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<ハロウィンカーニバル・PCゲームノベル>


In Wonderland ―first part―



「この壷、ですか」
 妖撃社、日本支部の支部長である葦原双羽はまじまじとテーブルの上の壷を見つめた。
「あい。これ、不思議な壷よ」
 金髪のカウボーイハットをかぶった少女がにっこり頷く。
「シャーリー……なんでこんなものを持ってきたの?」
「うぅん」
 と、彼女は顎に手を遣って首を傾げた。
「この壷を日本へ運べって言われたのよ。むむぅ、ボスからはそうとしか言われなかったよ」
「そ、そう」
 双羽は眉をひそめる。
「すいませ〜ん! 宅配便ですぅ〜!」
 ドアをばーんと元気よく開けて入ってきたサンタ娘・ステラは社員の机がある一角に現れた。彼女は机の上の壷を見て「はひ?」と首を傾げる。
「それですかぁ? 運ぶものって」
「あい。これ、より多くの能力者の手を渡らせるのが目的よ」
「はぅ? 見たことない社員さんですぅ」
「あいあい。ワタシ、アメリカから来たシャーリー言います。よろしくよ」
「……自己紹介しなくていいから。
 それよりステラ、この壷をシャーリーの言ったように色んな人の手に渡して」
「渡すだけでいいんですかぁ?」
 双羽に尋ねるステラは壷をまじまじと見つめる。
「ええ。この壷、ちょっと特殊でね。本社の社長がそれを望んでるの。悪いけど、やってもらっていいかしら?」
「いいですぅ。妖撃社さんには贔屓にしてもらってますぅ。大サービスですぅ〜! 配送料は安くしときますね!」
 ウィンクするステラは「よいしょ」と壷を持ち上げる。
「わはぁ。重いですぅ。
 で、これどんな壷なんですか?」
 ステラの質問に双羽は視線をシャーリーに向けた。そして嘆息する。
「それは届ければわかるわ」



「と言って渡されたものの……」
 ソリの上でステラは壷を覗き込む。
「へんてこりんな壷ですぅ。なんか昔のアニメに出てきそうな気色の悪いデザインですし……」
 穴の中を、目を細めて見る。見る。見る……。
 吸い付くように見てみたが、別に変化はなかった。
 右目の周りに壷のくちの形の痕をつけたステラは首を傾げてソリで空を飛んでいく。これを求める者の元へと……。

***

「あ、菊坂さん」
 買い物帰りの道、背後からそう声をかけられて振り向いた。
「ステラさん……。な、なんですかその手に持っている壷は」
「あ。これですかぁ? そうだ。ちょっと持ってみません?」
「持つだけ、ですか? 覗き込んだりは」
「しなくていいですよぉ。ただの壷ですぅ」
 ……ほんとかなぁ。
「いいじゃん。持つだけなんでしょ?」
 片手にエコバッグを持つ欠月の言葉に、静は渋々、壷を持ってみた。



 瞬きをして、静は「あれ?」と思う。眉をひそめた。
 見知らぬ景色だ。まるで昔のアニメーションのように、現実味のない光景。
「なに、ここ……? て、なにこの格好!」
 見下ろした静は軍服姿だ。オレンジと黒の、ハロウィンカラーの衣服。腕章にはハートが7つ描かれている。
 あっ。そういえば!
「欠月さんは!? 欠月さ……」
 いない。欠月の姿がない。さっきまですぐ横に居たのに!
 真っ青になる静は慌てて探し出す。
「欠月さーん!」
 声だけが無意味に響いた。
「通せんぼだぜぃ」
 じゃーんと道の先に登場した巨大なイモ虫に静は「ひっ」と小さく声をあげた。
 でかい。というか、キモい! なにその喋り!
「こっから先には通さないぜぃ。ぜぃぜぃ」
 ええ〜……?
 気持ち悪い。しかもくねくね動くな。
(ぼ、僕だって男だ。これくらい……!)
 立ち向かおうとした静の横から、誰かがすっと現れた。
 豪奢なハロウィンカラーのドレスだ。だがゴシックな感じにまとめてある。
 腰まで伸びたウェーブのついた髪と、整った顔立ち。今まで見た中で最高ランクに入る美人だった。
(え? だ、だれ?)
 彼女はキッと相手を見据えた。
「そこを退けなさい」
「嫌だぜぃ」
「……その気持ち悪い喋り方も、やめなさい」
 顔をしかめる少女が前に一歩出た。頭の上の王冠には、ハートの形の穴が開いている。もしかして……。
(僕が……トランプの兵隊で……)
 彼女は……。
(ハートのクィーン?)
 彼女はつかつかと近づき、手袋をはめた手でイモ虫の最後尾あたりを掴んだ。そのまま持ち上げる。なんという怪力だ!
「退けなさい、と言ってます!」
 力任せにイモ虫を投げた彼女は、投げ終わった後に手をパンパンと打ち合わせて埃を払った。
 静はハッと我に返り、慌てて少女に礼を述べる。
「あ、ありがとうございます……。あの、あなたは?」
 顔をあげてこちらをまっすぐ見た彼女は……横顔で見るより綺麗だった。静は唖然としてしまう。
(綺麗な方です……。この人もはぐれてしまったんでしょうか……?)
 少女は薄く微笑む。どこか儚げな笑みだ。
「私は遠逆月乃と申します」
「とおさか……?」
 欠月さんと同じ苗字だ。偶然……?
「僕は菊坂静です。よろしくお願いします」
「……あなたもここで迷子になった……。違います?」
「あ、はい。そうです。僕、たぶん一緒に来た人が居て……その人を探してるんです」
 ステラの性格を考えると……きっと欠月もここに居るはずだ。それに静が消えたなら、必ず追ってくるはず。
 月乃は軽く目を見開き、すぐに眉をさげた。
「まぁ……そうでしたか。それはお困りでしょう? 私も一緒に探します」
「えっ、本当ですか?」
「ええ。ここはどうやら迷路になっているようですし」
「迷路?」
「あれです」
 月乃が指差した先には巨大な壁がある。それと対になっているように、反対側にも。
「あれが壁のようになっているようです。この迷路を抜ければおそらく帰れるとは思うんですけど……それに」
「それに?」
「アリスを捕まえればいいというヒントもいただきました」
「やっぱりこの世界って!」
 不思議の国のアリスをモチーフにしたものなのか!?
 月乃や自分の衣服からなんとなく想像はしていたが……。ではこの世界のどこかにアリスが居るのだろう。
(人間だといいけど……)
 さっきのイモ虫みたいなのだったらどうしよう……。
「とにかく菊坂さんの探し人、早く見つけましょう」
「あ、はい」



「名前は欠月さん。僕の兄さんなんです」
 一緒に歩く静は、欠月のことを月乃に告げる。
「髪は白に近い灰色なんです。で、片目が紫なんですよね。あれ? そういえば月乃さんも片目が色違いなんですね」
「……これは」
 言い難そうな月乃の態度に静は慌ててしまう。
「あ、いいんです。言いたくない事を聞くつもりはありませんから」
「いえ、あの、そういうわけでは……」
 おっとりしている月乃の柔らかい口調と笑みに、静は数度瞬きをする。欠月とは真反対のタイプだが……嫌いではない。むしろ落ち着く。
「菊坂さんはお兄さんとはぐれてしまったんですね」
「……はい」
 しょんぼりする静に、月乃が慰めの言葉をかけてくる。
「大丈夫。必ず見つかりますよ」
「そうでしょうか……」
「はい。お兄さんも、きっと菊坂さんを心配して、探していらっしゃると思います」
 微笑む月乃の笑顔に、癒されてしまう。こんな女の子も居るのだ……。
「そうですよね。きっと欠月さんも僕を探して……」
「静君!」
 この声……!
 欠月は歩いていた道の先に立っている。その格好はイギリスの貴族のようだ。ステッキまで持っている。
(あれって……)
 帽子屋?
 ちょっと洒落た格好ではある。ハロウィン風にアレンジされた色合いのせいか、茶目っけが感じられた。
「良かったぁ……。
 って、その女」
 安堵した声から一変し、冷たくこちらを見てくる欠月。つかつかとこちらに近づき、じろじろと月乃を見た。
 月乃まで不快そうに欠月を見返している。欠月の態度に不愉快になってもおかしくない場面だ。
「か、欠月さん。こちらは月乃さんです。先ほど助けてもらって、そのまま一緒に欠月さんを探してもらって……」
 二人は対峙するように立ち、視線だけで火花を散らせている。こ、
「怖い……ですよ、お二人とも……」
 なぜ?
 静の頬をつぅ、と汗が流れ落ちていく。
 なんだが尋常な空気ではない。ぴりぴりしている。もしかして、知り合い?
(そういえば月乃さんの苗字……遠逆って……)
 やはり欠月と関わりがあるのだろうか。
「ムカつく」
 露骨な言い方をいきなり口から吐き出した欠月に、静は真っ青になった。
 こういう喋り方をする欠月は、止められない。
 月乃は目を細めた。
「私も、あなたのことは嫌いです」
 ええっ? と静が月乃を見た。一見、温和そうな月乃にもそういう感情があるのかと驚いたのだ。
 相手を嫌ってはいても口や態度にここまで露骨に出せそうなタイプではない。
 知り合いかどうかはわからないが……互いに嫌悪感を持っていることはわかった。どういう関係だろう?
 おろおろしてしまう静は、ぽつり、とそれを口に出した。
「もしかして……元、恋人……でしたか?」
 途端、二人の均衡が崩れる。欠月ががくっと項垂れたからだ。
「あのねえ静君。世にどれほど女がいようと、この女だけは恋人にしないよ。遠逆の女はね」
「私もあなたのような方は好きません。命令されても恋人など……」
 不愉快そうにする月乃に、欠月は不敵に笑う。
「さすが腐っても当主代理様だね」
「当主代理?」
 静が瞬きをする。遠逆の当主の代理に会うのは初めてだ。
 この少女が欠月に仕事をまわしている……? 欠月とそう歳は変わらないから、かなり若い代理だ。
(こんなに綺麗で……いい人で……強いのに……)
「こんな女に近づくといいことないよ、静君。そりゃまあ、身体つきはちょっとエロいけどね」
「なっ……!」
 月乃が頬を紅潮させる。静も驚いてしまった。欠月がはっきり言うものだから、つい、目を月乃の身体に走らせてしまう。
 言われてみれば彼女はドレスとはいえ、とてもバランスのとれたスタイルをしている。まだ若いが、女性として魅力的なのは納得できた。
「失礼な人ですね……!」
 月乃が屈辱に顔を歪める。美人が台無しだとは、このことだろう。
「菊坂さん、あなたのお兄さまではなかったのですか? この男は遠逆の者ですが」
「え? あ……えっと」
 血縁関係はない。だが静にとっては兄同然の存在なのだ。
 誰が見ても静と欠月が兄弟とは思わない。よくて……イトコだ。
「欠月さんの暴言には謝ります。そんなに悪い人では……」
 悪い人……では。
「ない、ですよ」
 一応、言ってみる。自分で言っておいて、なんだかむなしかった。欠月は敵には容赦はしない。極端な性格をしているため、敵対相手には悪魔にだってなるだろう。
「この男は性格が歪んでいます。先ほどの発言でわかりました」
「いや……その、これが素なんです」
 フォローする静だったが、欠月はにやにやと笑って月乃を挑発している。
 あぁもう、やめてくださいお願いだから。厄介になるから!
「僕にとっては兄のような人なので……。あの、」
「騙されています、あなたは」
 月乃の断言に静は唖然とした。欠月は肩をすくめる。
「ボクが静君を騙すだって? 人聞きが悪いなぁ。当主代理様は同族を悪し様に言って愉しいみたいだね」
「先に侮辱したのはあなたではないですか……!」
「え? そう?」
 とぼけてみせる欠月に、静は頭が痛くなってきた。あぁ、この二人って……。
(相性悪いんですね……)
 並んで立つと結構お似合いなのに……。というか、遠逆の人ってこんな美形だらけの集団なんだろうか?
「と、とにかく!」
 話が進まないので静が間に割り込んだ。
「ここから脱出しないと! だからケンカはやめましょう。今は」
「静君……そういえばここってどこ?」
「ここは迷路みたいになっているようです。で、アリスを見つけるといいらしいですけど」
「ふぅん。アリスねぇ……」
 想像する欠月がニコッと笑った。
「てことは、時計うさぎと一緒に居るってことかな」
「追いかけているっていうのも考えられますよね。それが迷路の脱出の手がかりになるんじゃないでしょうか」
「ふむふむ」
 頷く欠月は「よし!」と気合いの入った声を出した。
「じゃ、早速行こう! 壁にそって行けば迷路ってのは出口に出られるものなんだけど、あんなに大きくちゃダメだしね」
 静の手を掴んで歩き出そうとするので、慌てて止める。
「月乃さんも一緒に」
「なんで?」
「なんでって……このヒントは月乃さんからもらったんですよ?」
「私のことは気にしないでください。どうぞお二人で行ってください」
 にっこり微笑む月乃の笑顔がコワイ。
「いや、行きましょう、月乃さんも」
 ……前途多難の予感が、した。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5566/菊坂・静(きっさか・しずか)/男/15/高校生、「気狂い屋」】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/退魔士】
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、菊坂様。ライターのともやいずみです。
 不思議な迷宮へようこそ。月乃と欠月がお供となります。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。