笑うと少女は「初めまして!! では、ないなぁ。 道化の格好して、色々とお喋りさせて貰うたさかい、そういう風に、びっくりした目で見られると、何や、申し訳ない気分になるわ」と言いつつ、彼女はデリクの前に立った。

「何処までお見通し?」
アリスに問われ、「然程。 知れば知った分だケ、謎は細分化し、枝分かれをして増えていク。 いっそ、今、全て、教えてくれませんカ? 大魔女アリス」と、強請るデリク。
「…あんたは…『千年魔法の構成理論』の魔術書を持ち出しとったねぇ…なぁ、あれ、全部読めた?」
アリスに問われデリクは一度首を振る。
「そう…」とにんまり笑うアリスに「ただ、私、昔カラ、本は『あとがき』から読む癖がありマシテ」とデリクはシレッとした声で告げ、アリスは、一度ポカンとした顔を見せた後、ククゥと喉の奥で笑うと「イケズやわぁ。 その物の言い」と、何だか少し嬉しそうに言う。

全く何の話か分からない。

このまま置き去りにされるのは勘弁して欲しいと思い、「ちょっ!! ちょっと待て!! 悪い、話についてけねぇんだけど?」と嵐が訴え、曜が頷く。
「その…大体、君は誰だ? アリスというのは…?」と曜に問われ、アリスは、ポリポリと頬を掻き、「そうか。 あすこを知らん子には不親切やったね」と頷いて、「色々説明するのも面倒臭いから、とりあえず、千年王宮を作った張本人と覚えて貰えりゃ充分や」と、アリスは簡単に説明した。

えーと、じゃあ、この人建築家?

一瞬そう思えども、即座に、いや、それは違うだろうと己の答えを否定する。
千年王宮を造るとなれば、それは尋常な存在ではないに違いない。

混乱を隠せずに「王宮を…作った人? なんか…スケールが大きな話になってきて、余計に訳わかんなくなっちまった…」と、嵐は頭を掻く。
「じゃあ…なんで、こんな人形を…?」
そう曜の問い掛けに、「そっちの兄さんは、分ってるんやろうけどね…」と言ってデリクを指差すと、「もう、とっくに、本物のアリスは封印されっちまってるからねぇ…うちは、ただの幻。 ベイブが自分の心の中に抱いている幻想なのさ。 アリスは、ベイブに討たれて、お城に封じられたんだ。 ベイブは、そのせいで、アリスの呪いに掛かり、千年王宮に千年縛り付けられる呪われた王様になった。 ベイブはうちをどうしようもなく憎んでいる。 だから、うちの姿を目の当たりにする訳にはいかないし、うちはベイブの心の深層に閉じ込められて、自由に動くことは叶わない。 せやで、この人形を依巫にして、うちはずっとベイブを守り続けてきたっちゅうワケやね」と答えた。
嵐はきょとんとした顔のまま、「よく分かんねぇけど…じゃあ、あんたはその、ベイブとかいう王様の心の中にいるアリスなのか?」と問い掛ける。
「その通り」とアリスは頷くと、「どうしてなんだ? 自分を城に閉じ込めたような魔女を、どうして心の中に?」と曜が疑問を投げかけた。
嵐も恨みに思う相手を相手を後生大事に、ベイブが心の中に抱き続ける理由が分らず身を乗り出せば、アリスは事も無げに言い放った。



「だって、あの子はうちに惚れとるんやもん」


嬉しげに、惚気るような声に、嵐はぽかんと口を開ける。
敵同士だけど、恋仲だったという事か?

チェシャ猫と虎杰も、離れ離れで、しかも住む世界が違う者同士、何だか厄介な恋をしていたが、これはこれで、何処かのメロドラマにでもありそうな話じゃないか。

自分を閉じ込め、呪った相手を「想い人」としているとは、益々ベイブという男に対しての不思議が募る。
ちらりと姿を見る限りは、無気力極まりない男にしか見えなかったが、まさに人に歴史ありといったとこなんだろう。

まぁ、人の恋路を邪魔する奴は…との諺もある事だし、別段深く関わりたい話でもねぇな…と恋愛に興味の薄い嵐が思えば、デリクが、不意に歌を口ずさむ。






「♪Humpty Dumpty sat on a wall
 ♪Humpty Dumpty had a great fall
 ♪All the king's horses and all the king's men
couldn't put Humpty together again」



マザーグースの中の「Humpty Dumpty」


魔女が問う。

「道化師が、うちやっていつから気付いてた?」

「今朝、貴方に会った時に思い至りましタ。 城の何処でも自由に行き来が出来テ、外の世界にすラ出て行ケル。 ある意味、ベイブよリ自由ダ。  だからこソ、今回のような時に、彼を救える為に奔走でキル。 この城の王様でスラ、制御できていない存在。 この城の王様を、千年王宮内ですラ越える存在。 そんなの、一人しかいナイ。 この城を作った人間しカネ?」
デリクがつらつらと並べ立てれば、アリスは「ウラが賢い子に育ったのも、分る」と頷いた。

「うちは、うちであって、うちやない。 所詮は、あの子が心の中に作り出した『理想のアリス』。 狂おしくあの子を想って殺されっちまった、可哀想な女の影。 それでもね、あの子を想う気持ちは本物。 だから、道化師になって、ずっとあの子の傍で、あの子を見守ってきた」
踊るような足取りで、アリスは血の池の化した床を、ゆっくりと歩き回る。

エマは、そのアリスをゆっくりと目で追いながら「…黒須さんを連れて行ってどうするつもりだったの?」と囁いた。

「次の人形にしよか思て」

エマの声に、アリスは笑みを深める。


「人形? こんな風に?」
黒須の上で無残な姿を晒す道化師人形をエマが指差せば、「今、一番ベイブの身近にいるんは、その男やで、バラバラに一回切断して、赤い糸をつけて、うちの思い通りにしたろうと考えたのに…」と言い、恨みがまし気にデリクを横目で見る。

「普段のジャバウォッキー相手なら、いかなうちとて早々好き勝手は出来へんけど…」
そこまで言ってアリスがついと掌を翻す。

「…こんなジャバウォッキーなら、抵抗なんて許さない!! 一度人形にしちまえば、笑うも踊るも歌うも殺すも、何もかも私の思い通りさ!」
ガバリとその身を起こし、人形が黒須の肩を掴んで、その顔を寄せる。
黒須が目を見開いて、「は…離せっ!」と、逃れるように仰け反ると、エマが慌てた様子で、道化の肩を掴み「これ以上、もう、黒須さんを苦しめないで」とアリスに叫んだ。
だが、アリスは戸惑うように首を振り、腕をだらんと下に落とす。
すると、道化も、また元のように人形の姿に戻り、アリスは少し顔を顰め「こいつは、長く依巫にしすぎた。 人形は、唯でさえ、意思を宿しやすい媒体。 最近勝手な動きを見せる事があんねん。 そこら辺の関係もあってね、新しい人形が欲しかったんやけど…」と惜しそうに黒須に目を向け、溜息を吐いて「残念やわ…」と呟く。

「そんなに傍にいたいのでスカ? ベイブさんの傍ニ」

デリクが、愉快そうに問う。

アリスは当然という風に頷くと、灰色の目を細めて問うた。

「なぁ? そんなうちって気が狂っとる?」

デリクは、まるで、望まれているという風に頷いて「エエ。 とってモ、とってモ、気が狂ってまス」と笑い答える。


アリスは、まるで、デリクが満点の答えを出したように手を叩き、「うちは気が狂っとる。 あの子もや。 正気の者など、あの城にはいない! 一人だって! 一人だって!」と叫んだ。

アリスの言葉を聞きながら、嵐は無性に千年王宮という場所を恐ろしく思った。

この女は狂ってる。

心の底からそう思う。

何を根拠に自分がそう思うのかは分らなかった。

だけど、間違いないと嵐は確信した。


時の大魔女アリス。

狂った女アリス。


人を強く想うという事は、何にしろ、気が違っているという事だ。


デリクが言う。



「貴方の出番はもうありまセン。 揺り篭に帰りなさイ。 ベイビーがお待ちカネですヨ? マム」



嵐は、驚くよりも先に、「ほらな」という気持ちになった。


母親が、息子を愛する事に理由はいらない。


されど、アリスの愛は歪だろう。

慄くほどに歪だろう。


ほらな? この女、狂ってる。




息を呑み、シンと静まり返る空気の中で、デリクが朗々と語りだす。


「かって、時の大魔女アリスは、自身が生きる悠久の時の中で、誰の子か明らカニなっていナイ、一人男の子を孕み、産み落としタ。 生まれながらにして数奇な運命と数多の謎を背負ウ、その子供は生後間もなく、聖CAROL教会が有する聖騎士団の手により保護されたが、自分の血を分ケタ、最愛の息子を奪わレル事となったアリスは悲しみに沈み、時の迷宮の中で自らの心を癒す為に長い眠りにつイタ。 アリスの子ハ、その間、母親から譲り受ケた魔法の才と、誰かは分からぬ父譲りの剣の腕にて、騎士団にて頭角を現し、団長の地位にまで登りつめ、1700年代初頭に行ワれた《魔女狩り》ニて、皮肉にも己の母の討伐を命じらレル。 激しい戦いの中、宿敵としてお互いの正体を知らズニ出会ったアリスとその息子は、更なる悲劇! 狂気と禁忌の恋に落ちてしまったのであっタ…」

デリクは口を噤み、それから「私が、あの王宮より頂いた、貴女がお書きになられた、『千年魔法の構成理論』の巻末に記された、大魔女アリスの略歴の一文です」と言う。

そして「母と子の禁断の恋…なんテ、余りに陳腐デ初めて目にした時は、思わず笑ってしまいマシたヨ。 許されざる感情か否カハ、世間一般というものから、どうニも、ズレているそうなノデ、私にハ貴女に言うべき言葉一つ見当たりませんガ…」とそこまで言ってデリクは肩を竦めた。

「…貴女が、どんな狂った母親だろうガ、女だろうガ、今は黒須さんを、無事、あの城に帰してやるノガ得策でス。 貴女には、ジャバウォッキーは無理ですヨ。 魔女。 所詮、幻に過ぎぬ貴女が表出し、悪戯に現世を掻き乱すモノではなイ。 道化人形一つ、制御しかねル貴女には、ベイブの側仕えハ荷が勝ちすぎル。 とっとト、引っ込みなさイ」

そうデリクが言えば、アリスは突如高らかに笑い始めた。




狂ったように腹を抱え、ひーひーとけたたましい声を発する。




アリス。

ベイブの母の名前。


アリス。

時の大魔女の名前。



アリス。


息子への、禁忌の恋に狂った、憐れな、哀れな女の名前。



アリス。



ALICE.






「生意気だよ。 魔術師」



突如笑いをピタっと止めたアリスが、無表情にそう囁いて、そしてその体が掻き消えた。

黒須に折り重なるように倒れていた、道化がずぶずぶと血の池に沈んでいった。

黒須が混乱極まる顔で、「な…んなんだよ…」と呻く。

嵐も一体何が何なのか、分りかねる事ばかりだが、正直現状「是非、関わりたくないです」という気持ちになっている城の話だ。

よし、忘れよう、と先ほどまで聞いていた、かなり濃い目のエピソード含めて、そう心に決めた。

だが、竜子よりも更に何だか難しい立場にあるらしい黒須への同情は禁じえず嵐は気の毒気に彼を見下ろし「よくは分かんねぇけど、ややこしい立場みてぇだな。 おっさん。 何か、相談事があるなら、電話して来いよ。 また、話聞いてやるから…」と同情丸出しの気持ちを込めて、携帯番号が書いてある紙を渡してやる。

なんだか、ガクリと肩を落として、その紙を握り締める黒須の肩をポンとエマが叩き、「まさか…アリスが、ベイブさんのお母様だったなんてね…」と呟いて、「どうすんの? これから」と黒須を見下ろす。

「どーするも、こーするも、ベイブがすげぇマザコンだろうが、あの道化の正体がアリスだろうが…俺にゃあ、どうしようもねぇ話だよ。 せいぜい、これまで以上に道化に寝首を欠かれぬように気をつけるだけさ」

そう黒須が投げやりに答え、デリクが肩を貸して起き上がるのを助けてやりながら、「それガ賢明でしょうネ…」と頷いた。

「幻とは言え、アレはアリス。 現世ならともかく、あの城で振るう力は絶大なモノと思われまス。 とはいえ、あの道化人形自体、自らの意思を持チ、貴方を自分と同じ、人形に仕立てようと狙っテいるのも、真実」
何だか聞けば聞くほど…な状況に、「上司は、ドS気味の犯罪級マザコンで…同僚はそんな上司命!!な意思疎通困難鏡娘に、中の人は上司のお母さんでした☆、ケド、最近は自分自身で動けるようになってきて個人的にもお前の命狙い撃ち♪な人形男。 一緒に城で暮らす唯一の心の拠り所になる筈の竜子ちゃんも、天災的トラブルメーカーだし、なんか…なんか…」と言いつつエマは、若干半笑いになって「ガンバッテ★」と両手拳をぐーにする。

「他人事だろ? 凄い他人事だろ? しかも、面白がってるだろ? 最早面白がってるだろ?」

半眼になり、そう言い募る黒須に、幇禍も同情したような声で、「俺も、そんな黒須さんの力になりたいんで辛くなったら、是非ここに電話して下さい」と言いつつ思いっきり「117」と書かれたメモを手渡していたって、それ時報の電話番号やん。
「ほーう…お前は、俺に困った時に、時報を聞かせてどうしたいんだ?」と黒須に問われ、チロっと舌を出すと、「昔は、交換機の仕様で、同時に時報へ電話をかけてきた人と会話ができるという現象が起こったそうなので、せいぜい、何度も、何度も掛けなおして、そこで繋がった人にでも相談してはいかがでしょう?という俺の優しい心です」と照れた仕草を見せつつ幇禍は言う。
「うわー、懐かしい!! 流行った! それ、俺が若い頃、すげー流行したし、その現象を知ってるお前が凄く怖い!!ていうか、今はもう、絶対、そういう事起こらないらしいけどね! だから、何回掛け続けても、そんな見知らぬ相談相手に繋がる事はないけどね!! そもそも、見知らぬ人に、こんな状況どうやって相談すればいいか一切見えないんだけどね!! そして、お前が『え? 結局、それ、絶対相談に乗ってやんねぇよ!って事じゃん?』みたいな台詞を、なんで照れながら言うのかも全然見えない!」
そう黒須が、現在見るからに「瀕死!」の状況ながら命懸け的鬼気迫る勢いでツッコンでくるのを、カラカラと笑いながら幇禍が「わぁ! この勢いが鬱陶しい!」と爽やかにいなす。

ぜいぜい肩で息をしながら「もう…いやだぁ…」と心からの声で呻く黒須を、嵐と曜が暖かな、なんか遠い、凄い遠い目で見下ろすと、「よかったな、おっさん。 良い友達に恵まれて」と、かなりの棒読みで言い放ち、曜も「感謝する事だ。 人間関係は、何よりも貴い財産だからな」と、これまた、棒読みで黒須に告げた。
完全に見捨てた!!という態度を明らかにした二人に黒須がヨロヨロと手を伸ばせど、デリクが、そんなやりとりを一切無視し「サァ! 黒須さン! 遊んでないで、行きますヨ?」と腰に手を当て、やけに張り切った声で告げる。
「遊…ばれては…いたな…」と項垂れつつ、黒須が自分の舌にある鍵穴に、王宮の鍵らしい小指を突っ込んだ。

「んじゃ…本当に助かった…ありがとう」

そう素直な声で告げ、小指の鍵を捻った瞬間、黒須とデリクの姿が掻き消える。

はふっと息を吐き出して、ひとまず決着ついたかな?と思った瞬間、タッタタッタと複数の足音が聞こえ「周囲への警戒を怠るな!」「爆発に気をつけろ!」等の声が聞こえてくる。

「騒ぎが収まったのを見て、警察が踏み込んできちゃったみたいね…」

エマが眉を寄せ「さぁて、面倒な事になっちゃったわ?」と小首を傾げると、それぞれメンツを見回した。

そしてコクンと頷き、一人一人の顔を覗きこみながら「みんなも多分、聞いた事があると思うんだけどね?」と何だか呑気な声で語り始める。
その口調に引き込まれ、三人身を屈めるようにエマの顔を見返せば、「小学校の遠足で、全ての日程が終わってさぁ、解散という時に、先生は、こんな名台詞を口にしたものよ…」と、そこで一回息を吐いた。


「お家に帰るまでが 遠足です」


真顔で告げられた言葉に、何だか三人、言葉以上の重みを感じて、コクンと再び揃って頷く。

「ここで、誰か一人でも捕まって、興信所との繋がりを知られるとエマさんは、とっても、とっても困ります。 とはいえ、皆さん、もう、立派な大人! 自分の身は自分で何とかしつつ、ここで、先生は解散を宣言させていただきます。 あとは、それぞれ、無事に帰宅して、この遠足をきちんと終わらせてください」

そうまさに先生口調で言い終えると、据わった目で一声叫んだ。




「とっとと、ズラかるわよ!!」







さてはて、そんなこんなで、踏み込んできた警官の目を逃れるべく物陰に身を潜め、隙を見て何とか脱出を果たせた嵐。
派手な格好をしているせいで、目立つ事は避けられず、大層苦労させられた事にげんなりしながらも、これからK麒麟とかどうなるんだろうな?なんて、他人事のように考えてしまう。
屋上に顔の突き出した、虎杰の目撃証言もきっと、かなりの数出るだろうが、こういった事件は大体集団ヒステリーによる妄想と片がつけられるのが常だ。
とはいえ昨今は、予期せぬ事態を目にすると、携帯等で動画を収めているものがいたりするものだし、至る所に散らばるキメラ達の屍骸や、『背徳』にて眠ったままの今日の客達から、オークションの事やキメラの事が明るみになる日も近いだろうと推察する。
そうなれば、あのような馬鹿な組織が生まれる事もなくなるだろうし、K麒麟を完全に壊滅させられるだろうという事を考えると、嵐にしてみれば大変望ましい結末が待っているような気がした。



見上げれば、見事な月が出ていて、不意に、キメラ化した後の、虎杰の眼差しを思い出す。

そして、目の前で新で言ったたくさんのキメラや薔薇姫の事も。


ああ…と溜息を吐き出した。

余りに非日常をみたせいで、何だか、ふあふあと足取りは定まらず、竜子から受け取った、キャンディソードを胸に抱え込み、それからもう一度「ああ」と溜め息を吐く。


精一杯やった。


それだけは確かだった・



精一杯やった。


それ以上の自分はいないのだから、ここで決着にしようと思った。


それでも、虎杰の寂しい声は、いつまでも嵐の耳の奥底に木霊して、そんな自分を嵐は厭わしいとも、情けないとも思いつつ、こういう自分でいる事を、少し誇らしく思った。


「ありがとう」

虎杰が嵐に礼を言った。



あんなに孤独なお礼を嵐は生まれて初めて聞いたのだった。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3432/ デリク・オーロフ  / 男性 / 31歳 / 魔術師】
【3343/ 魏・幇禍 (ぎ・ふうか) / 男性 / 27歳 / 家庭教師・殺し屋】
【0086/ シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【7521/ 兎月原・正嗣 / 男性 / 33歳 / 出張ホスト兼経営者 】
【3678/ 舜・蘇鼓 (しゅん・すぅこ) / 男性 / 999歳 / 道端の弾き語り/中国妖怪 】
【4582/ 七城・曜 (ななしろ・ひかり)/ 女性 / 17歳 / 女子高生(極道陰陽師)】
【2380/ 向坂・嵐/ 男性 / 19歳 / バイク便ライダー】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
【3427/ ウラ・フレンツヒェン  / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【4236/ 水無瀬・燐 (みなせ・りん)  / 女性 / 13歳 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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お届けが大変遅くなって申し訳御座いませんでした!
前編・後編共にご参加頂けた事を心より感謝します。

それでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

momiziでした。