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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜お出かけしましょう〜】


 天気のいいとある日。買い物に出かけた街中で。
「やあ、奇遇だね、樋口さん」
「……ライルさん?」
 朗らかに声をかけてきたのは、それなりに見知った人物だった。
「うん、元気そうだね。ナギが心配してたから、会えてよかった」
 笑みを浮かべながら言われて、先日ナギと会ったときのことを思い出す。
 彼女が『呪具』と呼んだものによって生じた現象と、広がった光景。そして、――呪具に対して振るった『ちから』。
 包み込むような、そしてどこか泣きそうだったナギの笑顔。
(心配……してくれたんだ、ナギさん)
 その事実が嬉しかったけれど、自分自身の心が怖いと言った彼女が気がかりだった。告げられたときは自分のことでいっぱいいっぱいだったから深く考えることができなかったけれど、時間が経つごとにその言葉が真に示す意味が気にかかる。
 ナギにも何か、辛い『過去』があるのではないかと。
 深く沈みかけた真帆の思考を断ち切ったのは、唐突なライルの言葉だった。
「ところで、樋口さんはこれから暇?」
「え?」
「いや、暇ならナギが巻き込んじゃったお詫びでもしようかと思ったんだ。だから、暇かなって」
 軽い口調のライルに、真帆は予定を告げる。
「私これから買い物に行くんですけど、」
「ああ、それじゃ駄目か――」
「一緒に、来ますか?」
 悪戯な瞳で尋ねた真帆に、ライルはきょとんと一度瞬いて――、「是非」と笑ったのだった。

◇ ◆ ◇

 真帆が向かった先は、可愛らしい雑貨の並んだファンシーショップだった。
「何か欲しいものがあるの?」
「ナギさんに、ちょっとお礼というか、プレゼントを買おうと思って…」
「へえ、そうなんだ。ナギ、すごく喜ぶと思うよ。樋口さんが買ってくれたってだけでもね」
 ふわり、と優しげな笑みを向けられて胸中で驚く。これまで会った中で、彼がこんな風に笑ったことはあっただろうか。いつもどこか距離を置いたような、わずかに含みのある笑みを浮かべていたような気がするのだけど。
 変化を不思議に思いながら、彼が一体どこまで知っているか、それを知ることはできないだろうかとそっと窺う。
 彼の能力は詳しく知らないけれども、人や物の記憶を『辿る』能力だと聞いたし、今までの言動からするとナギと記憶を共有している、もしくはナギが見聞きしたことを同様に体験している節がある。
 彼は全て知っているのか、それとも全く知らないのか。どちらなのかは、外見からは窺い知れない。
 それについて言及はせず、真帆は気を取り直して雑貨を物色しつつ、ライルへと言葉をかけた。
「ライルさんも欲しいのがあったら、プレゼントしますよ?」
 楽しげにくすっと笑って告げた真帆に、ライルは意外そうに瞬いた。
「僕に? …いや、僕は何をしたわけでもないし、特に欲しい物もないからいいよ。そう考えてくれるだけで、十分」
「そんなこと言わずに。ほら、この髪留めとか似合いそうですよ?」
 言って、割とシンプルなビーズの髪留めを勧めてみる。恐らく女性向けを想定されているだろうそれは、しかしライルの金の髪にとても映えそうなデザインだった。
「そう? 髪留めとかあまり使わないから分からないけど、樋口さんが言うならそうなのかな」
 首を傾げるライルにまた笑って、真帆はナギのプレゼントを探す。
 ライルが言ったとおり、きっと彼女は何を贈っても喜んでくれるだろうと思うけれど、どうせなら彼女が最も喜ぶようなものを贈りたい。
 そうして店内を物色し――これだ!と思うものを見つけた。
 それは手乗りサイズの羊のぬいぐるみだった。ふわふわしていてとても可愛らしい。愛嬌のある表情をしていて、つぶらな瞳がいい感じだ。
 そのぬいぐるみと、ライルに勧めたビーズの髪留めを購入して、そして店を出る。
 外はもう夕焼けに染まっていた。オレンジの光が眼に眩しい。
 綺麗にラッピングされた2人分のプレゼントをライルに渡した後、真帆は彼を真正面から見つめた。
「呪具を使ってナギさんが何をするつもりだったのか、私には分かりませんけど……、ナギさんが危ないことしそうになったら、ちゃんと止めてくださいね」
 真剣な真帆の眼差しを受けて、ライルは微笑した。
「ごめんね、樋口さん。確約はできない。……僕とナギの目的は同じだから。対象が違うだけで、必要なものは同じだ。だから、その過程でナギが『危ないこと』をするとしても止められない。僕の『干渉力』も、弱まってるしね」
 そう告げたライルがどこか悲しげに見えて、真帆はそれ以上強く言うことも、その意味を問うこともできなかった。
 ただ、不気味なほど凪いでいるその碧い瞳を、見つめ返すことしかできなかった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6458/樋口・真帆(ひぐち・まほ)/女性/17歳/高校生/見習い魔女】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、樋口さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜お出かけしましょう〜」にご参加下さり有難うございました。

 ライルとのお買い物、どうだったでしょうか。
 色々気になりつつも聞けない…ということで、心の中で色々考えていただいたり。
 何だか終わりがちょっとシリアス目です…。ライルのせいですが。珍しく軽く流さなかったので、少しずつ心を開いている模様です。
  
 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。