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一通のエアメール
朝未き空午前12時。刑事、エル・レイニーズはふーっとため息をついて首をさげた。
「そろそろ帰ろうかな? もう誰もいないし」
職場である警視庁から車を走らせて颯爽と帰っていった。
アパートの郵便受けにエアメールが入っていた。
「誰からかしら?」
エルは切手をよく見ると消印は故郷スウェーデンになっている。さっと裏のリターンアドレスを見た。
「プリー・ヴァリンスからね。ひさしぶりだわ」
プリーとエルの関係とはまぁ希薄なもので、刑事になりたてのころに1年ほど仕事を共にしていただけで、その後エルは日本へ行ってしまった。
そして中身を読んでみた。出てきたのはスウェーデンの別荘地にある大きなお屋敷での業界人のパーティの案内状、そしてプリーの短い手紙であった。
「ハーイ、プリーよ。覚えてる? いまわたしは刑事をやめてフリーライターをやってるの。この仕事してるといろんな業界の知り合いができるもので、今回大きなパーティを開くことになったの。招待するからぜひ来てね」
という手紙には空港のチケットも同時にはさまれていた。エルはすぐに身支度をして、スウェーデンへと旅立った。
――一方、スピリッターズのプレハブ小屋
貼り紙がドアに付いていた。
『慰安旅行のため、しばらく休業します〜超常組織スピリッターズ〜』
メンバーであるあずさ、由宇、ともに目が点になっていた。
「慰安旅行って、あたしここにいますけど」
「俺、行き遅れた……?」
あずさ、由宇はそれぞれ言葉を口にした後。
「やったー! 放課後しばらく暇になるー」
あずさ喜ぶ。
「俺は逆に困るよ。不登校だから」
困る由宇。
「別に困らないじゃん。由宇くんここで遊んでればいいし」
「なんというか……1人は寂しい」
「お、由宇くんにもそんな感情があったんだ。お姉さんと放課後デートでもする?」
「やだよ。そんな」
「年上の女の人は嫌いですか。ま、好きにしましょう。あのオバサンがいないの、めずらしいんだから」
言いたい放題である。
――エルの方では
「ありがとう」
と運転主に金貨とチップをあげ、別荘地に降り立った。
「こんなところにお屋敷なんてあったのね」
美しくも赤いドレス姿となったエルはパーティ会場へ巻き込まれていった。
中にはたくさんの人々がいた。しばらくスウェーデンを離れていたせいか、誰が著名人なのかわからない人ばかりだ。エルはテーブルのウインナーに手をつけようとしたときであった。目の前が真っ暗になったのだ。
「停電?」
非常灯はまだつかず、目をこらしても見えない。
「うわーー!」
「ぎゃぁー!」
パーティの中心付近から人間の叫び声が聞こえてくる。
「なに? 一体なにが起こっているの?」
エルはもう一つの目、霊眼を使用した。するとパーティの中央に無数の悪霊が渦巻いてる。闇の中では行動がしにくい。
「ちょっと、早くつかないの? 非常灯」
と、いらだちを言葉にした。やがて暗闇のままそこに行こうとしたとき、非常灯はついた。
「いやぁー!」
ざわめき、黄色い声と無数の灰色の声がその惨劇を物語っていた。パーティ会場の真ん中に、血まみれの死体が1つ、その上にまた2つ、3つ、4つ……。積み重なっていた。
「こんなところにいてたまるか!」
「逃げろー」
会場にいた人々はパニックに陥り、屋敷から脱走していった。エルの霊眼で悪霊がバラつき、1人、1人、襲っていった。
「みんな、逆効果よ! 早く戻って」
そんなエルの声もむなしく信じてもらえず、1人、1人の命が奪われてゆく。
「このまま終わらせないわよ!」
エルは霊力で剣を出して、人を襲おうとしている霊を片っ端から斬り、強制成仏させていった。斬っても斬ってもわいてくるような悪霊たち。
「キリがないわ。どうしてこんなにいるのかしら」
たくさんの悪霊を斬りながら、いくつかの仮説が思いついた。
「もしかして原型のない悪霊? それともいままで屋敷で死んでいった人たち?」
その一瞬でふいをつかれ、悪霊が迫ってきた。霊剣をにぎり、その切っ先を悪霊に向けた。
「間に合わない!」
そのとき、後ろからメイドが現れ、悪霊に手のひらを向け、
「成仏」
とだけ口にして、目の前の悪霊は成仏していった。エルはそのメイドを見て、こう聞いた。
「あなたは……?」
「わたくしめはパーティの給仕に雇われたメイドでございます」
「そうじゃなくて、なぜそんな退魔術が使えるの? ってこと」
「智恵美さまに教えていただいたからです」
「智恵美さま?」
言葉足らずに話すこのメイドに、なんだか自分のペースを乱されているようで、エルは少しいらだちを感じた。
「じゃあ単刀直入に言うけど、わたしに協力してくれるのかしら?」
「それは本体に聞いてくださいますか?」
「本体?」
エルはそのメイドについていくことにした。どちらにしても1人では解決できそうもないからだ。
「ここに本体のわたくしめがいます」
そこは大きなパーティ会場のテーブルの下であった。テーブルクロスをめくると、さっき出会ったメイドと全く同じ人物が隠れていた。
「はじめまして。わたくしめが本体のエリヴィア・クリュチコワと申します」
テーブル下から出てきた本体のエリヴィアは深々とおじぎをした。
「こちらこそはじめまして。ジャパンで刑事をやっているエル・レイニーズです」
エルもおじぎをした。そして話し合いの最中に悪霊に邪魔されぬよう、エルは霊体結界を作り、本体のエリヴィアを守った。
「メイドとして雇われたそうだけど、この状況のことで知ってることや、おかしなところはありませんか?」
「どれがおかしいかわからないので、すべてお話します」
エリヴィアは死にかかっていたところを隠岐智恵美という方に助けられ、現在は鎌倉の教会に入り、智恵美に仕えている。ある日手紙が届き、ワープロ打ちでパーティの給仕を頼まれ、スウェーデンまではるばる来た。そこで直属のメイドがいるかと思いきや、みな初めて雇われた者ばかりで、ただパーティの進め方をぎっしり書かれた資料だけ置いていた。この屋敷に直接仕えてる人はもちろん、主人にもあったことがない人ばかりだったそうだ。
「……ということで、この家主もしくはその秘密を解くなにかを探してはどうかと思われます」
「賛成」
「わたくしめが分身をいくつかお作りますので、なにか発見しましたらお知らせいたします。それからエル様にはそのわたくしめの分身を安全のため同行させますので、ご安心くださいませ」
「ありがとう」
そして迷宮のような屋敷を徘徊することとなった。2階建てにしては入り組んだこの屋敷。エリヴィアとエルは時々出くわす悪霊と戦いながら探すことにした。1階は調理室などの水回り、食事部屋、大ホールなどで埋め尽くされていた。続いて2階に行くことにした。
「何この霊の数……」
エルが口に出すほど悪霊の数が半端ではなく、この2階に集まっていた。
「この霊が密集するところに何かあるわね。強行突破できる?」
エリヴィアの分身はうなずき、エルは霊剣を構え突破した。何体の悪霊を斬ったのかわからぬまま、悪霊の多い部屋をみつけたのだった。その部屋とは、「マスタールーム」。エルがドアノブに手をやった。
「鍵がかかっているわ」
「おまかせください」
エリヴィアはどこからかマシンガンを取り出し、ドアの線にそって銃を撃ちはじめた。倒れる扉。その向こうには、たしかに家主はいた。……全身が甲冑に守られた人間、いや幽霊が。
「わたしの霊眼によると中身は上級の悪霊。でも甲冑の動きは……」
エルが言葉を最後まで言う前に、甲冑はエルとエリヴィアの間に剣を振り下ろした。
「わたくしめがマシンガンで援護いたします。その間にレイニーズ様は成仏させてくださいますか?」
「ええ」
エリヴィアはマシンガンを放つが、鉄の甲冑には少しへこみができる程度で、援護にもなっていなかった。再び甲冑が剣を上げた。そしてエルのもとに振り下ろされた。
「――!」
次にエルが見た映像は暗闇、いや赤い色。エリヴィアの分身から赤い血が流れていた。
「あなた……」
涙したい場面であっても甲冑がまだそこにいる。エルは霊を捕獲するよう、神経を集中した。その間に甲冑はもう一度剣を振り下ろした。
――
その剣は振り下ろす途中で止まっていた。真っ黒な霊がシャボン玉のようなものに包まれている。エルは動かなくなったエリヴィアの分身をそっと横に置き、今度はエルが霊剣を構えた。
「成仏しなさい! もっともあなたの行く場所は地獄だろうけどね」
その悪霊は捕獲されたままエルが切り裂き、霊は消えていった。
そしてマスタールームから見える屋敷の庭から、たくさんの光が空へ昇っていく様子が見えた。あまりにも美しいイルミネーションのようだけど、悲しみの光でしかない。エルはしばらくその光を見守っていた。
街の一角にあるカフェにて、エルとプリーは会う約束をした。
「プリー。パーティには来ていなかったそうじゃない。どうしてかしら?」
「ちょっと急用が入ってね」
「それは何?」
「禁則事項です」
「フリーライターにもそういうのあるのね。まぁいいわ。でもこれだけは伝えておくわ。とんでもないところでパーティを開いたのね。主人は甲冑だったわ。あなたはわたしの能力のこと知ってるから……利用されちゃったかな?」
「どうでしょうね」
シラを切ったプリーの態度に、エルはいらいらしてきたが、
「今後いっさい連絡しないで。さよなら」
と、その場を後にした。
プリーは携帯電話を取り出し、ある所に電話をかけた。
「警部。例の屋敷の大量殺人事件は無事解決しました」
「犯人は?」
「甲冑に宿した主人の幽霊だそうよ」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7658 / エリヴィア・クリュチコワ / 女性 / 27歳 / メイド】
【NPC4783 / エル・レイニーズ / 女性 / 32歳 / 女刑事】
【NPC4829 / 故河・あずさ / 女性 / 15歳 / 女子高生】
【NPC4783 / 波多野・由宇 / 男性 / 14歳 / 男子中学生(不登校)】
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■ ライター通信 ■
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発注ありがとうございます。そして遅くなってすみませんでした。真咲翼です。
初めてのノベルゲーム発注とのことですが、いかがでしたか?
ノベルゲームはなるべくお客様の希望を現実化して、
どう行動した結果こうなったというようなゲーム感覚を感じられると嬉しいです。
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