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<東京怪談・PCゲームノベル>


遙見邸離れにて・ドジっ子メイドの買い物修行


「はにゃああああああ、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いですぅー。ど、ど、どうしましょう、このまま家に連れて行ったら苦怨さまに怒られちゃうでしょうか?」
「お、お姉さん。苦しいです……」
「はぅああ〜。声も可愛い〜」
 石神アリスは困惑していた。
 彼女は久々に、町で獲物を探していた。気にいった人間がいれば石にして持ち帰る魂胆である。本人にしてみればショッピングなどと同じ感覚で、女子高生が服を選ぶように街行く人間を見つめていたのであった。
 そこで見つけたのは、なんとメイド服を着た少女。
 歳はアリスよりもいくつか年上くらいか。メイドなんてレアな人間がそこらに歩いてるとも思えない。早速声をかけたアリスなのだが――。
 催眠状態にするまでもなく、メイドのほうからアリスに抱きついてきた。ちなみにスーパーで少女二人が抱きついているので、限りなく目立つのである。
「ちょ、ちょっとお姉さん、離れてもらっていいかしら?」
「あ、そ、そうですよね私ったら」
 慌てて離れるメイド。長いポニーテールとか白い肌とか、色々とアリス好みなメイドさんであった。
「ねぇ、お姉さん、名前は?」
「はえ? 私は〜七罪です。七罪・パニッシュメントっていいます〜」
 外人かしら、とアリスは思った。メイド服を着ているし、なんだかんだで色々と訳ありなのかもしれない。
(まあ、いいわ。調子が狂っちゃったけど、訳ありだろうがなんだろうが石にしてしまえば関係ないし)
 くすくすと、人懐っこく笑うアリス。しかし考えていることは悪魔の企みである。
「お姉さん、わたくしはアリス。石神アリスっていうんですよ」
「はああ〜、名前も可愛いですぅ〜」
「それでね、お姉さん。わたくし、お姉さんのお手伝いをしたいなって。なんだかお荷物いっぱいで大変でしょう?」
 七罪が手に持っているのはスーパーの袋。それも六つほどであった。アリスでなくても手伝いたくなるのは道理だろうが、しかしアリスが企んでいるのは邪悪な下心ゆえだった。
「わあ、いいんですか〜」
「ええ、もちろん。その代わり……」
 言葉は小さく呟くように。
 ただし、瞳はきちんと七罪の目をとらえて。

「わたくしのお願いも、聞いて欲しいんです」

 釣りあげた、とアリスは思った。
 石神アリスの『魔眼』。相手を催眠状態にして、さらに長時間魔力を加え続けることで、相手を石にできる。
 ひとまずはこれでいいだろう。一度催眠にしてしまえば、あとはいくらでも七罪を操ることができる。アリスの家に呼んで、石にするのも思いのままなのだ。
「お姉さん、わたくし、待ってますから……」
 アリスはくすくすと、楽しそうに微笑む。
「必ず家に来てくださいね?」

 七罪は、あっさりと来た。
 数日後のことである。七罪を一人で家に呼んだ。もちろん催眠状態にある七罪は難なく来るし、家に書置きを残しておくはずだ。『一人で出かけますので心配しないでください』とでも書いただろうか。
 あとはもう、七罪を石にするだけである。
 催眠状態にある七罪は、足元がだんだんと石になっていてもぼーっとしたままであった。アリスはただ、暗い部屋で七罪を見つめるだけ。それだけでコレクションに石が一つ増える。
 足から石化する。
 キレイな靴が、細い足が、しなやかな腰が、だんだんと固い石になっていく。それはアリスにとって、ケーキを作るような楽しさがあった。
 完成はまだまだ。
 手順を一つ一つ踏んでいかないと、美味しいご馳走は完成しない。完成も楽しみだけど、もっと楽しみなのはご馳走を作る過程なのだ。
 出来上がったらどうしよう、とアリスは思った。
 久々のご馳走だ。すぐさま売ってしまうのはもったいない。どうせなら永久コレクションとしてもいいかもしれない。なにしろメイドさんなんて初めての獲物だ。これから先も手に入るかどうか。
 胸はあんまりない。けれどアリスのほうがもっとない。なんだかしゃくなので、胸の部分は石にしてから削ってしまおうか。
 顔まで石にしてから、アリスは髪を石にしようか考えてしまった。なにしろとってもキレイな髪なのだ。石にしてしまうのはもったいないかもしれない。けれどそのままにしておくのも醜いので、やっぱり石化することにした。
 これで完成。出来上がり。
 黒い髪をしたメイドさんは、とってもキレイな石になりました。
「うーん、どうしよう。部屋に持って帰って眺めようかな?」
 あとはアリスの気分次第。
 飾るも売るも壊すのも、全部アリスの思いのまま。

「なにをしていますの?」

 声がかかったのはその時。
「誰!?」
「くすくす、こちらですわよ。気付かない?」
 後ろから声。アリスが振り向くと、そこにいたのは――いや、あったのは。
「石化の魔法? メドウサの伝説の継承かしら。神話級の魔法なんて厄介ですわね」
 水晶玉だった。
 そこには、アラビア風のベールをまとった女が映し出されている。顔の半分が覆われているので、表情はわからない。
 女はおかしそうに喋っていた。
「あなた……見たからには、許さないわよ。石になりなさい」
「くすくす、水晶玉越しに石化なんてできるのかしら?」
 ぐ、とアリスは言葉に詰まる。アリスの石化はガラスでも壁でも透過するが――こんな怪しげな術を使う女にまで通用するかは、さすがにわからなかった。
「それより、あなた。七罪さんを石にしたの?」
「そうよ、悪いですか? わたくしはコレクションを増やしたいんです。お姉さんはわたくしのコレクションにぴったり――――」
「そう。それは私が関与することではありませんわね。ただ――」
 女は言葉をきって、アリスを睨む。

「あなた、精霊を石化するなんてできるのかしら? 精霊には実体もないのに?」

「え――――?」
「七罪さんは人間ではなく、本の精霊ですわ。そろそろ貴方の魔法をレジストして、元に戻るのではないのかしら?」
「そ、そんな……」
 嘘だと言いたかった。けれどアリスの後ろ、石化した七罪からは、なにかぺりぺりと音がしている。まるで薄い石が剥がれ落ちるような――――。
「もうすぐ兄がそちらに到着しますわ。貴方をどうするかは兄の気分次第ですけども――あまり敵に回すべき人でないのは、確かだと思いますわよ?」
 ベールの女はくすくす笑う。
 石神アリスにはそれが、たまらなく屈辱に思えて――。
 その水晶玉を掴んで、思いっきり床に叩きつけた。
「ばぁーか」
 粉々になった水晶玉を見て、アリスは呟く。

「人間じゃないなら、もういらない。ばいばい、お姉さん」


<了>

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■   登場人物
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【7348/石神・アリス/女性/15歳/学生(裏社会の商人)】