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UNBONSOUVENIR
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「うわぁっ。駄目だよ、白桜っ! 正影も! 駄目だってばっ! あっ、あぁぁぁ〜!」
ガシャァンッ―
棚からスルリと抜けて落下したのは、珍妙な形をした顕微鏡。
バラバラになってしまった……。もはや原型を留めていない。
細かなパーツを拾いながら、雪穂は悪さをした二匹を叱りつける。
「まったくも〜! どうして邪魔するのさ〜」
主人に叱られたことで、シュンと落ち込んでしまった二匹。
滅多に叱られないが故に、かなりヘコんでいるようだ。
体を丸めて身を寄せ合い大人しくしている二匹を見て、
クスクス笑いながら、夏穂は書物の整理を再開した。
「遊んで欲しかったのよ。きっと。ふふっ」
「笑い事じゃないよ〜! 夏ちゃん、ちゃんと面倒見ててよ〜」
「そうは言ってもね。その子たちの主人は雪ちゃんだし」
「ここの掃除終わるまでは見ててくれるって約束したじゃん!」
「うん。でも、勝手にそっち行っちゃったんだもの」
「もぉ〜……どうすんのさぁ、これぇ。せっかく作ったのに〜……」
「まぁ、仕方ないじゃない。雪ちゃんなら、またすぐに作れるでしょ?」
「そうだけどさぁ〜。うぅ〜……」
雪穂と夏穂は今、自室にて荷物整理をしている。
二人に与えられた部屋は、ラビッツギルド五階の隅。
以前とは違い、二人で一部屋である。
とはいえ、二人で過ごすには申し分のない広さだ。
一応、中央には仕切りのような壁もあることだし。
必要な家具も一式揃っているし、何不自由のない生活が送れる。
けれど、せっかく与えられた自室だ。
自分の好きなものを並べて、好きなように部屋をアレンジしたい。
そう思うが故に、二人は午前中に買ってきた家具や人形を並べたりして、
部屋の模様替えを存分に楽しんでいた。
大方の模様替えは既に済んでおり、
今は、ことのついでに荷物整理をしているという状況だ。
雪穂は、赤くて可愛らしいお気に入りの棚に並ぶ、自作の魔法具の整理を。
夏穂は、白くて可愛らしいお気に入りの棚に並ぶ、書物の整理をしている。
二人が真剣に作業していたこともあって、
彼女らの傍にいる護獣たちは、放ったらかしにされているようで寂しかったのだろう。
まぁ、その気持ちをぶつけた結果、叱られてしまったわけだが。
すっかり大人しくなり、ベッドの上で丸くなっている二匹。
その姿に、雪穂は頬を膨らませつつ溜息を落とした。
ちょっとキツく言い過ぎたかもしれないと反省しているところもある。
それは、雪穂の表情を見れば一目瞭然だ。
すぐに仲直りするだろうけれど、何ともいじらしい光景。
もう何度も見てきた、その光景に夏穂は笑う。
「ふふっ。……あら?」
夏穂の作業がピタリと止まった。
どうしたの? と雪穂が訊ねると、夏穂は棚から古びたアルバムを取り出した。
棚の奥に横になって、他の書物に隠されていたアルバム。
黒い表紙には、魔法文字のようなものが刻まれている。
二人はすぐに思い出した。そのアルバムに、何が閉じ込められているかを。
「こんなところにあったのね」
「うっわぁ。懐かしいね〜」
パラパラとアルバムを捲りながら顔を寄せ合い笑う二人。
アルバムの中には、幼き日の雪穂と夏穂。
そして、彼女らを心から愛してくれた両親の姿があった。
「わぁ。これこれ! 覚えてる? 夏ちゃん」
「うん。もちろん」
「大変だったよね〜。いきなり爆発するんだもん」
「……パパは喜んでたけどね」
「あははっ。そうだっけ?」
アルバムに残されている一枚の写真を示して笑う雪穂。
示した写真には、真っ黒に焦げた大樹と、
その前でピースサインをしている幼き日の雪穂、
その隣で、嬉しそうに微笑んでいる父の姿があった。
幼き頃から、雪穂は魔法具の制作に没頭しており、
この日は、雨を降らせる不思議な杖を作った。
見ててね! と自信満々に杖を振った雪穂。
だが、残念なことに、その魔法具は失敗作だった。
杖から放たれた雷が、ズドンと大樹に落雷し、こんがりと焼いてしまったのだ。
雪穂に呼ばれて、現場で見物していた夏穂と母は、驚き腰を抜かした。
失敗ではあるものの、父は大喜び。
こんなに大きな雷を落とせるなんて! と手放しで雪穂を褒めた。
「あ……。こんなのもあったわね」
「あ〜! ママが撮ってたやつだね」
「気付かなかったのよね……。撮られてたの」
「夏ちゃん真剣だったからねぇ、いつも」
アルバムに残されている一枚の写真を見やって微笑む夏穂。
視線の先には、テーブルの上に並ぶカードと睨めっこする、幼き日の夏穂の姿があった。
現在はたまにしかやらないが、実は夏穂は、タロット占いが得意。
その的中率は見事なもので、かつて住んでいた町では、
夏穂の腕を知らぬ者はいないほどで、毎日頼まれて占いをしていた。
小さな子供から、しわしわのお爺さんまで、
老若男女問わず、夏穂の周りには、いつも笑顔が溢れていた。
必要とされ、その中心で遠慮がちに微笑む夏穂を見て、
母は、娘の内に眠る可能性に期待を寄せて見守っていた。
町で夏穂の占いが有名になっていったのには、
母が各所で娘自慢をしていたことも関与していたことだろう。
アルバムを捲り、刻まれている思い出ひとつひとつに微笑み合う二人。
二人の楽しそうな声に、ピタリと足を止めた人物がいた。
どこで買ってきたのか、巨大な林檎飴を舐めながら、
僅かに開いた扉の隙間から部屋を覗き込むのは、海斗だ。
思い出に浸っていることなんぞ知らぬ海斗は、
躊躇うことなく扉を開けて、二人の部屋へ入っていく。
「よー! 何してんの? 楽しそーだな」
「あ。海斗。ちょっとアルバムをね。見てたの」
「ほー。アルバム? どれどれ、見して見して」
「海斗、それ何〜? 美味しそうな匂いがするね」
「林檎飴。食う?」
「ちょっと食べる〜」
舐めていた林檎飴を雪穂に渡し、夏穂が持っているアルバムを覗き込む海斗。
幼き日の雪穂と夏穂の姿に、海斗はケラケラと笑った。
「ちっちぇー! 可愛いなー! 今もそんな変わんねーけどさ」
どこから見ても子供そのものな二人の姿を見るのは新鮮だ。
海斗は笑いながら、パラパラと勝手にアルバムを捲っていく。
半分ほど捲ったところで、海斗はピタリと動きを止め、ジッと雪穂と夏穂を見やる。
うん? と首を傾げる二人を見て、海斗は写真に写る人物を示しながら言った。
「お前らって、母親似なんだな。そっくりじゃん」
確かに、二人は母親に生き写しだ。
写真に写っている、彼女らの母は、とても綺麗で華のよう。
もう少し時を重ねて、大人になれば、彼女らも母のように美しく成長するだろう。
大好きな母に似ていると言われ、嬉しくないはずもない。
雪穂と夏穂は、顔を見合わせて少し恥ずかしそうに笑った。
もうすぐ最後のページというところで、また海斗の動きが止まる。
いや実は、最初から気にはなっていたんだ。
アルバムに残っている写真のあちこちに、海斗が首を傾げる理由がある。
それは、顔も体格も瓜二つな少年、二人だ。
その少年らもまた、雪穂や夏穂と同じ『思い出』の中にいる。
アルバムの中にある写真には、雪穂と夏穂、彼女らの父と母、
そして、この少年二人の姿しか確認できない。
「なぁ、もしかして、こいつら……」
並んで玩具で遊んでいる少年二人の写真を示して訊ねた海斗。
すると雪穂は、林檎飴を海斗に返しながら、サラリと言ってのけた。
「うん。双子だよ。僕と夏ちゃんの、お兄ちゃんだね」
「あ、兄貴!? 兄貴いたの!? つか、兄貴も双子っ!?」
林檎飴を受け取りながら、少々大袈裟に驚く海斗。
「話してなかったかしら……」
クスクス笑いながら、アルバムを閉じて言う夏穂。
まぁ、少し大袈裟とはいえ、海斗が驚くのも無理はない。
雪穂と夏穂は、あまり自分のことを話さない。
いや、あまり……というよりは、まったく話さない。
過去は過ぎたもので、戻ることなんて出来ない。
その少しばかり哲学的な考えもあってか、彼女らは過去を口にしない。
それ故に、二人はギルド内でも『謎の双子』と認識されている。
本人らは、隠しているつもりではなく、聞かれればそれなりに答える。
だが、聞いてはいけないことなのだろうと、誰もが勝手に解釈しており、
彼女らの過去を詮索するような人物はいなかったのだ。
海斗もその一人。気になることは、たくさんあるけれど、
がっついて聞くと、彼女らの機嫌を損ねてしまうのではと示唆していた。
双子の兄がいるという事実を聞いたことで、
抑えていた海斗の好奇心が、むくむくと膨れ上がる。
探るように訊ねてくる海斗に、雪穂と夏穂は笑いながら、
その一つ一つに、丁寧な言葉で返答していく。
すべてを教えるわけじゃない。
やっぱり、人には言えないことってあるのよ。
でもね、いつか。ここの皆には、いつか全てを話そうと思うよ。
うん。そうね。……思い出と触れ合ったことで、とても心が穏やかだわ。
悲しくなったり、寂しくなったり、切なくなったりなんてしないよねっ。
うん。あの頃と同じ気持ち。幸せだなって、思ってるわ。
「折角だから、紅茶でも飲みながら話しましょうか」
「あ、いいね。僕、レモンティー」
「うん。海斗は……?」
「俺、アップルティー!」
「……林檎飴、舐めてるのに? ふふっ」
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師
7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / ラビッツギルド・メンバー
シチュエーションノベル:ツインの執筆依頼ありがとうございました。
双子の兄がいるという事実を知り、海斗以上に驚きワクワクしているのは私です。
ノベルタイトル『UNBONSOUVENIR(アン・ボン・スヴニール)』は、
フランス語で、素敵な思い出・良き思い出といった意味合いとなります。
とても楽しく紡がせて頂きました。気に入って頂ければ幸いです。
最後のほうにある掛け合いのようなものは、
雪穂ちゃんと夏穂ちゃんのテレパシーのようなものです。
口にしていないので台詞としての紡ぎではありませんが、
ささやかに行われていた遣り取り…的なシーンで。
今後の展開が非常に楽しみになる依頼でした。
また、宜しくお願い致します。ありがとうございました。
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2008.10.14 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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