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<東京怪談・PCゲームノベル>


【玩具船の幽夢】



 夜はデッキで星空と海蛍をみて愉しむ。
 昼は艦内、かくれんぼと鬼ごっこ――オニは少女で、逃げるのは兵員、捕まったらおやつの時間。
「あー、みっけ! まだ隠れてた! いっただきまーす」
 デスクの下で震えていた若い士官があげる、嗚咽とも悲鳴とも言えない悲鳴がブリッジに響く。
「悪魔、くそ、悪夢だ」
「そう。 一〇、数えるよ?」
 彼の放つ銃が火の抜けた音を放つ。
 コトが終わる。
「ふう」
 ロルフィーネ・ヒルデブラントはゆっくりと口元を拭う。
「あ、また袖でふいちゃった。お姉ちゃん達に見られてたら叱られちゃう」
 銃を向けてきたヒトは食い尽くしたが、玩具の操作に重要そうなヒトは、残しておいた。
 残して、血を吸っておいた。
 操作に要らなそうな部位はつい、ところどころ、かじってしまったが。
 歯になにか引っかかる。
「ん?」
 取り出してみると、乗組員のエンゲージリング。
 しかし彼女にとってはただのアクセサリ。
「さっき食べた人のかな、ラッキー」
 嵌めてみた。が、ロルフィーネのどの指にも大きすぎる。
「ちぇ」
 残飯の赤い山に、放り捨てた。





 東京郊外。
 すでに空軍基地では警報が鳴り止み、サキが管制卓についていた。
 戦闘体制。
「反応、そのまま北上中。解析照合結果、以前交戦したステルス機内のものと同一です。敵性と断定します」
「あの時の、か」
 泰蔵は唇を噛んだ。
「……SCSに、目標位置にある艦船の種別を特定させろ。可能性のある国の軍隊、全てじゃ。機密情報への侵入を許可、さとられるな」
「了解――。SCSより回答。某国の最新イージスシステム搭載艦です。侵犯を繰り返しながら太平洋上を航行中。武装、しています」
「こりゃまずいな」
 シガリロが、ただ苦い。
 防霊空軍機の主任務は対空要撃であって、本格的な対地対艦装備は少ない。対艦ミサイルも抱けることは抱ける。が、レーダーレンジに圧倒的差がある。
 ニイツキのアクティヴステルスを出し惜しみせず使っても、懐までは飛び込めない。そもそもが妖魔群に対する非捕捉性を追及した機で、最新のSPYレーダーに捕まらずに近づく方法はない。
 ミサイルを放っても、準備万端で打ち落とされる可能性大だ。
 先制は不可能。
 敵の懐の中で、抗うしかない。
「今から単純なAIを組んで機体に積めるか?」
「可能ですが、そのプログラムで出撃は不可能です。パイロット不在では出力自体が発生しません。人格複製型でも躯体無しでは無理でしょう。機体が拒否すると思われます」
「そうじゃった」
 能力者に呼応する性能。
 悪く言えば依存する性能部分も裏目にでる。
「では一機ごとにワシと日野の機動に同調するよう命令。実機でデコイみたいなやり方になるが仕方ない、の。即、プリブリーフィングを開始する」





「ん、なあに?」
 割れるような警報に、操舵手と――正確には、操舵手で――遊んでいたロルフィーネは振り向いて眉をひそめる。
 なんとなくかぶってみた、少女には大きすぎる艦長帽が、ずる、と下がりそうになる。
 気分を出そうと片手にパイプ。
「レーダーに反応。アンノウン、4。高度2000、距離450Kから本艦にまっすぐ突き進んできます」
 なんだ、またいつものか。
 時折、戦闘機が来ては通信を呼びかけてくる。
 所属がどうだとか、脱走艦としてどうする、だとか。
 言うだけ言わせてからミサイルを撃ち、その悲鳴を伴奏に。
 先端に白手袋を挿した人骨を指揮棒にして、踊るように下僕に指示をだす。
 悲鳴が全て、途絶えるまで。
 こういう時の、お楽しみ。
 ……で。
「ねーねー、まだなにも言ってこないの? じゃこっちから話しかけてみてよ」
 通信士の頭をぽんぽんと叩く。
「応答、ありません」
「つまんないな、じゃあいいよ。そことそこの、やっちゃってー」
 かつてWCS、FCS士官であった『そことそこ』に座る下僕達が迎撃準備にはいる。
「4機捕捉」
「SM−6、スタンバイ。……敵編隊、射程内に入りました」
「毎回言うんだなー。うん、それでいいよ、それで。よーし、てーい!」
 垂直発射管、4基起動。
 蓋が上がると同時に、ブリッジ内まで轟音が響く。
 白い軌跡が四つ、空へ伸びていく。
「さぁって、どうなるかなっ」
 ロルフィーネは鼻歌まじりで複合ディスプレイ上に駆け寄る。
 スタンダードミサイルを示す点が向かう一方、敵は一直線に反転、上昇。
「なんだ〜、いままでのと一緒じゃないか。期待して損したな、ボク」
 興を失ったロルフィーネは、席に戻る。思わずあくびをひとつ。





「200kだ。そこまで近づいたら、敵の対空ミサイルが動こうと動くまいと、急上昇、反転離脱する」
「逃げるんスか?」
 と日野が半ば嬉しそうに聞く。
「いや。低空の目標が急上昇すれば、ミサイルはかなりの推力を浪費する。昇れるだけ昇ってパワーダイヴ、さらに反転、残りがまた低空から全速で進入」
「いや、その前に、ミサイルに追いつかれたら?」
「敵ミサイルがアクティヴ誘導に切り替わる瞬間を狙って、チャフ散布。それでも近接信管作動をいくらか遅らせられるか、程度だろうの」
「じゃ、ほぼ同時に第二波がきたら?」
「不発で無い限り、やられます」
 サキが平然と言い放つ。
「じゃ、そのあと、そのあとッスよ。進入中にもう一度撃たれたら?」
「同じくやられます」
「マジスか……で、俺らのFCSって対艦用じゃないんでしょ? 敵の一次要撃をかいくぐっても、近づけばCIWSの的。数秒でバラバラ?」
「最短で1.62秒です」
「答えになってないッス」
「プラス1秒程度の誤差は期待できます。もっとも敵艦にRAMが装備されていた場合、100%やられます」
「はあ、もう、いいっス……」
「そう落胆するもんじゃないぞ、日野」
 あの敵の戦い方には、本能のままの俊敏さと、それゆえの大きなムラがあった。
 そこを運良くつければ。





 飽きも手伝って少しうとうとしていたロルフィーネは、再度の警報で目を覚ます。
「またなんか、くるの?」
 目をこすりつつ、新しい贄か、と目を輝かすもつかの間。
「敵戦2、高度900。接近中」
「あれ? さっきの、か。二機、生きてるじゃないか、もぉっ」
 下僕の頭をこつんと殴る、身じろぎもしない。
「敵の対艦ミサイル2、雷跡2、本艦に接近中」
 よくわからないがおもしろい。
 思わず手をたたいて喜びそうになる。
「あは、退屈してたところだからちょうどいいよ。みんなー、なんとかしてみてっ」
 主の一声をうけて下僕達が動き始める。
「了解。ハード・ポート」
 左舷、水平発射管から短魚雷を連続発射。時限信管。
 向かってきた航空魚雷を、圧倒的爆圧で水中で潰す。
「すごい、すごい♪」
 水柱が上がるのをみながら思わず手を叩く。
「対艦ミサイルに126、70ミリ弾幕を展開」
「オッケー♪ あててよねっ」
 鋼弾の風雨が、対艦ミサイル2基へ向かって降り注ぐ。
 ほぼ同時に命中。
「あは、花火が二つ――う!?」
 衝撃。
 二機のイズナの放った、放っていたマイクロミサイルが、束になって艦の横腹に突き刺さった。





「相対距離5000まで接近。そこで全AAMの誘導モードを通常にもどす。魔性追尾、アクティヴ誘導」
「へ? なんでっスか?」
「艦が敵、としない。洋上数メートルに浮かぶ妖魔目標を狙うと思え。おのずと艦に当たる」
「なーる!」
「空対空攻撃なら、敵近接防衛システムの射程に入るまえにイズナのマイクロミサイルが撃てる」
「んで轟沈! ってわけスね! 心配して損したッス」
「む、いや――」
 後をついでサキが応じる。
「斉射とはいえ敵のダメコンを考えると、小型ミサイルでは貫通力が足りません」
「つー、ことは? どういうことスか」
「即離脱に転じても、ファランクスの射程内を横切ることになります」
「……喜んで損したっス」





 驚くよりも。
 色んな警報が鳴り響いていてわからない。
「ちょ、ちょっと」
 攻撃は、打ち落としたんじゃないの。
「ねー、どうなってるの?」
「左舷に被弾、多数。外殻損傷」
「左軸損傷」
「13から17ブロック浸水中」
「ダメコン開始」
「CIWS、作動開始」
 下僕達はみじろぎせず、与えられた仕事と報告を続ける。
 苛々がつのる。
「もー、おもちゃと沈んで濡れるなんて、やだからっ」
 ロルフィーネは下僕達にボートを搬出させる。
 軽快に階段を駆け上がって跳び乗った。
「ふう」
 要員を失った船は、ますます傾く。
 防衛システムはいまだ稼動中、20ミリをばら撒いている。
 一機のイズナが胴体から火を噴き、船の向こうに消える。
 仰ぐべき指示を失った乗員達は、甲板に立ち尽くしている。
 もういいや、帰ろう、あいつらがノロマだからこんな――。
 思考を遮る轟音。
「上……!」
 見覚えのある白鳥。
 その腹から、さらに白煙曳くミサイルが放たれる。
「またか、この、なんで」
 苛立ちと嫉みとともに、ロルフィーネは叫ぶ。
「なんでボクばっかり狙うのさっ!」
 鼻先に迫るミサイルレンズとにらみ合う。
 死は、自身を認識するいとまを存在者に与えないのか。
 虚無は、すぐにやってきた。





   高月・泰蔵、ボートへの直上攻撃後脱出、重傷。
   日野・ユウジ、フュエル引火。殉職。




 波音に聞こえたのは、衣擦れ。
 目覚めてここは、豪奢なベッドの中。
「んー……」
 スズメや鶏の声でなく、チキチキと鳴く蝙蝠の声。
 日没と共にロルフィーネの一日は始まる。
 夢か、いい夢だったのに。後味悪かったなぁ。
 と。歯牙を磨きながら思う。
「あ、じゃあ」
 紅い眼が薄闇で、ぱっと輝いた。
 じゃあ、後味のいい現実にすればいいんだ。
 オモチャの形は覚えている。
「ボク、ちょっとでかけてくるね」
 大きく変化した黒い羽の影が、鉛色の海を横切った。
 


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○登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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4936/ロルフィーネ・ヒルデブラント/女性/183歳/吸血魔導士、ヒルデブラント第十二夫人



NPC/高月・泰蔵
NPC/高月・サキ
NPC/日野・ユウジ
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☆ライター通信          
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以前お会いしましたが、ご挨拶できる機会を頂き嬉しく思います。
空軍側の手の内が分かっていては面白くないので、時系列をずらして作成してみました。
良い結果となっていれば幸いです。
スペックでは全くかなわず、人手不足に真剣に悩みました(汗
某システムに関しては情報源によって数値がバラバラで…
大穴があったら申し訳ありません。



ところどころ顔を出す写真屋さんとのコラボ。

フォトスタジオ・渡 【渡会 敦朗】
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=2362


あきしまいさむ 拝