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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 東京カクレンボ

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「はぁ。なるほど。で、こいつらを探せと」
「はい……宜しく御願いします」
 ポリポリと頭を掻きながら、受け取った写真を見やる武彦。
 うむ。何とも見事に瓜二つで可憐な少女……が九人。
 まぁ、要するにアレだ。九つ子ってやつだ。
 いやいや。おかしいだろって。ありえないだろって。
 五つ子とかはさ、ごく稀に聞くよ?
 テレビとかで特番やってたりするしね?
 けど、お前……九人はないだろ、さすがに。
 そう、普通に考えれば、信じがたい話だ。
 けれど、紛れもなく、この少女らは同じ日に生を受けた。
 一体どうなってんだ。テレビ局にでも持っていけば、高値で売れるんじゃないだろうか。
 そう考えてしまうのも、またやむなきこと。
 けれど、武彦はその邪念にも似た考えを、すぐに止めた。
 この世に『ありえないこと』なんて存在しない。
 とか言うと少し哲学的で格好良いかもしれない。
 けれど、武彦が悟った理由は別にある。
 難しい言葉で説明する必要はない。
 写真を見れば、一目瞭然。
 そこに写る可愛らしい少女の頭には、角が生えているのだから。
 見やれば、依頼主である男……少女らの父親の頭にも立派な角。
 舞い込んで来た依頼の内容は、人探し。
 棲家を抜けて逃げ出し、東京各所に隠れている娘達を探して欲しいという内容。
 まったくもって、世も末だ。
 いよいよ、妖怪が興信所に出入りするようになったか。
 しかも御丁寧に、頭を下げて依頼してくるんだもんな。
 やれやれ、と肩を竦めつつ、ゆっくりと立ち上がる武彦。
「かくれんぼで、鬼が隠れるってのは、いかがなもんかね。ま、斬新だけどよ」

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「お兄さん。買って来ましたよ」
「おぅ。ご苦労さん」
 トテトテと駆け寄ってくる零が手に持っているのは、都内地図。
 できるだけ鮮明に細かく情報が掲載されたものを、と武彦は頼んだ。
 出発地点は、興信所前。依頼主は所内で待機している。
 勢い良く地図を広げ、同時に大きな溜息を落とす武彦。
 そりゃあ、ゲンナリするのも無理はない。
 都内のどこかに隠れてるという大きなヒントは良いとしても、規模がデカ過ぎる。
 何というスケールのデカい、かくれんぼだろうか……。
 見つけるべき標的は、妖怪。子鬼の妖怪である。 
 ということは、アレだ。いわゆる、心霊スポットに隠れている可能性が高いのではないか?
 確実にそうだとは言い切れないけれど、引かれ合うのは事実だ。
 本人らが意識していなくとも、足は勝手に居心地の良い場所へと向かうはず。
「つってもなぁ。意外と多いんだよな……スポット」
「年々増えてますよねぇ」
「ロクでもねぇ噂を流す馬鹿がいるからな」
「全部を回るのは難しいですよね」
「だな。ガセスポットもあるだろうし」
 依頼人は、この依頼に一つ条件というか警告を付加している。
 それは、日没まで発見しないとマズイことになるかもしれないというもの。
 子鬼とはいえ、少女らは立派な妖怪だ。月の光が妖怪にもたらす作用は恐ろしい。
 少女らが暴れ出してしまおうものなら……東京は大パニックに陥ってしまう。
 何とか、日没までに九人の子鬼を発見し捕まえなくては。
 しかし、どうしたものか。限られている時間が、焦りを増幅させていく。
 とりあえず、信憑性の高い有名スポットから行ってみるか。
 そう言って地図を丸めつつ、煙草を携帯灰皿に押しやってフゥと息を吐いた武彦。
 そんな武彦を発見し、一本先の通路でピタリと立ち止まった少年……鈴城・亮吾。
 駄菓子屋で買った、小さな綿飴に食いつきながら、亮吾は首を傾げた。
 武彦が溜息を落としているのは日常茶飯事だ。
 常に疲れている探偵さん。亮吾の武彦に対する印象は、そんな感じだ。
 別に嫌味で言っているわけではない。本当に、そう見えているだけ。
 煙草の吸い過ぎで体力が落ちているからなんじゃないかとも推測している。
 かったるそうにしている武彦は、懐に何かをしまった。
 何だろう。紙? 書類? それにしては、随分大きいな?
 隣にいる零は、武彦の背中をポンポンと叩いている。
 慰めているようにも見えるし、叱っているようにも見える。
 目から得た情報より、亮吾は何となく事態を把握した。
 よくある光景だ。もう、何度も目にしてきた光景だ。
 そう、あの溜息は、間違いなく……仕事と(いうか依頼)絡みによるものだろう。
 また何か変な仕事が入ったのかな? ほんと、草間さんも大変だよなぁ。
 くくっと笑いながら、武彦と零に歩み寄る亮吾。
 綺麗な桃色の綿飴を持って近づいて来る亮吾に、武彦は満面の笑みを浮かべた。
「どしたんすか。仕事っすかー?」
 食べかけの綿飴を零に差し出しながら笑って言ってみる。
 すると武彦は、ワザとらしくうな垂れて、一際大きな溜息を落とした。

「へぇ。なるほど。子鬼の九つ子ですか。ほんと、そっくりですね〜」
 写真に写る少女らを見やって感心している亮吾。
 どうしたんですか? と訊ねてきた亮吾に、武彦は事の詳細を説明した。
 ただ説明するだけならば、細かいところまで教える必要はない。
 子鬼を九匹捕まえなくちゃなんねぇんだ。と、それだけ伝えれば良い。
 けれど、武彦は、ウンザリするほど細かく説明した。
 探偵として、依頼の内容を第三者に話すのは、あまり好ましくない行為だ。
 すなわち、何を意味するかというと、だ。
「とまぁ、そういうわけなんだよ。亮吾くん」
 ガシッと肩を組んで、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた武彦。
 わかってます。わかってますって。協力しろと、そういうことですよね?
 手伝いますよ。めんどくさいとか言いませんって。
 声を掛けた時点で、手伝う気があるもんだと思ってくれて構わないんすよ。
 俺はね。他の奴も、そうだとは限らないっすけど。
 くくっと笑い、写真を返しながら頷いた亮吾。
 協力な助っ人を得て、武彦は大喜び。反して、零は不安そうに言った。
「亮吾さん。学校は……行かなくて大丈夫なんですか?」
「ん? あぁ、今日はテストでさ。午前中で終わってんの。帰り道だったんだよ」
「あ、そうなんですか」
「うん。んじゃ、早速探そうかっ! 時間もないことだし」

 *

 都内で有名な心霊スポット、トンネル・堂跡地・刑場跡地……。
 各所を見回るも、子鬼を発見することは出来ない。
 時刻は既に十六時を回っていた。正確には、十六時二十三分。
 季節は秋へと移り変わっている為、日没も早い。
 空は、鮮やかなオレンジ色に染まっている。
「やっべぇなぁ。間に合わないんじゃねぇか、これ……」
 先ほど、自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら言った武彦。
 隣にちょこんと座り、林檎ジュースを飲んでいる零にも疲れが見える。
 まぁ、無理もない。休みなく各所を回ってきたのに、一匹も見つけられずにいるのだから。
 サイダーを飲み干して、ぷはぁと息を吐いた亮吾。
 う〜ん。ちょっと甘く見てたかもしれないなぁ。
 鬼とは言え、子供なわけだし、すぐに見つけられるんじゃないかと思ってた。
 時間もないし……出し惜しんでる場合じゃないよね。
 何で、もっと早くやらないんだって怒られそうだけど……。
 クスリと笑い、鞄からノートパソコンを取り出した亮吾。
 今話題の、最新モデルだ。超薄型ボディに、驚嘆のハイスペック。
 デザインも斬新で、更に……。いやまぁ、パソコンの説明は置いといて、だ。
 カタカタとキーボードを叩き、作業を始めた亮吾。
 モニターには、暗号のような、英数字の羅列。
 何が何やらサッパリわからない武彦と零は、首を傾げ口を揃えて訊ねた。
 何をしているのかというと……ネットワークを利用した情報収集である。
 一般サイトは勿論、厳重にロックされた入場不可のサイトまで、
 亮吾の手に掛かれば、どこでもどこまででも潜っていくことが出来る。
 東京ってのは日本の首都なわけで。人口も多いわけっすよ。
 そん中を、何事もなく鬼が動き回るなんて不可能なんすよね、普通に。
 どこかしらで目撃されていたり、或いは、騒ぎになってたりするはず。
 人が多いってことは、情報が巡り回るのも早いってことっすから。
 笑いながら警戒なタッチでキーボードを叩いていく、亮吾のその姿。
 そんなことが出来るなら、どうして、もっと早く……。
 そう言いかけて、武彦は言葉を飲んだ。
 そうやって責めたところで、時間が戻るわけじゃない。
 それよりも、その方法で見つかる可能性が上がるのなら、おとなしく縋るべきだ。
 判断した武彦は、塀に凭れ掛かって、作業が終わるのを待つ。
「す、すごいですね。よくわからないですけど……」
「はは。そう?」
「何だか私、目が回りそうです。その画面を見てると」
「あははっ。あっ、草間さん。有力情報ゲットっす」
「マジで?」
「はい。五分前に渋谷で騒がれてますね。行ってみます?」
「おぅよ」

 とある情報サイトに書き込まれていた情報。
 タイトルは『季節はずれの節分』投稿者は不明。
 タイトルのとおり、渋谷にて子鬼が目撃されたようだ。
 皆、面白がって追いかけている状況が今も続いている模様。
 普段から人でごった返している渋谷は、いつにもまして大混雑。
 サイトの書き込みを見た野次馬が続々と集まってきているようだ。
「うぁちゃ〜。こりゃ大変っすね」
「くそ。邪魔くせぇな、こいつら……」
 邪魔なので排除しますと言わんばかりに冷たい形相で言った武彦。
 その表情からしても、そわそわと落ち着きない様子からしても、かなり焦っていることがわかる。
 確かに。急がないとマズイっすよね。もう日が落ちかけてきてますし。
 こんだけ大混雑してる中で、妖怪としての血が騒いで暴れられたら大変だ。
 うん、と頷き、懐から小さな鏡を取り出して、そこらじゅうに鏡の表を向ける亮吾。
 鏡は珍妙な形をしており、両面共にミラーが張られている。
 また何を始めたのかと訊ねる武彦に、亮吾は笑いながら説明した。
 実際、この鏡はあまり意味のあるものではなくて。
 言うなれば、自分の能力を解放する『繋ぎ』のようなもの。
 表側が受け止めた光は、逆側(裏)のミラーから反射するように出現し、
 その光を、まっすぐダイレクトに亮吾の目へと送る。
 光があれば、どこまでも、どこまでも深く検索できる能力。
 鏡に映りこんだ映像の、その細部、更には映らない部分までも解析。
 自分の方を向いているミラーに、あの写真をかざせば、
 検索対象として鏡に記憶され、それを目標に定めることも可能だ。
「……便利な能力だな。それ。俺も欲しいわ」
 感心している武彦に笑いつつ捜索を続ける亮吾。
 だが、この能力は光がなければ発動させることが出来ない。
 奇しくも、依頼解決のタイムリミットと、この能力のタイムリミットは同じということである。
 しばらく捜索を続け、十五分ほどが経過したときだった。
 鏡を懐にしまい、亮吾は、くくっと笑って言う。
「みーつけたっ!」
「マジで!? どこだ!?」
「渋谷駅にあるゴミ箱の中に隠れてますね。行きましょう」
「……ご、ゴミ箱?」


 渋谷駅。その隅にあるゴミ箱。
 取り囲むようにして立ち、腕を組んで不敵に笑う三人。
 もう逃げ場はない。おそらく、子鬼たちも覚悟を決めているのだろう。
 取り囲まれていることを知ってか、暴れる様子も逃げる様子もない。
 よっしゃ、と腕をまくり、ゴミ箱の蓋を勢い良く避ける武彦。
「ようやく見つけたぞ、このやろうめがっ……って、おい」
 ガクンと肩を落として苦笑した武彦。脱力の類である。
 ゴミ箱の中に、確かにいた。子鬼はいた。
 ありがたいことに、九匹纏めて重なり合うようにして入っていた。
 だが、これはどういうことだ。まるで……まるで子猫ではないか。
 発見した子鬼たちは、子猫と同じくらいのサイズだった。非常に小柄だ。
 写真を見るからに、人間でいうところの幼稚園児くらいだと思っていたのだが。
 かなり接近して撮った写真だったということか……?
 何か仕掛けがあるのか? って、トリックアートじゃあるまいし……。
「ふふふ。可愛いですね」
「……そうか?」
 微笑む零に呆れつつ、子鬼たちを抱き上げていく武彦。
 まるで、ぬいぐるみのようだ……子鬼たちは無抵抗。
 武彦に抱っこされながら、見つかっちゃったね! と笑っている。
 キャッキャと騒ぐ子鬼達に、うるさいと文句を言いながら、興信所へと戻る。
 その姿が、まるで父親のようで。亮吾はケラケラと笑った。
「亮吾」
 歩きながら、武彦が名前を呼ぶ。
 はい? と首を傾げると、武彦は心からの感謝を述べた。
「ありがとな。お前がいなかったら、どうなってたことか……」
「はは。気にしなくていいっすよ」
「お前、時間大丈夫か? 親御さん心配してんじゃねぇか?」
「草間さん。今時、夕方五時やそこらに家に帰る中学生なんて、いないっすよ」
「そうか。そうなのか……」
 なるほど、と納得して頷く武彦。
 いやまぁ、おとなしく真っ直ぐ家に帰る中学生もいるけれども。
 嘘ではないし、というか寧ろ正解だと思うし。いいか。
 ゆっくりと日が沈み、徐々に暗くなっていく東京。
 長く伸びる影に笑いながら、零は、夕飯ご馳走しますよ? と微笑んだ。
 そだね。零ちゃんのメシは絶品だから、是非とも、ご馳走になりたいな。
 でも、ご飯の前に、ひとつ食べたいものがあるんすよ。草間さん。
「草間さん。俺、クレープ食べたいんすけど」
「くれーぷぅ?」
「はい。手伝った御礼に、ご馳走して下さいよ」
「……お前って、意外とちゃっかりしてるよな。そういうところ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7266 / 鈴城・亮吾 / ♂ / 14歳 / 半分人間半分精霊の中学生
 NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長
 NPC / 草間・零 / ♀ / ??歳 / 武彦の妹

 シナリオ『東京カクレンボ』への御参加、ありがとうございます。
 参加者がお一人様だけでしたので、個別納品のような形となっております。
 元気いっぱいで可愛くて、でもヤルときはヤル!
 そんなPCさんの姿を描けていれば良いなと思います^^ PCさんの
 口調など、少し趣味に走っ…いえ、弄っている部分があるかもですが、ご愛嬌…。
 奔放かつ的確でワクワクするプレイングに、楽しませて頂きました。
 気に入って頂ければ幸いです。また、宜しく御願いします。
 シナリオ参加、ありがとうございましたっ。
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 2008.10.15 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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