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<ハロウィンカーニバル・PCゲームノベル>


In Wonderland ―latter part―



 迷い込んだハロウィン的な、不思議の国。
 探す相手はハートの女王、もしくはアリス?
 邪魔するものたちを見事突破し、元の世界に戻れるか……それは…………。

***

 アリスといえば――ウサギを追いかけてあちこちを走り回り、最後にはハートの女王に会うあの話だ。
 どこかにアリスが居て、彼女は彷徨っている?
 菊坂静が視線を前に定める。彼の前には、遠逆という苗字の二人が歩いていた。時々、視線を絡めては火花を散らす。
 右が月乃で、左が欠月だ。彼らはとても互いを……嫌い合っている。
 言い合いをするのはやめたようだ。各々で嫌悪の空気を出して睨み合っていた。
(どうしよう……)
 すごく居心地が悪い。
 とりあえず月乃には欠月を悪く言って欲しくない。
「あの……月乃さん」
 声をかけると彼女は勢いよくこちらを振り向いた。
「なんですか」
「…………」
 怖い。声が冷たい。
「あの……欠月さんは僕にとってたった一人の家族なんです。だから……家族を悪く言わないでください」
「…………」
 月乃の瞳が鋭くなる。冷や汗が出てしまうほどに、怖い。女の人は怒ったらすごく怖い。
「欠月さんが嫌なことを言ったのは謝ります。兄というのがおかしいといわれたら、返す言葉もないですが。
 ……でも、悪く言われると」
 胸元を少し、強く握り締めた。
「胸が……痛くなるんです、本当です」
「…………菊坂さん」
「ごめんなさい。守ってもらっているのにこんな生意気なことを言ってしまって……。
 あ、あと、もう一つごめんなさい! 欠月さんに紹介された時……まじまじと、体を見てしまって……。女の人をそういう風に見たらダメなのに……ご、ごめんなさい」
 真っ赤になって言う静を、彼女は奇妙な目で見てくる。
「謝ることないよ、静君」
 さらっと欠月が言ってきた。
「だってべつに下着とか見たわけじゃないんだしさぁ」
「欠月さん!」
 静が叫ぶが欠月は知らん顔だ。
 月乃は嘆息し、静のほうを肩越しに見る。
「あなたの気持ちはとてもよくわかりました。ですが、悪く言ったことは謝りません。
 それに、あなたが謝る筋合いではない。本人からの謝罪ではない以上、私は彼を許しません」
「そんな……」
「……あなたが彼をどう思っているかは問題ではありません。兄のように慕っているのもわかりました。
 けれど……あなたが彼を庇うのは、あなたが嫌な気分になるからなのですか?」
「っ」
 驚く静を、彼女は憐憫の目で見てきた。
「好意を少しでも持っている人を悪し様に言われるのが我慢ならない気持ちはわかります。私だって冷静にはいられないでしょう。
 でも、あなたは彼の悪いところを見て見ぬふりをしています」
「おいおい。あんまり静君をいじめないでくれる?」
「あなたに原因があるんです。自覚なさい」
 ぴしゃりと月乃に言われるが、欠月はたいして何も感じていないようだ。
 静は二人を見比べる。
 欠月は……静にとって大事なひとだ。大事な兄だ。けれども…………。
(守ってもらってばかりで……)
 月乃の言うことにも一理ある。静にとっては申し分のない欠月だが、彼は敵と認識した相手にはとても攻撃的になるのだ。
「静君」
「え?」
 欠月に声をかけられ、ハッと我に返った。
「あのさぁ、そんなに考え込むことないよ。この女だって遠逆の一員なんだし。こう見えても、この女もフツーじゃないんだからさ」
「…………」
 慰めてくれて、いるのだろうか?
 欠月は月乃を見遣る。だがすぐに二人は同時にそっぽを向いた。……本当に、嫌っているようだった。



「欠月さん、悪く言われても怒らないんですか?」
「ん?」
 こっそりと、小さな声で欠月に耳打ちすると彼は笑った。
 三人が目指すのはハートのクィーンの城だ。最終的に、アリスはあそこに行くと踏んでのことだった。
 月乃に散々言われたが、欠月は結局はケロっとしていて、気にしたふうはない。
「あぁ、あれね。べつに。気にしてないよ。本当のことだし」
「本当のことって……」
「自分のこと悪く言われても、べつに怒る道理はないでしょ」
「そ、そうですか?」
 悪く言われてカッとなったり、自嘲するようなことを欠月はしない。そう、彼は本気で怒ることが滅多にない。怒るフリはよくするが。
 不思議な人だと、改めて思う。
「自分の欠点を言われて逆上するようじゃ、まだまだだよね」
「そうですかね……。誰だって怒ると思いますけど」
「恥じているからこそ怒るわけでしょ。ボク、べつに自分の悪いところを恥じてないしね。
 それよりも早くアリスを見つけてここから帰りたいよ。あの女と一緒に居ると肩凝るしさぁ」
 静は随分と前を歩く月乃のほうを見遣った。彼女は邪魔者を排除しつつ、なにか焦っているように早歩きで進んでいる。
「……なんだか月乃さん、急いでますね」
「早く帰りたいんじゃないの? こーんなワケわかんない世界でアリスを探せとかさぁ」
「そういえば……月乃さんは誰に聞いたんでしょう? アリスを探せって」
「さあね。本人に訊いてみたら?」
 小さく笑う欠月が静の額を、人差し指で小突いた。
「なに。静君て、マジでああいうのがタイプなの?」
「えっ! そ、そんなことないですよ!」
 真っ赤になって焦ると欠月がくすくす笑う。
「ふつうだったら応援してあげるんだけどねぇ。相手がアレじゃあ、ちょっとさ」
「べつにそういうんじゃないですってば!」
「できればうちの一族じゃない人から、お嫁さんなり付き合う人なりを選んで欲しいなぁ」
「……欠月さん、僕に恋人できたら寂しくなるんじゃないですか?」
 逆襲のつもりで言うと、欠月はちょっと考えて「うーん」と唸った。
「キミが幸せなら、ボクも幸せだよ」

 広大な世界だ、と改めて静は思った。
 邪魔をしてくる者は多かったが、道は一本だし、迷うことはない。
 とにかく歩いて進むと、綺麗に整えられた庭が見えた。最初は庭だと気づかなかった。手入れをしているトランプ兵がいたので庭だと気づいただけだ。
 そいつらを倒して進むと城が見えた。あそこだ。あそこにアリスが居るかもしれない。いや、居なくてもあそこに来るはずだ。
 踏み込むと、すでに城では乱闘のあとが見えた。倒されているトランプ兵たちが山のように積み上げられている。
「だ、誰か来たんでしょうか?」
 戸惑う静を見遣り、月乃が怪訝そうにした。
 三人はさらに階段をあがり、奥へと進んだ。あちこちで倒れている兵の姿がうかがえる。
 やがて、重そうな両開きのドアを発見した。装飾も凝っていることから、ここが王の間らしいことがわかる。
 そのドアを押し開けた途端、イスが蹴飛ばされた音が響いた。驚いて見た先では、アリスであろう少女が玉座を破壊した光景があった。
 赤茶の髪の少女が苛立ったように眉を吊り上げている。月乃に引けをとらないほどの美少女だ。
 その傍には派手な衣装の少年と、ウサギの耳をつけた少女が居る。
(あの女の子……)
 なんだか見覚えがあるような、ないような……。
 誰だっけ?
「もしかして、あなたがアリス……?」
 月乃が呆然としたような声を出した。三人が一斉にこちらを振り向く。迫力があった。なにせ、少年のほうもアリスと同じように美貌を持っていたからだ。
 美貌の持ち主が四人も揃えばとんでもない迫力がある。静は恐々と全員を見回した。
 向こうは月乃を見て口を開く。
「ハートのクィーン?」
 アリスがにやり、と薄く笑うのが見えた。月乃と同じくらいの美少女でも、凶悪な笑みを浮かべればまったく印象が変わる。
 彼女は腕組みして、こちらを見下すように笑った。
「どこに隠れてたのかしら? あぁでも、見つかって良かった」
 極上の笑顔だが、背筋がゾッとしてしまう。アリスの彼女は腕を解き、ゆっくりとこちらに歩いてくる。その様子に、欠月は警戒して静を庇うように前に出た。
「あんたを倒せばこの世界から出れるのよね? やっと帰れる……!」
「? ちょっと待ってください。あなたを見つければ帰れると私は聞きました」
 月乃の言葉に彼女は足を止め、怪訝そうにして視線を連れに向けた。ウサギ少女と、おそらくはチェシャ猫であろう男に。
「どういうこと?」
「わ、わからないです、ヒナ先輩」
 おろおろする時計ウサギの少女はぶんぶんと手を振った。
 アリスは嫌味な笑みを零し、こちらに向けての歩みを再開する。
「まぁいいわ。あんたをぶちのめせば、あの鳥の言ってたことが本当かどうかわかるしね」
「やる気なら、応戦します」
 月乃が迎え撃つ気で姿勢を正す。
 どうしよう。静は困惑するしかない。どうなっているのかわからない。あちらの言っていることはなんなんだ?
 アリスは見た目より凶暴で、いきなりダッシュした。そして攻撃の態勢に入る。
 月乃が構えたのが見えた。静は止めようと手を伸ばす。
「静君!」
 そんな自分を止めようと、欠月が腕を引っ張った。
 刹那――――!




 は、とした静は瞬きをする。目の前には、ステラが居る。
「どうかしましたかぁ?」
「え?」
 きょとんとする静は、横の欠月を見た。彼も不思議そうに静を見ている。
「どうもありがとうございましたぁ」
 ステラはそう言って手を差し出してきた。なんのことかとうかがっていると、静は自分が何か手に持っていることに気づいた。ステラに渡された、あの怪しげな壷だ。
「? 菊坂さん、それ返してください」
「あ……うん。はい」
 静はのろのろと壷を渡す。受け取ったステラは笑顔で頭をさげると、「それでは〜」とソリに乗って上空へと舞い上がっていってしまった。
 さっきの出来事は……? まさか夢?
 呆然としていた静はもう一度、横の欠月を見遣る。
「どうしたの、ボーっとしちゃって。早く帰ろう。おなか空いたよ」
「……欠月さん、僕、さっきまでどこに?」
「どこって、どこにも行ってないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
 欠月はにっこり笑う。嘘は言っていないだろう。
「帰りましょうか、欠月さん」
「うん」
 静は歩き出す。欠月もそれに倣った。
「ほんとどうしたの? あの壷、なんかあった?」
 欠月の質問に静はちょっと考える。どう言えばいいだろう。たぶん、欠月さんは心配してる。
(……変な動揺しなきゃよかった)
 彼を心配させるのは本意ではない。
 たぶん夢だ。きっと。こっちが現実だ。
「あの壷を持ってた時、変な夢をみたんです」
「夢? でもあれを持ってたの、ほんの数秒だったけど」
「欠月さんも出てきたんですよ」
「えー?」
 驚く欠月に、静は笑ってみせる。どこから話そうか――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5566/菊坂・静(きっさか・しずか)/男/15/高校生、「気狂い屋」】
【6494/十種・巴(とぐさ・ともえ)/女/15/高校生、治癒術の術師】

NPC
【遠逆・月乃(とおさか・つきの)/女/17/退魔士】
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】
【遠逆・陽狩(とおさか・ひかる)/男/17/退魔士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、菊坂様。ライターのともやいずみです。
 不思議なハロウィンの夢、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。