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<東京怪談・PCゲームノベル>


 改造計画

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「別に、必要ないと思うんだけど……」
「駄目。そういうこと言ってるから駄目なんだ、お前は」
「そう……かな……」
「そうだよ。あ、よし。次は、あの店行ってみよう」
「…………」
 ヒヨリに連れられて来た、外界:東京。
 また仕事を放って、こんなところに遊びに来たらナナセに叱られちゃうのに。
 何をしに行くの? と尋ねたら、ヒヨリは、こう即答したんだ。
 改造計画。って。
 もう、これで何軒目になるだろう。
 次から次へと色んな店に連れて行かれて、あれこれと宛がわれる。
 ヒヨリに改造される……まるで、人形の気分。
 こんな気持ちなのかなぁ、着せ替え人形って……。
「おい、これ。これ着てみろ。あと、こっちも」
「…………」

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「んー……。微妙に違うな。こういう感じじゃないよな、お前は」
「そう……かな……」
 クレタに着せた服、身に着けさせたアクセサリーをペリペリと剥いでいくヒヨリ。
 ヒヨリの目に留まったのは、赤と黒のチェックが可愛いコート。
 それから、ニットキャップ。ボトムはアースカラーのパンツで、靴はちょっとゴツい感じのブーツ。
 クドくならないように、アクセサリーはチープなものを。
 それこそ、露店で売っているような、安くもオシャレなものをチョイス。
 だが、どうもしっくりこない。確かに似合っていて可愛いのだが……違和感が拭えない。
 クレタが纏っている雰囲気と、この服装が反発し合っているような感覚だ。
 イメージチェンジを目的としているからには、多少強引な感じでも良いと思うけれど、
 着飾られる本人、チャンジする本人がノらないと意味がない。
 普段とはぜんぜん違う可愛い雰囲気の服を纏ったクレタは、鏡を見てキョトンとした。
 まるで、自分じゃない別人が映っているような不思議な気持ちになったからだ。
 それはそれで楽しいような気もするけれど……ノるかと言われると、まったくノらない。
 試着室から出てきたクレタは、ふぅと息を吐いた。
 面倒だとか、ダルいだとか、そういう感情からきた溜息ではない。
 ヒヨリが、あれこれと尽くしてくれているのは十分わかるし、ありがたいことだ。
 楽しくないわけでもない。ちょっと、ついていけないところはあるけれど。
 こうして、誰かと一緒に買い物するなんて初めてのことだ。
 そもそも、自分が賑やかな街、その中心にいることが不思議なことである。
 一旦店を出て、再び歩いていく二人。
 ヒヨリはキョロキョロと並ぶ店を見やりながら考える。
 ああいう感じかな? いや、ちょっと違うな。お前は、もっと、こう……。
 独り言のようにブツブツ呟いているヒヨリ。
 その横顔が何だか可笑しくて。クレタは俯きながら僅かに微笑んだ。
 ふと視線を戻して、ヒヨリは、とある部分にツッこみを入れる。それは的確なものだった。
「なぁ、クレタ。お前、それ自分であけた?」
「え……? 何……?」
「耳。ピアス」
「え……と……?」
 そう言われてみれば。どうしてだろう。どうして、耳朶に穴が開いているんだろう。
 その穴に銀製のアクセサリーを通してはいるけれど……そう言われてみれば、どうしてだろう。
 自分でどうしたという記憶はない。おそらく、研究施設にいたころか……。
 もしくは、遠い昔、Jに弄られていたのかもしれない。
 とにかく、クレタは自分で自分をどうにかするだなんてことを考えない。
 無頓着なのだ。基本的に。服も、いつも同じパーカーで、下はジーンズ。
 いつから身に着けているか理解らないアクセサリーは、所々がハゲてきている。
 そういえば、このアクセサリーも……。どうしてだろう。いつから、着けてきたのかな。
 今まで気にしたことなかったけれど……。俯いて、そんなことをボンヤリと考えていると。
「あっ」
 大きな声でヒヨリが叫んだ。
 何事かと顔を上げると、バチッと目が合う。
 ヒヨリはニンマリと笑って、クレタの手を引き足早に歩き出した。
 次は、どんな店に入るんだろう……また、さっきみたいな店かな……。
 別に嫌いじゃないけれど……ちょっと苦手……あの雰囲気。落ち着かないっていうか……。

 カランと鈴の音が響き渡る店内。
 一歩踏み入れば、それは別世界。
 外は賑やかで活気に満ち溢れているのに、ここだけ別空間のようだ。
 黒いフロアと壁は、光沢のないマットな質感。店内に流れるBGMは、聞き入ってしまいそうになるほど緩やかで。
 まるで、自室空間に戻ってきたような。そんな感覚を覚えた。
 それまでの妙な緊張感がスッと溶けて、自然な立ち振る舞いへと変わる。
 クレタの身体、覚えていた力みが解けたことをすぐに感じ取ったヒヨリはクスクス笑いながら二階へ。
 手招きされるがまま、クレタはヒヨリの後を追っていった。
「うんうん。やっぱ、こんな感じだよな。よし、この方向でいってみよう。はい、着替えて」
「え……と……」
「ん? 着方わかんないか? どれどれ。ちょっと俺も中に」
「え……。あの……」
「まず、こっちのシャツを着て。ほれ、脱げ」
「うん……」
「うっわ。お前、ほんっと細いな。白いし……女みたいな身体してんなぁ」
「そう……かな……」
「終わったらメシだな。たらふく食わせてやる。はい、じゃあ次はこれを……って、あ。馬鹿。駄目だって」
「え……?」
「一番上までボタン留めちゃ駄目。上二つは開けなさい」
「寒い……」
「寒くない」
 試着室から聞こえてくる遣り取り。その微笑ましさに、店員達はクスクスと笑う。
 言われるがまま、ヒヨリの言うとおりに。わからないから、従うしかない。
 試着室の中、クレタは戸惑いながらも、次々と服やアクセサリーを身に着けていった。
 カーテンが開き、おずおずとクレタが出てくる。隣にいるヒヨリは、やたらと満足気。
 店員達は、揃ってハッとし、誰が言い出したわけでもなく全員が自発的に拍手をした。
 何が起きているのか。どうして、そんな目で見られるのか。称えられている? のか理解らない。
 キョトンとしているクレタを、ヒヨリは大きな鏡の前へ連れて行った。
 イメージ的には、ブリティッシュ? よくわかってないけど、まぁ、そんな感じで。
 黒と濃灰のストライプがシックな細身のスーツ。シャツは抑え気味のブラウン。
 頭には、黒いハットを乗せて。ハットには遊び心でパンクなピンバッジを、さりげなくアクセントに。
 何の飾り気もないシンプルなシルバーアクセサリーで腕と胸元を彩り、足元はちょっとエレガントに。
 耳朶のピアスは、それらに反発するようなロックで少しゴテついたボールスタッドでキメ。
 ベルトはレディースをチョイス。黒に自然と映える白で。蝶のモチーフがキュートな雰囲気。
 大人な雰囲気の中に、童心といいますか。無邪気な感じを織り交ぜて。
 ちょっと背伸びしてみました。えへっ。そんな感じですかね。
「いかがですか。お客様?」
 クスクス笑いつつ、後ろからポンと肩に手を乗せたヒヨリ。
 クレタは、ただ呆然とするばかり。まるで金縛りにあったかのように動かない。いや、動けない。
 鏡に映る自分が、別人のように見えたのは今までと同じだけれど。どこか、しっくりくる。
 身体が軽くなるような……。そんな感じ……?
「何か……不思議な気持ち……」
 照れ臭そうにしながら、ポソリと言ったクレタ。
 ヒヨリは笑いながら、クレタの手を引いて店の外へ。
 せっかくイメージチェンジしたんだから、そのまま街を歩いてみようと提案した。
 試着した服そのままで出て行っちゃマズイんじゃ……とクレタは慌てたが。
「ありがとうございました」
 店員達が、揃って頭を下げるその光景を見て、理解する。
(……いつの間に?)

 *

 二人並んで、笑いながら街を満喫。
 ゲームセンター初体験、食べ歩きしながら、他愛ない話に華を咲かせて。
 本来ならば、制服を着て。同い年の友達と、こうして学校帰りにはしゃいでいるはず。
 心のどこかで、そんな楽しみを、放課後の楽しみというものに憧れを抱いていた。
 けれど、叶わないと。そんなこと、自分には出来やしないんだと諦めて目を逸らし続けてきた。
 いつもと違う服、いつもと違う雰囲気。またひとつ、重いものから解放されたような軽やかな気持ち。
 クロノクロイツへ、元の世界へ戻る前に休憩をしようということで、二人は、隠れ家的な喫茶店に足を運んだ。
 ヒヨリのお気に入りであるこの店は、ノスタルジックな雰囲気で落ち着く空間だ。
 テーブルの上に置かれたオレンジのキャンドル。ゆらゆらと揺れる炎を見ながら、クレタは微笑んだ。
 どうして笑ったのか。微笑んでしまったのか。それは理解らない。自然と漏れた笑顔だった。
 珈琲も飲めるようになった。まだ、砂糖とミルクはたくさん入れるけれど。
 こうして、ヒヨリと御話している内に……いつしか、飲めるようになったんだ……。
 苦いだけだって、美味しくないものだって、そう思っていたのに……不思議だね。
 ねぇ、ヒヨリ。今日は、ありがとう。すごく楽しかった。
 何ていうか……ちょっと、オトナになったような……そんな気分だよ。
 遠慮がちに頭をペコリと下げて御礼を述べたクレタ。
 ヒヨリは小さな箱を懐から取り出し、テーブルを滑らせて、その箱をクレタの手元へ。
 渡された箱は黒くて……よくわからない模様と文字が書かれていた。
 首を傾げるクレタに、ヒヨリは目を伏せ微笑んで言った。あげる、と。
 何だろう……。ちょっとワクワク、ちょっとドキドキ。
 そっと箱を開けてみると……そこには、ブローチがあった。
 蝶のような……違う、これは……鳥?
「何となぁく、お前っぽい気がした」
「そう……かな……?」
「まぁ、要らなかったら捨てて良いから」
「……捨てるなんて」
 そんなこと、出来るはずがないじゃないか。
 ヒヨリから貰ったものを、そんなないがしろにするような真似、出来るはずがないじゃないか。
 要らない、と捨てるような。そんな男だと、そんな奴だと思われているのだろうか。
 そう思うと、何だか、むしょうに切なくなった。寂しい気持ちになった。
 俯き無言になってしまったクレタを見て笑うヒヨリ。
 くしゃくしゃと頭を撫でながら、ヒヨリは言った。
「出来るわけないよな。わかってるよ。わかってて言った」
 いつもの、ちょっとした悪戯。からかってみただけ。
 ヒヨリは、そう言うけれど。クレタは黙ったまま、ジッとヒヨリを見つめた。
 そういう悪戯……。そういう悪戯だけは……もう、やめてほしいな……。ほんとに、悲しくなるんだ……。
 心臓をギュッて掴まれたみたいな、そんな感じになって……苦しくなるんだよ。
「あ〜。ごめんって。そんな顔するなよ〜。心が痛い」
「……僕だって痛い」
「だから、ごめんって」

 いつもと違う服装、違う雰囲気。
 ヒヨリに貰ったブローチを胸元に留めて。
 クロノクロイツに戻ったクレタを見て、仲間達は皆、揃って目を丸くした。
 かっこいいだとか、素敵だとか、何だか可愛いだとか。次々と浴びせられる褒め言葉。
 くすぐったさに俯いて、もじもじしている姿は、いつもどおりだ。
 皆に囲まれて、戸惑いながらも笑うクレタを見ながら、ヒヨリは満足気に微笑んだ。
 ゆっくりと、ひとつずつ、少しずつ変わっていく。その光景。
 心のどこかで、自分の思うがままに染めてやりたいと。そう思っていたのは内緒。
 何ニヤニヤしてるのよ、とナナセに背中を叩かれて、ヒヨリは苦笑した。
「何だかな。ほんと、人のこと言えねぇよなぁ、俺もエゴイストかも」
「何言ってるのよ……。今更なことばっかり言うわね、最近」
「あれ。そう?」
「自覚なし、了解よ」
「何かムカッとくるなぁ、その言い方。お前の言い方ってトゲがあるよね」
「それも今更よ」
「……ぷ。確かに」

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 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ナナセ / ♀ / 17歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『改造計画』への御参加、ありがとうございます。
 最初の方にある服装は、パンクな感じですね。バンドやってそうな…(笑)
 しっくりときた服装は、プレイングを参考に少し遊び心を交えてみました。
 想像してニヤニヤしながら紡いだのは内緒です。
 スーツだとホストっぽくなってしまうというトラップがありましたが、
 可愛げなものを各所に散りばめることで、ナチュラルなオシャレさんに大変身。
 ※プレゼントされたブローチは、アイテムとして贈呈しています。
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.11.27 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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