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<東京怪談・PCゲームノベル>


暴走、蒼天繚斬




 世の中には結構怪しい人が多いのかもしれない。亮吾はそんな事を感じていた。
 何気なく出かけた深夜の散歩。夜風を感じながら放棄された工事現場を通りがかった時にそいつは現れた。
 死んでいるのではないかと思うほどうつろな瞳をしており、このご時世に刀まで手にしている。しかも刀からは蒼いオーラが出ており、どう見ても妖しい過ぎる。
 普通なら関わる前に逃げ出すだろう。亮吾も一瞬だけそんな事を考えるが、すぐに好奇心が勝ってその場に留まる事にした。
 なにしろ蒼く光る刀に妖しい人物。事件の臭いが強烈にしてくるのを感じたのだから、ここで逃げ出すのは勿体無いだろう。
 それに相手も亮吾を逃がす気は無いのだろう。ゆっくりとした足取りでこっちに向かってくる。
 歩みが遅い割には殺気は凄まじく、少しでも動けば一気に襲い掛かってきそうだ。獰猛な野生動物にでも出くわしたら、こんな感じなのかと思ったが、相手はそんなに生易しい者ではなかった。
 微かに指先が動いたのを合図に相手が飛び出してきた。
「なっ!」
 亮吾にしてみれば突然迫って来たように感じた。残念な事に亮吾は相手の速度に反応ができるほど戦闘が得意ではない。だから咄嗟に出来る事は少なく、防衛本能が命じるままに磁界を操作する。
 風が亮吾を駆け抜ける。
 亮吾が気が付いた時にはそいつは後ろに居る。見たわけではないが気配で充分過ぎるほどに分る。
 振り返ってみると確かにそいつは居た。こちらに背を向けながら、微かに見える顔には満足げな笑顔で手にしている刀を見ている。
 どうやら亮吾を斬ったつもりらしいが痛みは感じない。どうやら何とか逸らしたようだ。
 亮吾がそう思った時、突如として胸から血飛沫が上がる。
「えっ?」
 事態を把握できないまま全身の力が抜けるのを感じて崩れ落ちる。
 すれ違った一瞬。確かに相手に刀は亮吾の右肩から左斜め下へと斬り下ろされていた。ただ相手の腕と刀の切れ味が気付かせなかっただけで亮吾は確かに斬られていた。
 大量の血が一気に体から放出された事でショック症状が起き、目がうつろになり意識が遠のいていく。
 最早何も考える事も出来ない。ただ微かに保った意識で相手を見ると、ゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。
 死ぬのかな?
 そう思うが恐怖すら感じなくなっている。抗う事すら出来ないまま、亮吾の意識は沈み始めた。


 大量の血を流したままピクリとも動かない。誰が見ても死んだと思うだろう。けど、そいつはトドメを刺すべく、切っ先を亮吾の体に向ける。
 心臓に狙いを定めて一気に力を入れるが、何故かそいつが吹き飛ばされていた。
 何が起こったのか分らずに不思議そうな顔をこっちに向けるそいつ。その視線の先には立ち上がっている亮吾の姿があった。
 あれだけの傷だというのに血が止まっているどころか傷が塞がり始めている。普通ならこのような驚異的な回復などは出来ない、それを可能にしているのが亮吾の手にある黒い箱。
 幾つもの魔術や術式が詰め込まれている黒い箱。そこからの術を行使して一気に肉体を修復させている。
 そして亮吾の顔は先程とは別人を思わせるような鋭い顔付きになっている。亮吾の中にある自己防衛プログラムがそうさせているのだろう。
 先程とはまったく違う只ならぬ気配に相手も気付いたのだろう。亮吾を警戒しながら刀を向けてくる。相手としても退く気は無いようだ。
 敵意を向けられて亮吾の自己防衛プログラムも行動を開始する。
 右手を廃棄された工事現場へ向けると、打ち捨てられている鉄パイプやら何かの資材やらが浮かび上がり、相手へと突撃していく。
 全て金属であり、亮吾の磁界による金属操作で操っている物だ。
 次々と相手に向かって飛んでいく廃材。けれども相手は戦いなれているのだろう。廃材を避けながら亮吾に向かって突き進んでくる。
 そして一閃。
 先程と同じように駆けながら斬撃を繰り出してくるが、今度はかすりもしなかった。
 体中に張り巡らせてある神経細胞。そこを伝う電気信号を操作するなど今の亮吾には動作も無いことだ。だから神速化された反射神経と身体強化のおかげで難なく相手の攻撃をかわすことが出来た。
 もう一撃必殺は通用しない。その事を相手も察したのだろう。今度は一気に距離を詰めて連続で攻撃してくる。
 最初は上手くかわしていた亮吾だが、相手は達人級の腕を持っている。いくら肉体と神経を強化しても経験が生み出す技までは捌き切れない。
 廃材を盾にしてみるが、相手の刀は鋭いためあっさりと斬り捨てられてしまった。
 このままではいずれ追い詰められるだろう。そう判断した亮吾の自己防衛プログラムは斬撃の合間に懐に飛び込む。
 けどそのような事でうろたえる相手ではなかった。すぐに亮吾を蹴り飛ばして追撃に掛かるが何かおかしい。
 身体が思うように動かない。そんなぎこちない動きをしている。
 その隙に亮吾は立ち上がると一旦距離を開ける。
 神経の電気信号操作は強化だけではないようだ。逆に相手の動きに制限を書ける事も出来る。
 これで先程のような動きは出来ないだろう。それでも相手の闘志は損なわれる事なく亮吾に向かって叩き付けれれて来る。未だに戦う気はあるようだ。
 この短時間で制限されている体を理解したのだろう、再び攻撃を再開してきた。だが制限を受けている体では先程のようなキレはなく。亮吾は簡単に避ける事が出来た。
 それでも飽く事無く相手は攻め続けてくる。それは亮吾の行動も有るからだろう。
 亮吾は廃材を使っての防衛や妨害はしてくるが、目立った攻撃はしてこない。そのため攻撃に決め手を欠く、そう思っているのだろう。
 現に亮吾は防戦一方で攻撃は少ない。だから相手が頭に乗っているのだろう、それが防衛プログラムの意図だと気付かないまま。
 斬撃の一つが亮吾を捉える。最早振り下ろされた刀は回避不可能。だから相手は確実に刃が亮吾を斬り裂くと思っただろう。
 けれども刃が亮吾に届く紙一重で、亮吾の体は消えた。避けたのではなく、消えたのだ。
 突然の事に驚きながらも辺りを見回す相手。そして少し離れた所に亮吾の姿を発見するとすぐに駆け出す。
 一目散に向かってくる相手に亮吾は冷やかな眼差しを送ると静かに口を動かす。
 次の瞬間には相手の足元から光り輝く何かが天に向かって伸びていく。
 それは巨大な雷。密かに最大級の雷撃の陣を張っていたようだ。
 その魔法陣は不可視であり、誰にも見ることは出来ない。亮吾だけが感じることが出来る。だから相手も気付かなかった。
 亮吾が防戦一方だったのはここに誘い込むためだ。だからあえて無駄な攻撃はせず、この一点にだけ攻撃を集中させた。
 その思惑は上手く行き、相手は巨大な雷の中だ。
 光が弱まり、雷が小さくなって消滅する。その後には相手の姿はなく、微かに蒼く輝く刀だけが残されていた。どうやら相手の体は消滅したようだ。
 そして亮吾も静かに目を閉じる。
 目を閉じていたのは少しの間だけで、すぐに勢い良く瞳を開いた。
 そして辺りを見回した直後に倒れこんで悶絶する。
「───────────────────────ッ!」
 最早悲鳴すら出ないようだ。
 亮吾に襲い掛かったのは強烈な筋肉痛。……まあ、いきなりあれだけの動きをすれば身体が悲鳴を上げるのも当然だろう。
 けれども自己防衛プログラムが表に出ている間の記憶が無いのか、亮吾には何故このような目に遭っているのかが不思議なようだ。
 それから一通り悶絶すると相手が居なくなっており、刀が残されている事に気付いた。
 相変わらず事態は把握できないが今は理解不能の筋肉痛を何とかするのが先だと思ったのだろう。
 刀だけ拾うと悲鳴を上げる身体を引きずって帰宅の途についた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 7266/鈴城・亮吾  /男性/14歳/半分人間半分精霊の中学生


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■         ライター通信          ■
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