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<東京怪談・PCゲームノベル>


 青い歪み

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「んじゃ、もっかい説明しとくぞ」
 林檎を一口齧り、もう一度説明を始めたヒヨリ。
 ごく稀に発生する『青の歪み』まぁ、名前のとおり青い歪みだ。
 普通の歪みは黒。でも、この歪みは青。
 色が違うって時点で、ちょっと厄介なもんだってことは理解ると思う。
 この青い歪みは『ティアー』と呼ばれるもんだ。
 ここ、テストに出るから覚えておくように。
 んでな、これまた名前から察せると思うけど、ティアーは『悲しみ』に満ちた歪みだ。
 重要なのは、後悔と悲しみは違うってとこだな。微妙に似てるとこはあるけど。
 ティアーは、性質も普通の歪みと異なる。水に近い性質だな。
 次々と形を変えて、還されまいと逃げる。しかも、かなり速い。 
 更に、ただ逃げるだけじゃなく、歯向かってもくる。
 水だからといって油断するなよ。氷に変化して飛んでくることもあるからな。
 ポイントとしては、逃げ足の速さと、変化するっていうところだな。
 性質が水だってことを念頭に、今日もイイ仕事してくれ。
「んじゃ、行くぞー」

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「さて。クレタ。感想をどうぞ?」
「えっ……」
 突然聞かれて、若干の戸惑いを覚えるクレタ。
 ヒヨリと共にやって来た現場。少し離れた位置で、ティアーはグルグルと円を描くように回っている。
 踊り狂っているようにも、壊れた玩具のようにも見えるその様に、クレタは正直な感想を漏らす。
 ヒヨリが言っていたとおり……捕まえるとなると、かなり大変かな、と思う……。
 あの動きを見ただけで、どんなに素早いかは理解るから……出来る限り、追い回したりはしたくないかな……。
 無駄に体力を削られてしまうだけのような気もするし……。一方的に追いかけ回すのは、何となく嫌……。
 でも、ただ黙っているだけじゃ捕らえることなんて出来ないから……。
「役割を……分担したら、どうかな……」
「ふむ。良い考えだ。で? どんな感じに分担する?」
「えと……僕が動きを封じて捕まえるから……ヒヨリが、還してあげて……」
「追いかけずに捕まえる、と。そういうことね?」
「うん……」
「それが可能だと、お前は、そう思ってるわけね?」
「え……と……。うん……」
 遠慮がちに頷いたクレタの頭をくしゃっとしてヒヨリは笑いながら黒い鎌を手元に出現させた。
 何を遠慮してんだか。もっと自信たっぷりに「うん」って言いなさい。
 自分の能力が、どういうものか、どう使うのが効率的か。それを、お前は理解ってる。
 そうだな、クレタ。お前の能力は、サポート能力に長けるものだ。
 お前は気付いていないかもしれないけれど、それって凄いことなんだぞ。
 自分に宿る能力がどういうものか、それをちゃんと理解った上で使える奴って意外と少ないんだ。
 技に溺れて、まるで生かしきれないままの奴が多いからなぁ。強い奴に限って多いんだ、これがまた。
 そうやって自分のチカラを把握できること。それって、すごい成長の兆しだぞ。
 自分と向かい合って、自分の長所も短所も全部認めるってことだからな。
 だから、自信たっぷりに「うん」って言っていいんだ。
 いや、もう、寧ろアレだな。「僕に任せて」とか。そのくらい言っても良いよ?
 クスクス笑いながら構えて、いつでもどうぞの合図を出すヒヨリ。
 クレタはコクリと頷き、両手両指を闇に踊らせた。
 指先に灯る白い光。柔らかな光はホタルのように闇に次々と灯り、上空へ。
 一ヶ所に集まった白い光は、一つになってパンと弾ける。
 自分達を中心に、四方を囲む『光の壁』を発動。
 闇の中にポッと浮かんだ白い箱の中。
 異変に気付いたのだろう。ティアーは慌てて逃げ出そうとした。
 けれど、光の壁を突き破って外に出ることは不可能だ。
 壁に衝突したティアーは、まるでゴムボールのように跳ね返る。
 何故出られないのか理解らず、ティアーは何度も壁に衝突を続けた。
 その様は、ガラス窓に何度も体を打ち付けて飛ぶ……夏の蝿のようだった。
 同じような感覚なのかな……そうだとしたら、かなり焦っているんじゃないかな……。
 衝突を繰り返すティアーを見ながら、ぼんやりとそんなことを考えるクレタ。
 ヒヨリは笑いながら目を覚まさせるかのように言い放った。
「クレタ! 何ボーッとしてんだー! めっちゃ冷たい! 風邪ひくわ!」
 その言葉でハッと我に返る。と、同時に、自分がズブ濡れになっていることに気付く。
 ティアーが衝突を繰り返すが故、その度に水が飛散し、雨のように降り注いでいるのだ。
 チラリとヒヨリを見やって小さな声で「ごめん」を告げた後、クレタは作業を再開。
 再び闇に手指を踊らせる。
 人差し指で正方形を描いたら、描いたそれを握り潰すようにしてグッと握り拳を作る。
 その動きを繰り返す度に、囲う光の壁は、少しずつ少しずつ小さくなっていく。
 逃げ出すことが出来ないまま、小さな箱に閉じ込められていくティアー。
 追い詰められていることは明らかだ。このままでは、還されてしまう。
 何がどうなっているのか理解らないまま、還されてしまうなんて悔しいじゃないか。
 そう思ったのか。ティアーは衝突を止め、妙な動きを始めた。
「……?」
 風車のような形へと姿を変えてクルクルと回るティアーを見やり首を傾げるクレタ。
 随分とゆっくり回っている……。何をするつもりなんだろう……。
 キョトンとして見やっていたクレタの腕を引き、ヒヨリは強引にクレタを地に伏せさせた。
 顔を上げれば、間もなく、ティアーの動きの謎が明かされる。
 次第に早くなっていく動き、やがてブゥゥンと音を上げて高速で回る水の風車。
 高速回転するティアーから放たれて飛んでくる水は、もはや水ではなかった。
 焦りと苛立ち、それが反映されたかのように……ティアーは熱湯を撒き散らす。
「うぉぁぁぁぁ。熱っ! 今度は熱っ! ヤケドするわ!」
 ケラケラと笑いながら、どこからか出現させた黒い布でクレタの身体を覆うヒヨリ。
 ここから出せ、と、その怒りを露わにしているティアー。
 怒りは治まらず増していくばかりのようで。
 熱湯は、やがて蒸気へと変わり二人に襲い掛かる。
 これは……まずいかも。熱いし……息苦しいし……。
 ごめんね、ヒヨリ。僕がボーッとしてたから……。
 何て謝る前に、動かなくちゃね……。
 身体を起こし、闇に膝をつくような体勢で、ティアーに向けてピッと指を向けるクレタ。
 指先に灯った光が真っ直ぐに伸びて、ティアーにザクリと突き刺さった。
 あくまでも足止め程度の能力だ。ダメージを与えたり、還すには至らない能力。
 ティアーの動きを止めたクレタは、ヒヨリを見やって頷いた。
「了解」
 笑って駆け出し、大きな鎌でティアーを斬り裂くヒヨリ。
 真っ二つに裂かれたティアーは、ベチャリとその場に落ちた。
 留まり続ける悲しみ。その涙の理由は……どこにあるんだろう。
 悲しみと一緒に、別の感情もあったんじゃないかな……。
 ねぇ、救ってあげられたかな……。君を悲しみから……僕等は救ってあげることが出来たかな……。

 青い歪み、ティアー。
 涙の理由は、甘えたい気持ちから。
 歪みを生んだのは、ほんの数時間前、外界で息を引き取った老犬。
 年老いてもなお、遊んで欲しかった。昔のように、飛び跳ねて笑って。
 もう、昔のように身体が自由に動かないことは知っていたけれど。
 それでも、遊んで欲しかった。悲しい目で見るんじゃなくて。
 遊ぼうか、って。ただ一言、そう言って欲しかった。
 可哀相にだなんて。そんな言葉は要らなかったんだ。
 笑っていて欲しかった。可愛がってくれたご主人様の、悲しい顔は見たくなかった。
 必死で立ち上がろうとしたのは、死にたくないからじゃないんだ。
 あなたと、もう一度。遊びたかっただけ。あなたに、じゃれて遊びたかっただけ。
 無理するなだなんて。目頭を押さえて、そんなこと言わないで欲しかった。
 ただ一言。そうか、じゃあ遊ぼうかって。そう言って欲しかったんだ。

 消えて行くティアーを見つめながら想いを馳せるクレタ。
 いつまでそうやってしゃがんでるんだ、帰るぞ。そう言ったヒヨリ。
 クレタは慌てて立ち上がり、ヒヨリの後を追おうとした。その時だった。
 消えて行くティアー、最後の一滴が飛び跳ね、クレタの頬を濡らした。
「……。冷たい……」
 ピタリと立ち止まって頬を濡らす涙に触れるクレタ。
 ヒヨリはクスクス笑いながら言った。
「いつまでも見てるからだぞ」
 還し終えた歪みに依存してはならない。深くを追求してはならない。
 気にしてしまうことは同情と同じ。少し厳しいかもしれないけれど、絶対のルールだ。
 その優しい心に付け入るようにして、復活を遂げてしまう歪みもある。
 確かに、そうだね……。それはルールとして絶対のこと……だけど。
 僕はね……ありがとうって、そう言われたような気がしたんだ。
 触れた瞬間は冷たかったけれど、ほら……今は、こんなに温かいんだよ……。
 拭い、指に乗った涙を見せながら淡く微笑むクレタ。
 消えて行く涙を見ながら、ヒヨリは肩を竦めて笑った。
「別に、お前がそう思うならいいけど。あんまり優しくしてると、いつか痛い目に遭うぞ〜?」
「そんなこと……ないよ。あ……そうだ、ヒヨリ……」
「んー?」
「ここに来る前に言ってたことで……わからないことがあるんだ……」
「ん。何?」
「テストに出るからねって……どういうこと?」
「…………」
 優しいのもそうだけど、純朴すぎるのかもしれないなぁ、お前は。
 それが、お前の可愛いところでもあるけど。天然もちょっと入ってる気がする、お前の場合。
 いつか本当に、痛い目に遭うんじゃないかなぁって思わせるよ。
 余計な心配ばっかりさせるんだから。困った子ですね、お前は本当に。
「ねぇ、ヒヨリ……。テストって何……? テストするの……? いつ……?」
「しないっつぅの」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『青い歪み』への御参加、ありがとうございます。
 飛び跳ねた雫(涙)は「ありがとう」の表れ、それで正解です。
 終盤にありますテストがどうのこうの、に関しましては、
 あまりにもプレイングが可愛らしくてキュンとしてしまったので勝手に広げてしまいました(笑) 
 もそもそしていて感情起伏が乏しいのに、何気に天然とか。可愛いすぎやしませんか(;゚∀゚)=3
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.11.23 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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