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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


贄の姫

◇ 序 ◇
「はぁ? 人攫いだぁ?」
「ちちち違います違います! 連れ出してほしい人が居るんです!」
 某月某日、年季の入った雑居ビルの一室にて、何やら不穏な話題が飛び交っていた。
 灰皿に煙草を揉み消すこの興信所の主、草間武彦は、眉間に皺を寄せながら本日初の来客をまじまじと眺める。
 一見ひ弱そうな、二十代になったばかりだろう青年。「依頼したいことがある」と持ちかけられた内容を聞き、武彦が上げたのが冒頭の言葉だ。
 それに慌てて否定の色を示した青年は、思いっきり首を横に振りながらテーブルに身を乗り出して語り始めた。
「オレの名前は、三浦竹斗って言います。オレの故郷の村は、都会からちょっと離れた山間にあって、村人もかなり少ないんですけど良い所なんですよ。……ただ、一つだけ、昔から変な風習があるんです」
「変な風習?」
 難色を示していた武彦だったが、青年の剣幕に押されたのか、彼が濁した言葉に首を傾げる。
 続く言葉は、至極言いづらそうにおずおずと紡がれた。
「……生け贄、ですよ。村の奥にある湖に、十年に一度村娘を捧げるというもので。何でも湖に住む、村を守る神様への貢ぎものだとか」
「今時そんなもんは流行らないだろう」
「で、ですよね! それで、今年がその、生け贄の娘が差し出される年で。それに……オレの幼馴染み、深雪が……」
「選ばれたワケか」
 尻すぼみになっていった青年の言葉尻を継いで、草間がそう結論付ける。案の定、男は弱々しく頷いて、藁にも縋るような目をしながら訴えた。
「お願いします! もう、ここしか頼る場所がなくて」
 それはそうだろう。普通、こんな依頼を受ける探偵事務所なんかありはしない。
 どうせこの男も、「そういう怪しい依頼は草間ん所に行け」とか何とか言われてやってきたのだろうから。
 この草間興信所がどんな評価を得ているのか、粗方の想像を巡らせて渋い顔をした草間は、暫し沈黙した後に後頭部を掻きながら盛大なため息をついた。
「で? その生け贄が差し出されるってのは、いつだ」
「え……っと、確か、明日の新月の夜に」
「奪還と陽動で人員が必要だな。適当に人員を集めておく。その代わり、依頼が上手くいったら依頼料は弾んでもらうぞ」
 どうやら、人の命もかかってるようだしな。
 後からそう付け足して、武彦は雑用仕事をしていた零を呼ぶ。
 まるでこの世の終わりのような顔をしていた青年は、彼の言葉に一筋の希望を見出して安堵の笑みを浮かべた。

◇ 一 ◇
 かたん、とテーブルに湯飲みを置く音が響いて、それまで興信所内を飛び回っていた会話は一旦途切れた。
 次には、伏せていた目をゆうるりと開いた海原みそのが、一息ついて頷いた。
「事情はわかりました。ですが、正直言いますと、とても難しいお仕事ですね」
「難しい……かな? これでも、ちょっとの修羅場は渡り歩いてきたつもりなんだけど」
 少女の言葉に若干的外れな答えを返したのは、氷女杜天花だ。確かに彼女は仕事柄、多少なりとも危険な状況を突破してきた女性であるが、みそのの言わんとする所にいち早く気付いた六花が首を振る。
「天花、根本的な問題が間違っておるよ」
 えー? と、何やら親しげな様子で返した天花へ、どう見ても一番幼い容姿をしている氷女杜六花――姓が同じであるから、天花とは親族か何かなのだろう――は年寄りじみた口調でこう続けた。
「もしも本当に神が居たとしよう。くだんの神が贄を所望していようものなら、その深雪という娘がおらなんだら、神は村人への報復を企てるやもしれんじゃろ。そうでなくとも、古い因習に縋り付く村人達じゃ。贄の娘を連れ出したとて、容易にことが収まるとも思えぬ」
 そういうことじゃろう、と六花が確認を取ると、みそのは静かに顎を引く。これは、逃走経路の確保だけでは済みそうにない問題だ。ともすれば、騒ぎをどう収めるかの方が難しい問題にも思える。
 暫くああでもないこうでもないと議論を交わしていた三人だったが、会話の途中で扉の開く音を聞き咎め、三人はぴたりと言葉を止めた。
 揃って扉口へ顔を向ければ、武彦が小さな袋を下げて立っている。雰囲気からしても、面倒くさそうな様相であることは明らかだった。
「作戦会議は車中でもできるだろう。取り敢えず、各々これを持って出ろ」
「なぁに? これ。携帯電話?」
「一部別行動になるだろうからな。各携帯への番号は登録済みだ。何かあれば、これで連絡が取れるだろ」
 天花が渡された携帯電話を受け取りながら、他の二人へもそれを配る武彦へ尋ねる。肯定の証に見せられたアドレス帳には、しっかりと四人分の名前と電話番号が並んでいた。
 自分の携帯をしまった武彦は、興信所内の面々に「行くぞ」と声をかける。後には、彼の妹である零が笑顔で送り出す姿が残っただけだった。

◇ 二 ◇
 車で数時間という道程を経て、鋪装された道路を山の中腹まで来た所に、その村の入り口はあった。
 古びた看板が山道の脇道に立てられていたが、文字は霞んで見えなくなっている。だがそこからほど近い場所に木で組まれた門があり、そこには大きく村の名前が綴られていた。
 結局車中で大まかな作戦を練っていた三人は、辿り着くなり車を降りて、伸びをしながら各々の仕事を思い返した。
「それでは、もう一度確認させて頂きますね。六花様とわたくしが陽動班、天花様が奪還班。わたくしは例の湖の神様へお伺いを立てますので、その間に六花様が逃走経路の確保を、天花様が情報収集と万一の時の為の撹乱を仕掛ける、という具合でよろしかったでしょうか?」
 みそのが小首を傾げると、天花が親指と人差し指で丸い輪を作って見せた。
「ばっちりよ。後は、話が付いても付かなくてもそこは臨機応変に、ね」
「ほんに大丈夫かのう……」
 天花があまりに満面の笑みで言うものだから、六花は不安を隠しもせずに呟く。けれど、当の女性は聞いていなかったらしく、意気揚々と村の中へ駆けて行った。
 当初は、彼女が湖へも足を運ぶ手筈だった。しかし湖の神との意見の相違が起こった場合、天花では実力行使をしかねないと判断した六花の進言により、みそのが神との交渉を買って出ることになったのだ。
「取り敢えず……まずはこの辺りの立地を確認して、撹乱の起爆剤を仕掛ける場所を把握しないとね。念の為、湖周辺でおかしなことが起こっていないかも調査した方が良いかしら」
 のんびりとした雰囲気とは相反して、意外に早い頭の回転で打ち出した結果を独りごちる。
 自他共に認める色恋話好きの女性は「縁結びの天花と呼ばれて早幾歳、絶対に二人をくっつけてみせるわ!」と改めて気合いを入れてから村の奥を目指した。

 車から湖までの距離を調べる為、みそのと村の中を歩き始めて、六花はあることに気が付いた。時折見慣れない子供達へ訝りの視線を投げる村人達だったが、決して閉鎖的な村ではないということを理解し始めたのだ。
 今回の依頼のように人柱を立てるしきたりを持つ村は、多くが部外者を厭うような閉鎖的な村だった。
 実際の所、六花自身もその目で見てきているのだ。
 だが、みそのが挨拶を向ければ村人も挨拶を返してくるし、観光客だと勘違いした村人は「何もない所だが楽しんでいってくれよ」とまで言う。これは一体どういうことなのか。
「古くからあった風習であれば、人はこれほどまでに開放的ではいられませんよね」
 同じ事を思ったのか、不意にみそのがそう問いかけた。
「うむ。天花には古い因習と言ったが、もしもこの風習が根付いたのがごく最近――そうさのう、ここ百年ほどのことだとするなら、わからん話でもないじゃろう」
 少女の言葉に同意しながら、六花はそれならば、と思う。
(その百年の間に、贄を立てねばならぬほどの何かが、あったということじゃろうか)
 首を捻って考えに耽っていた六花は、けれどすぐにみそのの声で現実に引き戻された。
「それでは、行って参りますね」
「あ、ああ。用心せいよ」
 気付けば、湖へと続く森の入り口まで辿り着いた二人は、みそのが控えめなお辞儀をして別れた。少女の後ろ姿を見送って、さて、と六花は村の中央部へと向かう。さほど大きくない村だからか、村人はすぐに見付かった。
「あの、すみません」
 六花は外見相応の口調で、畑仕事をしていた老人へ声をかける。何という変わり身の早さかと、先程までの彼女を見ていた者ならば思っただろう。
 だが生憎、彼女の素を知る人物はここには居ない。
「おや、観光客かい。親とはぐれたのかねぇ」
「あ、えっと、パパ達は村のお友達の所にいるの。六花は、村の中の探検なの」
「そうかいそうかい、ゆっくりしておいき」
 うん、と可愛らしく微笑んだ六花は、ちら、と朗らかに笑う老人へおもむろに首を傾げてみせた。
「それでね、六花、おじいちゃんに教えて欲しいことがあるんだ」
「ほほう、何じゃね。儂にわかることであれば、言ってみるとええ」
 人間離れした六花の銀の瞳が、しめたとばかりに僅かだけ細められる。けれどその些細な変化を見逃した老人へ、彼女は口端を上げて問いかけた。
「六花ね、この村の歴史を調べてみたいなぁ、って思って。この村って、のどかだよね? 昔は、何か大きな事件とか、災害とかあったの?」
 彼女の疑問を耳にした老人は、その瞬間、僅かだけその表情を哀愁に曇らせた。
「そうさのう。そういった大きな天災と言うなら、後にも先にも百年前の大吹雪くらいのものじゃろうて」

 一人森の中を歩いていたみそのは、程なく問題の場所へと辿り着いた。水を打ったように静かだとは、こういう場所のことを言うのだろうか。
 そう思うくらいに、耳には何の音も届かない。
 葉はさわりとも鳴らないし、小鳥の一羽さえ近くには居ない。その光景を見ることが叶わないみそのの瞳は、しかしもっと別の景色を見出していた。
 目の前に広がる、黒い霧状のものと、一際濃い闇の固まり。少女が視線を向ける先には、探していた湖が広がっている。
 闇の固まりは、その湖の底深くに沈んでいるようだった。
 神というには違和感のある、それは負の感情を抱えた存在に見えた。善か悪かの判断は付かなかったが、みそのは臆することなく湖の淵に立って口を開く。
「あなた様が、この湖に住まう神様でしょうか?」
 心の奥底から語り掛けるような少女の声に、一瞬揺らめいた闇の固まりは次の瞬間、湖から飛沫を上げて飛び出した。
 姿を現したのは、青銀の髪を靡かせる男性――いや、男の形をした人ならざる者、だ。髪と同じ水のような色合いの瞳は、彼の眠りを妨げたみそのへと注がれている。
「ヒトではないのか。何用だ」
 そう言い放つ男の声は、背筋が凍るほどに冷たい。怒りも嘲りも感じないというのに、それは真冬の水のようだった。
「本日は折り入って、お願いに参りました。部外者の話と不快感を感じられることを承知で、聞いて頂きたいお話がございます」
 みそのはそこで相手の反応を伺うように言葉を切ったが、彼女を見つめる人物は黙って先の言葉を促した。
「あなた様のお名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……名などとうに捨てた」
「でしたら、名なし様と呼ばせて頂きますね」
 悪意なく勝手にそう呼ぶ少女へ、男は幾分気を削がれたのか反論もせずにため息をついた。
「本題ですが、今宵新月の晩に名なし様の元へ送られる、贄の女性のことをご存じでしょうか? この湖の在る村で、十年ごとに捧げられる神への供物の風習がございます」
「それが如何した」
「彼の風習に伝わる神様とは、名なし様のことでしょうか? もしもそうであれば、今年の贄となる女性にお慈悲を頂きたいのです」
「何故に」
「彼女が人の世から離れることに、嘆く方がいらっしゃるのです」
 淀むことなく言い切ったみそのは、包み隠さず用件のすべてを男へ語った。彼の真意は知るところではなかったが、それを紐解くには、彼女達の事情を正確に伝えなければ相手の心へ響かないと思ってのことだ。
 話すべきことを話した後に、黙り込んだ少女へ男はポツリと呟いた。
「十年に一度の贄、か。確かに我の元にはそのようなものが寄越されるが、我は神でも何でもない」
「え? それはどういう……」
 男の口を突いて出た予期せぬ告白は、少女を瞠目させるに十分なものだった。
 男の目はどこか遠くをみつめるように、みそのへと視線を据える。それを感覚的なものとして感じ取った少女は、闇の固まりが一層悲しみに満ちた色を宿した気がした。
「我はしがない精霊で、供物はただの茶番なのだからな」

◇ 三 ◇
《百年ほど前、だったかねぇ。雪女郎が来たそうだよ》
 村の端で、誰に知られることなくひっそりと暮らしていた妖から聞いた話が、女性の中でぐるぐると回っている。
 大事件というほどの何かがあったという話は聞かないが、何分ヒトのことはわからんね。
 そう言って住処へと消えた妖から、それ以上の情報は得られなかった。
「雪女郎、かぁ……。お母さんの知り合いに居たりしないかしら?」
 一人ぶつぶつと呟きをこぼしていた時だ。
 ピリピリと甲高い電子音が聞こえて、天花はポケットから携帯を取り出した。たった今考えていたことを、ついでに聞くのも良いかと慌てて通話キーを押した。
「もしもし」
『天花か。私じゃ、六花じゃ』
「どうしたの? 何かあった?」
『うむ、何やらみそのの方から聞いてほしい話があると伝達が来ての。至急湖に集合じゃ』
「わかったわ」
 天花は用件を聞くと、ひとまず通話を終了する。伝えたかった話は結局口に上らなかったが、これから皆集まるのならばすぐに話す機会もあるだろう。
 それに、六花は至急と言っていた。急ぎの用件に水を差す気にもなれなかった天花は、とにかく湖へ急ぐことにした。
 何か不具合でもあったのかしら。
 そう不安を抱えずにはいられない。自然、その足は速くなる。
 彼女が湖の淵へ辿り着いた時には、既に六花もみそのもそこに居た。
「遅くなってごめんなさい」
「私も今来た所じゃ。気にするでない」
 六花がこともなげに言ってから、天花は二人から離れた場所に佇む人物へ目を向ける。見覚えのない男は、青銀の髪を遊ばせながら同色の瞳で順に三人の姿を捉えた。
「ええと、どなた?」
 ぽかんと口を開けて天花が尋ねると、穏やかな声音でみそのが答える。
「この方は、この湖に住まう精霊の名無しさんです。神様と呼ばれていたのは彼だったようですよ」
「へぇ〜……精霊だったんだ。それにしても名無しさんって……」
「昔に名を捨てたのじゃと。呼び名がなければ呼べぬ故、名無しと呼んでおるのじゃ」
 苦笑する天花にキッパリと言った六花は、その口で名無しの精霊へ説明を促した。
「して、名無しの。こちらの事情はみそのから聞いたであろうが、お主の事情を話してはくれまいか。みそのが召集をかけた内容もそれじゃろうて」
「貴女の言う通りだろうな。別段隠し立てする話でもない。そこな娘に語ったままの昔話を話そうぞ」
 腹を括るように瞼を閉じた精霊は、やがて昔日を懐かしむように話し始めた。

 精霊が生まれたのは、今から百と五十年ほど昔だそうだ。ここには霊的な気が溜まり易いらしく、蓄積された気が昇華され生み出された存在だったらしい。
 生まれてから約五十ほどの年月を一人で過ごしていた精霊の元に、冬の近付くある日、一人の雪女郎がやってきた。
 北から南下してきた雪女郎は、名を白姫と名乗り、彼の元へよく訪れるようになった。
 しかし白姫がこの村へやってきて二月ほど経った頃を境に、辺りの気候が一変し始めたのだ。元々山間ということもあり、毎年厳しい寒波が訪れる村だったが、雪女郎が定住したことが引き金となったのか、例年よりも激しい吹雪が連日連夜続いた。
 異常気象に見舞われ
 隣村まで出かけて来ると言って村を出た者が、そのまま帰らぬ人となったことも一度や二度ではない。
 村人達が神の怒りだと騒ぎ始めるのに、そう時間はかからなかった。

「村民の心労に気を揉んだ白姫は、ある日突然姿を眩ました。慌てて付近を捜したが、結局彼女の気配すら掴めず、ずるずると百年も過ごしてしまった次第だ」
「うーん……あら、ちょっと待って? 神の怒りだって村の人達が騒いで、贄の娘が捧げられるようになったのよね? どうして村の人達は、湖に神が棲んでいるだなんて思っていたの?」
 一通り話を終えて一息ついた精霊に、疑問を提示したのは天花だった。
「あれは、何と言うのだろうな。伝承のようなものか。昔からこの場は、そういった神秘に包まれた場所と思われておったようだ。実際には、良くも悪くも気の溜まり易い場所というだけの話よ」
「じゃあ、贄として捧げられた人達はどうなったの?」
 矢継ぎ早にそう尋ねた女性へ、その答えをもたらしたのは精霊ではなかった。くいくいと引かれたスカートの先には、六花の小さな影がある。
「天花は気付かなんだか? この場、人体にとってはあまりようない気も充満しておる。清浄な気と不浄な気が、所々でひしめき合っておろう」
 彼女の言葉を聞き、息を呑んだのは天花だけではなかった。
「不浄な気に浸された人体は、徐々に衰弱してしまう……そういうことでしょうか?」
「うむ。特にかような因習の残る村じゃ。当の湖に棲まう精霊が娘を村へ帰したとて、娘が無事に後生を生きられる筈もない。再びここへ戻されるか、代わりの娘が立てられるだけじゃろうな」
 六花の結論が事実のことであったのか、精霊は彼女達の導き出した答えに口を挟むことはなかった。
 しんと静まり返った静寂が辺りを支配すると、おもむろに天花が身体を震わせた。
 俯いたまま、徐々に小刻みになっていく震動を不審に思った六花が顔を上げると、彼女は天花の顔を見るなり目を剥いた。
「な……によ、それ! そんな美味しい縁談……じゃない、どうして名無しさんは白姫さんを追いかけなかったの? こんな山の付近だけ探すだなんて、そんなことで乙女のハートは掴めないわ!」
「天花様?」
「また始まったか」
 胸の前で手を組んで弁舌を振るう天花を、驚きの様子で見つめるみそのに、呆れた調子で首を振る六花。
 彼女の恋愛ごとに関する熱弁ぶりは今に始まったことではなかったが、精霊に至ってはぽかんと間の抜けた顔で彼女を見つめるのが精一杯だったようだ。
「湖の精霊と雪女郎の恋! 竹斗クンと深雪ちゃんの縁も、纏めて結ばなければ損じゃない!」
「娘よ、何を言って――」
「ねぇねぇ、こういうのはどうかしら?」
 精霊の横槍をいとも簡単にいなし、天花は屈んで六花の耳元で一言二言囁いた。「ふんふん」と相槌を打っていた六花は、会話が途切れると暫し考え込むように顎に指を当てる。
「無茶を言う……。仮に声が届いたとして、今は冬であろう。そちの精霊の語った、百年前の冬の再来となるのではないか?」
「どうされたのですか?」
 話が見えていないみそのが、六花へ首を傾げてみせた。彼女は「いやな」と間を置いてみそのを見上げた。
「私の人脈を伝い、白姫を呼び出せんかと言うのでな。同じ雪女郎と言えど、私は現在妖力を抑えておる状態じゃ。私の声が届くかもわからなんだが、何より届いたとして、彼の者がここへ来るかが問題じゃ。来たらばこの地に、再び変化をもたらすやもしれんでな」
 何せ、山間というものは気候の変化に敏感だ。
 困ったようにそう告げた六花だが、みそのは別段悩む様子もなくこう言った。
「でしたら、わたくしの力をお貸し致しましょう。この湖を中心に、一定範囲の時間流を巻き戻します。秋頃の気候であれば、まだ影響も少ないでしょう」
「お主、やるのう」
 感心しきりに呟いた、六花の台詞が作戦決行の合図だった。

◇ 四 ◇
 彼女は小さな窓から、夕日が完全に落ちていく様を見ていた。
 紺青の闇が一つ二つ星の灯りを灯した所で、いつも上るうっすらとした月影は浮かばない。
 それもその筈だ。今日は新月。新たな月の巡りを生む為の夜なのだから、月が見えないのも当たり前だった。
 汚れ落としだと人間界の俗物を払い落とす為、一月前からこの何もない小屋へ閉じこめられた深雪には、もう抗う力すら残っていなかった。
 ただ神の元へ嫁ぐのだと聞かされた時には、それが自分の人生の終わりなのかと目の前が真っ暗になったことしか覚えていない。
「竹ちゃん」
 まだ少女と呼べる彼女の思考の片隅には、常に一人の男の姿があった。
 幼い頃から共に育ち、気付けばいつも側にいた人。自分が気を落とした時はいつでも元気付けてくれた彼の存在が、記憶から消え去ることは決してあり得ない。
 涙を呑み込み、息をつこうとした時だ。突然、窓の外で地を響かせる程の破裂音が響いた。
 爆音に近いそれに、深雪は肩を竦ませる。すぐに小屋の外が騒々しくなり、複数の足音が遠く森の方へと去っていった。
「何があったのかしら。まさか、神様がお怒りに……?」
「ううん、神様は寂しくて引き籠もってるだけよ。今のはあたしの仕業だから」
 突然聞こえた女性の声に、深雪は思わず漏れそうになった悲鳴を噛み殺した。人々の足音で気付かなかったのか、劣化した木戸は開かれ戸口に一人の女性が立っている。
「あの、あなたは?」
「自己紹介をしたいところなんだけど、後でいいかな? ここ、戸口に見張りの人が付いてたのよ。今は騒ぎを聞き付けて森の方に行ってるから、帰ってくる前にあなたを連れ出さなきゃいけないの」
「え? 連れ出すって、一体……私は今日、湖の神様の元へ――」
「三浦竹斗クンって、知ってるよね?」
 戸口の女性がその名前を出した瞬間、深雪は驚愕の様相で彼女を見つめた。
 知らない筈がない。今も、深雪は彼のことを想っているのだから。
「どうして、竹ちゃんのことを……」
「彼が待ってるわ。安心して頂戴、あたしはあなた達の縁をむす――こほん、応援の為に来たんだもの」
 柔らかな雰囲気を纏う女性の顔が、ふうわりと笑みを形作った。それだけで、深雪の中の抗う意志が喪失してしまうのだから不思議だ。
 これ以上考えるのをやめて、深雪はのろのろと女性の方へ駆け寄る。一月もまともに陽の光を浴びなかったせいか、彼女の体力は大分落ちていた。
 ふらついた深雪にすかさず手を差し伸べた女性は、少女の身体を支えながら小屋を出る。
 できるだけ早足で森とは反対方向に向かいながら、深雪は上がる息で女性へ問いかけた。
「あのっ、……せめて、お名前だけ、でも……」
「あたし? あたしは天花よ。縁結びの天花」
「天花、さん。ありが……」
 ありがとうございます、と少女が礼を述べようとした時だ。
「おい、お前達! 何をしとるか!」
 聞き慣れぬ中年男性の声が聞こえて、二人の背中を汗が伝う。歩きながら振り返ると、そこに居たのは先程森へ向かった筈の小屋の見張り番だった。
「もう戻って来ちゃったの?」
 天花の声音に、明らかな焦りの色が滲む。
 やはり、神への贄になるという運命からは逃れられないのか。
 深雪が強く瞼を伏せた時、森の方から凍てつく程に冷たい突風が吹き付けた。

 念を込めて呼びかけた声は、野山を巡って方々へ散る。昼間天花の指示通りに複数名の知人へ言付けを頼んだのだが、いまだ目当ての白姫が姿を見せる気配はなかった。
「白姫が来なんだら、主はどうするつもりじゃ?」
 六花が、空を見上げながら精霊へ尋ねた。
「どうもしないだろう。彼女は我に会いたくないのだと納得するしかない」
「じゃが、村では深雪が居なくなり、急遽新たな人柱を立てようとするじゃろう。また堂々巡りを繰り返すのかえ?」
 彼女の問いを受けて、今度こそ精霊は黙り込んだ。
 返す言葉がなかったのか、それとも彼女を疎ましく思ったのか、彼はそのまま沈黙を決め込んだようだった。
 そんな二人の間の冷えた空気を察知してか、みそのが話題を逸らすように声を上げる。
「と、所で、天花様はそろそろ深雪様の元へ着く頃でしょうかね?」
「む? そうじゃな。せめて深雪だけでも救出できれば良いのじゃが」
 上手い具合に六花の注意を逸らすことができて、みそのがホッと息をついた頃だろうか。
 不意に森の入り口の方で、地鳴りにも似た破裂音が聞こえた。
 三人揃ってそちらを向いたが、そう言えば天花が仕掛けをしていたなと思い直し、気を取り直す。やれやれと肩を竦めて、再び六花が空を見上げた時だった。
「あれは……」
「六花様、どうかされましたか?」
「もしや、白姫というのはあやつか」
 言外に驚きをあらわにしながら、六花が指差したのは上空だ。
 次いで彼女の指差す方へ視線を向けたみそのと精霊は、目を見開いて動きを止めた。
「シ、ラ……ヒメ……。貴女なのか?」
 呆然とした声音で、精霊がぽつりと呟く。一歩二歩と彼女へ近寄る足下は覚束なかった。
 白銀に輝く髪が、風に浚われて靡く。ふわりと舞い降りるようにして地に足を付けた彼女が、髪を一払いしただけで辺りを冷たい強風が駆け抜けた。
「みその、時間を!」
「はい!」
 幼女の声で叫ぶ六花に、みそのが頷いて意識を集中させた。途端、枯れ木の目立っていた周囲の景色は、見る間に紅く色付く葉を取り戻していく。
 そんな周囲の変化にも、精霊と白姫は気を止めなかった。
「なぜ、今になってわたしを呼び戻したのです」
 冷たく静かな――まるで精霊の紡ぐそれのような――声で、白姫はそうこぼした。
 青い瞳が悲しげに揺れているのは、恐らく誰の見間違いでもないだろう。
 声にならない声が、精霊の喉の奥につかえてわだかまる。百年もの歳月で、彼女へ伝えたい言葉は数え切れないほどに心へ仕舞われた筈なのに。
 必死に思考を動かして、漸く精霊の口から紡がれるのは、言葉と言うにも稚拙な彼の想いだった。
「側に、居たいのだ。貴女と共に添いたいと――」
「貴方は、この森を愛しているのでしょう。だからこそ、貴方は生まれてこれまで、この地に留まったのではないのですか?」
「それは……っ」
 淀みなく交わされていた会話が、精霊の濁した言葉で止まった。
 何も言えないのではなく、胸の内にある言葉のどれを言えば良いのかに迷って、噤まれた口がもどかしい。
 口を開いたり閉じたりと繰り返せば、白姫の明らかに落胆した吐息が聞こえる。
 彼女が何かを言おうと、口を開こうとした時、不意に辺りが騒がしくなった。村のある方から、人間の話し声がする。
 各々がそちらへ顔を向ければ、手に手に懐中電灯を持った十名ほどの人間達が姿を見せた。
「おめぇらは……」
「昼間観光に来ていた奴らか? いや、しかし、そっちの兄さん達は一体……」
 口々に話し始めた内容から、彼らは村の人間なのだろうことがわかった。けれど、その表情から決して歓迎されていないことが窺い知れる。
 騒々しくなった森の中で、白姫が眉根を寄せて呟いた。
「ほら、貴方に彼らは切り捨てられない。わたしがここに居れば、彼らに迷惑がかかるのはわかっているでしょう」
「ならば我が貴女と共にこの地を去るまでだ」
「出来もしないでしょう、貴方には! わたしがどのような想いで、あの日この地を去ったと思うのですか!」
 絶叫にも悲鳴にも似た声を上げて、白姫が憤怒の面を上げた。
 それまで湖面のようだった声音は、木々が嵐になぶられるかのように荒げられ、悲痛な余韻だけを残す。周囲はたちまち、彼女の心の揺れに呼応するかのように寒風が駆け巡った。
 勿論、この状況について行けない村人達は混乱を引き起こし、辺りを騒然とした空気が包む。
 尚も言い募ろうとした白姫だったが、次に彼らの耳を打ったのは、彼女の泣き叫ぶような声ではなかった。
「ちょっ、と……待ちなさーい! あなた達、どうしてそう事態をややこしくしてるの!」
 村人達が佇むその向こうから、一人の女性の怒声が響き渡る。一瞬はたとその場の誰もが口を閉ざしたが、すぐに人々の視線は一点へと集中した。
 村人の背後に仁王立ちになっていたのは、緩く波打つ銀の髪の持ち主……天花だ。
 皆が皆彼女を呆然と見つめ、やがて我に返ったように村人達は身構える。
 しかし天花は彼らに目をくれることもなく――と言うよりは、頭に血が上って彼らの存在が目に入らなかったのだろう――、つかつかと白姫と精霊の前に進み出ると、二人に指を突き付けてこう言った。
「あなたが白姫さんね? 彼の言葉が、信じられないの? それならどうして戻ってきたの! ここに来たということは、一目でも彼に会いたかったからでしょう? 馬鹿みたいに意地を張らないで、彼を想う気持ちがあるのなら素直に出さなきゃ」
「けれど……!」
「けれどもだってもないわ! 愛も恋も、最後には気持ちのままに動くことが大切なのよ! それに名無しさん、あなたはもっと甲斐性を持つべきよ。言われたままでいるなんて、情けないと思わない? 『あなたの為なら、こんな村は捨ててやる!』くらい言えないの? そんなことじゃ、本当に大切なものは手に入らないわ!」
 はたから聞いていれば、それは酷く不謹慎な言葉だっただろう。神の加護をと求める村人達の前で、湖の精霊に向かってこともあろうに、村を捨てろと言っているのだ。
 けれど一度火が付いた天花には、そのようなことは問題ではなかった。
 ただ目の前で手を伸ばせば触れられる距離に居る二人が、手を取り合わないことにもどかしさを感じていたのだ。
「愛の犠牲の上に成り立つ平穏なんて、おかしいわ」
 天花が告げた言葉が引き金になったのか、唖然としていた白姫に、精霊の方がいち早く向き直った。
「白姫様。我は貴女以上に大切に想うものなど、この手に持ったつもりはない。なればこそ、僅かでも我を想ってくれるならば……自惚れやもしれぬが、この手を取っては頂けないだろうか」
 彼の瞳には真摯な光が宿る。それは意地も偽りも、すべてが見透かされてしまうのではないかと思うほどで、白姫はつい周りの人々を見回した。
 助けを求めるようにか、逃げ場所を探すようにか。
 けれど天花はただじっと二人を見つめているし、みそのは時間流を操りながらも心配そうな顔をしている。六花に至ってはただ意味深に笑いながら、じりじりと近付いてくる村人達を氷壁で遠ざけながら威嚇していた。
 こうなれば、彼女は諦めざるをえなかった。
 無駄に彼を遠ざけて、離れている理由が見当たらなくなってしまう。
「折角、貴方から離れたのに。これでは、この百年に意味がなくなってしまうではないの」
 泣きそうに眉根を寄せながら、それでも嬉しそうに微笑んだ白姫が掠れる声で呟く。
「意味は、あっただろう。離れていた分、より強くなった想いがある。それで十分ではないか?」
「……そうですね、晶淵」
 白姫の呼んだ名は、精霊のものなのだろうか。
 こくりと頷いた白姫が、差し出された精霊の手に手を重ねた。寄り添うように二人並んだ精霊と雪女郎は、じっと見守っていた面々へこうべを垂れると微笑んだ。
「随分と、お世話を掛けました。わたしは冬の間、生命の手の届かない山の深い所へと身を置かねばなりません。私達が去れば、村も安穏を取り戻すでしょう」
「この湖には元々神などおらぬでな。今後神の花嫁と称し、贄を寄越してはならぬぞ」
 白姫と晶淵が口々に呟けば、村人達は互いに顔を見合わせながら驚いた。
 しげしげと誰もが食い入るように彼らを見つめるが、白姫と晶淵は気にした風もなく三人の方を向いた。
「ありがとうございました。あなた方が居なければ、わたし達は今もまだ……いいえ、きっとこれから先の途方もない時間を、逢うことができずに終わっていたでしょう」
「いいえ、お二人が無事結ばれたんだもの。あたしにとっては本望だわ」
「もう二度と、その手をお離しにならないでくださいね」
 天花とみそのが、満面の笑みを見せながら口々にそう言った。
 彼女達の言葉は、励ましのように二人の胸へ染み渡る。満たされた想いで白姫が会釈をすると、「それでは」という別れの挨拶の後に、短い突風と牡丹雪が舞い上がって二人の姿は消えた。
 後に残ったのは、澄んだ空気と舞い散る紅葉の絨毯。それから、少しばかりの暖かな想いばかりだった。

◇ 終 ◇
 バタバタと忙しかった一日は、こうしてどうにか無事に幕を閉じた。
 あの後半信半疑で腰を抜かしていた村人達に、三人は詳しい事情説明をしてから贄のしきたりを撤廃するよう求めた。相変わらず胡散臭い眼差しは変わらなかったが、それでも目の前で二人の人物が消えたのを見た者達は、事情を理解し古い因習を捨てることを約束してくれた。
「ねぇ、これ見て。三浦クン達、村を出て都心の方で暮らすことにしたんですって」
 天花が一枚の便箋を差し出して、向かいの椅子に腰掛けていた二人の人物へ読むように促す。
 某月某日、とあるフルーツパーラーでの出来事だ。
「申し訳ありませんが、私は目が見えませんので……」
「あ、そっか。えーっとね、村にこもってるばかりじゃなくて、見聞を広げる為に外の情勢を見てみることにしました、って書いてあるわ」
「ほう、よい傾向じゃな」
 みそのの訴えに天花が文面を読み上げて、六花が気に入りのいちご牛乳を飲みながら相槌を打つ。長く綴られた文は三枚もの便箋に渡り、彼らの近況報告を克明に伝えていた。
「お元気にされているようで、何よりです」
「うむ。互いに支え合って生きて行けるのならば、それが一番じゃ」
 妙に上機嫌な声音で頷いた六花は、ふと窓の外へ視線を投げる。
 外では、白い牡丹雪がはらはらと紙吹雪のように舞っていた。
「寒いと思ったら、雪が降ってたのね」
 天花が小さくくしゃみをしながら、彼女の視線の先を追う。つられてみそのも窓の外を見つめた所で、そう言えば、と思い出したように呟いた。
「晶淵様と白姫様は、元気でいらっしゃるでしょうか」
 雪を見れば、真っ先に思い出すのは彼らのことだ。
 雪の名残を残して消えた彼らからは、当然だが手紙などというものは寄越されない。今もきっと二人で居るのだろうとは思うが、どうしても心配せずにはいられなかった。
「元気じゃろう。雪が降っているのじゃから」
「雪? って、それは関係あるのかなぁ?」
「便りがないのが良い便り、とな」
 ふふ、と笑って、六花はずず……と残り少なかったいちご牛乳を飲み干した。
 白姫――そういえば、そのような名の冬を呼ぶ女神が居たのだと、彼女達が気付いたのは、もう暫く後のことだった。

◇ 了 ◇
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1388 / 海原・みその/ 女性 / 13歳 / 深淵の巫女】
【3167 / 氷女杜・天花/ 女性 / 49歳 / 土木設計事務所勤務】
【2166 / 氷女杜・六花/ 女性 / 370歳 / 越後のご隠居兼店主代理】

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■         ライター通信          ■
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海原・みその様、氷女杜・天花様、氷女杜・六花様。
初めまして、こんにちは。
この度は「贄の姫」への参加依頼ありがとうございます。
今回、常時よりも大幅に執筆期間が遅れてしまい、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
当初この作品は「贄のお姫様奪還作戦☆」が中心の物語でしたが、参加者様各々の設定やプレイングを拝見して、こういう物語はどうだろう、と途中の大筋を大きく改訂して出来た作品となりました。
方々で皆様に頑張って頂きましたが、如何でしたでしょうか。
皆様のお気に召す作品となっておりましたら幸いです。
以下個別コメントとなります。

海原・みその様
白姫の設定や過去の事件が組み上がった段階で、どう丸く収めようかと悩んでいた時、みその様の「時間流の操作」という設定に思い至りました。
それぞれ参加者様の設定を活かした物語をくみ上げていたので、各々がどこかしらで出番を作れたのではないかな、と思います。
まさに「皆様の存在」が今回の物語を作る要となりました。
結果、こういった形で綺麗に収めてみましたが、如何でしたでしょうか?
特別な守護があったわけではなく、すべては勘違いとすれ違いと空回りが生み出した因習でした。
しかし決して無意味なものではなかった筈です。遠回りして、今回の事件により、村人達は「神様を敬うこと」と「神様へ縋ること」の違いを認識して、良い方へ歩いて行ってくれることでしょう。
彼らの心に僅かずつながらも変化をもたらしたように、海原様の心にも、何か響くものがあれば幸いです。
それでは、またご縁があることを願って。