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<東京怪談・PCゲームノベル>


◇白秋流転・伍 〜寒露〜◇


「……こんにちは――じゃ、ないかな。こんばんは?」
 呼び出しのチャイムに応じて出た玄関先に立っていた見知らぬ人物――腰半ばほどまである銀色のみつあみと、白磁の如き肌が印象的な少年に、杉森みさきは一瞬固まって、それからにこりと笑みを浮かべた。
 それは、目の前の人物の特徴が双子の姉であるみゆきから度々聞いていた『ハク』と一致したからでもあったし、同時に芽生えた悪戯心からでもあった。
(ふふ、みゆちゃんのフリしてからかっちゃおっと)
「久しぶり、ハク君」
 自分でも完璧にみゆきの口調を再現できたと思ったが、対する『ハク』はきょとんと目を瞬いた。
「あれ、……キミ、誰?」
 最初の一声では下を向いていたからだろう、顔を上げたハクは心底戸惑っているように見えた。
(うーん、多分みさはハク君と『合わない』だろうからバレるだろうとは思ったけど、一瞬でわかっちゃったみたいだなぁ。見た目はそっくりなはずなのに)
 とりあえず見詰め合ってみる。すると、みさきの背後から声が飛んできた。
「みさー? 誰だったー…って、あれ、」
 声と共にひょっこりと顔を出したみゆきは、ハクの姿を認めて言葉を切る。
 そうしてみさきが浮かべたのと同じ笑顔を浮かべて、彼に声をかけた。
「あは、こんな時間になっても現れないから、もう来ないのかと思ったよ」
 ハクはその言葉に一瞬苦しげに顔を歪め、それから無理矢理だとわかる笑みを浮かべた。
「言ったでしょ、ボクはキミと節気に合わせて会わなきゃいけないんだって。だからキミが拒否してもボクはキミに会って、――最後には殺してもらわなきゃいけない」
 どこか痛みを伴う声だった。それはこれまでの邂逅時の彼とは違っているように思え、みゆきは少し考えて。
「……ね、ハク君。晩ご飯もう済ませた? 一緒に食べてかない?」
 とりあえず、彼を食卓へと招いたのだった。

◇ ◆ ◇

 手作りのハンバーグにパンプキンスープ。そして新鮮なサラダ。それが本日のみゆき達の夕食だった。突発的に人数が増えたが、特に問題はない。どれも量を多めに作っていたからだ。それは作り置きという観点から言えばいつものことだったが、もしかしたらこうなることを無意識下で分かっていたからかも知れなかった。
「杉森さん――あ、これじゃどっちのことかわからないね。ええと、みゆきさんって双子だったんだ? 聞いたことなかったからびっくりしちゃったよ」
「言ってなかった?」
「うん。……まあ、知ってたからって何が変わるわけでもないんだけどさ」
 独り言のようにそう言って、ハクは目を伏せる。
 何か言うべきだろうかと考えたみゆきが言葉を紡ぐ前に、彼はみさきに顔を向けて再び口を開く。
「けど、双子でもやっぱり『違う』んだねー。みさきさんの方はあんまり相性よくないっぽいし」
「やっぱりそうなんだ。…残念だなぁ。みさでも務まるんなら二人にこれ以上辛い思いさせないでハク君殺してあげるのにー」
 にっこりと笑って告げたみさきに、ハクの表情が固まる。その様子を見てみゆきがフォローを入れた。
「……今の、みさなりのジョークだからね、ハク君」
「そうそう。ちょっとしたブラックジョークだよ?」
 二人の言葉にハクはものすごく微妙な顔をして、それから「…………そう」と呟いたのだった。

◇ ◆ ◇

 食後に自家製ケーキを食べながら、三人で取り留めのないことを喋る。しかし時折ハクが表情を翳らせることや、『封印解除』などのことについて触れると迷うような素振りを見せることから、何か話があるのだろうと結論付けた双子は、さてどうしようかと頭を悩ませた。
 このまま直球で聞くか、舞台を整えてから切り出すか、遠回しに話題を振るか。
 どれがいいだろうと無言で悩む二人だったが、ふいにハクが真剣な目で見つめてきたので居住まいを正した。
「あのさ、わかってるみたいだから単刀直入に言っちゃうけど、ボク、みゆきさんに話があるんだよね」
「あ、みさ、お邪魔さん? だったら自分の部屋に戻るよ?」
「邪魔……ってわけでもない、と思う。ボクのことはみゆきさんから結構聞いてるんだよね?」
「うん、それなりに」
 みさきが頷くと、ハクは少し考えるような素振りを見せた後、改めて告げた。
「多分、居てくれた方がいいと思う。ある意味ではみさきさんにも関わるだろうし」
「そう? じゃあみさも聞かせてもらうね」
 そうして、改めて三人向かい合ったものの、ハクはやはり何かを迷っているようになかなか話を切り出さない。その間の表情もどこか暗く、沈んでいて、みゆきは思わず口を開いた。
「……なんか元気ないね。この前追い返して当主さんと話した事、気にしてる? それともボクに『触れ』なかったから、儀式がうまくいってないとか…」
 原因があるとすればその辺りだろうと思って口にすれば、ハクは虚をつかれた様に目を丸くした。今までの邂逅から、『封印解除』は身体と心、両方が徐々に『触れ合う』ことなのではないかと推測した故の言葉だったのだが、間違っていたのだろうか。
 ハクは数瞬視線を彷徨わせて、それから考え考え言葉を返す。
「この間のことは、気にしてないよ。……何言ったのかとか、聞いたのかとか、気にならないわけじゃないけど。ボクは『封印解除』さえ出来ればそれでいいし――『解除』も順調だしね。でも、気付いてたんだ。『封印解除』の内容」
「何となくこうかな、っていう程度だけど」
 みゆきが答えれば、ハクは笑う。しかしそれはどこか歪なもので、みゆきは戸惑う。
「まあ、気付く人は気付くだろうって思ってたし。拒否しないなら知られても構わないからいいけど。……あ、言っておくけど前回の『封印解除』はちゃんとできてるからね? もし出来てなかったら、ボクこうやってここに来れないよ」
「そっか」
 色々聞きたいことはあったが、みゆきはそれだけ答えて口をつぐんだ。そうして再びの沈黙。しかしそれは比較的早くに破られた。ハクはみゆきに向き直って、緊張した面持ちで告げた。
「一族の本邸に、来て欲しいんだ」
「……なんで?」
 純粋にその理由が分からず尋ねると、ハクはどこか困ったように眉根を寄せた。
「霜降では、『封印解除』もだけど『儀式』もするから。『儀式』は本邸でやるから、来て欲しいんだよ」
「その、『儀式』をやるときに行くんじゃ――ダメなんだよね?」
「ちょっと色々準備があるし……みゆきさんが直接何かしなくちゃいけないってわけじゃないけど、念には念をって言うか。でも一旦本邸にきたら次の――霜降まで本邸から出れなくなるし、絶対に嫌とか無理とかっていうなら、まあ、仕方ないから何とかするけど……」
 ハクの言葉に、みゆきは先日当主とした会話を思い出す。彼は『近いうちに会うだろう』と言っていた。それは、このことだったのだろうか。
「霜降までだから、結構拘束期間長いし……ボクとしては来てくれた方が助かるけど、学校とかあるよね?」
「あ、大学ならみさが代役で行ってもいいよ?」 
 みさきの申し出はみゆきにとって有難いものだった。約二週間の拘束期間は大きい。
「うん。みさ、お願いね」
「――っ、え、それって――」
 ハクが息を呑み、驚愕の声をあげる。
「霜降までよろしくね、ハク君」
 本邸へ行くことを示唆する言葉に、信じられないといった面持ちでハクはみゆきを見る。
「……え、あの、みゆきさん。本気?」
 頷けば、ますますハクは驚きを深くする。
「何その反応。ハク君が言い出したんでしょ?」
「そう、だけど――だって、ほぼ二週間、全然知らないとこに行くんだよ? 言っとくけど外に連絡も取れないよ? 完全隔離状態だよ? 間違っても居心地のいい場所じゃないし、ボクも出来る限りはするつもりだけど、不便極まりないだろうし――」
 つらつらと言葉を連ねるハク。それはまるでみゆきに思い直して欲しいとでも言うように。
「ボクは、ハク君のこと家族みたいに思ってるから。ボクに出来ることなら、するよ? 二週間よく分からないところに行くくらいどうってことないし」
 みゆきの言葉に、ハクは、本当に無防備に驚きを表して。
「そうそう。それにハク君、お家が辛かったらうちに逃げておいで。みさも家出の身だし、も一人増えても大差ないから☆」
 続いたみさきの言葉に、一度くしゃりと泣きそうに顔を歪め、何かを堪えるように俯いて、そして。
「どうして、そんなに――」
 みゆきを抱き寄せて、その肩口に顔を埋め、震える声で呟いた。
「優しいんだ……っ」
 何かを耐えるようなハクに何を言うことも出来ず、みゆきはただされるがままになる。みさきもまたその状景に何の行動も出来ず、ただ二人を見つめていた。
 しばらくしてみゆきを解放したハクは、小さく、囁くように告げる。
「……ごめんなさい」
 それが今の行動に対するものか、それとも他の何かに対するものなのか、それはみゆきには分からない。けれど、告げた声が泣きそうに震えていたのは、きっと聞き間違いなどではなくて。
 恐らくは、まだ何か隠していることがあるのだろうとみゆきは直感した。それがみゆきにとって不利に働くのか有利に働くのかは不明だったが、ただ、思った。
 ハクが、これ以上苦しまないですむように、と。
 今にも何かに押しつぶされてしまいそうな、そんな危うさがハクにはあったから、ただひたすら、心の中で祈ったのだった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0085/杉森・みゆき (すぎもり・みゆき)/女性/21歳/大学生】

【0534/杉森・みさき (すぎもり・みさき)/女性/21歳/ピアニストの卵】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、杉森さま。ライターの遊月です。
 「白秋流転・伍 〜寒露〜」にご参加くださり有難うございました。お届けが遅くなって申し訳ありませんでした…!

 ハクなりに色々悩んで考えて、こういうことになりました。本邸へご招待となります。
 来て欲しいと思いながらも同じくらいの強さで来て欲しくないと思っていたハクなので、どっちかっていうと承諾しないだろうと思っていたために過剰に驚いています。約二週間と期間が決まっていても、未知の場所に行く気にはならないだろうと思っていた模様。
 一部プレイングが盛り込めなかった部分もありますが、ご了承くださいませ。

 ご満足いただける作品になっていましたら幸いです。
 それでは、本当にありがとうございました。