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<東京怪談ノベル(シングル)>


 Behind closed doors(2)


 ひゅるり。
 壊れた窓からは、生温く頼りない風が吹いていた。身体を冷やす訳でもなく、肌触りが不愉快であった。
 高科瑞穂(たかしなみずほ)は口から血を吹き出した。
 身体中が痛い。床に何度も叩きつけられたせいだろうか。
 瑞穂はよだれの混じった血をとりあえず吐き出した。
 まとっていたメイド服が汗と水分を吸って邪魔だった。ニーソックスも汗を含んで気持ち悪い。瑞穂は仕方なくメイド服のフレアスカートをベリベリと引き裂いて破り捨てた。ミニスカートがマイクロミニになったが、別に隠れていない訳ではないので気にしない事にした。これで少しはまともに動けるであろう。
 身体はふらふらするが、スカートの風通りがよくなったせいで若干汗が引いた。汗が引いたら少しは身体が楽になった。
 瑞穂は再度構える。
対峙する鬼鮫の方はまだまだ余裕がありそうだ。この男、何度も首の骨を折っているのに、すぐに回復する。トロールの遺伝子か。厄介なものね。
 しかし、鬼鮫の方は余裕はあれど、さっきよりは攻撃が遅くなった。スカート引き裂いている間に攻撃を仕掛けてこなかったのが証拠だ。やはり骨の再生には時間がかかるのか?
 瑞穂はやはり首に的を絞った攻撃をする事にした。
「行くわよ!!」
 そのまま床を蹴って加速する。
 鬼鮫は拳を構え、懐に飛び込んできた瑞穂の顔面目掛けて拳を突き出した。
 瑞穂はそれを避け、鬼鮫の突き出した腕を取ってそのまま背負い投げをする。
 鬼鮫は受け身を取って対応し、身体をバネにして脚を蹴り上げた。
 瑞穂はそれを避けて跳躍。
 天井が近い。瑞穂は天井を蹴り上げてそのまま鬼鮫の首筋を蹴り上げる。
 またもゴキリと音がした。
 天井から降りた瑞穂は、なおも首を蹴り続けた。
 鬼鮫のサングラスが飛ぶ。瑞穂はそれを床と一緒に蹴って壊した。
 何度も何度もバキバキバキバキ音を立てて再生していく首。
 しつこい。
 瑞穂はなおも手刀で首を叩き付け続けていたら。


「それで終わりか?」


 首はあらぬ方向に曲がっていたが、なおも鬼鮫は冷静なままだった。
 サングラスが取れ、表情がはっきり見えるようになったが。
 鬼鮫はまるで無機質な顔をしていた。
「ひぃ……」
 瑞穂の背筋に冷たいものが走った。
 鬼鮫は首をギュリリリリと音を立てて正面に向きなおした。
 そのまま瑞穂の構える腕を引っ掴み、強く握った。


 ゴキュリリリリリリリ


「!! うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
 瑞穂は絶叫を上げる。
 それは、腕の骨の砕けた音。瑞穂の利き手は頼りなくぷらーんと垂れ落ちた。
 瑞穂は利き手を庇い、なおも体勢を整えようと構えるが、利き手を庇っているせいで、お世辞にも戦闘向きの体勢を取れているのは言えなかった。
 鬼鮫はそのまま間合いを詰め、瑞穂に容赦なく膝で蹴り上げた。
 瑞穂は利き手を庇っているためにまともに受け身が取れず、そのまま床に崩れ落ちた。
 鬼鮫はなおも瑞穂の髪を引っ掴んで彼女を叩き起こす。
 そのまま激しい顔面にビンタの応酬を繰り出した。
 瑞穂は何とか脚で床を蹴り上げて、鬼鮫から逃れようとするが、鬼鮫の力は強い。何とかもがいて彼の腕から脱出した時には長く綺麗な髪束がブチブチと抜け落ちた。
 そのまま難を逃れようとして、瑞穂は気がついた。
 自分は窓から随分と奥に追いやられた。この部屋は狭く、逃げれば逃げる程に壁に追い詰められていく。
 袋のネズミ。
 その言葉が瑞穂の頭をかすめた。
 瑞穂は、背後を確認した。
 壁。横を確認した。
 物置らしく適当に物が転がっていて、そのために道は多少狭くなっていた。
 天井は低く、この物の上を跳んで逃げるのは不可能だった。
 その刹那。


 ドゴォォォォォォォォンッッッ


 物を積んでいた物の層が崩れた。
 鬼鮫が崩したのである。
「つまらんな。もう逃げるのか?」
 鬼鮫のギョロリとした目を見た瞬間、瑞穂の身がすくんだ。
 駄目、逃げられない。
 もう瑞穂の頭の中には、「任務」と言う言葉は消えていた。


<続く>