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<東京怪談・PCゲームノベル>


返魂の姿見

●誘導
 取材を終え、週刊民衆編集部に戻って早く記事作成に取り掛かろうとした来生・十四郎(きすぎ・としろう)は、自分が何かの陰にさえぎられていることに気づいて足を止めた。
 後ろを振り返ると、そこには一軒の古びた骨董品店のような建物が。
「こんなところに、いつの間に店ができたんだ?」
 そこは、昨日までは空き地だった場所だ。その店は、幻のように突然現れた……ように思えた。
 そう呟きながら、十四郎は店のショーウィンドウに展示されているある商品に釘付けに。
 それは、かなりの年代物と思われる古びた姿見だった。
「この鏡は、一体……」
 じっと姿見を見ていると店の引き戸が開き、何者かが十四郎に声をかけた。
「当店に何か御用でしょうか?」
 十四郎に声をかけたのは、長身、長髪、中性的な紫の瞳の青年。
「いや。この鏡が気になってな」
「そうですか。外は寒いでしょう? 中でごゆっくりご覧ください」
 編集部に戻らねぇと、と考えたが、姿見がどうしてでも気になって仕方なかった十四郎は、青年の言葉に甘えて店内で見ることにした。

●姿見
「ショーウィンドウに飾ってあるあの鏡だが、ありゃ何だ?」
 那智に淹れてもらったコーヒーを一口飲んだ後、十四郎は気になっていた鏡のことを訪ねた。
「あれですか? 『返魂の姿見』という商品です。午前0時に、お亡くなりになった大切な方、可愛がっていたペット等と会話ができるものです」
「死んだ人間と話ができるだぁ!? マジか、それ!」
「はい、本当です。午前0時に付属品の線香を焚いている間だけですが、お亡くなりになった方と話ができます。会いたいという気持ちが強ければ強いほど、その方の姿ははっきりと姿見に映ります」
 部屋を暗くしないと効果はありませんが……と説明する那智の話は、嘘ではなく本当のことだと直感で判断した十四郎は、その姿見を貸してくれと交渉した。
「ええ、構いませんよ。見たところ、あなたはお仕事の途中で当店に寄られたようですね。お仕事が終わりましたら、もう一度当店にお越しください。お貸しできるよう、準備しておきますので」
 頼んだぜ! とコーヒーをご馳走になった礼を言った後、十四郎は急いで週刊民衆編集部に戻った。

「あの方の思いは、今までのお客様よりかなり強いようですね。会いたい方と話ができることをお祈りしましょうか」
 そう言うと、那智は搬送準備に取り掛かった。

●搬送
 夜8時過ぎ、仕事を終えた十四郎が『幽玄堂』に駆けつけて来た。
 ここまで走ってきたので、肩で息をしながら「あれは……どうなった……?」と那智に訊ねた。
「姿見、ですね? 搬送できるよう、ご用意してあります。付属品の線香は同封しておきましたので」
「あ……ありがとよ……。早速、持ってきてくれ……」
 その状態では無理です、と那智は呼吸が整うまで休憩するよう勧めた。息切れ状態で運ぶと、梱包してあるとはいえ姿見が割れてしまう可能性があるからだ。
 少し休憩したら楽になったのか、十四郎は立ち上がり、姿見を抱えて持って帰ろうとした。
「それじゃ、これ借りてくぜ」
「どうぞ。束の間の大切な方との出会い、お祈りしております」
 大切な人じゃねぇけどな……と、心の中で十四郎は呟いた。

 僅かな街灯が点いている道を慎重に歩きつつ、十四郎は丁重に姿見を運んだ。
「俺が会いたいのは、大切な人じゃねぇ。だが、どうしてでもあいつに会って聞きたいことがあるんだ」
 彼がそこまで『会いたい』と願う人物とは、一体誰なのだろうか……。

 その頃、店仕舞いをしていた那智は何かを感じ取った。
 悲しみと怒り、そして思慕が入り混じった何かを。
「これは、あの方の思いなのかもしれませんね。会いたくないけど会いたい、慕っているのに、その気持ちを気づいてもらえない悲しさ。姿見で会いたい方に会った時、あの方の感情はどうなるのでしょう……」
 満天の星空を見上げながら、那智は十四郎の心配をした。

●再会
 十四郎は自宅に辿り着くと、姿見の梱包を解いた。
「鏡なのに、俺の姿が映ってねぇ。これ、不良品じゃねぇのか?」
 同封されていた線香が入った袋には、メモが添えられていた。
『この姿見は、午前0時に部屋を暗くし、線香を焚いてからご使用ください。用法をひとつでも間違えますと、会いたい方に会えません』
 現在の時刻、午後10時55分。午前0時までにはまだ時間がある。
「それまで待てってことか……」
 テーブルの灰皿を自分のもとに引き寄せると、時間潰しに喫煙を始めた。
(「あともう少しで、あいつに会える……」)
 十四郎の気持ちは、とても複雑だった。

 午前0時5分前。
 十四郎は部屋を暗くし、0時になるまで待ち、時間になったらライターで線香に火をつけ、灰皿に置いた。
 すると、何も映らないはずの姿見に何者かの姿が映し出された。
「親父……」
 十四郎が会いたいと願った人物は、家事で死亡した城東大学生物工学部の研究員だった父親。
 彼は父親を憎んでいたが、その反面、息子として認めてもらいたいと思う気持ちが強かった。
「よう、クソ親父」
 憎まれ口を叩くが、姿見に映った父親は何も言わない。
「奇妙奇天烈な店でこの姿見を借りてまで、わざわざあんたに会いたいと思ったのにはワケがある。これを見な」
 そう言って姿見に突きつけたのは、11年前の夏、家族全員で行った海辺の旅行の記念写真だった。家は燃え尽きたが、この写真だけ唯一燃えずに残っていたのを焼け跡から親戚が発見し、保管していた。
 最近になって押入れから出て来たというので、親戚は、唯一の生き残りである十四郎に手渡した。
 旅行の目的は、多忙であった父なりの『家族としての親睦を深めるため』という家族サービスだっのだろうが、それにしては、普通の家族旅行にしてはどこかおかしく思え、十四郎を見る目が他人を見るような感じであったということを今でも覚えている。

●詰問
 父は語りたがらないと予測したので、事前に用意した戸籍の写し、父の元同僚や親類、自分が生まれた城東大学付属病院の当時の産婦人科長に聞き込んだ『四々季』という人物に関する話を十四郎は話し始めた。
「戸籍にも、病院の記録にも『四々季』という名前に該当する奴は、誰一人として存在しなかった。あんたには愛人はいなかったよな? じゃあこいつは誰だ」
 父親は何も語らなかったが、十四郎は時間が許す限り問い詰めた。
 戸籍謄本には、自分の名前が明記されていることを突きつけ、何故、四々季という奴が関連するということを。
「あの日の家族旅行は『四々季』って奴の存在を確かめるためか? そいつは……そいつは俺とどういう関係があるんだ! 答えやがれ!」
 十四郎の口調は、次第に荒々しいものとなった。

 線香が燃え尽き、そろそろ時間が尽きようとしていた頃、ようやく父親が姿見越しに話し始めた。
「四々季とは、おまえであって、おまえでない者。私より、お前の身近にいる者の方が良く知っているはずだ」
「待て! それはどういう……!」
 問いただそうとした瞬間、姿見には何も映らなくなり、線香は燃え尽きていた。
 線香が燃え尽きる40分間で、謎を解明するのは無理だったのだろうか……。
「俺は諦めない。何度でも、親父を問い詰めてやる!

●返却
 翌日。
 十四郎は丁寧に姿見を梱包した後、歩いて『幽玄堂』を訪れた。
「いかがでしたか? お会いしたい方に会えましたか?」
 微笑を浮かべながら、那智が姿見の感想を伺った。
「なあ、この鏡だが何度でも借りられるのか?」
 十四郎の突然の質問に、那智は微笑を崩さず「はい。あなたがお望みであれば」と答えた。
「他のお客様が貸し出しをご希望された時は順番待ちとなりますが……」
「それでも構わん! もう一度、あいつと話がしたい!」

 ――この方にとって、よほど重要な鍵を握る方のようですね……。

「姿見をお借りしたい場合は、こちらにご連絡ください。私の携帯番号です」
 那智はカウンターにあるメモ帳とペンを取り出すと、サラサラと携帯の番号を書き、十四郎に手渡した。
「私が出なくても、留守電機能がついていますので」
「悪いな。それじゃ、俺はこれから仕事に行くんで」
「お気をつけて」
 十四郎の走る後姿を見つめながら、那智は、彼はまた借りに来ると確信した。

「ご自分の納得するお答えが見つかるまで、何度でも借りにきてださいね。お待ちしておりますので……」

 そろそろ開店準備をしないといけませんねぇ、と、那智は店内に戻った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0883 / 来生・十四郎 / 男性 / 28歳 / 五流雑誌「週刊民衆」記者

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■         ライター通信          ■
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>来生・十四郎様

ご無沙汰しております、氷邑 凍矢です。
このたびは『返魂の姿見』にご参加くださり、まことにありがとうございました。
お届けするのが遅れまして、大変申し訳ございませんでした。

限られた時間でのお父様との対話でしたが、いかがでしたでしょうか?
最後は、謎を残したままお父様の姿が消えた、という演出にしてみました。
十四郎様の性格からすると、謎が明らかになるまで何度でも問いただすだろうと
思い、また姿見を借りたいという結末にしてみました。

リテイクがございましたら、遠慮なくお申し出ください。
ご発注、本当にありがとうございました!

氷邑 凍矢 拝