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<東京怪談・PCゲームノベル>


 シスターに粛清を

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 私にとって、あなたがスベテ。
 私にとって、あなたはゼッタイ。
 誰にも邪魔はさせないわ。
 ねぇ、ダーリン。
 もっと食べて。私を食べて。
 骨も残さず、綺麗に食べて。
 気持ち良いの、最高よ。
 ねぇ、ダーリン。
 もっと食べて。私を食べて。
 骨も残さず、綺麗に食べて。
 美味しいでしょう?
 あなたの為の身体だもの。


「こりゃまた……気持ちわりー仕事だなー」
 書類を手に、ポリポリと頬を掻きながら苦笑する海斗。
 隣から書類を覗き込んだ藤二は、クックッと鼻で笑う。
「いや。穢れたシスターってのも、ソソるもんがあるぜ」
「うぇ〜〜〜。お前だけだって、そんなん……」
 ラビッツギルドへ舞い込んできた、一般任務。
 書類には『緊急』の印が押されている。
 任務内容は、至ってシンプル。

 悪魔に身を売る、シスターに粛清を。

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「姉ちゃん、だいじょぶか?」
 麻吉良の顔を覗き込み、不安気に見つめる海斗。
 フゥと息を吐き、麻吉良は微笑んで返す。
「うん。大丈夫」
 本当は。本当は、大丈夫なんかじゃない。
 麻吉良が強がっているのは明らかだ。
 彼女は、先ず『隠し事』が出来ない。
 どんなに偽っても、表に表情に出てしまう。
 どうしてだろう。どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。
 そんなに急いているわけじゃないのに、呼吸が乱れる。
 どうしてだろう。どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。
 理解できぬ呼吸の乱れに戸惑う麻吉良。
 そんな麻吉良を見やり、藤二は苦笑すると、彼女の背中をポンと叩いた。
 麻吉良の身体に異変が起きている。
 それは一目瞭然だ。
 けれど彼女が大丈夫だと強がる以上、頷いてやるのが務め。
 歩くこともままならなくなった時は、何も言わず抱き上げてやる。
 強がる麻吉良の横顔に、藤二はそう誓った。
 三人が向かっているのは、偏狭にある古びた教会。
 放置されて幾年月。
 風化が進んだ教会は、不気味な雰囲気を纏う。
 依頼書によると、その場にて、とあるシスターが儀式を行っているそうだ。
 任務の内容は、その儀式を中断させること。
 彼女が行っている儀式は黒魔術の一種で、
 悪魔を魔界から召喚し、自身に宿らせるというもの。
 禁術の一種であるその儀式の果てにあるのは、破滅と崩壊。
 信憑性を欠くが、とある神話では、
 この儀式によって、国が一つ滅んだと唱われている。
 ひっそりと執り行われる、闇の儀式。
 一体何故、シスターが悪魔に魂を売るような真似を。

 *

 私にとって、あなたがスベテ。
 私にとって、あなたはゼッタイ。
 誰にも邪魔はさせないわ。
 ねぇ、ダーリン。
 もっと食べて。私を食べて。
 骨も残さず、綺麗に食べて。
 気持ち良いの、最高よ。
 ねぇ、ダーリン。
 もっと食べて。私を食べて。
 骨も残さず、綺麗に食べて。
 美味しいでしょう?
 あなたの為の身体だもの。

 教会から響いてくる美しい声。
 だが、発している言葉は病んでいるとしか言いようがない。
 扉の前で、藤二は煙草を踏み消して笑う。
「羨ましいねぇ」
 即座に海斗は、藤二の言葉に反論した。
「どこがだよ。気持ちわりーっつーの」
「お前、本当わかってねぇな」
「何がだよっ」
「シスターだぞ? シスターが私を食べてって言ってんだぞ? ソソるじゃねぇか……」
「そそんねーよ。行くぞっ」
 ヤレヤレと肩を竦め、勢い良く扉を蹴り開けた海斗。
 響き渡る騒音に、美しい声がピタリと止まる。
 教会の中心部、黒い魔方陣の真ん中で跪く女性。
 彼女が、問題のシスターだろう。
 なるほど、確かに美しい。
 藤二がソソると言うのも頷けるような気がする。
「お前、何やってんの。それ、今すぐ止めろ」
 ビシッと指差して儀式の中断を求めた海斗。
 聞こえていないのか? シスターは呆然としている。
 俺に見惚れてるのかな。妄想にクックッと笑う藤二。
 そんな藤二に呆れ、強硬手段に出ようとする海斗。
 言って聞かないのなら、力ずくで止めるしかあるまい。
 腰元から魔銃を抜き、構えた。その時だった。
「やっと……やっと会えた……!」
 しばし呆然としていたシスターが幸せそうに微笑み、駆け寄ってくるではないか。
 え、マジで? マジで一目惚れ?
 いやいや、俺もね。キミに逢いたかったよ。
 一目見た瞬間から、思っていたんだ。
 キミとは、初めて会ったような気がしない……って、あれ?
 腕を広げて待っていた藤二が、肩透かしを食らう。
 まぁ、妄想だ。シスターが一目惚れなんぞ、するはずもない。
 藤二と海斗の視線を横切り、シスターは一目散に駆け寄った。
 シスターが駆け寄り抱きついたのは……麻吉良だ。
 無論、麻吉良はシスターと面識がない。初対面だ。
 どうして、こんな状況になっているのか。
 その理由と原因は、現在の麻吉良の『姿』にある。
 執り行われていた闇の儀式によって、
 教会は混沌の淀んだ空気に満ちている。
 普通の人間には、感じ取ることもままならないそれは、
 麻吉良の内に眠る『悪魔』の血を激しく脈打たせた。
 結果、本人の意思を他所に、麻吉良は魔人化を遂げてしまったのだ。
 異形なる姿を見たシスターは、儀式が成功したと思い込んでいる。
 麻吉良を、自分が召喚した悪魔だと勘違いしているのだ。
「逢いたかった。やっと、やっと逢えた……」
 ポロポロと涙を零して歓喜に震えるシスター。
 自身にしがみ付くシスターを見やり、麻吉良は目を伏せた。
 悪魔に魂を売る。
 シスターとして、あるまじき行為。
 それによって被害者が出るのなら、尚更。
 けれど、全てを否定することは出来ない。
 彼女の悪魔に対する気持ちもまた、愛の一種。
 麻吉良は、半身半魔の存在だ。完全なる『人間』ではない。
 けれど、そんな自分を忌み嫌ったことは一度もない。
 相容れぬ存在同士だったとしても。
 リスクを負うことを承知の上で、愛し合った。
 悪魔である母を、父は心から愛し抱いた。
 二人が想い合い、結ばれたからこそ、私が在る。
 蔑まれたことだろう。嘆かれたことだろう。
 けれど、二人は貫いた。想いを、愛を貫いた。
 だから私が在る。私は、彼等の愛が形となった存在なのだ。
 想うことに規制はない。規制なんて誰にも出来ない。
 例え愛する対象が、悪魔であったとしても。
 もしも、それを否定してしまえば。
 私は、私を否定してしまうことになる。
 だから、あなたを止めることはしない。
 愛し抜いて欲しいとすら思う。
 けれど。気付いて欲しいこともあるの。
 あなたの愛は確かなもの。それは認めるわ。
 でも、相手はどうかしら。
 本当に、心から幸福を感じていたかしら。
 魂を捧げて、食らわれて、そこに幸せを感じていたかしら。
 会った事も、話したこともない悪魔は、あなたを愛してくれていたかしら。
 恋愛は一人でするものじゃないと思うの。
 私自身、誇れるような恋愛をしたと言えはしないけれど。
 それでも、拙いけれど、恋愛の仕方は覚えたつもり。
 父と母のような愛し方には、まだ遠く及ばないけれど。
 思い返してみて。目を閉じて、思い返してみて。
 あなたは愛した。確かに愛した。
 相手は? 相手は、愛してくれた?
 目を伏せ、淡く優しく微笑み麻吉良はシスターを抱きしめた。
 諭すように、諭すように、包み込むように。

 *

 麻吉良の抱擁、腕の中で、シスターは眠りについた。
 失神に近いそれは、悪夢から醒めた証。
 その証拠に、シスターを覆っていた負の纏いが消えた。
 大事になる前に対処できた。任務は成功だ。
 教会から出ると、麻吉良の姿が『ヒト』へと戻る。
 藤二に背負われ、深い眠りの中に在るシスターを見やって微笑む麻吉良。
 良かった。気付くことが出来て、良かった。
 あのまま、儀式を続けていたならば。
 あのまま、愛し続けていたならば。
 貴女は全てを失い、絶望に打ちひしがれながら悪魔に食われただろう。
 自分を愛していない男に抱かれる、その喪失感を覚えただろう。
 微笑む麻吉良をジッと見やる海斗。
 視線に気付き振り返ると、海斗は神妙な面持ちで尋ねた。
「……姉ちゃんさ」
「うん?」
「こら」
 確認を取ろうとした海斗の背中をボスッと蹴る藤二。
「痛っ。何すんだよ!」
「お前は本当、わかってねぇな」
「何がだよっ」
「女心ってやつをよ」
 苦笑しながらチラリと麻吉良を見やる藤二。
 麻吉良は、二人に話していない。
 自身の身体に、悪魔の血が流れていることを。
 それ故に、海斗は麻吉良の魔人化を『能力』の一種だと思い込んでいた。
 けれど、先ほどの抱擁を見て、それは違うのではないかと感じた。
 シスターを抱きしめる麻吉良の表情が、優しさに満ちていたから。
 もしかして……と感じている海斗と異なり、藤二は早くから勘付いていた。
 麻吉良の身体には、何かが眠っているのだろうと。
 正体と事実に気付いたとて、何かが変わるわけでもない。
 海斗も藤二も、それをすんなりと受け入れる。
 否定もしないし、迫害なんてもってのほかだ。
 麻吉良は麻吉良。
 それ以外の、何者でもないのだから。
「腹へったなー。藤二、何か奢れよ」
「何で俺が奢んなきゃなんねぇんだ」
「一番年上だから」
「こういう時だけ、それ引っ張ってくるよな。お前は」
「ケーキがいいなー。俺。姉ちゃんは? 何食べたい?」
 満面の笑みを浮かべて尋ねてくる海斗。
 その表情に、満たされていく気持ち。
 幸福感にも似たその感覚に、麻吉良は微笑んだ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / ラビッツギルド・メンバー
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / ラビッツギルド・メンバー

 シナリオ参加ありがとうございます^^
 気に入って頂ければ幸いです。また、是非お越し下さいませ。
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 2008.10.10 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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