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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 二枚貝の悲劇 +



「じゃあ今日はこの部屋を掃除しよう」
「はい!」


 シリューナ・リュクテイアはそう言いながら魔法薬などの実験用に異空間状態にしてある部屋の扉を開く。
 ファルス・ティレイラは元気良く返事をするとその後ろをついていった。
 二人とも長く伸ばした見事な黒髪を背で揺らしながら室内に入れば、そこには何故か巨大な二枚貝がドンッと居座っているではないか。
 互いに顔を見合わせながら何故こんなものが部屋にあるのか分からず首を傾げる。部屋の持ち主であるシリューナも人が飲み込めそうなほど巨大な二枚貝など作った覚えがなく、ただただ疑問を浮かべるばかり。


「……まあいい。恐らく実験中の魔法薬の何かが影響したのだろう。処分するのも手間だし、先に他を片付けてしまおうか」
「は、はい! じゃあ私はこっちの本棚を片しますねっ!」


 害があるわけではなさそうなので先に部屋の片づけをしてしまおうと二人は結論付ける。
 彼女達は手分けして実験に使った器具や書籍をてきぱきと片付けていく。中央に置かれた二枚貝が邪魔だと時々感じるも最後に部屋から出して捨ててしまえば問題ないだろうと、そう考えて。
 やがて貝以外のものが全て片付け終え、綺麗な部屋となった。
 ティレイラはふぅーと息を吐き出しながら額の汗を拭う。シリューナは部屋の内部をもう一度見渡し、深く頷いた。


「よし、こんなものでいいだろう。私はティータイムの用意をしてくるか」
「じゃあ私はこのでっかい貝をどうにかしてみますね」
「部屋の外に出しておいてくれたら後は私がどうにかする。くれぐれも無理はしないようにな」
「分かりましたっ!」


 シリューナはティレイラに優しい声を掛けながらお茶の用意をしに外へと出て行く。
 それを見送ったティレイラはゆっくり振り返り背後の二枚貝を見やった。
 巨大な二枚貝はぴったりとその口を閉じ、いまだ沈黙を貫いている。表面をコン、と叩いてみるが開く様子はない。指で波型の口をなぞってみても当然ながら貝が笑うこともない。
 興味が湧いたティレイラは手を沿え力を込め上下に押した――――が。


「きゃああああッ!!」


 突然その貝は大きく口を開いてしまった。
 ティレイラはバランスを崩しまるで巨大貝に飲み込まれるかのように中へと転がり込んでしまう。幸い身の部分がクッションになり大きな怪我はないものの、両足を外に残したまま体を突っ込んでいる姿は中々間抜けなものである。


「い、いて、いててて――、よ、よっと! ……お、起き上がれない」


 身体を変に捻ってしまっているようでティレイラは間抜けにもじたばたと足を動かすことしか出来ない。
 仕方なく一旦足も中に入れ体勢を変えてから外に出ようとすると、貝の本能かそれとも刺激を与えられたせいか次第に貝はその口を閉じ始めてしまった。
 これにはティレイラも慌てふためきながら外に出ようと懸命に身体を伸ばす。
 だが足を殻に突っぱねて蹴っているはずなのに自分の身体が次第に重くなっていく。貝の身が蠢きじわじわと彼女自身を身の内に飲み込んで動けなくしていっているのだ。
 ぬるっとした感触が身を襲い、彼女は鳥肌を立てる。


「っ、ぃや、うそ、お姉さま、お姉さまぁあー!! 助けて、たす、たすけっ……――!」


 懸命にシリューナに助けてもらおうと声を張り上げる。
 だが貝の殻の影響で外に漏れる声はとても小さい。そうしている間にも筋肉は固まっていき、やがて貝から聞こえる悲鳴は途切れてしまった。


「ティレ、なんだ今の悲鳴は……!」


 シリューナが異変に気付いて駆けつけた時にはもうすでに彼女は動くことが出来ないで居た。
 固く閉じられた貝の口を撫で、次に魔法を使って貝を破壊する。欠片がぱらぱらと零れ落ち、次第に中の様子を見せた。そしてシリューナがゆっくりと両手で貝をこじ開ければ、中にいたのは。


「これは……ティレ、か」


 白く固まった少女の姿、その顔は恐怖に歪んでいた。黒く美しい黒髪も今はもう真っ白だ。
 シリューナはすぐさまそれが封印の一種だと気が付く。封印の魔力が篭った真珠層がティレイラを飲み込み、彼女を真珠の像に変えてしまったのだと。
 正体が分かったシリューナはこれならばすぐに解くことが出来ると判断し、ほっと息を吐く。


「本当にお前はもう……飽きないな」


 次第に可笑しくなりシリューナはぷっと息を漏らす。
 彼女はティレイラの硬い頬に手を伸ばし親指で撫でる。いつものような弾力はないが、これはこれでティレイラの魅力が詰まっていて可愛らしい。
 しばらくはオブジェとして堪能しようとシリューナはもう一方の手も頬に沿え、両手で愛しげにティレイラの頬を包み込む。
 シリューナはティレイラの像の出来栄えに自身の心が満たされていくのを感じた。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3785 / シリューナ・リュクテイア / 女 / 212歳 / 魔法薬屋】
【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / フリーター(なんでも屋)】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座いました!
 貝に飲み込まれる少女……想像すると貝がとんでもないでかさですね(笑)さぞかし掃除の時は邪魔だったんじゃないかなと思っております。
 いつもながら楽しいプレイング有難う御座いますv楽しく書かせて頂きました!